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【ブロードキャスト】湊かなえ|放送部が目指したもの

ブロードキャスト

本作品は,高校進学と同時に入部した主人公の青春小説です。

最初は,陸上部で長距離で大会を目指していた主人公と同僚との友情の話なのかなと思いながら読んでました。

実際,そういう部分はあるんですけど,タイトルが「ブロードキャスト」だからきっとここから何かあるのだろうと期待します。一体,どういう展開が待っているのか。。。

僕自身は,陸上とは駅伝とか,長い時間走るというのが苦手な部類でした。

さらにこの後に登場する放送部に関しても,高校時代,入部すらも考えたこともない世界の話です。

しかし,本作品のストーリーはとても新鮮でした。

放送部という部活動が何を目標にしているかもわかったし「意外とやりがいのある部活なのかも」と思ってしまうのは,湊かなえ先生のストーリーの組み立てのうまさではないかなと思います。

「イヤミスの女王」と言われた湊先生が,新たな境地として選んだ青春小説。湊かなえ先生湊先生デビュー10周年の渾身の作品です。

こんな方にオススメ

● 圭輔は陸上部,放送部のどちらを選ぶのかを知りたい

● 放送部という部活動が目指すものを知りたい

● 脚本を作ることの難しさを知りたい

作品概要

中学時代、駅伝で全国大会を目指していた圭祐は、あと少しのところで出場を逃した。陸上強豪校に進学を決めるも、交通事故に遭い競技人生を断念する。希望を失った圭祐は、脚本家を目指す正也に誘われるがまま、放送部に入部。次第に活動にのめり込んでいった圭祐は、全国高校放送コンテストを目指して、ラジオドラマ制作に挑戦するが……。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

町田圭輔・・・主人公。中学時代は陸上部。高校で放送部に入部

宮本正也・・・圭輔の同級生。放送部入部を誘う。

山岸良太・・・中学時代の陸上部のエース

本作品 3つのポイント

1⃣ 圭輔,放送部へ入部

2⃣ Jコンを目指して

3⃣ 「ケンガイ」の結末

圭輔,放送部へ入部

主人公の町田圭輔は,中学入学当時,後の親友となる山岸良太に誘われて陸上部に入部することになります。陸上部良太は小学生の頃から長距離が得意で,圭輔も一目置いてました。

圭輔はどちらかというと短距離の方が得意だったため,入部をためらいましたが,憧れの良太に誘われ,あっという間に入部を決めたのです。

そして三年生になり,最後の駅伝大会に出場し,全国大会を目指します。駅伝しかし,圭輔は選ばれたものの,良太は選ばれなかったのです。一体,なぜ?

結局,その理由もわからず,しかも全国大会出場をも逃してしまうのでした。

ここから高校時代の話へ移ります。

圭輔は良太も同じ「青海学院高等学校」へ入学しました。

圭輔は実は交通事故に遭っていて,高校の合格発表辺りではまだ松葉杖をついてました。

陸上部でまた良太と一緒に同じ目標へ向かって走り出すと思ってましたが,そうはならない雰囲気。

町田圭輔そこに宮本正也が圭輔に声をかけます。ある部活の勧誘のチラシを見つけます。

「放送部」のものでした。正也は元々放送部を志望していたようです。将来は脚本家になりたいと考えている様子の正也。

どうやら,圭輔の声は放送部向きらしい「良い声」をしていて,正也はそれに気づいていたようなんですね。放送部2人で部活動見学をしますが,意外な展開が待っていました。

放送部の先輩たちに「テレビドラマに出てほしい」という依頼を受けます。

「チェンジ」というタイトルのドラマ。2人は渋々参加することにします。

話は「ある2人が廊下でぶつかって,中身が入れ替わる」という,どこかで聞いたような話でした。

「君の名は」のことですかね。読んだことはありませんが,何かであらすじを読んだことがあります。それ以外にも同じような話を聞いたことあるような。。。台本ま,とにかく,収録を始めるんですが,正也はあろうことか,先輩たちの演技や考えに異を唱えます。何となく険悪なムードに。

先輩たちからの要望がありました。誰か代役を連れてきてほしいと。

正也には心当たりがありました。久米咲楽という女性で,彼女の声の良さを評価していました。

声がいいというのは,どういう声をいうのかわかりませんが,脚本家志望の正也にはわかるんでしょうね。

臆することなく意見を言う正也。険悪なムードも徐々に解消されていくようでした。

その一部始終を一緒に体験していた圭輔は,放送部とはいえ,やはり目標を達成するために必死で何かを作ろうとしている姿に,思うところがあったようです。

これまで陸上部で全国大会出場という目標で努力してきた圭輔にとって,文化部は文化部なりの目標があって,みな真剣にお互いの意見を言い合っている姿は刺激になったようです。意見を言い合うそして,最終的には2人で放送部へ入ることになるのです。

Jコンを目指して

放送部が目標にしていたのは「JBK放送コンテスト」(以下Jコン)の全国大会出場,優勝です。JBKホール放送部にはもちろん2年生もいます。その中心人物が白井先輩です。

この白井,3年生の取り組みに不満を持っているようでした。

確かに冒頭の話を読みながら,3年生には形だけで中身がないような感覚を受けました。その真剣さでは白井の方が上のようです。

一方,正也は春休みに脚本を書いていました。それは咲楽のことを描いたものでした。脚本を書く実は,咲楽はクラスでいじめられてたようなんです。

「LAND」というアプリを使ってクラスでやり取りするのにもついていけず,スマホを持つことをやめていたんですね。

おそらく「LAND」は「LINE」のことだと思います。グループを作っても,そこで嫌がらせ的な発言をする人間っていますもんね。

正也が書いた脚本を読んだ圭輔はピンときます。これは「咲楽を題材にした作品」だと。
ケンガイ」という作品です。

ここで言うケンガイとは「電波防壁症候群」という架空の病気のことで,これに感染すると「その人物の半径1km以内の携帯電話が圏外になってしまい,国の機関に入らなければならない」というものです。

具体的なストーリーは以下のようなものです。

「ケンガイ」の簡単なストーリー

主人公は圭司という少年。ある日,友人のシゲルがこの「ケンガイ」に感染します。
そしてとうとう圭司の妹である桃花が体調不良になります。

病院での診断結果は「風邪」でしたが,その後,国の職員が圭司の家に来て,桃花がケンガイに罹っていることを伝えるのです。

職員は誹謗中傷を受けないように施設で保護することを提案します。しかし圭司の考えは違いました。

桃花はスマホでひどい言葉を見るに堪えず,スマホを使いたくないと願ったためにケンガイになったのではないか。スマホを見る少女桃花はそれを認め,圭司や両親は自宅で彼女を守ることにするのです。
その時,スマホが鳴り,圏外ではなくなっていました。

「ケンガイ」の根本的原因を突き止めた圭司は,施設にいるシゲルに手紙を書くのです。

シゲルは一人じゃない。自分はシゲルの味方であると。

これを読んだ放送部の面々からいろんな意見が出ます。

正也の作品を推すものもいれば,変えた方がよいという部員もいます。

そこに2年生も加わり討議した結果,正也の脚本を採用することになったのです。

しかし,この作品が「自分をモチーフにしている」と察した咲楽は逃げ出してしまいました。咲楽が泣く今の自分の置かれた状況に似たものを作品にし,それを演じることの辛さ。

正也と咲楽の思いが交錯します。

ところで,コンテストにはいろんな部門があるようです。陸上部にもいろんな種目があるように。

① アナウンス部門

② 朗読部門

③ ラジオドキュメント部門

④ テレビドキュメント部門

⑤ ラジオドラマ部門

⑥ テレビドラマ部門

実際にNHK放送コンクールというものは実在していて,それを参考に湊先生は描かれたのかなって思いました。

今回,青海高校放送部は,②の朗読部門以外の部門すべてに出品することにするのです。

果たして「ケンガイ」はどんな評価をされるのでしょうか。

「ケンガイ」の結末

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「ケンガイ」の制作は順調に進でした。作品を制作する面白さなどを充実感を感じている様子の圭祐。

そんな時,全校集会で「良太が男子3000メートル走で3位に入賞」したことが発表されました。全体朝礼この時の圭輔の心境はどうだったでしょうか。

放送部で充実感を味わいつつも,

「もし陸上部に入っていたら,俺も同じように入賞できていたのではないか」

圭祐の胸中には何というか,味わったことのない嫉妬のような感情が出ているようでした。

しかし圭輔は切り替えなければならない。放送部員なのですから。

「ケンガイ」で全国大会を目指す。目の前の目標に懸命に取り組む圭輔の姿がそこにはあります。

「ケンガイ」を完成させた青海高校放送部。Jコンに乗り込みます。

冒頭の「チェンジ」はテレビドラマ部門でしたが,落選。それ以外の部門は地区決勝へ進むことができました。

地区の決勝大会では,圭輔たちも採点表で他校の作品を評価していました。

他人が作った作品を見たり聴いたりすることで次の作品作りに生かせる何かを学ぶことができるのでしょうね。

やっぱり注目は「ケンガイ」の動向です。

何と「ケンガイ」は,決勝大会に進んだ10校中,2位になるのです。喜ぶ正也とうとう全国大会出場が決まりました。もちろん大喜びの正也や圭輔。

そんな時でした。圭輔の元に「陸上部勧誘」の話がくるのです。勧誘してきたのは陸上部顧問の原島です。なぜ今頃。。。そんな圭輔の声が聞こえてくるようです。

原島は昔から圭輔の走り方が自分のものにそっくりであることで評価していたようです。

そしてそれを後押しした人物もいました。中学時代の顧問であった村岡です。どうやら村岡は原島の先輩だったようです。

これは圭輔も迷いますよね。放送部で全国大会を決めたタイミングで,一度は諦めた陸上部に勧誘されるわけですから。

何かまた違うものが圭輔の頭の中に渦巻いているようでした。陸上か放送かここで咲楽の話が登場します。彼女を「LAND」でいじめていたのは木崎という女子生徒でした。

圭輔はクラスメイトでありながら「LAND」のグループから外れていて,そのことに木崎が腹を立てているようでした。しかし,圭輔はハッキリと言います。

誰かを貶めるようなメッセージが飛び交うグループには入りたくない

そしてそれに賛同する生徒たちが「こんなグループなら脱退する」ということを言い始めます。

勇気を持って行動した圭輔の思いが,多くの人の背中を後押ししたようです。

ここから木崎の,咲楽に対するいじめはなくなりました。

そして「ケンガイ」の全国大会の日。JBKホールを目指す正也の元に咲楽がやってきます。

最初は,私のためにこの『ケンガイ』を書いたのだと思ってました。個人の救済ではなく,宮本(正也)君の正義感に基づいて,SNSで苦しんでいる人に向けて描いたものなんだね」と言うのです。

確かにキッカケは咲楽だったと思いますが,正也は苦しんでいる多くの人のために書いたのかなと思いました。

全国大会本番。準々決勝を勝った「ケンガイ」でしたが,準決勝で負けてしまいました

つまり,決勝へは進めなかったのです。頂点まであと一歩だった青海高校。

あまりの悔しさに号泣する正也。強がっていてもどこか優勝できるのではないかという思いはあったのでしょう。悔しい正也それを目指して一生懸命苦心して書き上げた「ケンガイ」だったから。

その悔しい思いは圭輔も一緒でした。陸上部で悔しい思いをしたことがあったとは思いますが,またそれとは違った悔しさが圭輔を襲っているようでした。

世の中にはさまざまなことで苦しんでいる人がいて,自分の思いを伝えたくても伝えられずにいる人がたくさんいるのだということ

放送部で活動することで,陸上部では体験できないことを圭輔は感じているようでした。

そして圭輔は陸上部ではなく「放送部」で活動することを決意するのでした。

作品の最後の方では,なぜ良太が中学三年生の時にメンバーから外されたかが判明します。

「そういう事情があったのか」

これは実際に読んで圭輔や良太の気持ちを感じてほしいと思います。

放送部という想像もつかない世界がどんなことを目指し活動しているのか。

本作品を読んで知ることができました。

世の中にはいろんな道があって,端から見ているだけではわからないことも実際に行動することでその道の良さを知ることができるのだと思いました。

放送部そして,いろいろな問題を放送部の作る作品によって世の中に伝えることができること。

それが放送部の良さの一つなのかなと思います。

社会問題に的を当て,本作品を放送部という視点で作り上げた湊先生はさすがだなと思いました。

実は本作品には続編があるようです。「ドキュメント」

いつになるかわかりませんが,圭輔がどんな成長を見せていくのか,いつか読んでみたいと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 陸上部を諦め,放送部という未知の世界に飛び込んだ主人公の思い

● 世の中には多くの社会問題があり,それを題材に活動する人々がいる

● 放送部が何を目標にし,何を訴えようとしているのかを知ることができた

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