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【ブルータスの心臓】東野圭吾|完全犯罪殺人リレーの行方

ブルータスの心臓

「ブルータス」と聞けば,「ブルータス,お前もか!」という言葉を思い出します。

遡ること古代ローマ時代。カエサルが暗殺された際,暗殺者の中に友人のブルータスがいるのに気づいて、洩もらしたとされる言葉。

つまり「親しい者に裏切られた際に出る言葉」のことです。

かつてドラマ化されています。「東野圭吾3週連続スペシャル」ということで三週連続で放映された作品の一つです。

「回廊邸殺人事件」と「11文字の殺人」とともに放映されましたけど,実際に観たのは本作品だけでした。

主演は藤原竜也さんと内山理名さんです。

企業の派閥争いの中で起こる殺人事件が舞台です。

なぜ「ブルータス」という名前が登場するかは本作品を読んでいけばわかります。

ちなみにサブタイトルは「完全犯罪殺人リレー」です。

計画した殺人リレーは成功するのかがポイントです。

こんな方にオススメ

● 「完全犯罪殺人リレー」とはどういう計画なのか知りたい

● 大企業内の人間模様を舞台にした作品を読んでみたい

● 犯罪計画を狂わせた人物を知りたい

作品概要

最新ロボットの研究者であり野心家の末永拓也は、勤務先の創業者令嬢・星子との結婚を目論んでいた。だがある日、遊び相手の康子から妊娠を告白される。困惑する中、星子の兄・直樹から、康子殺害計画を持ちかけられる。直樹もまた康子と男女関係にあり、妊娠をネタに脅迫されていたのだ。
綿密に計算された完全犯罪は、無事成功するかに思われたが、驚愕の事態が発生する!
-Booksデータベースより-




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主な登場人物

末永拓也・・・主人公。産業機器メーカーMM重工の社員

雨宮康子・・・MM重工の役員室勤務で,拓也の愛人

仁科敏樹・・・MM重工社長

仁科直樹・・・拓也の上司。殺人の仕掛け人

橋本敦司・・・拓也の同僚。殺人犯の一人

中森弓絵・・・MM重工の企画室勤務

酒井悟郎・・・MM重工の工場勤務

本作品 3つのポイント

1⃣ 主人公の上昇志向

2⃣ 完全犯罪殺人リレー計画

3⃣ 計画にあった「D」とは誰なのか

主人公の上昇志向

主人公の末永拓也は,産業機器メーカーのMM重工に勤務しています。

彼が担当しているのは人工知能ロボットの開発でした。

「ブルータス」というロボットを担当している責任者が拓也です。拓也拓也は決して恵まれた環境では育っていませんでした。上昇志向の強さは彼の育った環境にあったようです。

その拓也の上昇志向というのは,企業に認められること,そして専務である仁科敏樹の娘である仁科星子と結婚することでした。

専務からも認められている拓也は,自分の娘の婿として相応しいと思っているようでした。

拓也には愛人がいました。雨宮康子です。康子は役員室に配属されており,拓也は専務である敏樹の情報を流すように仕向けていたのです。康子ところがその康子から衝撃的な事実を伝えられるのです。妊娠していると。

それが拓也にとっては大きな裏切りに思えたようです。拓也自身が星子を狙っていると知りながら,それまで何も言わなかったことに。もちろん拓也は焦ります。

しかしさらに大きな衝撃が待っていました。

ある日,仁科直樹という男が拓也と会うことになります。直樹は敏樹の息子であり,星子の兄でもあります。さらにその部屋には同僚の橋本敦司もいました。3人の社員たち一体,何の話が行われるのか。実はこの部屋にいる3人とも,康子と関係を持っていたのです。

拓也だけでなく,直樹や橋本にとっても都合が悪い状況です。

そしてとうとう3人は,雨宮康子を殺害する,前代未聞の計画を立てるのでした。

完全犯罪殺人リレー計画

計画を立案したのは直樹です。それは3人が共犯となって実行する殺人リレー

康子を殺害し,遺体を大阪・名古屋・厚木・東京と運ぶリレーです。殺人リレーつまりは,鉄壁のアリバイを作るためにわざとリレー方式にし,3人が共犯であり,裏切りを許さないという計画です。

直樹は三人の誰もが裏切らないように「連判状」をも作成します。

そして,どのルートで遺体を処理するA,B,Cの3人を役割を誰が実行するかをトランプで決めることに。

① Aが康子を大阪で殺害し名古屋まで運ぶ

② Bが名古屋で遺体を受け取り,厚木へ運ぶ

③ Cが厚木で遺体を受け取り,東京へ運んだあと,遺体を処理する

トランプで,Aが直樹,Bが拓也,Cが橋本ということになりました。

そして犯行当日。予定通り3人は行動します。

拓也はまず名古屋へ向かいます。直樹や拓也,橋本のアリバイは確実です。

遺体を拓也は受け取り,厚木へ向かいます。

そこには橋本がいました。ただここで拓也は何かしらの違和感を感じていたようです。

「本当に遺体は乗っているのか」

そして毛布にくるまれていた遺体の中身を確認するのです。ところがここでまた衝撃が。トランク開ける何とその遺体はあの「仁科直樹」だったのです。もちろん慌てる拓也と橋本。

考えた挙句,直樹の遺体をそのまま直樹の住むマンションへ運ぶことにします。

そこで思い出すのです。連判状を書いたことを。

遺体を運んだ橋本は部屋に入り,回収しようにも見当たりませんでした。

完全犯罪を目論んでいたはずが,完全犯罪どころか完全な計画倒れになってしまいます。

そこへとうとう警察がやってくるのです。佐山という刑事です。

直樹の部屋からは「ABC」と書かれた紙が見つかるのでした。破けたメモしかも雨宮康子は生きていました。康子は自分が殺されるという計画を知っていたのか。

はたまた,別の人間がそれに気づき,計画を破綻させたのか。

拓也の頭の中は,混乱しているようでした。

そして,橋本も殺害されてしまいました。

拓也は確実に自分に魔の手が忍び寄っていることを感じています。拓也が悩むただ,いずれにしても拓也にとっては康子の存在が邪魔でした。

とうとう拓也は,青酸カリを使って康子を殺害してしまいます。

先に「ABC」の文字の入った紙が警察によって見つかったことは書きました。

ところがその紙は燃えカスになっていて,その中に「D」の文字が書かれていることがわかります。

計画の中には「D」という人物のいたのでしょうか。

どうやら,計画の段階で直樹は「D」の存在を予め準備していたようなんですね。

拓也は星子が「直樹はマジックが得意だ」という言葉を思い出します。カードマジックひょっとして直樹は「D」に康子を殺害させるために計画の一部に入れたのか。

一体,「D」とは誰なのでしょうか。

計画にあった「D」とは誰なのか

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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同じMM重工の企画室に中森弓絵という女性がいました。彼女は拓也に執拗に迫ります。

私のフィアンセはあなたたちに殺されたんです!雪絵怒る弓絵のフィアンセとは,元工場作業員の高島勇二といい,2年前にロボットに殺されたと弓絵は訴えます。

「あの時の作業員か。。。」

拓也は何か思い出したようです。ロボットは誤作動することもあるし,中に入っているプログラムを書き換えることで思い通りに動かすこともできます。

拓也はこの事故に関係しているのでしょうか。

弓絵は工場の作業員である酒井悟郎と親しくしていました。弓絵が事故の真実を知るために動いていることに対して,相談を受けているようです。

一方,警察側は拓也を疑っていました。直樹や橋本もいないとなれば,拓也が主犯ではないかと疑う。

しかし,その拓也には鉄壁のアリバイがあります。当然ですよね。本当に拓也は殺害していないし,殺害当時は名古屋にいたわけですから。

警察は捜査の末,このトリックを見破ります。そしてなぜ直樹が殺害されたのかということも。

この事件では「2人の人間の裏切り」があったのです。謎の男D1人は直樹,もう一人は直樹を殺害した男,つまり「D」です。

直樹は「D」を殺害しようとしていました。ところがそれに気づいた「D」は逆に直樹を殺害。

では「D」とは誰なのか。ここで真犯人が明らかになります。

それは弓絵と親しくしている悟郎でした。しかも,悟郎は2年前,当時弓絵と付き合っていた高島を,ロボットに誤作動させて殺害しているのです。ロボット誤作動それに気づいたのが直樹でした。彼は悟郎を監視下に置きます。

計画に「D」を組み込んだ直樹には油断がありました。隙をつかれ,直樹は悟郎に殺害されます。

そして,直樹の遺体は悟郎によって運ばれた。その後のことは先に書いた通りです。

工場に悟郎を呼び出し,拓也は悟郎を問い詰めます。どうやら拓也には全ての真実が読めたようです。

悟郎を攻撃し,後からやってきた弓絵の首を絞める拓也。

ところがその瞬間,拓也の首を絞めるものが。

それは拓也が開発していた「ブルータス」でした。ブルータス最後の力を振り絞り,悟郎がブルータスを遠隔操作していたのです。

まさに「飼い犬に手を噛まれる」という言葉が出てきそうなエンディング。

自分の開発したロボットに裏切られたような形になった拓也の意識は消えていくのでした。

企業にはいろんな考えを持った人がいるのだと思います。

「普通に平和に働いていけばいい」と考える人間もいれば,上昇志向がとても強く「上を目指すためなら何でもする」という人間もいる。企業の企み特に大企業には多いのかもしれませんね。それは悪いことではないとは思うんだけど。

それが犯罪であれば問題があるでしょう。こんなことが実際に行われているのだとしたら,本当に恐ろしい。

大企業というところは人の数だけ多くの人間模様があるんだな、って思います。

恋愛,派閥,出世欲,自尊心,嫉妬心などなど。

組織のしがらみ最先端の技術を持った企業を舞台に,多くの人間の考えが交錯する人間模様をうまく織り交ぜ,これまで考えたこともない犯罪シーンを組み立てた本作品。

さすが東野先生と思わせられる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 「完全犯罪殺人リレー」の真相を知ることができた

● 世の中には恐ろしく上昇志向の高い人が存在するのだということ

● 現在話題の人工知能ロボットを題材に,30年以上も前から描いていたということ

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