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【ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人】|東野圭吾

ブラックショーマンと名もなき街の殺人

久しぶりに手にした東野圭吾先生の新作。文庫化と同時に購入しました。ブラック・ショーマンというのはおそらく手品師のこと。

アメリカでマジックショー開催し,称賛されているある人物のシーンから始まります。今回はこの人物がキーマンのようです。彼は日本に帰ってきて,ある事件を捜査します。

もちろん警察ではないので捜査という表現は適していないかもしれませんが,実際,警察以上に頭がキレるし,しっかりと仮説を立てて事件を独自に調査していきます。

その調査の仕方は大胆だし,発する言動も歯に衣着せぬ物言いで,ある意味パートナーである女性は翻弄されます。500ページ以上の超大作ですが,ほんの数日で読了してしまいました。

本当に面白かった。ネットでも話題になってますが,新しいシリーズの始まりとも言われている本作品。映像化されるのではないでしょうか。僕自身のイメージとしては阿部寛さんなんですけど,加賀恭一郎シリーズの主人公役だしなぁ。

登場人物は多いですが,巧みな文章表現でストーリーもわかりやすく,さすが東野先生。
是非,読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 東野先生の新シリーズを読んでみたい

● 独自に調査する被害者の娘と弟のストーリーを読んでみたい

作品概要

名もなき町。ほとんどの人が訪れたこともなく、訪れようともしない町。けれど、この町は寂れてはいても観光地で、再び客を呼ぶための華々しい計画が進行中だった。多くの住民の期待を集めていた計画はしかし、世界中を襲ったコロナウイルスの蔓延により頓挫。町は望みを絶たれてしまう。そんなタイミングで殺人事件が発生。犯人はもちろん、犯行の流れも謎だらけ。当然だが、警察は、被害者遺族にも関係者にも捜査過程を教えてくれない。いったい、何が起こったのか。「俺は自分の手で、警察より先に真相を突き止めたいと思っている」──。颯爽とあらわれた〝黒い魔術師〟が人を喰ったような知恵と仕掛けを駆使して、犯人と警察に挑む!
最新で普遍的。この男の小説は、ここまで凄くなる。東野圭吾、圧巻の離れ業。
-Booksデータベースより-


主な登場人物

神尾武史・・・アメリカで活躍した元マジシャン。英一の弟。

神尾真世・・・建築会社勤務。英一の娘で,武史の姪っ子

神尾英一・・・元中学校の教師。何者かに殺害される

中条健太・・・真世の婚約者

釘宮克樹・・・真世の同級生。「幻脳ラビリンス」の作者でもある

津久見直也・・釘宮の親友。中学時代に白血病で亡くなった

池永桃子・・・真世の中学の同級生で親友

池永良輔・・・桃子の夫。英一の教え子

原口浩平・・・真世と同級生。酒屋を経営

柏木広大・・・真世の同級生で柏木建設の副社長

九重梨々香・・同級生で釘宮のマネージャー

杉下快斗・・・真世と同級生。IT企業を経営

牧原悟・・・・真世と同級生。地方銀行の行員

本作品 3つのポイント

1⃣ 事件を捜査する娘とその叔父

2⃣ いくつかの疑問

3⃣ 事件の真相とは

事件を捜査する娘とその叔父

コロナウィルスが蔓延していて,世間がピリピリしていた頃の話です。まだ,コロナが第二類で,観光客が激減し,ソーシャルディスタンスという言葉が流行していました。

そんな中,神尾真世は,中條健太との結婚を控えており,結婚式の演出についてプランナーと打ち合わせをしています。彼女は東京に住んでおり,故郷にいる父親の神尾英一にも紹介していました。ただ母親は幼い頃に亡くしているようです。

そんな彼女に突然驚くべき連絡が入ります。何と,彼女の父親である英一が自宅で亡くなったというのです。慌てて地元に戻る真世。すでに警察が捜査をしていました。第一発見者は原口という人物。かつて教師だった英一の教え子だったようです。酒屋の店主である原口は,配達中に英一を訪ね,そこで亡くなっている英一を発見したというわけです。

警察の柿谷は,真世に事件の状況を伝えます。そしてアリバイを聞く真世。警察って,やっぱり関係者には全員「形式的」にアリバイを聞くんですね。それが絶対に犯人ではない人物に対しても。そして英一の家は,犯行前に荒らされていたようです。金銭や貴重品が目的なのか,それとも全く別の物が目的なのか。。。

そこにある人物が入ってきます。警察の捜査中であると言われてもおかまいなしに。そして警察にも臆することなく言い放つのです。

「勝手に入っているのはどっちだ? 一体,誰の許可を得た?」

この人物は神尾武史,神尾英一の弟であると言うのです。ミリタリージャケットを着込んだこの男は,捜査状況を警察に聞きます。もちろん警察はそう簡単に話すわけにはいかないんですけど,武史はどんどん踏み込んできます。

英一の弟ということは,真世にとっては叔父にあたるわけです。叔父がいるのは確かだが,なぜ急に帰ってきたのか不思議な様子。確かに,この武史と言う人物,何か胡散臭い感じです。読みながら,本当に叔父なのか? って思いました。

ただ、違和感を感じながらも,真世にとっては心強い存在。そして真世は父親の葬儀もしなければならない。こんな時は身内に頼りたいですよね。武史は真世と共に葬儀を行う準備をするんですが,この葬儀に犯人が必ず来ると考えているようです。

そこで考えたのが葬儀中に「カメラ」を仕込んで,怪しい人物がいないか動画に撮ろうと考えます。つまり英一の遺体近くにカメラを仕込み,葬儀の参加者には必ず遺体の近くまで足を運んでもらうと。そうすれば,ひょっとすると犯人がおかしな表情をしたり,おかしな動きをしたりするのではないかと考えたのです。

何か警察が考えそうなことですよね。というか,本当は刑事なんじゃないの? って疑いながら読むわけです。英一は,おそらくタオルで首を絞められて殺害されたのだろうと推測されます。しかし,彼はスーツを着ていて,しかもライターか何かのオイルが付着していたようです。しかも庭で発見されたのに靴を履いていない。これらが意味するところは何なのでしょうか。

この町では『幻ラビ』というアニメを使って,町おこしをしようという計画がありました。
幻ラビというのは『幻脳ラビリンス』と言って,真世の同級生である釘宮という男が描いていました。一躍有名になった釘宮。そのマネージャー的な役割をしていたのが同じく同級生の九重という女性。何となくこの男女には何かありそう。。。

そして,この計画の中心にいたのが柏木建設。副社長が真世の同級生の柏木です。他にも,銀行員である牧原,IT企業社長の杉下,葬儀の受付を手伝ってくれた池永桃子など,多くの真世の同級生が登場します。

さらに桃子の夫の池永良輔は3つ年上だが,英一の教え子だったり,真世の身近な人物はみんな怪しく映ります。犯人は同級生の仲なのか。英一の教え子の中にいるのだろうか。武史は真世とともに,さらに追求していくのでした。

いくつかの疑問

近々,真世たちは同窓会を開く予定だったようです。同級生たちからは「同窓会についての相談」ということで英一と連絡を取っていた同級生も多かったのです。叔父である武史も,同窓会を理由に兄に連絡を取ってきたこと,つまり通話履歴に注目します。しかし,これは警察に押さえられてしまいました。

また,葬儀で書かれた芳名帳がまさに「容疑者リスト」であると考えているようです。警察も変装し,葬儀社の社員を装って張り込んでいます。でも武史は「自分の手で捕まえたい」と思っているのです。犯人はこの中にいるのか。それとも同級生ではない人物なのか。

そこに津久見という同級生の母親も参列しました。実は津久見は中学時代に白血病に罹り,亡くなっていました。津久見が生きていた頃,いくつかの作文を書いていました。その中には現在漫画家である釘宮が唯一の親友であることも書かれています。

他にも森脇という女性も参列しました。彼女は真世たちと同級生ではなく,4つ下です。もちろん英一の教え子ではあったんですが,ある人物を探しているようでした。それは牧原でした。銀行員の。それを聞いた武史は何かを感じ取ったようです。銀行だけに,カネの匂いがします。

先にも書きましたが,本当に怪しい人物が多すぎるのが今回のストーリーです。でも殺害動機が全くわからないんですよね。

ある日,殺害された日の英一の行動が徐々に明らかになっていきます。英一は当日,東京に行っていたようです。「東京キングダムホテル」へ。そして誰かと会っていたようなんですね。ここで会っていた人物がとても怪しいです。

他にも,同窓会の日に英一は「サプライズ」を用意していたようです。これも気になる武史。自分たちの手だけでは情報が足りないと判断した武史は,盗撮カメラや盗聴器を仕込み,警察の情報を引き出そうとします。警察も武史たちに接してきて,知っていることを聞き出そうとする。

武史は真世のバッグに蝶の形をしたアクセサリーを付けるように指示します。実はここに盗聴器が入ってるんです。武史は真世にそのバッグを持って警察と会うように指示します。すると刑事たちが会話している内容がどんどん武史に入ってきます。

それだけではありません。真世が同級生と会っている時,同級生が話す会話も武史の耳に届くわけです。特に警察は警戒しているようなんですよね。確かに,警察からすると頭のキレる武史は何者なのかわからないし,武史からしても警察は無能と思っているようで信用ならない。
読者としても,武史って本当に叔父なの? って思うシーンもあるし,警察関係者の中に犯人がいるかもしれないって想像するんですよね。それともこれらの構成自体が東野先生の巧みな文章表現なのかもしれない,というふうにいろいろなものを疑ってしまいます。

読みながら気になるのは次のことです。

① 英一は「東京キングダムホテル」で誰と会っていたのか?
② 『幻ラビ』の町おこし計画が中止になったのはなぜなのか?
③ 英一の体に付着していた「オイル」の意味は?
④ 森脇が牧原を探していた理由は何なのか?

他にもいろいろ疑問点はありますが,これらが解決できれば誰が犯人なのか,動機は何なのかもわかってきそうな気がします。

①の疑問の答えがわかります。英一が東京キングダムで会っていた人物は誰なのか。武史は推理していました。それを真世に伝え,真世は親友の桃子と会います。実はその人物は真世の夫,池永良輔でした。真世は41期生,良輔は37期生だから同級生ではないんですよね。ではなぜ父は良輔と会っていたのか。

まず良輔と桃子は別居していました。良輔は完璧主義者で,自分の思い通りにならないとすぐにカッとなる性格だったようです。それで何度も桃子とぶつかり,とうとう別居してしまいました。ただ良輔は英一にとても恩を感じており,度々相談事もしていたようです。英一は二人の教え子のことが気になって,真世に内緒で良輔とホテルで会っていたようです。

英一は,本当に教え子思いの良い教師だったんですね。桃子はそれを黙っていたことを真世に謝るのでした。ということは②~④にヒントがありそうです。これを武史は次々と明かしていくのです。

武史は津久見の母親と会うことにします。津久見は白血病でこの世を去りましたが,武史は津久見の母親と生前の息子の話をします。彼はよく作文を書いていたようです。かなりの文章力を持った生徒で,英一も一目置いていたようですね。

彼の遺品にはたくさんの手紙や作文がありました。先に書いた「自分の親友が釘宮である」というのもそうです。『私の尊敬する人』『私の家族』『友達について』など。この中にヒントがあるのでしょうか。

そして,本作品のクライマックスである「同窓会」が行われるのです。

事件の真相とは

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同窓会の日になりました。本当ならば津久見の追悼会も行う予定でしたが,母親がしないでほしい,同窓会を純粋に楽しんでほしいと言い,中止になります。真世の同級生にとっては楽しい時間が過ぎていきます。ただ真世は武史から指示を受けていました。同窓会の後に,かつて学んだ中学校の教室に全員集合するように,と。そこで叔父からお礼がしたいと。

ひょっとして武史はここで自分の推理を披露するのでは? そんな予感がプンプンします。
かつてのミステリー小説みたいで,ちょっとワクワクしてきました。同窓会が終わり,参加した面々が教室へ移動します。ということは,この中に,同級生の中に犯人がいるということ?

そこに現れたのは,英一に変装した武史でした。兄弟だから声もそっくり。やっぱり叔父であることは本当だったんですね。まるで,中学時代にタイムスリップしたかのように,武史は英一を真似て出席を取り始めます。そして「これから国語の授業を始める」ことを伝えます。

ここでは『友達について』という津久見の母親から渡された作文を披露します。「釘宮君こそ,本当の親友だと思えるようになった」津久見は本当に釘宮のことを慕っていたんですね。同級生はみな,津久見と釘宮の関係をここで知るわけです。

そして次はホームルームとなります。武史はここから同級生を問い詰めていくのです。
ここでようやく②の疑問。幻ラビの計画が中止になった理由は何なのかというのが登場するのです。中止になった理由はコロナウィルス蔓延による観光客の減少でした。しかし問題はその先です。

この計画を主導していた柏木建設。町おこしということで,多くの支援者たちから出資を受けていましたが,計画倒れになってしまいます。そのカネを出資者に返還せず,ある意味着服してしまったんですね。これって,詐欺?

カネとくれば銀行です。そう,ここで牧原の話になるのです。ある出資者の口座からカネが消えたと。そこに疑問を持ったのが森脇という女性でした。これが④の謎の答えです。彼女が牧原を探していたのはこれだったんですね。

ただ,柏木たちは出資者への説明会をちゃんと開いたと訴えます。そして自分たちを疑っているのかと。そして武史はある映像を映し出します。それは葬儀の時に仕込んでいた盗撮カメラの映像です。「英一の遺影から目をそらしている,あるいは目を瞑っている人物がいる」このためにカメラを仕込んでいたんですね。

柏木はちゃんと見ていましたが,牧原は目をそらしています。これを武史は追及しますが,二人は意味はないと否定します。実際に武史自身もこの二人が犯人だとは思っていない様子です。

次に武史はアリバイのない九重梨々香を追及し始めます。ある人物と一緒にいたと訴える梨々香ですが,その人物を明かそうとしません。それはなぜか。実はラブホテルにいた形跡があるのです。ということは釘宮と一緒にいたのでは? 釘宮も「自分が一緒にいた」と言います。

ところが違いました。実は一緒にいたのは釘宮ではなく,同級生でIT社長でもある杉下だったのです。つまり浮気していたと。実は梨々香はこっそりと杉下と組んで『幻ラビ』のゲーム化を考えていたようです。これにはそんな計画を知らなかった柏木たちも怒り出します。釘宮はそれを知っていながらも梨々香をかばっていたんですね。釘宮は梨々香には頭が上がらないようです。

そしてここからがクライマックス。武史は釘宮を見つめます。そして言うのです。津久見の母親から渡された封筒の中をよく見るように。一枚の作文が落ちてきました。釘宮は「ハッ」とします。なぜこの作文がまだあるのか,と。

それは『将来の夢』という作文でした。そこには「僕は将来漫画家になりたい」と書かれています。津久見は,自分よりも釘宮の方が絵を描くのがうまいと思っていたようです。でも問題はそこではありませんでした。

津久見はこの作文に,自分が将来描きたい漫画のアイデアを書き記していたのです。それはまさにあの『幻ラビ』でした。これを釘宮は見られたくなかった。だから捨てた,あるいは燃やした。しかし,その作文が再び目の前に現れたのです。おそらく武史のマジックでしょう。彼はかつて津久見が考えたアイデアを元に,漫画を描いた。それが少年誌の編集者の目に留まり,彼は一躍有名人となったのです。

それに気づいた人物がいました。恩師である英一でした。彼は同窓会でこのことをみんなに披露したいと。悪意はなかったようです。しかし釘宮は反対します。それが公になれば,自分は他人のアイデアを元に漫画を描いたと。つまり自分にはゴーストライターがいたような感覚でしょうか。

英一に家には津久見がかつて書いた『将来の夢』の原稿がありました。それを決して見られてはいけないと考えた釘宮は行動に移します。英一が東京へ行くというのを知った釘宮は,英一の家を訪れ,家ごと放火しようとしたのです。

なるほど,これが③の理由だったんですね。オイルをタオルにしみ込ませ,家ごと原稿も燃やしてしまおうと思った。しかし,そこにスーツ姿の英一が帰ってきた。そこで揉み合いになり,何と釘宮は英一の首を持っていたタオルで絞めたのです。これが殺害動機だったのです。武史は最初から釘宮が犯人だとわかっていたようです。

その場から逃げ出した釘宮は,外に待機していた警察に捕まってしまうのでした。

コロナウィルスが流行していた時に描かれた作品なので,その時代に合わせた話になっていました。そんな中,起こった事件に挑む娘の真世とその叔父である武史の話。

「この武史という人物は本当に叔父なのか? 実は刑事なのではないか?」

そんなことを考えながら読みました。武史の頭のキレと用意周到さ,何かしらの違和感を感じて読んだ方も多いかと思います。

本作品の冒頭のマジックのシーンが,ストーリーの核心的な部分につながっていくのではないか。本当に翻弄されました。最後の真犯人を追い詰めるシーンなどは,一昔前のミステリー小説を読んでいるようで,何か懐かしさを感じることもできました。

かと言って,複雑なトリックで頭が混乱するということもなく,とても読みやすいストーリーでとてもよかったです。未読の方には,是非,読んでほしいと思います!

この作品で考えさせられたこと

● かつてのミステリー小説を思わせる真犯人の追及シーンがよかった

● コロナウィルス蔓延の時の,ある意味懐かしさを思わせられる作品

● やはり,東野小説は読みやすいし,面白い

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