「ビブリア古書堂」って,シリーズモノで,たくさんの続編があることに驚きました。累計700万部! しかも,アニメにもなっているし,シリーズのファンも多いのだろうなと想像します。
僕自身はこれまで古書と呼ばれるものを読んだことありませんでした。今もですけど。。。でも,本作品を読むと,古書の価値というものを考えさせられるのです。
世の中には,今流行りの小説もありますけど,古き良き時代の書籍を嗜む方もたくさんいて,それをコレクションしている人もいるのだなと。そして,それを売買している人たちもいるんですね。
表紙の絵をみて思わず購入しましたけど,思った以上に深かったです。
そしてビブリア古書堂の店主の,古書の膨大な知識量,そして事件を解決するような洞察力,推理力も堪能できました。
まずはシリーズの原点の作品を読んでみたので,本作品について書いてみたいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 4つの短編の概要
3.2 各短編の結末
3.3 本作品の考察と文庫詳細
4. この作品で学べたこと
● ビブリア古書堂シリーズの原点の作品を読んでみたい
● 古書がどのようなものかを知りたい
鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋 「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない、若くきれいな女性だ。だが、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大抵ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも。彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは栞子と奇妙な客人が織りなす、“古書と秘密”の物語である。
-Booksデータベースより-
篠川栞子・・・主人公。ビブリア古書堂の店主
五浦大輔・・・ビブリア古書堂で働くことになる
戸森研策・・・第二話の犯人。大学4年生
篠木瑶子・・・第三話の犯人。会社の経理事務
小菅奈緒・・・第二話の登場人物
志田・・・・第二話に登場。古書のせどりをやっている
坂口昌志・・第三話の登場人物
大庭葉蔵・・第四話の登場人物
1⃣ 4つの短編の概要
2⃣ 各短編の結末
3⃣ 本作品の考察と文庫詳細
第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
主人公の五浦大輔は幼い頃、本好きの祖母の本棚をあさくり,こっぴどく叱られたことがありました。そのせいか,本を長時間読むことが出来ない体質になっていました。
大輔は大学時代に就職活動をするも,内定をもらった会社は卒業直前に倒産してしまいます。ホントについてない大輔。お陰で結局無職の状態が続いていました。
ある夏の頃、大輔の母親の恵理が1年前に他界した祖母の遺品『漱石全集』の1冊の中に,何と「夏目漱石」のサインらしきものがあるのを見つけます。
実は,この本には秘密がありました。
第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
五浦大輔は,入院中の栞子に代わり,ビブリア古書堂で働くことになりました。栞子の妹,文香(あやか)とともに店番をしています。
ある日,一人の男性が店を訪れます。彼は店の中で何かを見つけ,騒ぎ出します。
一体,何があったのでしょうか。
第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
ある日、大輔は入院している栞子の元へ一冊の書籍を届けます。それが『論理学入門』という、青木文庫が出版したものでした。実はこの本、50代くらいの男性がビブリア古書堂へ持ってきたものでした。
栞子は本をめくり、驚きます。どうやら普通の本とは異なるもののようです。
一体、この本、どんな意味のある本だったのでしょうか。
第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)
ここでは、栞子がなぜ入院しているかということが明らかになります。そのキッカケとなったのが、太宰治の処女作である『晩年』でした。
栞子が祖父から受け継いだ大切な本の一冊。
ところがこの作品欲しさに、栞子を階段から突き落としてまで脅迫した男性がいたのです。
この男性とは、一体何者なのでしょうか。
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第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
夏目漱石
田中嘉雄様へ
『漱石全集』の第八巻にのみ書かれているこのサイン。漱石が嘉雄のためにサインを書いて贈呈したというふうにも思えますが,実際,どうなんでしょうか。
母親に「このサインが本物かどうか」を調べてもらうために,古本を扱っている『ビブリア古書堂』を訪れることになります。
ところが,この店へ行くと,主人の妹が店番をしており,主人はどうやら入院しているらしいのです。
大輔は病院へ向かいます。そしてようやく店主である「篠川栞子(しおりこ」に会うことができました。
よく見ると,彼女は大輔が高校時代にビブリア古書店で見かけ、とても気になっていた女性でした。
わざわざ,ごっ,足労を。。。わたし,店長の篠川栞子です
何か謙虚で,人と話すのが苦手な感じなんですが,本に関しての知識はすごいんです。店に置いている本の中身がちゃんと頭に入っているみたいですから。
そして,このサインが漱石のものではないことを一発で見抜きます。しかも書いたのは,大輔の祖母であることも。
決めては「蔵書印」です。各書には紫陽花を表現した印鑑が押しておりました。
蔵書印(ぞうしょいん)とは
本の所有者を明らかにするために押されるハンコの印影のことです。
-ハンコヤドットコムより-
第八巻にだけ,この「蔵書印」が無かったのです。つまり,夏目漱石の後に田中嘉雄様へと書いたのではなく,田中嘉雄様への後に誰かが夏目漱石を付け足した。
それがおそらく祖母だというのです。前の持ち主が書いた「取るに足らない落書きである」と思わせるために。祖母にとっては,大切な本だったんですね。
田中嘉雄という人物は,祖母が結婚してからこの本を贈ったのです。
田中嘉雄と祖母は,誰にも気づかれないように付き合っていたようなのです。
それをこの本一冊とサインと蔵書印で見抜くとは。栞子はすごい頭脳明晰な女性のようです。
第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
お前,ちょっと待て,コラ
志田という男性が,ある老婦人を注意しているのです。実はこの老婦人,店内にあった本を「万引き」していたんですね。
しかし,志田のお陰で万引き逮捕は免れたようです。この志田,実は「せどり」をやっている人物のようです。
本のせどりとは
簡単に言えば「本の転売」。転売の中でもメジャーなジャンルとなっている
-物販総合研究所サイトより-
つまり,志田が本の「掘り出し物」を持ってきて,栞子に査定して購入してもらうということです。
古本屋では,高額でも欲しいと客が本を買っていくようですから,昔からある転売なんでしょうね。ただ,今回の志田の本当の目的は転売ではないようです。
「本を盗まれたんで,探すのを手伝ってくれ」という依頼でした。
一体,どういうことなのか。本の名前は『落穂拾ひ・聖アンデルセン』です。
志田は,誰も盗らないだろうと思って,自転車のカゴに入れていたこの本を盗まれたのです。その時,近くを背の高い女の子が通っていたため,志田は彼女が本を持って行ったと確信していたるようです。
では,この少女は一体何のために本を持って行ったのか。
その現場を笠井という,志田の仕事仲間が見ていました。彼はその少女がから「鋏を持ってないですか」と聞かれました。
その少女と一緒にいたと思われる少年が見つかりました。その少年は少女が「小菅奈緒」という名前だと伝えます。どうやら奈緒は,お菓子を少年にプレゼントしようとしていたようなんですね。
一連の状況を整理した栞子は,この少女が何をしようとしていたのか,なぜ本を盗んだのかを推理します。その推理はこうです。
まず,奈緒は少年のためにお菓子をプレゼントしようと,えんじ色のリボンで飾ります。ところが,自転車にぶつかってしまい,プレゼントを落としてしまったんですね。
飾りが取れたから,それを結びつける紐が必要になりました。そこで使ったのが本のえんじ色の栞の紐を使おうとしたのです。
だから鋏が必要で,それでプレゼントを結び付け直したんですね。あまりの的確な推理に,奈緒はかなり驚いています。
しかし,奈緒はその本を返せないというのです。理由は意外でした。実は奈緒はその本を「読んでいる途中」だったからです。
なぜ本を読もうと思ったのか。それはたまたまひらいたページが「落穂拾ひ」だったから。
「十代の少女が男性の誕生日にプレゼントを渡す」
ということがその本に書いてあったのを見つけたからです。自分の今の状況と本の内容がシンクロして,思わず読んでしまったのでしょうか。
奈緒は,本を盗んだこと,栞を切ってしまったことを素直に謝ります。
これを境に志田と奈緒は親しくなり『落穂拾ひ』について、語り合うのでした。
第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
「AとBが等しい。BとCが等しい。ならば、AとCは等しい」
という論理的思考のことが書かれた本のようですね。この本を持ち込んだのは坂口昌志という人物でした。
ところで、青木文庫って初めて聞きました。どうやらすでになくなっている出版社のようです。
青木書店とは
1950年代はじめ、総合的な文庫本を企画し、青木文庫を発刊した。自社出版物からは、長谷部文雄訳の『資本論』などの社会・経済分野のものを文庫化してきた。1980年代に刊行を停止した。
特別な本を扱っている出版社だったんですね。
それにしても、昌志が持ち込んだ時、こんなことを言ってたんです。
「買取価格はいくらでも構わないが、売り物にならないようなら持ち帰りたい」
そう言って、ビブリアを後にします。しかし、一時間後に別の人物から電話があります。
「今日、坂口って人が文庫本を売りにこなかった?」
この人物、昌志の妻である、しのぶでした。どういうこと?
そして大輔が栞子の入院する病院へ『論理学入門』を持ってきたというわけです。
栞子は本の最後のページをじーっと見ています。そこには「私本閲読許可証」と書かれていました。
私本閲読許可証とは
受刑者が私物として持っている本のこと。刑務所の図書館から受刑者に貸し出される本は「官本」という。
つまり昌志はかつて刑務所にいたことがあるということです。ある銀行に猟銃を持って押し入り、窃盗の疑いで逮捕されていたようです。でも刑務所を出て、完全に更生しているようでした。
その後、昌志の妻が現れて「本を返してほしい」ということを伝えます。妻は、夫が受刑者だということを知らないような素ぶりです。
そして、栞子は「本の持ち主はご主人であって、本を売ることを希望している」ということで跳ね除けます。
そこに突然、昌志が現れました。彼はサングラスをしています。そして衝撃なことを言うのです。
「ここまで近づいても、もう君の顔がはっきり見えない」
昌志は、目の中に水が溜まる「眼病」に罹っていて、本を読めなくなったから売ろうとしていたようです。
実はそのことに栞子は気づいていました。店で書いた書類の記入欄をはみ出して記入していたからです。
彼は「失明する恐れがあること」「かつて刑務所にいたこと」を伝える覚悟をしていたんです。そしてとうとう打ち明けます。ところが妻の反応は意外なものでした。
「分かってたわよ、そんなこと」
知っていたんですね。知っていて結婚した優しい女性だったんです。
本も、代わりに妻が読んであげ,昌志に返したのでした。
第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)
ビブリア古書堂にあった『晩年』は処女作ということで、多くのファンがいるようです。出版されたのが昭和11年。大輔が本をめくってみると、ところどころ「袋とじ」のようなページがあります。
大輔が「乱丁本」だと思っていたこの本、実は『アンカット』という類の本でした。
アンカットとは
冊子の小口(本の天地と綴じの反対側3辺)を断裁せずに製品となっている製本方法です。袋状になった部分はペーパーナイフで切り進めながら読みます。
-プリントコンシェルのスタッフブログより-
昔はこういう類の本があったんですね。なおさら貴重な本。祖父の形見だけあります。この本の中には毛筆で次のような言葉が書かれていました。
自信をモテ生キヨ 生キトシ生クルモノ
スベテ コレ 罪ノ子ナレバ
これ、太宰治が書いたもので、太宰が誰かを励まそうとして贈ったようです。
「生きている者は誰でも業が深い」と。
価値があるということで、文学館の展示会で、この本を貸し出したようなんですね。そこである人物がこの本に書かれた先ほどの一節を見たわけです。
400万で売ってほしいとメールを送ってきたのが大庭葉蔵という人物でした。
しかし、栞子が大切にしているこの本を売るわけにはいかない。
そして事件が起こってしまったわけです。栞子が入院したとしても諦めてないでしょう。そこで栞子は大輔に「レプリカを使って犯人をおびき出そう」と言い出します。
店頭においたレプリカの古書は、紙が新しすぎました。見抜かれてしまったのか、放火事件にまで発展します。
かろうじて消火が行われますが、レプリカとバレたわけですから「本物はどこにあるのか」ということになります。
本物の『晩年』は病院に入院している栞子のところにあります。それを知った大庭は病院へ向かい、屋上へ逃げた栞子と対峙していました。
そして栞子は意外な行動に出ます。何と、あの『晩年』を目の前で燃やし、屋上から捨てるのです。
これには大庭も驚き、隙を見て大輔が取り押さえます。そして大庭は警察に逮捕されました。
ところが大輔は疑問を持ちました。そして栞子が燃やした『晩年』が偽物だったと見破ったのです。本物は栞子が病院の金庫の中に大事に保管していました。
自分が信頼されていないと感じた大輔は怒りを覚えます。そして「俺、店を辞めます」と言って去っていくのでした。
ここからエピローグ。
再び無職に戻った大輔は、就職面接の帰りに歩道のベンチにいる栞子に呼び止められます。栞子は退院できたようです。栞子は大輔が辞めてからというもの、本を読まなくなるくらい落ち込んでいたようです。
そして自分が一番大事にしている古書を「預かってください」と差し出す。それはあの『晩年』でした。
本を読めない自分がもっていても仕方がないから預かれないと返す大輔に栞子は落胆しますが、大輔は続けて『晩年』の事件が解決したら、その内容を話すという約束を果たして欲しい言います。
栞子はうれしそうに話し出すのでした。
今回、本作品を読んで思ったのは、本の値打ちについてです。特に古書について。
古文書という場所は、単に本を売っているだけではなく、古い本を売ること、つまり「せどり」で生計を立てている人もいる。
大金をはたいてまでもどうしても本が欲しい人がいる。
今、僕自身が読んでいる現代の作品も当然値打ちがあるとは思います。
でも、はるか昔に描かれた作品には、作家や本の特徴によって価値が変動するのだなと。
本作品を読んで「古文書」というものに少しだけですが、興味を持つことができました。
本物とは、そこに精通している人にしかわからないものなのかなって思います。
最後に、各短編の内容を書いたサイトがあったので、紹介しておきます。
『漱石全集』(岩波書店)
前近代から近代へ価値観が大きく転換した時代に,人びとの愛と孤独と狂気をみつめ,物語をつむぐことによって魂の尊厳に光をあてた漱石。
没後100年を経た今なお,その著作はわれわれのこころを捉えて離さない。
注解を改訂し,あらたに発見された講演,書簡,俳句,翻訳など,断簡零墨に至るまで増補する漱石全作品集の決定版。
-岩波書店サイトより-
『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
作者の小山清は東京出身の小説家。太宰治の門人としても知られる。太宰が戦時中に疎開している時期、太宰宅の留守を預かる。
太宰が亡くなり,太宰に預けていた原稿が売れるようになり、作家となる。
『文學界』に発表した「小さな町」や『新潮』発表の「落穂拾ひ」など、一連の清純な私小説で作家としての地位を確立
-WiKipediaより-
『論理学入門』(青木文庫)
本作品にもある「三段論法」とは、2つの前提から1つの結論を導くもの。
伝統的論理学における論理的推論である「演繹」の核心である。
ただ、日常会話その他、表面的には三段になってない推論が多いので、それを三段論法の形に直す話も『入門』には書いてある。
この点は、今の論理学に不足しがちな点で、評価に値するだろう。
-テンメイのRUN & BIKEサイトより-
『晩年』(砂子屋書房)
妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。
ヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』。自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた処女作『思い出』。
心中事件前後の内面を前衛的手法で告白した『道化の華』など15編より成る。
-新潮社サイトより-
● 古書には,人それぞれの価値観があるということ
● 古書を扱う書店の存在を改めて考えさせられた