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【ヒポクラテスの悔恨】中山七里|法医学者の光崎の過去を知る

ヒポクラテスの悔恨

僕自身大好きな,中山七里先生の「ヒポクラテスシリーズ」第四弾。ようやく文庫本で登場し,購入することができました。

法医学教室に所属する主人公の栂野真琴。彼女はこの教室の教授の光崎の解剖や考え方に魅了され,今回も活躍します。

もちろん刑事である古手川も登場します。真琴と古手川は本当は相性いいんじゃないかな。
それにしてもこの古手川もよくいろんなシリーズに登場します。

「カエル男シリーズ」「御子柴礼司シリーズ」などなど,中山七里ワールドはシリーズ同士でつながりがあるから本当に面白いです。

司法解剖をして真相を見破る光崎の技術と「死体に耳を傾けろ」という言葉。光崎そして光崎の過去の人間関係を知ることもできる作品になっています。

それを知りたい方は是非読んでみてください。

こんな方にオススメ

● ヒポクラテスシリーズが好きな方・読んだことない方

● 古手川と栂野のコンビがどんな事件を解決するかを見たい

● 光崎の過去に何があったのかを知りたい

作品概要

「一人だけ殺す。絶対に自然死にしか見えないかたちで」浦和医大法医学教室の光崎藤次郎教授への脅迫文がネットに書き込まれた。日本の解剖率の低さを訴えるテレビ番組での、問題の九割はカネで解決できるという彼の発言が発端だった。 挑発などなかったかのように、いつもの冷静さで解剖する光崎。一方、助教の真琴は光崎の過去に手がかりを求めると、ある因縁が浮上し……。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

光崎藤次郎・・法医学教室の教授。天井天下唯我独尊の法医学者

栂野真琴・・・浦和医大法医学教室所属。光崎の部下

キャシー・・・法医学教室の准教授。アメリカ出身

古手川和也・・埼玉県警捜査一課の刑事

渡瀬・・・埼玉県警捜査一課の刑事。古手川の上司

本作品 3つのポイント

1⃣ 司法解剖の現状

2⃣ 5つの事件の概要

3⃣ 事件の真相と脅迫者とは

司法解剖の現状

今や法医学の権威となっている,浦和医大の法医学教室教授の光崎。光崎は普段から相手を気遣うことなく話すし,思ったことはすぐに口に出る。でも腕は確かだから誰も何も言えないんですけどね。

ある日,光崎は「司法解剖がテーマの番組」に出演することになります。あの堅物で自分の考えを曲げずに,歯に衣着せぬ光崎ですから,いやな予感がプンプンします。番組そもそも「司法解剖」って,事件性がある時に行われるイメージです。これまでのシリーズでも,事件性がないと思っていたら光崎が解剖すると「実は殺人事件だった」という話も数多くありました。

そして司法解剖で多くの真実がわかるはずなのに,国からの予算が足りないから解剖に回せない遺体もたくさんあるという話も出たことがあります。

今回の番組でも同じようなことが議論になりました。日本と世界の解剖を取り巻く環境は異なるようです。

先進国の多くは,こうした異常死体についてほぼ数十パーセントから100パーセント近くまでの解剖率を保っている。

それは国及び,捜査機関からのサポート体制が万全である。

それに対して日本は万全どころか,かなりの問題があるようです。

一体当たりの解剖費用は25万円。実際に警察などの機関から払えるのは一体当たり16万円。この差は大学側の経費として計上してしまっている。

司法解剖は大学側からすれば赤字というわけなんですね。さらに解剖医は各都道府県に一人か二人くらいの割合しかいないらしいのです。日本とアメリカの違いまさに「ヒト」「モノ」「カネ」が不足しているのがこの業界の現状で,万全のサポートとはとても言えない。

そして光崎はテレビを通して言い放つのです。

最大の原因はカネだ。カネさえあれば,全ての異常死体を解剖できるし,優秀な解剖医も確保できる。

今の極貧状態で法医学に何かを求めるのはどだい無理だ。

世の中の問題の九割はカネで解決できる!

あぁ,やっぱり言ってしまった。。。この発言がSNSでも話題を呼んでしまいます。罵詈雑言が光崎の発言に浴びせられるのです。ここまでハッキリ言ってしまえば,今の世の中はSNSで「大炎上」しちゃいますよね。

ただ,この発言を聞き,密かに何かを企んでいる人物がいるようなんです。過去に光崎に関係する何かに恨みを持っている人物。一体誰なのか。

何者かが埼玉県警のサイトに下記のような書き込みを行います。WEBサイト

親愛なる光崎教授殿。あなたの死体の声を聞く耳とやらを試させてもらおう。

これからはわたしは一人だけ人を殺す。絶対に自然死にしか見えない形で。

その声を聞けるものならきいてみるがいい。

まさに光崎への挑戦状。予告通り,ここから何人かの人間が事故に遭います。

一見事故に見える遺体を見破るのか,それとも,やむを得なく亡くなった遺体の異変を察知できるのか。

ここから脅迫者 vs 光崎率いる法医学教室の対決が勃発するのでした。

5つの事件の概要

本作品では5つの事件が発生します。

第一の事件は,埼玉県熊谷市で起きました。ある老人が家族の留守中に亡くなってしまったのです。老人は息子夫婦と孫娘の4人暮らしで,ほぼ動けない老人は寝たきりの状態。

暑い夏場で,エアコンはつけた状態だったようです。当初は老衰死とされましたが,古手川や栂野が聞き込みすると実は何かあるのではないかと疑うのです。老人亡くなる県警ではあの「脅迫文」が流れていましたから,古手川たちはなおさら怪しんでいます。そして家族の反対を押し切り,司法解剖をすることになります。

解剖した結果,老人は老衰死ではなく「熱中症」であるとわかります。

しかし調べていくと,隠された事実がありました(ネタバレへ続く)

第二の事件は,川口市の鋳物工場で、実務研修生のホーというベトナム人が肝臓がんによる肝臓破裂で亡くなります。

しかし,古手川が聞き込み捜査を行った結果,実はこの会社,国によってエリアを分けて働かしていたことがわかります。

やはり国によって国民性というか,考え方や行動パターンも異なりますから,労働の仕方も違ってくるのでしょう。日本人の船堀に聞くと,当時ベトナム人と中国人の間でいざこざがあったようです。中国人 vs ベトナム人会社としては早く荼毘に付そう(火葬)とするんです。どうやら国から給付金が出るようなんですね。ここに違和感を感じた古手川と栂野は司法解剖に持っていきます。

やはり中国人が怪しいのか。しかし真実は意外なところにありました(ネタバレへ続く)

第三の事件というか「事故」は,秩父の山中のカーブが続く山道でおきたバイク事故でした。事故を起こしたのは35歳の無職の水口琢朗という男性。ここ現場に父親である仙彦が現れ,その惨状に心を痛めているようでした。バイク事故水口家はイチゴ農家でした。母親の益美は糖尿病で車椅子生活をしていて,それを看ていたのが宍戸という人物。これは明らかに事故かと思われましたが,やはり古手川の中には「脅迫文」の疑惑があるため,疑ってかかっている様子。

そして元々バイクにも乗ったことがある古手川は,この事故と同じ状況を再現してみようとします。その結果,同じようなスピードでカーブを曲がる際,かなりの遠心力でガードレールを越えてしまうことがわかります。

(古手川は,崖の向こうの木の枝に引っ掛かり,一命を取り留めます。本当に運がいい人です)

ようやく司法解剖の許可がおり,光崎がメスを握った結果,意外な事実が判明しました(ネタバレへ続く)

第四の事件。フィリピン人のパブでホステスをしていたステファニーという女性が歩行中にいきなり嘔吐。その後路上で大量出血してしまいます。

救急車がきましたが,運ばれた先の病院で亡くなってしまいました。熱中症と診断されますが,生理中だったにしては大量の出血。フィリピン人パブのマネージャーの久坂部から話を聞けば,パブではNo.1の女性だったと言います。そして司法解剖が行われます。彼女はどうやら妊娠していたようです。

そして日本では発売禁止されている薬物が出てきます。中絶に使用されるものでした。その薬を違法販売している店主を脅し,防犯カメラの映像を提供を要求した古手川。

そこには知っている人物が映っているのでした(ネタバレへ続く)

第五の事件が発生します。浦和医科大の大学病院で,産まれて5日しか経っていない赤ん坊が呼吸をしていないことに気づきます。

父親は病院の医師である吉住です。看護師が心肺蘇生を施し,目の前で吉住は祈ります。
しかし懸命の処置も空しく,赤ん坊は亡くなってしまいました。吉住だけではなく,妻の一重も心を痛めている様子。赤ん坊生まれたばかりの乳児がよく「突然死」するということを耳にすることがあります。確かに「うつぶせすると呼吸できなくなる」とか,よく聞きますよね。今回はまさに「乳幼児突然死症候群」と診断されます。

古手川と栂野は司法解剖を提案しますが,医師の吉住,妻の一重,祖母のタキは徹底的に反対します。しかし,古手川は「鑑定処分許可状」を持って,吉住を説得します

鑑定処分許可状とは

裁判官の発行するもので,鑑定人と死体とを特定のうえ,鑑定の目的で死体解剖を行うことを許可する令状のこと

解剖を行うのはやはり光崎。しかし解剖の結果,恐るべき事実が明らかになります。

上記の5つの事件,あるいは事故。この中にあの「脅迫文」に関係する事案があるのです。
一体,どの事件がWEBサイトの予告へつながっていくのか。

事件の真相と脅迫者とは

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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まずは第一から第五までの事件の真相。

第一の事件の真相は,孫娘が電子レンジを使ってしまい,ブレーカーが落ちてしまったことが原因でした。つまり,老人はエアコンの効かない部屋で熱中症で亡くなってしまったのです。熱中症その原因に気づいた両親は,自分の娘を守るために嘘の供述をしたということでした。ある意味,両親の優しさだったわけですね。

第二の事件の真相。解剖の結果,何者かが腹部を何かで殴ったために肝臓が破裂したのでした。その犯人は中国人ではありませんでした。船堀でした。

会社自体が「日本人の就業時間を削減んして,その分をベトナム人に充てる」という計画を立てていました。ベトナム人がどんどん幅をきかせ,日本人が追い詰められるという危機感を感じたから犯行に及んだようです。工場第三の事件の真相。肝臓を解剖すると中から毒物が検出されました。その毒物は農薬。何と犯人は琢朗の両親でした。イチゴ農家の手伝いもしないでバイクに夢中になる琢朗には,多額の保険金がかけられていました。

そして朝食に農薬を入れ殺害。父親はワゴンに遺体をつめ,バイクのタイヤの跡をつけたり,息子を車から投げ出したり,信じられないことをやってました。

 

最後は父親と母親で,どっちが先に言い出したか揉めだしました。本当に後味悪い事件でした。

第四の事件の真相。妊娠していた被害者の相手は,パブのマネージャーの久坂部でした。禁止されている中絶薬を購入する場面を防犯カメラが収めていました。まさに決定的証拠です。ドラッグストア動機はやはり彼女に「流産」してほしかったからのようです。結婚を迫ってきたステファニーのことを愛してなかったという,身勝手な犯行でした。

そして第五の事件の真相。ここで光崎に関係する何人か重要な人物が登場します。まず光崎が若かりし頃,光崎は蜷川という教授に指導を受けていました。光崎はまだこの頃は助教授です。

この頃,世間では少女連続突然死事件が起きていました。その時の一番目の被害者の母親が司法解剖を望みます。光崎も解剖すべきと主張します。ところが蜷川教授は、事件性を否定し真っ向から対立。教授光崎があまりにも優秀だったため,蜷川もあまり光崎のことをよく思ってなかったのも原因かもしれません。その後,不審死事件が連続し、二番目の被害者のから致死量の毒薬が検出され、小児性愛者の犯行判明します。

一番目の不審死も実は同一犯の犯行だったと判明してしまいます。これが大問題に発展するわけです。この事件で蜷川教授は職を追われ、教授の座に就いたのが光崎だったというわけです。

そして何と吉住の妻の一重(ひとえ)は,蜷川教授の娘であることがわかります。

えっ? ひょっとして,脅迫文の犯人は一重なのか? いや,でもいつもならここから大どんでん返しがあるんだけど。。。

ここで意外な人物が登場します。第三の事件で車椅子を押していた宍戸です。これは偶然?
そしてここでやっと司法解剖のシーン。やはり光崎が解剖を担当します。死因はなんと「窒息死」でした。車椅子ということはやはりうつ伏せにした人物がいる? いや,違いました。誰かが「故意」に,隙を見て,赤ん坊の鼻と口を塞いだ人物がいたのです。

その人物が何と何と宍戸でした。では動機は何だったのか。

まさに「復讐」だったのです。彼はかつて連続突然死事件の第一の被害者,少女の二つ下の弟だったのですね。彼は光崎ではなく,吉住の娘,いや蛭川教授の孫娘が狙いだったのです。

なんということを。。。怒りの矛先が違うんじゃないのか?そして最後に光崎が宍戸に言い放ちます。

仮に復讐が正当化できたとしても,お前が殺すべき相手は蛭川教授か「わし」のはずだ。ところがお前はよりによって生後五日の赤ん坊を殺した。

己の欲求を満たそうとして何の抵抗もできない弱者に牙をむく。

その時点でお前はお前の姉を殺めた人間のクズと同等に堕ちたんだ

-本文より-

5つの事件のどこに光崎の過去がつながっていくのかを想像しながら読みました。

事件なのか事故なのか,殺人なのか。司法解剖されないケースもあり得るのだな,ということもよくわかりました。多少強引な部分もありましたけど。

一見事故にみえるものも解剖まで持ち込み,最後は光崎の的確な判断に任せるという,本シリーズの王道を改めて見せられた気がします。

生きている人間は嘘をつくことがありますけど,亡くなった方は嘘はつかないですから。

「死者からのメッセージを聞け」という光崎の言葉。とても重みを感じます。

この作品で考えさせられたこと

● 法医学教室の光崎はやはり健在でした

● 5つの事件の真相を司法解剖により真相を暴くという面白さ

● やはり最後は「大どんでん返し」でした

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