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【パレートの誤算】柚木裕子|「貧困ビジネス」とは何か

パレートの誤算

社会的な背景をテーマにした小説は数多くありますが,その中には「生活保護」をテーマにした作品もいくつかあります。

最近で一番話題になったのは中山七里先生の「護られなかった者たちへ」でしょうか。

生活保護問題僕も教員をしていますが,生活保護を受けて学校へ通っている生徒もいます。満足な生活を送ることができない人々を救う制度というイメージですよね。

生活の保護なので受給の目的は当然「生活」のためでなければならないとは思います。しかしそれを自分の趣味に使ってしまったりしている人たちもいます。

例えば奨学金をもらって大学や専門学校へ入学する人々もいますが,それが生活費以外に使われているのもよく目にします。実際にそういう生徒を受け持ったこともあります。

そうなると審査が厳しくなるのも当然だと思います。もし親戚に頼れる人がいるのであれば受給が却下されるというケースの方が多いとも聞きます。

さらにそれが国民の税金から支出されているわけですから,なおさら許せないという人も出てくるわけです。

難しい問題です。本当に苦しい生活を送っている方々にだけ行き渡るというのは。

今回の作品も「生活保護」が一つのテーマになっており,ケースワーカーである人物が事件に巻き込まれてしまうところから話は始まります。

こんな方にオススメ

● 生活保護を利用した詐欺の存在を知りたい

● 「貧困ビジネス」とは何かを知りたい

● パレートの法則とは何なのか知りたい

作品概要

ベテランケースワーカーの山川が殺された。新人職員の牧野聡美は彼のあとを継ぎ、生活保護受給世帯を訪問し支援を行うことに。仕事熱心で人望も厚い山川だったが、訪問先のアパートが燃え、焼け跡から撲殺死体で発見されていた。聡美は、受給者を訪ねるうちに山川がヤクザと不適切な関係を持っていた可能性に気付くが……生活保護の闇に迫る、渾身の社会派ミステリー!
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

牧野聡美・・・主人公。市役所の社会福祉課勤務

小野寺淳一・・市役所職員。社会福祉課に異動してきたばかり

山川亨・・・・ケースワーカー。何者かに殺害されてしまう

猪又孝雄・・・っ福祉保健部社会福祉課の課長

本作品 3つのポイント

1⃣ ケースワーカー行方不明

2⃣ 被害者と道和会の闇の繋がり

3⃣ 同僚をも欺く愚かさ

ケースワーカー行方不明

主人公の牧野聡美は市役所の社会福祉課のケースワーカーとして勤務しています。

ケースワーカーとは定義としては

身体上・精神上・社会上などの理由により,生活で困難を抱えている方の相談に乗り,課題解決に向けて適切な支援を行う人

とのこと。具体的には,生活を援護するための計画を立てたり,実際に生活保護などの審査を行ったり,生活に苦しんでいる人を訪問してサポートしたりするということです。

ソーシャルワーカーという言葉も聞いたことありますけど,明確な違いがわかりにくいのかなって思います。

いずれにしても生活弱者に対しての支援をすることには変わりはないようですね。

先にも書きましたが,生活保護を受給できたとしても,それを生活費以外,例えばギャンブルに使用していしまったりする人がいることはとても残念です。生活保護申請今回登場する聡美もそんなことに不満を持っている様子です。

そんな中,聡美は移動してきたばかりの小野寺とともに生活保護者の家へ訪問することになります。緊張する聡美。

ケースワーカーって,かなりの「コミュニケーション能力」が必要みたいです。確かに生活保護者,受給を希望する人というのは千差万別で,その状況に応じて支援計画も変化させなければならなそうですから。本当に大変な仕事だと思います。

聡美には上司がいました。山川という職員です。同じくケースワーカーではありますが,仕事にプライドを持って堂々としている姿に聡美自身も尊敬しているようでした。

ある日,山川というケースワーカーが訪問に出かけたきり戻ってこないという日がありました。山川を待つ聡美不審に思った聡美は山川に電話をしますが,応答がありません。ますます不信感を募らせる聡美。

そしてとうとう事件が発生してしまうのです。

被害者と道和会の闇の繋がり

山川は,実は訪問先が火事になり,巻き込まれて亡くなってしまったのです。ショックを受ける聡美。一体山川の身に何が起こったのでしょうか。

しかもこれは単なる火事ではありませんでした。「放火殺人」でした。トラブル発生か?放火殺人生活保護を受給するしないで揉めることがあるというのは先に紹介した小説でも出てきますから。

事件の真相が判明しない中,聡美と小野寺は,山川の仕事を引き継ぐことになります。

事件についていろいろなことがわかる中,課長の猪又が二人の仕事をストップさせます。ん~,何か怪しい感じがしますね。

仕事中に調査するのが難しいと判断した2人は,時間外で事件を調査することにします。

ここで新たな事実が判明します。火事になったアパートなんですが,どうやら暴力団が出入りしていたようなんですね。暴力団が絡んでいる事件しかもこのアパートの住民は全員「生活保護」を受けていたのです。

もしそうであれば,仕事に熱心な山川は報告していそうなものですが,そんな報告が皆無なんです。脅されていたんでしょうか。

何か違和感を感じますね。そういえば山川は高級時計を手にしていたということも聡美は思い出しました。

ひょっとして,山川はヤクザと通じていたのか。だとすれば,何が目的なのか。山川とヤクザの間にトラブルがあり,山川は殺害されたのではないか。

焦る聡美は「安西佳子」という女性が住んでいたことに注目します。そしてその女性には彼氏がいました。立木智則という男です。彼は「道和会」という暴力団の構成員でした。

さらに金田という構成員からも脅されていました。「これ以上首を突っ込むな」と。暴力団に脅迫される聡美たち。

しかし聡美たちは重要な情報を入手します。山川のパソコンにパスワード付きのファイルが存在することに気が付いたのです。

このデータをUSBにコピーし,

とりあえずこれは警察に届けた方がいいUSBを警察へ届けるそう考えた聡美は警察向かおうとします。しかしここで事件が起こってしまいます。

聡美は何者かに襲われてしまい,気を失ってしまいました。さらに聡美は拉致され,トランクの中に閉じ込められてしまうのです。

一体,社会福祉課の職員と道和会との間で何が起こっているのでしょうか。

同僚をも欺く愚かさ

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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気を失っていた聡美は目を覚まします。しかし周りにはヤクザがいました。

やっぱりヤクザが絡んでいたのか。。。目的は聡美が持っていたUSBです。どうやらかなり重要な証拠のようです。

「USBを持って出たのを知っているのは小野寺。ひょっとして小野寺に繋がりが?」

聡美は小野寺を疑い始めていました。

一方,聡美の帰りを待っていた小野寺。聡美が戻ってこないことで警察に通報します。

刑事の若林は聡美を探します。そして聡美の行動ルートを頼りに若林は居場所を突き止めます。危機一髪セーフでした。どうやら小野寺は犯人ではなかったようです。

そして若林は金田を探っていたところ,重要な情報を入手します。金田は市役所に何度か電話をかけていたのです。

その電話をかけていた相手。実は課長の猪又でした。

真犯人の真の意図ここでヤクザの目的が判明します。「貧困ビジネス」です。

この話を読んだときは,生活保護の不正受給が問題になっているんじゃないかと思ってました。でもそうではありませんでした。

「貧困ビジネス」とは,貧しい人間に生活保護を受けさせ,その受給額の大半を奪い取ってしまうという詐欺行為のことです。こんな手口の詐欺もあるんですね。

まさにヤクザがが絡んでいました。彼らが猪又の弱みを握ってしまい,そしてそれが社会福祉課であれば容易に脅されてしまったのです。

ではその弱みとは。実は猪又は,道和会の構成員である立木智則の彼女であった安西佳子に入れ込んでしまっていたのです。

脅され,道和会の言うなりに。同じアパートの住民が全て生活保護を受給していたのも,猪又が全て申請を許可したからでした。

アパート全員が生活保護者「貧困ビジネス」でも,さすがの山川も不正に気付いていました。追い詰められた猪又。そして事件が発生するのです。山川を殺害したのは猪又でした。

放火殺人に見せかけたのが金田です。道和会とつながっていたのは猪又だったんですね。

正義感が強く,不正を許さない山川という職員が殺害されてしまったのです。

今回は生活保護を受給するための詐欺行為がポイントでした。

市の職員,そして医者が絡めば、貧しい人間が病気によって働けないという偽りの診断書を提出するのも容易なわけです。

まともに仕事をしている人間が殺害されたということには衝撃を受けました。この人間を告発しようとし,山川は逆に殺害されてしまったわけです。

正義が倒され、悪が生き延びる。本当に憤りを感じる事件でした。

この作品では「パレートの法則」という言葉が出てきます。つまり、全体の2割の富裕層が残りの8割の人間トータルと同等の所得を受けているということです。パレートの法則その逆に「働きアリの法則」というものがある。働きアリの全体の2割は、残りの8割と比較して怠けているというもの。

でもこの作品で言いたいのは、「2割の貧しい人間にも存在意義がある」ということだと思いました。

2割の中には、本当に生活保護を必要とし、必死で生きている人もいるはずです。企業であっても、全員が優れた社員の企業があるとはどうしても思えない。

貧困者と富裕層全て優秀な社員で集めたとしてもうまくはいかないし,仮にそれができたとしても,いずれ怠惰な人物も生まれてくる。

不思議なことですが,統計学的にはそういうことなのでしょう。しかし,どんな世界でもこれが当てはまってしまうものなのでしょうか。

うまくバランスを取って組織というのは動いているのだろうと思うし,社会全体もそうであると柚木先生は訴えているのではないかと思いました。

この作品で考えさせられたこと

● 生活保護のシステムを悪用する詐欺集団がいるということ

● 自分の私利私欲のために,真っ当に仕事をしている人間が被害に遭うことの愚かさ

● パレートの法則とは,どんなものにも当てはまるのか

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