普通,映画やドラマって,原作があって,それを映像化するということの方が多いような気がします。でもその逆もありますよね。つまりノベライズ化。具体的には,脚本家が自分の作品を小説にする作業。
脚本家からすれば,一見簡単なようにも思えますけど,きっと活字にする難しさというのがあるではないかと思います。文章表現によって,読み手がイメージする人物,景色,ストーリーは大きく変わってしまうでしょうから。
いずれにしても,作家さんや脚本家さんというのは,僕自身にとっては,作品を制作するという意味では本当に尊敬する職業です。
そして今回は「ハナミズキ」という,知らない人はいないと思われる名曲のノベライズ。あの一青窈さんが書いた,渾身の一作。あまりの音楽の壮大さに,ノベライズにチャレンジするというのは相当勇気がいることなのではないのかを想像します。
描いたのは吉田紀子先生で,2010年の作品です。あの短い歌詞を,映画として拡大解釈して肉付けをしていく作業はとても大変だったと想像します。
名曲「ハナミズキ」がどのように描かれたのか。興味のある方は是非読んでほしいです!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 二人の運命的な出会い
3.2 遠距離恋愛と別れ
3.3 二人に起こった奇跡
4. この作品で学べたこと
● 一青窈さんの「ハナミズキ」を映画化した作品を知りたい
● ノベライズ化された作品を読んでみたい
● 二人の主人公に起こる出来事,奇跡を知りたい
自身の夢のため東京の大学に進んだ紗枝と、故郷に残り漁師になった恋人の康平。互いを思いながらも、二人は少しずつすれ違っていく。名曲「ハナミズキ」から生まれた、珠玉の恋愛小説
-Booksデータベースより-
1⃣ 二人の運命的な出会い
2⃣ 遠距離恋愛と別れ
3⃣ 二人に起こった奇跡
ハナミズキ
ミズキ科の落葉性花木。春,桜の季節が終わった頃に白やピンクの花を咲かせる。花言葉:「返礼」
-巻頭より-
平沢紗枝は北海道に住む高校生。ある日,早稲田大学の推薦入試を受けるための校内選考試験の日に臨むことになっていました。将来は海外で働いてみたいと思う紗枝にとってはどうしても受かりたい選考試験でした。幼少期に父を亡くしています。その父がかつて家の庭に「ハナミズキ」の樹を植えていました。紗枝は母親である良子と2人で暮らしていて,何とか親孝行したいと思っているような,とても優しい女性です。
ローカル線に乗って釧路の高校へ向かう紗枝。しかし思わぬアクシデントが襲います。汽車が鹿をはねてしまい,立ち往生。選考試験に間に合うか焦る紗枝。
そんな時,一人の青年が紗枝に声をかけてきます。木内康平という,水産高校に通う高校生でした。声をかけられた紗枝は少し警戒します。次の駅まで二人で20分ほど歩いていた途中に農家がありました。そこにはキーが着いたままのトラックがあります。
「運転できますか?」どうやら紗枝は康平にこのトラックを運転して送ってほしいと言っているようです。
紗枝にとって,早稲田の推薦を勝ち取ることは人生を大きく左右するような分岐点だと思っているようでもありました。農家に書置きを残し,二人はトラックで目的地へ向かいますが,ここでまたトラブルが。。。
運転中に,急に耕運機が横から入ってきて,康平は思いっきりハンドルを切りますが,牧草地へ突っ込んでいきました。どうすることもできなくなった二人の元には警察がやってくるのです。これは,まずいぞ。当然,康平の両親にも連絡がいきます。ある意味「窃盗」なので父親は大激怒。当然ですよね。そして水産高校も「停学」になってしまいました。
紗枝も推薦入試に間に合わなかったので,当然推薦もナシになってしまいます。それを聞いた康平は責任を感じます。でも推薦が取れなかったからと言って,大学へ行けないわけではないですよね。
康平は落ち込んでいる紗枝をある場所に連れ出します。海岸沿いの灯台でした。ここから見る夕日の綺麗さに紗枝は見とれます。
康平と紗枝は付き合うことになりました。そして紗枝は大学入試へ向け,猛勉強を始めるのです。
「受かった,受かった! 早稲田!」
紗枝の猛勉強の甲斐もあり,無事志望校に合格しました。そして,紗枝は東京へ向かうことになり,康平と紗枝は遠距離恋愛を始めることになるのでした。
早稲田大学文学部に入学しました。住む場所も決まり,遠距離恋愛が始まりました。時代設定が1997年なので,携帯電話が普及し始めてはいるとは思うんですが,紗枝も康平も携帯を持っていなかったようです。
紗枝は自分の家に電話をひき,ようやく康平と話せるようになりました。かなりの電話代がかかるため,それを気にしながらも,できるだけお互いの声を聞いていたい気持ち,わかりますよね。こういうやりとりがしばらく続くことになるわけです。大学生活を送っていた紗枝はあるサークルに入ることになりました。写真サークルです。かつて,カメラを持って世界中を旅していた亡き父親の血をひいているからでしょうか。
ここで会ったのが北見という青年です。北見は塾のアルバイトをしていて,紗英はアルバイトをしないかと誘われ,アルバイトを始めることになります。サークルでは北見から写真の良さについて教えられ,紗枝は写真を撮り続けていた父親をダブらせているようでした。
ん~,なんかイヤな予感がするなぁ。紗枝の気持ちが北見に動いてしまうのでは。。。一方,康平はというと,夏休みを利用して帰ってくるはずの紗枝と会うのを励みに仕事に明け暮れる毎日。
そんな康平に,紗枝から「休みに帰ってこれない」という連絡が入ります。どうやらバイトが忙しい様子。これには当然康平も怒ります。帰ってこれないということ,というよりは,康平に相談せずに決めてしまったことに対して。
このことが原因ではないですが,康平は仕事中に大怪我をし,入院してしまいます。そこに現れたのが紗枝の母親,良子です。「いい男でないの」良子と康平が初めて顔を合わせた時でした。我慢できない康平は,東京にいる紗枝に会いに行くことになりました。とても喜ぶ紗枝。クリスマスの日に合わせ,康平は東京へ向かい,紗枝の大学へ行きます。そこには紗枝にちょっかいを出す北見がいました。これは康平も嫉妬しますよね。殺気を感じたのか,北見は退散してしまいます。
店を予約していた紗枝は,康平と食事をしようとするも,何か康平が怒っているようです。やっぱ,北見の存在が気になるのか。結局,食事もせずに店を出てしまう二人。紗枝の家に入り,少し落ち着いた康平はプレゼントを持ってきていました。
それは小さな船の模型で「ガンバレ紗枝」という小さな旗が差してありました。感動する紗枝。「離れていても大丈夫だよね」紗枝は康平に確認するように話すのでした。
そして一年が過ぎ,紗枝は久しぶりに北見と出会います。北見はすでに卒業し,カメラマンとして仕事をしていました。就活がうまくいかない紗枝を気遣い,自分のやりたいと思うことをやればいいとアドバイスします。
一方,康平には大事件が起きてました。康平の父親が船乗りを辞めると言い出したのです。そうなれば康平が乗る船も売られ,仕事がなくなってしまいます。
最後の漁に出た時,康平は父親と二人で昔の話をします。かつて,康平が船乗りになりたいと言った時,父親は大反対したことを。
漁師にとって,漁で収穫があれればいいけど,環境や条件など,いろいろな要素で獲れない時もある。きっと,安定した仕事ではないのかもしれませんね。そんな会話の途中で,父親が急に倒れます。そして病院へ運ばれましたが,そのまま亡くなってしまうのでした。この時を境に,康平は町に残るといいます。何か自暴自棄になっている感じの康平から出たのは「ガンバレ紗枝」という言葉。
これが紗枝と康平の別れを表すものでした。
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時は過ぎました。紗枝は英語力を生かして仕事がしたいと考えているようでした。そして友人にニューヨークへ行くことを勧められます。一年後,紗枝は本当にニューヨークへ旅立つのでした。ニューヨークに来てはみたものの,仕事を探さなければなりません。彼女は知り合いに勧められ,ある雑誌の編集部のアシスタントの仕事を始めます。
やりたい仕事かどうかわからないまま,ただ生きるためには何か仕事をしなければならないと考えているようでした。
仕事が軌道に乗り始めたころ,何とあの北見とバッタリ出会います。北見もニューヨークで仕事をしていたんですね。ここから紗枝と北見は付き合い始めるのです。
康平はというと,傷心の中でもいつもそばにいてくれたリツ子という女性と付き合うことになります。リツ子の思いやりを感じる康平。精神的な支えになっているリツ子に康平は「結婚してくれ」と言うのです。
紗枝との距離は,物理的にも,精神的にもあまりにも遠く思えます。遠距離恋愛って,難しいですね。
こうして康平も,紗枝もそれぞれ自分のパートナーを見つけ,それぞれ結婚することになるのでした。
康平と紗枝は,共通の友人の結婚式に呼ばれ,再会することになります。何かぎこちないあいさつをして,ただ,お互いパートナーがいることを伝えます。
式が落ち着いた頃,二人はあの灯台へ来ていました。ここで紗枝はかつてプレゼントされた小さな船の模型を康平に返します。二人の繋がりが,ここで本当に終わりを告げたような気がしました。
ところがこの最後の別れが,思わぬことを引き起こします。リツ子たちは,急にいなくなった康平を探していたのです。リツ子は激怒します。
リツ子は地元の漁協から「もうこれ以上お金は貸せない」と言われていたのです。事実上,康平の稼業の倒産を意味します。それだけでなく,紗枝と会っていたことも察したのでしょう。「こんな時に,何をしていたのか」と。リツ子は嗚咽を漏らします。後日,リツ子からは離婚届を渡されるのでした。
紗枝はニューヨークへ戻っていました。ところが紗枝にも思わぬアクシデントが。
北見が取材でニューヨークを離れ,イラクへ行った際,現地でテロが発生してしまいます。そのテロに北見が巻き込まれてしまったのです。
「誠に残念なお知らせですが,ジュンイチ・キタミがイラクで命を落としました」
茫然とする紗枝。何かの間違いではないか。北見はあの9.11を経験した一人でした。これまでしたためてきた多くの写真で,紗枝は北見の個展を開催することにします。
そこには母親の良子も駆けつけます。そして紗枝は会場に来てくれた人々の前で,北見への感謝の気持ちを述べるスピーチをするのでした。
紗英はふと,かつて自分の父親である圭一が,カナダの「灯台」を映した写真を思い出します。そして圭一,良子が歩いたかもしれないこの灯台へやってきます。同時に,北海道で康平に連れられて行った灯台も思い浮かべていました。
翌日,紗枝はホテルから出て,あるパブの一角に飾ってあるものに釘付けになります。それは「ガンバレ紗英」と書かれたあの船の模型でした。2,3日前に,ある一人の男性が模型を置いていったようです。
模型を握りしめ,康平が乗っているはずの船を目指します。しかしあと少しのタイミングで,船は出航してしまいました。
9月に入り,紗枝はニューヨークでの仕事を辞め,北海道へ戻ってきました。康平はどうしているのだろうか。康平は船に乗り,世界中で漁の仕事をしているようでした。でも何か期待してしまいますよね。
北海道へ戻ってきて一年半が経ったある日,紗枝は庭のハナミズキを眺めていました。そのハナミズキは薄紅色の花を咲かせていました。その時でした。一人の男性が紗枝の方へ向かって歩いてきます。
康平でした。康平は鞄から何かを取り出します。それはあのニューヨークのパブにあった船の模型でした。「ガンバレ紗枝」の裏には「ありがとう」と書かれています。そう,それはニューヨークで紗枝が書き足したものでした。
「おかえり。。。」「ただいま」二人の再会をハナミズキがそっと見守り,祝福しているようでした。
登場する二人の主人公の運命的な出会いと別れ。そして再会。恋愛小説らしいというか,実際にはノベライズされた作品なので,映画を観た方がもっと心に残るものなのではないかなと思います。
表紙にある新垣結衣さんと生田斗真さんをイメージしながらすんなり読めましたし,話もわかりやすかった。あまりにも出来過ぎな部分もあるかなとは思ったけど,でもやっぱりハッピーエンドのストーリーの方がいいですよね。
それにしても,冒頭にも書きましたが,伝説の「ハナミズキ」という作品をモチーフにそれを映画化しようとした吉田紀子さんには本当に感服します。
● 有名な曲,歌詞をベースにしたストーリーを構成した作者の挑戦
● 映画を観たことなくても十分に泣ける作品
● 一度は映画を観てみようと思います