世の中では,多くの企業が売上を伸ばすため,いろいろなことを模索しています
新しい技術を使った製品を開発し,多くの人に買ってもらうこと。
銀行から出資してもらい,新たな事業を画策する。
営業力を強化するためにノルマを課したり社員教育を行ったり,コストを削減して利ザヤを大きくしようとする企業など,どれか一つとは限らず,試行錯誤していることでしょう。
それでも経営が傾く企業もあります。月に100社を超える企業が消えてなくなるという統計情報を見ると,明日は我が身かもしれない,とも思ってしまいます。
そして,自力で這い上がれなくなった企業は「合併・買収」,いわゆるM&Aに踏み切るところがあるかもしれないわけです。
完全な身売りかもしれないし,自分の企業にはない他の企業が持っている技術を吸収したいという思いからかもしれない。
ただ単に私利私欲のために企業を買収したいだけなのかもしれない。
この「ハゲタカ」はまさにそんな物語であり,作者の真山仁の代表的なシリーズです。
本作品で「M&A」を具体的な形で学ぶことができました。
主人公の鷲津政彦を中心としたホライズン・キャピタルが経営の傾いた企業に目をつけ,襲い掛かります。
「ハゲタカ」という言葉はあまり良い響きではありませんが,鷲津は法律の範囲内でその企業を買収しようと模索する物語です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 三葉銀行のバルクセール
3.2 企業再生か,買収か
3.3 「ハゲタカ」は善か悪か
4. この作品で学べたこと
● 企業経営について考えてみたい
● 企業の買収について学びたい
● 鷲津の行う買収は果たして悪なのかどうかを知りたい
大人気シリーズ第1作! 不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる、それがバルチャー(ハゲタカ)・ビジネスだ。ニューヨークの投資ファンド運営会社社長・鷲津政彦は、不景気に苦しむ日本に舞い戻り、強烈な妨害や反発を受けながらも、次々と企業買収の成果を上げていった。
-Booksデータベースより-
鷲津政彦・・・主人公。ホライズン・キャピタルの代表
芝野健夫・・・三葉銀行社員。
飯島亮介・・・三葉銀行社員。芝野の上司
松平貴子・・・ミカドホテルの従業員
リン・ハットフォード・・・ゴールドバーグの社員
1⃣ 三葉銀行のバルクセール
2⃣ 企業再生か,買収か
3⃣ 「ハゲタカ」は善か悪か
ある男が財務省で自殺をするところから話は始まります。
この男性,最初は誰なのか,はっきりとは描かれてしませんでした。正体は誰なのかは最後の最後にわかります。
最初に三葉銀行の不良債権の「バルクセール」が行われます。
バルクセールとは,回収が不能になった不良債権のセールのことです。経営に行き詰った三葉銀行が抱えていた不良債権を鷲津が買うというのです。
730億もの不良債権に対し,鷲津が提示したのは65億。
730億円もの資産が,一気に65億になるわけですから,保有企業からするとガッカリですよね。いや,65億で買ってくれるなら良しとするべきか。人によって考え方は異なると思います。
銀行の融資にもいろいろあるんだろうと思います。
経営がよくない企業に融資してしまい,回収できずに不良化するもの。銀行上層部の人間が企業とのつながりで独断で融資してしまうもの。
鷲津は客観的にその資産を算出し, 65億という査定を行ったわけです。
安くで買い取り,それを高額で売りさばくというのが鷲津のやり方です。実はこの三葉銀行のアドバイザーであったゴールドバーグは,実は鷲津のホライズン・キャピタルと繋がっていました。
三葉を生き返らせなければならないゴールドバーグは,ホライズンを紹介することで,共同で多額の利益を上げたということです。
ハゲタカの恐ろしさを感じます。
ちなみにこの「三葉銀行」のモデルは「三和銀行」ではないかと思います。
読んでいけばわかりますが,企業同士の駆け引きや思惑などがとてもわかりやすく描かれているので,世の中の企業経営について本当に考えさせられる作品となっています。
この作品では,ハゲタカシリーズで重要な役割をする人物が登場します。
芝野健夫,松平貴子,飯島亮介の三人です。
まず,芝野ですが,彼は先ほどの三葉銀行の件で登場します。
鷲津の企みにまんまと乗せられ憤りを感じていた彼は,同級生である瀬戸山が経営していたスーパーの立て直しを依頼され,それを了承します。
ターンアラウンドマネージャー,つまり企業再生家に魅力を感じていた芝野は精力的に動き回ります。瀬戸山の稼業はスーパーでしたが,ゴルフ場も持っていました。不良資産化していたゴルフ場を売却し,軌道に乗るかと思いきや,ボロボロと綻びが。。。
粉飾決済,企業年金積立金の不正使用などなど,瀬戸山だけでなく,組織の上層部の不正が普通に行われていた状況に芝野は激怒。
多くの問題を抱えながらも,芝野の人間性によって企業が再生していき,また芝野自身も磨かれていくわけです。
次に,松平貴子です。彼女はミカドグループ社長である父を持つ女性。代々受け継いできたホテル経営も,バブル崩壊を境に経営が悪化していました。
貴子自身はセンチュリーホテルで働いており,昇進も迫っている中,ミカドグループに戻ってくる気はない状況でした。
しかし,尊敬していた祖母が亡くなった辺りから彼女は揺れ動きます。
恋愛のいざこざで絶縁状態になっていた父親に対しては敵対心を持っていましたが,祖母からはとても面倒を見てもらい,恩があったのです。苦渋の決断で,彼女はミカドグループに戻ってきて,経営を立て直そうとします。
元々つながりがあった芝野にも助けを求め,再建しようとしますが,ロイヤルセンチュリーホテルに買収される方向に向かっていきます。
自分が世話になったホテルへの身売りは貴子にとっては苦しかったことでしょう。
そこに鷲津が登場します。ホライズンのトップとして経営を立て直す大きなパートナーを得ることができます。
私情を挟むことがない鷲津ですが,この貴子にたいしては何か温情なのか,恋愛感情なのかわかりませんが,そんな思いを感じました。
そして飯島です。彼は三葉銀行時代の芝野の上司でした。これは冒頭の財務省内で自殺をした人間に大きく関わっていました。
その男性の名は花井淳平といい,実は鷲津の本当の父親でした。三葉銀行には隠し口座がありました。この口座は,政治家や犯罪組織のマネーロンダリングに利用されていたのです。
花井自身が経営していた企業を倒産に追い込みます。
この隠し口座の存在とその役割を知り三葉銀行を追い詰めようとしますが,逆に攻撃をくらってしまって自殺してしまったのでした。そのことを鷲津は掴んでいたわけです。
その真意を知らずに当時三葉にいた芝野は花井を追い込みました。実は裏で操っていた人間こそが飯島だったわけです。父親の仇を鷲津はどうしたか。復讐するかと思いきや,うまく利用します。
「あなたにはこれからたっぷりと働いてもらいますよ」
という言葉がこれからのハゲタカシリーズで重要な役割をしていく人物であることを表していると思います。
それ以外にも印象的なシーンはありました。
一番印象に残ったのは、企業の運営を誰が握るのかという入札のシーン。
買収を成功させたい2つのグループが、20分ずつ、交互に入札していくというものでした。例えば150億で入札するという相手に対抗するために、160億に入札額を増やす。
それには投資してくれる企業・銀行などの保証書がその場で必要となる。
ある程度はそこと事前に連絡を取っておく必要はあるが、一分一秒で勝負が決まるというのにはとてもハラハラしました。
また,入札のサドンデスになった「太陽製菓」の経営権奪取の件。
相手の弱点を指摘し合い,最終的には鷲津たちが勝つ場面を読むと,その駆け引きのスピードに圧倒されます。世間でM&Aが行われて記事になるのはよく目にしますが,その裏ではこれだけのことが行われているのかと,見たこともない世界を見せられた気がしました。
不良債権を抱えた企業を買収し、その企業を再生することで多くの利益を得ようとする「ハゲタカ」と呼ばれる組織や人間たち。
日本もかつては、ホテル、ゴルフ場、娯楽施設など、多くの不動産に投資してきた経緯があります。
どんどん不動産の価値も上がり、完全にバブル状態だった日本も、それが「弾けた」ことで、一気にその資産価値が下がってしまいました。その流れに乗るように、多くの企業が不良債権を抱え、銀行から融資を受けて立て直そうとしても、手遅れ。
その流れに逆らうことはできませんでした。
本作品はそれらの実話を元に描かれているノンフィクションに近いもののように思いました。
そしてそこに外資系の企業が乗り込んできました。まさに「ハゲタカ」たちです。
アメリカでの経験を活かし、主人公の鷲津は、日本の企業をどんどん買収しようとしていきました。
最初は読みながら、この鷲津は悪役なのかと思っていたが、どうもそうは思えなくなってきました。
結局、日本の企業の経営がよくならなかった原因というのは、これまでの経営の体質が問題になる場合があるようです。鷲津は経営がよくなる可能性のある企業を徹底的に調査し、見込みのある企業に投資を行っていくのです。
日本人からすれば「何てひどいやつらなんだ」という声が聞こえてきそうですが,鷲津の自分が作ったストーリーに乗せるための交渉力の高さだけではない,何かを感じます。
確かに、あの手この手を使って買収するというのは、買収される側としては嫌なことだろうと思います。そこで働く社員にとっても。
自分にも同じような経験があります。最初は買収の話が噂された時には「敵がやってきた」と思ってしまいました。企業の風土の違う大きなグループに吸収されたとき,そんなことを思いました。
良いイメージは正直なかったです。社員は経営のことをよく知らないから、買収先=敵ということを考えてしまうだろうと思います。
普通の企業でも,買収後にはリストラが断行されたり、株の過半数を取得することで経営権を奪取したり、旧経営陣を解雇一新するなど、これまで通りにはならないのも事実です。
でも、その企業を再生したいという善意の目的であればどうだろうか。それは企業にとって救世主であり、新しい経営のノウハウをつぎ込み、ひょっとすれば経営もよくなっていくかもしれない。実際,自分が今働いている組織も,以前の状況よりは経営がよくなってきています。
企業の経営が傾いたのは経営陣に問題があるのか、社員に問題があるのか、誰か不正を行ったからなのか、資産運用に失敗したのか、理由はいろいろあるだろうと思います。
結局,技術とかではなく,社員一人一人がいかに経営のことを考え,常に危機感を持ち,ゆるま湯に浸かることなく精力的に仕事をしていくか。
悪事を行わないようにするためのコンプライアンスを徹底し,社員の人間性をいかに高めていくか。
結局はそこに集約されていくのかなと思います。
この作品のいいたいことはそういうことではなかったかと思います。
● 企業の買収について深く学ぶことができた
● 企業を買収しようとすることが本当に悪なのかどうか
● 人それぞれの考え方や立場によって,企業買収の善悪は決まるのだと思う