横山秀夫さんって,警察小説のイメージがあったんですけど,本作品は「建築士」の話です。
ある建築士が住居建築の依頼を受け,一生懸命設計したその家に誰も住んでいないということがわかります。
なぜ,そこに住んでいないのか。設計者は悩みます。
しかし,追及していくうちに,住んでない理由がわかり,その理由がとにかく深くそして感動しました。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 あなたの作りたい家
3.2 真実を知っていた妻
3.3 誰も住んでいなかった理由
4. この作品で学べたこと
● 建築士の仕事のやりがいを知りたい
● 依頼を受けて設計した家に,なぜ誰も住んでいないかの秘密を知りたい
● 「自分の好きな家を作るということ」の意味を知りたい
北からの光線が射しこむ信濃追分のY邸。建築士・青瀬稔の最高傑作である。通じぬ電話に不審を抱き、この邸宅を訪れた青瀬は衝撃を受けた。引き渡し以降、ただの一度も住まれた形跡がないのだ。消息を絶った施主吉野の痕跡を追ううちに、日本を愛したドイツ人建築家ブルーノ・タウトの存在が浮かび上がってくる。ぶつかりあう魂。ふたつの悲劇。過去からの呼び声。横山秀夫作品史上、最も美しい謎。
-Booksデータベースより-
ノースライトというタイトルも美しいですが,やはり横山さんの作風は何度読んでも美しいというか鮮やかというか,本当にいつも感心してます。
なんであんな綺麗な文章が書けるのか。。。
青瀬 稔・・・一級建築士。岡嶋設計事務所に勤務
岡嶋昭彦・・・岡嶋設計事務所の所長
吉野陶太・・・「Y邸」を依頼する。その後行方不明
村上ゆかり・・青瀬の元妻。インテリアコーディネーター
村上日向子・・青瀬とゆかりの娘
1⃣ あなたの作りたい家
2⃣ 真実を知っていた妻
3⃣ 誰も住んでいなかった理由
「あなたの作りたい家を作ってほしい」
そう依頼されて青瀬が設計した「Y邸」が完成したんですけど,その家に住むはずの吉野という夫婦が住んでいないと判明します。
我慢できなかった青瀬はとうとうその家に行くことにするのです。
本当に青瀬が設計した「Y邸」には本当に誰も住んでいませんでした。
自分が苦心して設計した家に住んでくれていないということがわかった時の建築士の気持ちというのはどういうものなのでしょう。
誰かのために一生懸命考え造ったもの。なぜ住んでいないのだと。
北側の窓際に「一脚の椅子」のみがぽつんと置いてあっただけでした。
一体,何があったというのでしょうか。
かなりショックですよね。自分が考えたものが利用されていないという事実。
本当は気に入らなかったのだろうか,実際に住んでみるとイメージと違ったのか。
青瀬自身が作りたい家に固執してしまい過ぎたのでしょうか。
誰かのために一生懸命考え造ったもの。
しかもそれが思い入れが強ければ強いほど造った側のショックは大きいだろうと思います。
そして「一脚の椅子」のみがぽつんと置いてあった理由は何なのでしょう。
「あなたの作りたい家を作ってほしい」
この言葉には実は深い意味があったのです。
青瀬は実は離婚していて,妻のゆかりと娘の日向子と離れて暮らしていました。
娘の日向子とは時々青瀬と会っていて,何で離婚したの? って思っている節があります。
元妻のゆかりは「インテリアコーディネーター」です。
一見,建築士とインテリアコーディネーターというと,家を建てるということに関しては完璧な組み合わせのようにも思えますよね。
仕事と家庭は別ということなんでしょうか。
結局はそれぞれの価値観の違い,育った環境,自分がこれまで見てきた家など,そんな単純ではないということなんだろうなと思います。
やはり青瀬にはどうしてもY邸のことが気にかかるのです。
我慢できない彼は刑事のように調査を始めました。
「なぜ住まなかったのか」ということを知るために。
そこには意外な事実がありました。
まず「自分の作りたい家を作る」という話は,実は青瀬の妻ゆかりが絡んでいたんです。
Y邸の持ち主である吉野とゆかりは実は会ったことがあったです。
一体,吉野という男は何者なのか。ここからが深い話で,とても感動します。
是非,読んでみてください!!
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
実は青瀬は,Y邸を依頼した吉野とつながっていたのです。
ではどこでつながっていたのか。それは青瀬が子供の頃まで遡るんです。
実は青瀬小さな頃,父親の仕事の関係で「渡り」として日本を転々としていました。
それは父親がダムを造る仕事をしていたからです。
日本全国のダム建設を行う場所へ移住して,生活していたんですね。ある日,友達が少なかった青瀬のために,父親が九官鳥を買ってきてくれました。
しかし,大事に育てていたはずの九官鳥が逃げてしまったんですね。
その九官鳥を探しに父親は歩き回った。
その時に九官鳥がいたのが吉野の家だったんです。
「その九官鳥を返してくれ」青瀬の父親と吉野の父親は九官鳥のことでもみ合い,最後には青瀬の父親が転落して亡くなってしまったんです。
当時は自殺と考えられていたようです。青瀬もそう聞かさせれてました。
青瀬はとうとうその真実を知ったのです。
では何年も経って,吉野の息子がなぜ青瀬の居場所を知ったのでしょうか。
九官鳥が話していた言葉「あ・お・せ・み・の・る」がきっかけだったんです。吉野の父親は自分の息子と娘に「青瀬を探してほしい」と告げ,亡くなってしまうんです。
ずっと罪の意識を持ちながら,事故とはいえ,ほとんど自分が殺したようなものだと思っていたのでしょう。
つまりあの家は「贖罪」の意味をこめた家だったんですね。
残された息子と娘が夫婦と偽り,興信所に捜索願を出して,青葉の元妻に辿り着いたということでした。
そして青瀬に依頼したのです。「自分の作りたい家を作ってくれ」と。
なるほど,そういうことか。。。
しかも,その家はゆかり自身が住んでみたいと思わせるものだったんです。
かつては住む家に価値観が合わなかったのに。
青瀬の行動力と執念に驚きました。
彼は自分の設計した家から過去に遡り,自分の父親が亡くなった真相まで探り出したのです。
そして一脚の椅子の秘密。あれは吉野の父親が作ったものだったのです。
吉野の息子たちは天国の父親に報告したかったのです。
自分たちは青瀬の設計した家を購入したことを。
は~,すごい作品。溜息が出ました。。。さすが横山先生だと思いました。
やっぱりここまで美しい作品を描ける人を本当にすごいと思います。
青瀬は満足したようでした。自分の設計した家にそんな深い意味があったことを。
ひょっとすると,自分の設計した家に住んでもらえる以上の充実感を感じていたかもしれません。
誰かのために作った家。それは,回りまわって自分にとって欠けがえのないものとなる場合もあるのだなと。
そして,これまで住みたい家に対する価値観が違ったゆかりとも徐々に距離が近くなっていくのです。
本当にいい話でした。
● 建築士にとって,顧客が幸せに住んでいることを知ることが一番の嬉しさ
● 自分が一番住みたいと思えるような家を形にできることのやりがい
● 「あなたの作りたい家を作ってほしい」という依頼は遠い過去の贖罪だった
建築士という仕事は,その家に住む人の思いを形として表現できることに羨ましさを感じました。とても心を動かされた作品でした。