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【ノエル】道尾秀介|童話でつながる人々たち

ノエル

道尾秀介先生って,本当にバリエーション豊富な作品を描かれる方だなぁ,というのが読んでまず思ったことです。

今回の作品では「童話」が登場します。この童話も道尾先生ご自身が考えているものだろうし,それを作品のストーリーと微妙にシンクロさせています。

その技巧もすごいですけど,一つ一つの童話自体も「実際に出版したら売れるんじゃないの?」って思わせられるくらいの完成度。

短編集のようにも思える本作品は,終わってみれば全てつながってたんだなぁ,と感嘆の声が上がりそうになるくらいでした。

本当に圧倒されました。これは絶対に「読む価値アリ」の作品です。

こんな方にオススメ

● 「童話」と「小説」がミックスされた作品を読んでみたい

● 童話とストーリーがどのようにリンクしているのかを知りたい

作品概要

孤独と暴力に耐える日々のなか、級友の弥生から絵本作りに誘われた中学生の圭介。妹の誕生に複雑な思いを抱きつつ、主人公と会話するように童話の続きを書き始める小学生の莉子。妻に先立たれ、生きる意味を見失いながらボランティアで読み聞かせをする元教師の与沢。三人が紡いだ自分だけの〈物語〉は、哀しい現実を飛び越えてゆく――。最高の技巧に驚嘆必至、傑作長編ミステリー。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

正木圭介・・・「光の箱」の主人公。童話の作家

弥生・・・圭介のクラスメイト

莉子・・・童話好きな少女

真子・・・莉子の妹

与沢・・・圭介の住む場所に,かつて住んでいた老人

本作品 3つのポイント

1⃣ 圭介と弥生のつくる童話

2⃣ 莉子と真子

3⃣ 与沢と圭介の関係

圭介と弥生のつくる童話

作品の冒頭では,「卯月圭介」という作家の童話の一作品が載っています。

金色の天使と銀色の天使,そしてサンタさんは,トナカイの引くソリにのって夕暮れの街を飛んでいました。

(中略)

空では暮れ色が深まり,夕陽につつみ込まれた地上では,そろそろ家々の窓に明かりが灯りはじめています

-冒頭の童話「ストーリーズ」より-

トナカイとサンタ本作品では時々このような「童話」が挿入されています。

現実のストーリー,そして童話の中の話が実際にどんな関係を持っているのかが一つのポイントです。

主人公は圭介。作家になった圭介が同窓会に参加しようとしているところでした。

「弥生はくるのだろうか」

そんなことを考えながら会場のホテルへ入るのでした。同窓会リンゴの布ぶくろ」という童話の話が登場します。

赤鼻のトナカイって歌を思い出すエピソードが。。。

トナカイは,金色の天使と銀色の天使にいじめられていました。トナカイの鼻が赤いのはワインでもなめたのかい,と。

トナカイは布ぶくろで自分の鼻を隠してしまうのです。そこにサンタがやってきます。

なぜ布ぶくろをつけているのか,と。事情を察したサンタは言うのです。

「おまえがそんなものを鼻におっかぶせていると,わたしはこまってしまうんだよ」サンタつまり,トナカイの赤い鼻が前を照らしてくれないと,プレゼントを世界の子供たちに運べないと言うのです。

その言葉でトナカイは救われるのです。そしてトナカイは勢いよく飛び出していくのです。

こんな童話を書くのが圭介にとっての至福の時。

実は圭介もいじめられていたのです。小学生の頃からいじめられ,そのまま中学に進学してもさらにいじめはエスカレートしていったようです。

口だけの暴力から,次第に蹴ったり殴ったりといういじめに発展するのです。いじめそんな圭介に声をかけてくれたのが弥生でした。彼女は絵を描くのが得意で,

「いっしょに絵を描かない?」

と声をかけます。絵を描いたことがない圭介でしたが,

「字なら大丈夫かも。字っていうか,話っていうか。。。」

これを機に,2人の共同作業が始まっていくのです。

圭介と弥生「リンゴの布ぶくろ」の話を聞いて,弥生は絵を描き始めるのです。

そしてさらに「光の箱」という話も描き始めます。

無我夢中で童話の世界を描こうとしている圭介と弥生。

圭介へのいじめは続いていましたが,できるだけ避けるようにします。

そして,高校へ進学したと同時に圭介は攻撃から解放されるのです。

弥生は絵を描く以外にも趣味を見つけました。カメラで写真を撮ることです。

実は弥生の実家はカメラ屋で,写真さえ撮ればすぐに現像もできる環境にあったんですね。写真を撮る高校では,弥生のことを慕う友人もいました。夏実です。

ところがある日,この写真のことで大事件が起こるのです。

夏実が突然,転校して行ってしまったのです。親の事情なのか,それとも。。。

圭介の家に,弥生はカメラを忘れてしまいます。弥生は「取りに行く」と言いますが,圭介は「明日学校へ持ってくるよ」と。

圭介はどんな写真が撮られているのか気になり,他の店に現像に出してしまいます。

そこには衝撃の写真が入っていました。

夏実が何者かに拉致され,暴行され,それを撮られていたのです。

イヤな予感は的中しました。これに憤慨した圭介。「お前が撮ったのか」と。圭介怒るこの事件を境に,圭介と弥生は話すこともなくなってしまいます。

そして年月は経ち,圭介の同級生だった富沢が企画した同窓会の場面。

そこには結婚した弥生と男性の姿がありました。それは圭介でした。

2人は仲直りしていたんですね。圭介と弥生かつて夏実のシーンを撮った弥生。あれは暗がりでフラッシュをたくためだったようです。

つまり,弥生は夏実を助けようとしていたわけなんですね。

きっと今回の同窓会の一年前に行われた「同窓会」でお互いの誤解が解けたのでしょう。

ふと,その時のことを弥生は思い出すのでした。

莉子と真子

夕やけと同じ,だいだい色になった,ろじのすみ。

アスファルトのはしっこに,その穴はぽつんと口をあけていました。

真子はやがてへんな気もちになってきました。穴がじぶんをよんでいるように思えたのです。

-「空とぶ宝物」の一節-

これは莉子が読んでいた童話「空とぶ宝物」の一節です。空飛ぶ宝物莉子には両親と祖母がいました。しかし祖母は入院していて,余命いくばくかという状況のようです。

しかも莉子の母親のお腹には,子供がいるようでした。

莉子はどうもその子供に対して,あまりいい気持ちではないようです。

嫉妬のようなものでしょうか。母親が子供のことを大事にしている姿を見て,複雑な思いを抱きつつも何か我慢している様子です。

「妹がいなくなればいいのに」

莉子そんなことを考えながら莉子は時間があれば,図書館から借りた「空とぶ宝物」を読んでいます。

童話の中には,アリの王女さまのことが描かれています。

昔は空を飛べたようですが,今は飛べなくなり,地面に穴を掘ってそこで多くのアリたちと住んでいるのです。

この童話の主人公は「真子」という少女です。アリたちと会話をする真子の視点で描かれています。

空が飛べなくなった王女様。その王女様が空を飛べるようにするため,近々「空とぶ宝物」が王女さまの元に到着するようです。それは誰でも知っているものらしいのです。女王あり一体何なのでしょうか。どうやらそれは「鏡」だったようです。

つまり,鏡を置いて,そこに王女様がうつぶせになる。そうすると鏡に映った王女様の周りには青空があって,まるで「飛んでいるように見える」ということだったのです。

なるほど,子供らしい発想。この発想も道尾先生独自のものなのでしょうか。

そうだとしたら本当にすごい作家先生だなと思います。手鏡童話を読んでいた莉子は,鏡の話を読んだとたん,自分が抱いていた嫉妬心というか憑き物が取れたような感覚になります。

そしてとうとう莉子の妹が生まれたのです。妹の名前は,莉子の案が採用され,「真子」と名付けられたのでした。

そして少しずつ大きくなって,莉子が真子の手をとって外へ遊びに行ったりする姿がとても微笑ましく思いました。

与沢と圭介の関係

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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最後のストーリーはある老夫婦の話です。

与沢という老人は,子供たちに童話を聞かせてあげていました。「まつぽっくりクラブ」という施設の子供たちに,週三回で。

子供たちは与沢の話がとても楽しみにしていたようです。学童クラブかつては与沢の妻である時子も一緒にいたようですが,時子は亡くなっているようです。

与沢はある雑誌を読んでいました。その時に,昔,与沢が時子と住んでいた家をリフォームして現在住んでいる童話作家夫妻の話が載っていたのです。

懐かしい思いを抱く与沢。二十年前に,与沢自身の母親が亡くなったタイミングで売った家でした。

そして与沢は思ってもない行動を起こします。

昔住んでいた場所で行われていた「祭り囃子(ばやし)」を今でもやっているか。もしやっているのなら,電話でその様子を「聴きたい」というのです。

祭囃子与沢は昔の住所宛にダメもとである手紙を送ります。

この祭り囃子は与沢にとって,時子との大切な思い出が詰まっているようです。

その頃の思い出。祭り囃子の頃にした母親との会話が甦ります。

「生きてて,何か意味があったと思う?」

「仕事で何も残せなかったら? 誰の何の役にも立てなかったら?」

与沢少年の鋭い質問です。「生きている意味」とは。深くは考えたことはなかったけど,改めて考えると考えこんじゃいます。

そして,与沢は夕方になりある場所に電話を掛けるのです。電話をかける与沢「あの童話作家は本当に電話を繋いでくれるだろうか」

つまり与沢は,夕方にかつて住んでいた家に電話をし,そこから聞こえてくる「祭り囃子」の様子を聴きたい,という手紙を送っていたのでした。

勇気をふりしぼり,電話をかける与沢。なんと,そこから聞こえてきたのです。

海辺を進む櫓(やぐら)。法被姿の男女による笛や太鼓の音色。あの頃の情景が甦ってきます。

まさに「祭り囃子」でした。そして,時子と祭りに行った時のことを思い出すのです。

きっと与沢にとっては幸せな時間だったと思います。

「まつぽっくりクラブ」で童話を話し,帰ろうとしたとき,ある一人の少女が追いかけてきました。真子何とあの「真子」だったのです。なるほど,そこでつながるのか。。。

真子は与沢の変化に気づいていました。与沢の妻時子が亡くなり,葬式が行われていたことを。

真子が育った環境,多くの絵本を読んでいる真子はいろんなことを学んでいたんですね。

そんな真子に驚きながら,次の日も「祭り囃子」のために電話をかけるのでした。

実は,与沢は将来なりたい職業がありました。小学校の教師です。教師の与沢「自分が作った話を,多くの子供たちに聞かせてあげたい」

それで作った童話の一つがこれです。

かぶと虫は,「光の箱」を蛍にとられてしまい,新しい「光」を探していました。

それが「月」でした。かぶと虫は濡れた枝から,精一杯の速さで翅(はね)を動かしながら,一番後ろの二本脚で枝を蹴った。

『でも,月は逃げていった』

-本文より引用-

妻が亡くなり,与沢は遺影とアルバムを持ってきました。昔の思い出の詰まったアルバム。

時子のセーラー服姿,結婚式の時の白無垢の姿,いろいろなものが走馬灯のように甦ります。与沢と時子そして,与沢は思い出を抱えながら,亡くなるのでした。

ここであの童話作家の話が登場します。つまり冒頭の圭介と弥生の話の続きです。

実は圭介は,夕方に自分の家に電話をかけてきた与沢のことを知っていました。

何と「与沢は,圭介の小学校時代の担任」だったのです。ここでもつながるのか。。。

この時,与沢は圭介のクラス全員に言っています。「自分の物語を作りなさい」と。

最初,圭介は物語の世界に逃げ込む,ということなのかと思っていました。

確かにイヤなことがあって忘れたいときに現実逃避ではないですが,他の世界に入ってしまいたいときがあります。

僕が小説を読む目的の一つでもあります。しかし,与沢が考えていることは違いました。

物語の中で,いろんなものを見て,優しさとか強さとか,いろいろなものを知るんだよ。自分で作った方が知りたいものを知れる。

自分で作る物語は,必ず自分の望む方向へ進んでくれるものだから

圭介は,自分から与沢に連絡するつもりでした。でも。。。少し遅かったかもしれないですね。

ただ,与沢が伝えたことが誰かには伝わっていたという事実。

与沢という教師の存在のお陰で圭輔は童話作家になれたということ。

与沢にそのことを教えてあげたかったです。

「生きている意味とは?」

今,何気なく生きている自分自身のことをよく考えてみました。

与沢と同じ教師という仕事をしている僕としては,自分の疑問を与沢も持っていたのだなって思いました。

今の自分の仕事は誰かの役に立っているのか。卒業していった彼らは満足しているのか。就職していった彼らの働き場所はそこでよかったのか。分かれ道それで感謝の気持ちを聞けば教師冥利に尽きると思いますし,仮に聞けなかったとしてもそれはそれでいいかと思っています。

今のままでいいのか。何か他にやりたいことはないのか。ここ数年,とても考えていることです。

行動しなければそれは実現しない。圭介は与沢という担任の思い,弥生との出会い,そして何よりも圭介自身が行動したことで「夢を実現できた」ということなんですよね。

残り少ない人生をどう生きるかを考えさせられる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 「生きる意味とは」を考えさせられた

● 夢を実現するために必要なことを学べた

● 残り少ない人生をどう生きるかを考えさせられる作品だった

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