「ツナグ」に続編があるのを知りませんでした。
先日「ブックオフ」へ行った時に「あれ? これ『ツナグ』の続編?」と思ってすぐに購入しました。「これは面白い」と,前作を読んだときのことを思い出しました。
「どうしても亡くなった人に会いたい」という依頼があれば, その会う機会を設定するという役割を持つ使者(ツナグ)。あの面白さをもう一度味わえるのかとワクワクしながら読み切りました。やはりその面白さは健在で,さすが辻村先生だなと思いました。
2010年に発刊された前作から7年後,あの「ツナグ」はどう成長しているのかというのが一つの見所です。
是非,読んでほしい作品ですし,前作を読んだことがない方は,本作品を読めばきっと読みたくなることでしょう。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 5つの短編の概要
3.2 各短編の結末とは
3.3 ツナグの続編を読んで
4. この作品で学べたこと
● 「ツナグ」の続編を読んでみたい方
● 亡くなった人ともう一度会って話をしたいと思っている方
● 使者の視点,依頼者の視点,亡くなった人の視点を想像したい方
僕が使者(ツナグ)だと打ち明けようか――。死者との面会を叶える役目を祖母から受け継いで七年目。渋谷歩美は会社員として働きながら、使者の務めも続けていた。「代理」で頼みに来た若手俳優、歴史の資料でしか接したことのない相手を指名する元教員、亡くした娘を思う二人の母親。切実な思いを抱える依頼人に応える歩美だったが、初めての迷いが訪れて……。心揺さぶるベストセラー、待望の続編!
-Booksデータベースより-
渋谷歩美・・・主人公で「使者」。
秋山杏奈・・・ツナグの後継者の一人。8歳だが大人びている
紙谷ゆずる・・第一話の依頼人。役者
鮫川・・第二話の依頼人。歴史学者
重田美里・・第三話の依頼人。かつて6歳の娘を亡くした
小笠原時子・・第三話の依頼人。国際結婚をした娘を亡くした
鶏野奈緒・・第四話に登場。『つみきの森』という工房の娘
蜂屋茂・・第五話に登場。料亭のオーナー
1⃣ 5つの短編の概要
2⃣ 各短編の結末とは
3⃣ ツナグの続編を読んで
第一話 プロポーズの心得
この章の主人公は紙谷ゆずるという役者です。そこそこ有名な紙谷は「ツナグ」の噂を聞きつけます。ところが待ち合わせの場所に現れたのは「渋谷歩美」ではありませんでした。8歳の小学生の女の子。あれ? こんな子,前作にいたっけ? と疑問が湧きます。
どうやらこの女の子,秋山杏奈といい,歩美の親戚らしいです。ということは,杏奈も「ツナグ」なのか?
ところで,紙谷にはかつて父親がいましたが,母親と離婚し,それ以降あっていませんでした。父親の素行の悪さを聞いていたゆずるは,その父と会うことにします。
第二話 歴史研究の心得
歩美の元に,鮫川という教師から依頼がやってきました。鮫川は歴史に興味を持っており,特に上川岳満という新潟の武将の研究をしていました。上杉謙信から,戦の加勢をしてほしいという依頼を受けながらも,なぜ受けなかったのか,そしてこの時に詠んだ恋文のような歌の意味をを知りたいようなのです。
つまり,鮫川はこの上川に時を超えて直接会い,その理由を聞こうと考えているのです。
第三話 母の心得
本編では二人の依頼人が同時に現れます。一人は5年前に海での事故で娘を亡くした重田夫妻。事故に遭った娘は一体どうなってしまったのか。そしてもう一人は20年前に乳がんで娘の瑛子を失くした小笠原時子という女性です。彼女には何か後悔の念がある様子。
二人が会いたい人物はもちろん,亡くした娘です。
第四話 一人娘の心得
「ツナグ」である歩美は,実はおもちゃメーカーに勤務していました。あれから7年経って,彼も社会人になっていたんですね。彼は懇意にしている人物がいました。「鶏野公房」という,おもちゃを作る工房の大将です。ここで制作された作品が,歩美のメーカーを通して店頭に並べられることが大将の仕事です。
この大将には奈緒という娘がいました。彼女も工房で働き,そして自分が考えた作品が世に送り出されることを夢見ていました。
ところがある日,大将が倒れてしまい,亡くなってしまいます。茫然とする奈緒。ツナグである歩美は自分の力を利用して,奈緒を,亡くなった父親である大将と会わせたいと考えます。
奈緒は父親と会うことができるのでしょうか。
第五話 想い人の心得
依頼人は,料亭のオーナーである蜂谷茂という人物です。どうやら彼は定期的にある人物と会いたいと歩美に依頼していたようです。しかし,相手がなかなか会ってくれない。今回も蜂谷は依頼をしてきました。
これまでと違ったのは「蜂谷も八十五になりました,と伝えてください」と言われたことでした。この言葉の真意は一体何なのでしょうか。
各短編の結末とは
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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第一話 プロポーズの心得
ギャンブルに手を出し,酒癖が悪く,毎日のように母親と夫婦喧嘩をし,さらには親戚からの評価も悪かったかつての父親。顔も覚えていない自分の本当の父親に会いたいというのです。
そして会うことになった当日。紙谷はホテルで待ち合わせすることになっていました。部屋には父親がいました。何かに怯えているような父親。かつての自分の行動が申し訳ないと思っているようです。それに対して紙谷は強い口調で父親をなじります。母親を苦しめた本人ですから。
それでも父親は「母親と一緒にゆずるを育てたかった」と言うのです。さらに紙谷に好きな人がいることを聞くと「相手のことなんか考えるな。幸せになるためにプロポーズしようとしているんなら,どんどん行け」と,父親らしいことを言います。そしてその日が終わりました。
ゆずるのプロポーズしたい相手は嵐美砂でした。この女性は前作にも登場しています。もちろん「ツナグ」の存在も知っています。美砂は紙谷が自分の父親の話をするために彼女の家へ行くのでした。ということは,美砂もかつて「ツナグ」に会った話をするんでしょうね。
第二話 歴史研究の心得
いつものようにホテルの一室を用意した歩美。そこに鮫川がやってきました。そして部屋に入りました。しばらくすると,スッキリした表情の鮫川が出てきます。彼は時を超えて,自分が研究している上川岳満に会えたことに感動しているようでした。では鮫川が聞きたかった2つのことは聞けたのでしょうか。
まずは「なぜ戦に参加しなかったのか」ということ。上川は参加するかしないか,とても迷ったようです。迷っている間に戦が終わってしまった。農民を守ろうとかそんな理由を考えていた鮫川は唖然とします。
そして上川が詠んだと言われた歌。実はこれは,別の人間が詠んだものだったようです。ただ彼は文字を書くことができなかったから,代わりに上川が書いてそれが後世に伝わったのです。
歴史というのは,紐解いてみればそんなものなのかな,と思う鮫川でした。
第三話 母の心得
重田夫妻の実里の方が娘の芽生と会うことにします。会った芽生の姿は,あの日のまま,着ている服もその日のままでした。「ごめんね,芽生ちゃん。お母さん,見てなかった」と謝れば,芽生は「ずっと一緒にいたかった!」と言います。母親というのは,自分に非がなくても,娘が亡くなってしまったことに対して後悔してしまうものなのでしょうね。あの時,こうしていれば。。。と毎日毎日考えるのでしょう。
そして次は小笠原時子です。彼女は,ドイツ人との国際結婚を認めてあげられなかったという後悔の念があるようです。そしてホテルで会うことになった日。時子は意外なことを話し始めます。それは日本語ではなく,ドイツ語で話をしだしたのです。これには亡くなっている娘の瑛子も驚きます。
実は時子は,瑛子のかつての夫であるカールからドイツ旅行に誘われました。そこで時子は会う人からみんなに「瑛子と会えたのはあなたのおかげだ」と言われたのです。感謝されるたびにさらに後悔の念が湧き上がってきた時子。彼女は瑛子が過ごしたドイツの言葉を一生懸命勉強していたのです。しかも留学までしていました。
まるで自分の娘に償うかのように。これがようやく時子と瑛子の気持ちが通じ合った時だったのかもしれません。
第四話 一人娘の心得
何とか奈緒を,大将と会わせたいと考える歩美でしたが,彼は悩んでいました。
これまでは「ご縁」がある依頼人に対して,死者と会わせるということをしていたのに,自らがそこに導いていいものなのか。でも工房を継がせてほしいと父親に言っていた奈緒。それに対する父親の真意を知りたいですよね。ところがこれを聞いた秋山杏奈は歩美に言い放ちます。
「思い上がっちゃダメだよ。自分がそれをやってしまったら,もう奈緒さんとは普通の元の関係には戻れないよ」
確かに,歩美が奈緒に切り出してしまえば,元には戻れない気がします。一体どうするのか。
奈緒は「父は,私に継ぐのを諦めろと言いたかったんだと思います」と言い出します。そして思わぬことを言います。「父に追いつきたい」と。この言葉に歩美は唖然とします。
そうなんです。奈緒は自分の意思でこの鶏野工房を続けたいと言っているのです。歩美がわざわざ奈緒と大将とを会わせなくても,奈緒には強い意思があったのです。
人には会って伝えなくても,会わずとも伝わるものがあるということなのでしょう。これは僕自身にとっても考えさせられる展開でした。確かにそうだよな,と。
第五話 想い人の心得
蜂谷がずっと会いたいと思っていたのは袖岡絢子という女性です。実は蜂谷は今の料亭を立ち上げる前に修行していたのが「料亭 袖岡」というところでした。そこの娘が絢子だったのです。彼女はとても勝気な性格でしたが,生まれつき体が弱く,学校にも満足に通えませんでした。
蜂谷はそんな絢子と少しずつ話すようになっていきました。しかし,絢子は十六歳の時に亡くなってしまいます。袖岡を継いだのは,当時の板長でした。蜂谷は絢子に恋をしていましたが,それも叶いません。そこで何度も絢子に会いたいと歩美の祖母の代から依頼を重ねてきましたが,身の程知らず,と絢子からは拒否されていたのです。蜂谷は85歳になってしまいました。
これが最後の依頼だと思い「蜂谷は八十五になりました」という言葉を添えたというわけです。この依頼に対し,絢子は会う決断をしました。
絢子は察したのです。自分が生きていた時にいた両親や周囲の人間は皆亡くなり,さらには絢子に会いたいという依頼すらもしなかったことを。蜂谷に会わなければ,もうこれが最後であると。
実は,蜂谷は結婚していました。それでも絢子のことが忘れられなかったようです。
ホテルの一室のカーテンを開けます。そこには桜と満月が同時に現れました。絢子は桜を見るのが大好きだった。その桜を蜂谷は見せたかったのでした。
そして絢子の姿は消えてしまうのでした。
ツナグの続編を読んで
冒頭にも書きましたが,今回の「ツナグ」も面白かったです。
これ,前回の「ツナグ」をブログに上げた時にも書いたと思いますが,もし自分だったら誰に会いたいと思うのだろうか。それは今なのだろうか。それとも,自分がもっと年齢を重ねた時にとっておくべきものなのだろうか。
いつ,自分がいなくなるかわからないというリスクも考えて,どのタイミングが適当なのかはわからないですよね。目の前に「ツナグ」がいたら,本当に迷うと思います。
毎回,辻村先生のストーリーの構成力というか,よくこんないい話を思いつくよなぁって思います。
もちろんツナグの存在はある意味SF的なところがありますけど,その短編一つ一つにはメッセージがあります。使者の思い,使者に依頼をする人々の思い,そして亡くなった人々の思い。
それをツナグに依頼して知るべきなのか,それともその思いを封印し,何とか自分自身で解決するべきものなのか。
いろいろなことを考えさせられる作品ですので,未読の方は是非読んでみてください。
きっと読んでよかったと思えるはずです。
● あの「ツナグ」の続編の面白さを堪能できた
● もし使者がいたら,誰と会いたいと思うだろうと考えさせられた
● もし自分が「ツナグ」だったら,その役目を果たせるだろうか