この作品を読んだとき,何か既視感がありました。
伊坂幸太郎さんの「死神の精度」と少し設定が似ているのです。
同じ短編であること,生死をつなぐという設定。
短編でありながらも,それぞれにつながりがある部分もその既視感の理由かなと思います。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 本作品 3つのポイント
2.1 依頼人の思い
2.2 亡くなった者の思い
2.3 使者自身の思い
3. この作品で学べたこと
● 使者(ツナグ)がどういう役割を持つ者かを知りたい
● 短編それぞれで亡くなった者が,どんな思いでいるのかを知りたい
● もし自分が使者を使うとしたら誰のために使うか考えてみたい
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。
-Booksデータベースより-
この作品の面白い「設定」というのは,
ツナグの掟
● 現在生きている人が,亡くなってしまった人に一生に一度だけ会うことができる
● 亡くなってしまった人も,生きているひとと一度しか会うことができない
というものです。
短編なので,とても読みやすく,生きている人,亡くなった人の両方の思いだけでなく,その二人を繋げる使者(ツナグ)の視点もあって,本当に面白いです。
本作品は,使者の渋谷歩美(男性)が,依頼人から依頼を受け,死者と面会させます。
それぞれがどういう思いを持つか,会った方がよかったのか,そうでなかったのかの結末を楽しんでほしいと思います!
1⃣ 依頼人の思い
2⃣ 亡くなった者の思い
3⃣ 「ツナグ」自身の思い
今回,各短編で登場する人物は,何かしら死者に対して「どうしても話しておきたいこと」「聞いておきたいこと」あるいは「自分自身がどうしても伝えたいこと」があって使者である「ツナグ」に依頼してきます。
各短編の概要は下記の通りです。
① アイドルの心得
主人公は平瀬愛美で,彼女は大好きなアイドル水城サヲリの大ファン。
彼女は急性心不全で亡くなってしまいます。愛美はそのサヲリと会う決断をします。
果たして,愛美はサヲリと会うことができるのか。
② 長男の心得
主人公は畠田靖彦で,彼は山を売りたいが,その権利書がどこにあるかを知りたいから,それを知っているであろう自分の母親に会いたいと言います。
でも真意は違いました。一体彼の本当の理由はなんだったのか。
③ 親友の心得
主人公は嵐美砂で,彼女は自転車の事故でなくなった御薗奈津に会いたいと使者に伝えます。親友であり,同じ演劇部だった二人は,最近ギクシャクしていました。この二人の微妙な関係が,ツナグを利用した結果,意外な展開となります。
④ 待ち人の心得
主人公は土谷功一で,彼は七年前に失踪してずっと会うことができないでいる日向キラリと会うことにします。功一はキラリのことが好きで忘れられずにいました。
「きっと騙されてたんだよ」と周囲にも言われてましたが,最後は意外な結末でした。
⑤ 使者の心得
死者である歩美は,あと命が幾ばくかという祖母のお見舞いにいきます。そこで祖母に「自分が使者である」ことを打ち明けられるのです。そして,その能力を歩美に引き継ごうと考えていました。
以上の依頼人の思いに対して,亡くなった人はどう対応するのか。
この作品の一番面白いところです。ぜひ読んでみてください!!
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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① アイドルの心得
水城サヲリは,平瀬愛美に会うことになりました。信じられない気分の愛美。
愛美はいろいろなものを生前のサヲリに送っていました。手紙も。
愛美は人間関係がうまくいかず自殺しようとしてました。それを止めたのがサヲリでした。
② 長男の心得
畠田靖彦は,自分の母親に会うことになりました。実は母親自身も過去にツナグに会っていました。靖彦の息子太一を夫,つまり靖彦の父に会わせるために。
靖彦は母の思いを知り,自分も将来同じことをするのだろうかと考えているようでした。
③ 親友の心得
嵐美砂は,自分が仕掛けた罠で御薗が亡くなったと思い込んでいました。しかし御園は見抜いていました。結局その話をしないまま再会は終わってしまいます。つまり美砂は,自分の保身のために,御園が今後誰とも会わないようにしたのです。バッドエンドでした。
④ 待ち人の心得
土谷功一は,キラリに騙されていたわけではありませんでした。彼女は功一を自分の親に紹介するための準備のために帰省していたのです。それで事故に遭ってしまった。功一は,結果的にはキラリの「真の愛情」を感じることができたのでした。
⑤ 使者の心得
歩美は,祖母から使者の能力を引き継ぐことになります。
彼が考えていたことは下記に書きました。
それぞれの短編の結末は違っていて,ハッピーになったパターンもあれば,逆にバッドエンドになるパターンもあって,作者がすごく考えてこの作品を描いたのがよくわかります。
自分の思い込みだけで依頼をするわけですから,相手がどんな反応をするのかなんて,やはり直接話してみないとわからないわけですもんね。
それは現実世界でも同じかなと思います。
もし自分が一度だけこの「ツナグ」に依頼するとすれば,一体誰に会うだろうかを考えさせられました。
使う側からの視点で考えてみます。
それは「この人に会いたい」とすぐに思いつく人もいれば,この先の人生でいろんな人に会うから「最後の最後に使いたい」と思う人もいるでしょう。
勇気がいりますよね。相手が会ってくれない可能性もあるわけですから。
一方,使われる側の視点,つまり亡くなった人の視点ではどうでしょうか。
自分が会いたいと思っている人からの依頼は来ないかもしれません。
そもそも会いたくない人からの依頼だってある可能性も大きいでしょう。
そして,その時まで待つしかないというのも辛い気もします。
では,使者(ツナグ)自身の思いどうなんでしょうか。
各短編を読む前に思ったのは,きっと会った後はお互いがスッキリして,その後もいい人生を送れるのではないか,ということでした。
でも,そうとは限りませんでした。
確かに会ってよかったという人もいました。
逆に,会わなければよかった,死者から打ち明けられた真実を知らない方がよかったという場合もあるのだなと。
そうなると,ツナグの役割って果たして誰かのためになっているのかな,と考えてしまいます。
実際に,歩美はそう考えていた節がありました。
そして,これらの短編の中のある人物にもアドバイスされます。
「生きているうちに全部やった方がいいよ!」
別の人からは
「こういうのはめぐり合わせ。本当に必要な人にしか会うことができないんだよ!」
使者の使命というのは,ただ単に二人を会わせるだけでなく,本当にそれが必要かどうかを判定してあげることも大事なんじゃないかと思います。
仮にこんなシステムがあったとしても,僕自身はできることはできる限りやりたいと思います。
その上で,時間的,物理的に会うのが難しく,その人に会ったとしても後悔しないという確信があるときだけ「ツナグ」に依頼するのではないかと思うのです。
● 亡くなった者,生きている者の双方がお互い会いたいと思っているとは限らない
● 仮に会えたからと言って,会ってよかったと思えるかどうかは生前にお互い何があったかに大きく影響される
● まずこのツナグを使う前に,できるだけ自分の力で会いたい人にあっておくべき
今回は「もしこのシステムが本当にあったらどう使うか」を考えてきました。
いや,僕自身は後悔をしたくない人間なので,ひょっとしたら会いたいと思う人にはもうすでに会って話しているかもしれません。