本作品との出会いは2008年に同作映画化されたものを観た時だったと思います。
320万部のベストセラーになった本作品の「チーム・バチスタ」というのは,東城大学医学部附属病院内の手術専門のチームのことです。手術成功率100%を誇るこのチームの手術で,患者が亡くなってしまうという事件が発生します。
病院内で神経科の講師をつとめる主人公の田口公平と厚生労働省の白鳥圭輔が事件の真相に迫るという面白い作品になっています。
海堂尊さんの作品は,東城大学医学部附属病院を中心とした一つの大きな世界観があって,そこから繋がるさまざまなシリーズがあります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 田口「バチスタ」へのヒアリング
3.2 厚生労働省の白鳥登場
3.3 医療事故の真犯人と真相
4. この作品で学べたこと
● チーム「バチスタ」とはどのようなチームなのか知りたい
● 真相を追及する田口と白鳥のコンビがどうやって犯人を追い詰めるか知りたい
● チームとはどうあるべきかを考えてみたい
東城大学医学部付属病院の“チーム・バチスタ”は心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の天才外科チーム。ところが原因不明の連続術中死が発生。高階病院長は万年講師で不定愁訴外来の田口医師に内部調査を依頼する。医療過誤死か殺人か。田口の聞き取り調査が始まった。さらには、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔もやってきて……
-Booksデータベースより-
田口公平・・・主人公。東城大学医学部附属病院の不定愁訴外来担当
白鳥圭輔・・・厚生労働省大臣官房秘書課付技官
高階権太・・・東城大学医学部附属病院院長
桐生恭一・・・臓器統御外科助教授
鳴海涼・・・・基礎病理学教室助教授
垣谷雄次・・・臓器統御外科講師
酒井利樹・・・臓器統御外科助手
氷室貢一郎・・麻酔科講師
羽場貴之・・・臨床工学技士
大友直美・・・手術室看護師
1⃣ 田口「バチスタ」へのヒアリング
2⃣ 厚生労働省の白鳥登場
3⃣ 医療事故の真犯人と真相
心臓の心室拡張を切除する手術のことを通称「バチスタ」というらしいです。出版当時はこのバチスタ手術自体が話題になっていたようですね。
バチスタ手術とは,患者に麻酔して,体温を落とし,一度心臓を止め,処置した後に再び心臓を動かすという手術。こんなことできるんですね。医学ってやはり奥が深いです。
その手術で,患者が亡くなってしまうという事故が発生します。
これまで二十数回もの手術を成功させてきたチームが,初めて失敗をしてしまうわけです。
しかし失敗はこの一回だけではありませんでした。その後3回連続して失敗するのです。
院長に相談に行った手術医の桐生はこれを疑問に思い,調査をするように求めます。
その調査をすることになったのが,不定愁訴外来の田口でした。バチスタのメンバーはみんな怪しい。。。この中に犯人いる?
桐生,垣谷,鳴海といった手術で執刀に関わる人物は怪しいし,麻酔医の氷室や,さまざまな器具や装置を操る臨床工学技士の羽場も怪しいし,看護師も当然裏でなにやってるかわからないですから。
そこで田口は手術に関わるチームメンバー全員にヒアリングをしていきます。
このヒアリングで,いろんなことがわかります。というか,やっぱり皆怪しい。。。垣谷は,看護師の大友が加わった途端に失敗が重なったと言います。
その大友は,術中に息が合わず,周囲に迷惑をかけていると落ち込んでいました。
酒井は,垣谷が桐生がいるから自分が出世できないということで,今回の失敗をむしろ喜んでいると言います。
羽場は,普段は普通だが,自分の身内と話すときは必要以上にヒステリックになるようです。
氷室は,桐生は子供の方が手術が得意だと話しているし,鳴海はかつて手術に失敗してトラウマになっていることを打ち明けます。
これは本当に事故なのか,それとも故意による殺人なのか。
事故と結論付けた田口の元に,とうとう厚労省の人間がやってきます。
とうとうこの事件,厚生労働省の人間が乗り込んできました。
「厚生労働省大臣官房秘書課付技官」という長くて覚えられないような肩書の白鳥圭輔です。田口は今回の騒動を「事故」と判断しましたが,白鳥は「間違いなく事件であり,チーム内に犯人がいる」と踏んでいるようです。
ここから今度は白鳥の強引なヒアリングが始まります。
どうやら白鳥は,相手をわざと動揺させ,本音聞き出し,本性をさらけ出させる方法で真意を引き出そうとしているようでした。
ヒアリング自体も攻撃的であったり、受動的であったり、一人ずつ、複数人数、といろいろなバリエーションで追及していきます。
垣谷は怒りだすし,大友などは責められて泣き出すという始末。精神的に不安定にさせておいて,本音を聞き出す戦法でしょうか。
そんな中,バチスタ手術を受ける小倉という患者が,事件のことを知って不安になっていました。
そして手術が開始。と思いきや,氷室が硬膜外麻酔(エピドラ)を打った後に急に容体が急変してしまいます。
白鳥は手術を中止しようとしましたが,すでに手術は開始されてしまい,しかも小倉は亡くなってしまいました。これで4人目の死亡者。ここで白鳥は「オートプシー・イメージング」というものを利用しようとします。
これは通称AIと呼んでいるもので,主にMRIを利用した画期的なシステムで,人工知能のAIとは違います。
患者の遺体や死因から,実際に何が原因で亡くなったのかを画像で明らかにするというものらしいです。
このAIは海堂先生の作品ではどの作品読んでも結構登場します。
そして,事件は真相にたどりつくのです。
果たして,この「バチスタ手術」には何があって,誰が犯人なのでしょうか。
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執刀する桐生と鳴海には,過去に事件がありました。桐生の持っていたメスで,鳴海がケガをしてしまうのです。
鳴海のトラウマはここから始まったていたんですね。ではここに事件の動機があるのか。
田口は否定します。桐生と鳴海の手術では,鳴海が切除範囲を決定していたからです。
実は桐生は視野の下半分が見えないという症状を持っていたのです。だから鳴海がいないと桐生の手術はできないんですね。
白鳥は桐生に「あなたは執刀してはいけない」と宣告するのです。これで何か起これば桐生は犯人ではない。そして彼を慕っていた鳴海も。
桐生のいない中,別の患者の手術が始まります。執刀医は垣谷です。
ところが突然白鳥が現れます。先に書いた「オートプシー・イメージング」のMRI画像の解析により,患者の脳に異常があることが判明しました。
つまり,麻酔薬を吸入することで,脳に圧力をかけ,殺害していたのでした。
詳しい作用はわかりませんが,いずれにしても麻酔医が犯人でした。彼は単純に愉快犯だったようです。子供だけ助かっていたのは,子供にはエピドラを打っていなかったからです。
チームというのはどんな世界でもそうだと思いますが,メンバーそれぞれが重要な役割を果たし,それを補える部分と監視できない部分があるのだなと思います。
特に命を預かる医療チームは大変で,そこにほころびがあれば命に直結してしまうわけです。
チームという集合体の重要性を考えさせられたなと思います。
また今回は,まだまだ未熟ではあるが目の前のことに一生懸命取り組む田口と,とても能力の高い官僚である白鳥が,お互いの弱い部分を補いながら事件の真相に辿り着きました。
田口と白鳥の凸凹コンビ。とても良いコンビだなと思いました。海堂先生の作品の大半はこのコンビ,特に田口はよく登場するので,興味があるからは是非読んでみてほしいと思います!
● チームのメンバーが同じ目的意識を持つことの重要性
● もしそこに過失があれば命に直結する仕事であること
● チームは,お互いがフォローし合える部分もある反面,監視できない部分もある