スケルトン・キーって,何だろう。。。
スケルトンだから,骸骨とかそんなイメージを持ちます。そんな形をした鍵なのかなって思いましたけど,表紙を見るとどうやら違うようです。
古代ローマ時代からその原型があり,1800年代によく使用されていた「ウォード錠」と呼ばれるものがあったそうです。
ただこれはセキュリティ的に弱く,「スケルトン・キー」というもので簡単に開けられたらしいんですね。「合い鍵」という意味があるようです。
それがタイトルになっていて,一体どういうことなんだろうと思いながら読みました。
本作品は「サイコパス」である青年が主人公になっています。しかし読み進めるにつれ,読者は「ある先入観」に陥っていることに気づきます。
最近,道尾秀介先生の作品が大好きで,よく読むようになりました。
とても読みやすいですし,読者をアッと驚かすストーリーがお気に入りです。
本作品の帯には,あの脳科学者である「中野信子」さんが「作者本人がサイコパスなのではないかという疑念が生じるほどの『真に迫った表現』」と書かれるくらいの作品です。
話の中盤辺りから「騙されたぁ」という言葉を発してしまうこと,間違いなしです。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 主人公の恐ろしい特徴
3.2 錠也の出生の秘密
3.3 もう一人の人物とは
4. この作品で学べたこと
● 施設で育った主人公が,どういう事件に巻き込まれていくかを知りたい
● サイコパスとはどういう特徴を持つ者なのか知りたい
● 話の中盤の驚くべき事実を知りたい
19歳の坂木錠也はある雑誌の追跡潜入調査を手伝っている。 危険だが、生まれつき恐怖の感情がない錠也には天職だ。だが児童養護施設の友人が告げた出生の秘密が、衝動的な殺人の連鎖を引き起こし……。
-Booksデータベースより-
坂木錠也・・・主人公。雑誌編集者の依頼を受け,生活している
間戸村・・・・スキャンダルを追う,雑誌編集者
迫間順平・・・かつて,錠也と同じ施設で育った青年
田子傭平・・・迫間の父親。かつて殺人事件を犯す
1⃣ 主人公の恐ろしい特徴
2⃣ 錠也の出生の秘密
3⃣ もう一人の人物とは
坂木錠也は「青光園」という施設で育ちました。後でわかりますが,彼は両親の存在を知りません。そんな錠也は雑誌編集者である間戸村からの依頼を受け,芸能人のスキャンダルの調査をしながら生計を立てていました。
作品の冒頭では,錠也がバイクに乗り,政田宏明という芸能人が車に乗り,あるマンションへ向かっているところを追跡します。
実はそこには樫井亜弥という女優が住んでいたことがわかります。
いつもきっちりと仕事をこなしている錠也を,間戸村はかなり信頼しているようでした。
ただ,錠也は自分がサイコパスではないかと疑っている,というか自分でもそう思っているところがあります。
サイコパスとは
行動や対人関係の築き方が一般的な人と異なり,日常生活で苦痛を感じたり,社会に適応できなくなったりする障害で,当人やその周りの人に精神的苦痛をもたらす可能性があるもの
具体的な行動的特徴は,「他人に共感できない」「平気で嘘をつく」「他人を支配する」「衝動的に行動する」などなど。
日本にも100万人はいると言われているようですし,過去の偉人も同じ特徴を持つ人がいたとも言われています。
あのスティーブ・ジョブズやヒトラー,ドナルド・トランプ,ナポレオンなども挙がっているようです。本当かどうかはわかりませんが。。。
そして本作品でも描かれていますが,身体的特徴として「心拍数が低い」というのもあるようです。
錠也もそうです。普段は心拍数が低い。だから錠也はその特徴を出さないようにある工夫をしていました。
「トリプタノール」という抗鬱剤を飲んでいるということ。
トリプタノールとは
憂うつな気分をやわらげ、意欲を高めるお薬です。うつ病やうつ状態の治療に用います。また、子供の夜尿症や神経痛の治療にも用います
-お薬110番より-
抗鬱剤なので,当然うつ病治療が主な作用ですが,錠也は「副作用」を利用していました。
それが「心拍数を上げる」ということです。つまり,サイコな性格を抑えようと,間戸村と取引し,トリプタノールを飲んでいたのです。
そんな錠也には友人がいました。迫間順平です。同じ施設で育ち,どうやらこの順平もサイコパスのようです。同じ匂いを感じ,2人は仲良くなっていったようです。
ある日,順平は錠也を呼び出し,重要な話をします。何かこの作品の重要なポイントの予感。順平が話した話に錠也は驚愕します。錠也と順平の間にはとんでもない因縁があったのです。
錠也には実は母親がいました。坂木逸美といいました。錠也は「養育家庭制度」を利用して,青光園に預けられました。
養育家庭制度とは
一定期間,子供を施設であずかり,子供を引き取りたいという希望者に対して子供を紹介する。もしそこでお互いが家族になりたいという意思が共通していれば,本格的に受け入れることができる制度
錠也が施設に預けられた理由は,ある事件で母親が亡くなったからです。
逸美はスナックで働いていました。そこに田子傭平が現れたのです。
田子には妻子がありながら,逸美を不倫していたんですね。自分から逃げて行った逸美を取り戻そうとしますが,これを逸美は拒否。
逆上した田子は,逸美を散弾銃で撃ってしまったのです。しかしその時,逸美のお腹の中には錠也がいたんですね。緊急で錠也をお腹の中から取り出し,どうにか錠也を助けることができました。
その時に錠也を引き取ったのが青光園の園長でした。では,錠也と順平にはどんな因縁があるのか。実は田子の実子が順平だったのです。しかも,逸美のお腹の中にいた子供こそ,錠也だったというわけです。
つまり,順平と錠也の父親は同じ田子だということです。つまり腹違いの兄弟。
何という偶然なのか,必然なのか。順平が施設にきたのは本当に偶然なのか。
その話を聞かされた錠也は,順平の話をある意味「予感」していた節があります。
「あぁ,やっぱりか」と。
どうやら錠也は密かに順平の髪の毛を使って,DNA鑑定していたようです。それで2人が
「兄弟」であることを知ったのでした。錠也は思うのです。自分のサイコパスは遺伝なのかどうなのかと。
田子の血を引いているからというのもありますが,喫煙やアルコールなども関係するそうです。逸美は仕事柄,喫煙もするし,アルコールも飲みます。
そして「鉛」も影響があるようなんです。鉛? どうやったら鉛が体内に入るの? って思ってしまいますよね。
それは「散弾銃」の弾丸です。あの弾丸が逸美の体に入って,それも影響したのではないかと錠也は推測するわけです。
「なぜ,なぜ?」錠也はかなり悩んでいるようでした。
そんな時,大事件が発生します。あの田子が殺害されたのです。錠也は順平から聞かされた真実に怒りを覚えたのでしょうか。しかし,さらに思ってもない事件が重なります。錠也が好意を抱いていた,同じ施設で育った「ひかり」も殺害するのです。
ん? 何かおかしい。。。この違和感は何だろう。これまでの錠也の行動と微妙に違うような気がするんですよね。
でも,錠也にしか動機はないし,錠也だからこそ可能だった犯行。違和感を持ちながらも読み進めると,驚愕の真実が明らかになります。
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坂木錠也。坂木逸美の息子。それは確かなのですが,これまで描かれてなかった部分がありました。
それは逸美が殺害された時「お腹の中には2人の子供がいた」ということなんです。うわーっ,ひょっとして「一卵性双生児」か?
錠也には双子の兄がいたのです。坂木鍵人という名前です。実は鍵人もあの青光園にあずけられた一人だったんです。預けられたのは実は2人。
2人は鍵を持っていました。合わせればピッタリと一致する鍵。これこそが「スケルトン・キー」です。母親の逸美から受け取った「双子であることの証」では,なぜ青光園には錠也しかいなかったのか。それは,鍵人だけがある里親に引き取られたからだったんです。
貴島という男女には子供がいませんでした。その貴島家は里親を望んでいました。
青光園の園長は悩みます。2人とも出すべきか,1人にするか。結果的に1人だけ,つまり鍵人だけが貴島家に行くことになりました。引き離された2人の兄弟。そして違和感のあった疑問に辿り着くのです。田子とひかりを殺害したのは錠也じゃないのではないか。
そうなんです,2人を殺害したのはまさに「貴島鍵人」だったのです。
順平は自分の父親を殺害した復讐として,錠也を拉致していました。
しかしそれは鍵人の方だったのです。「僕たちは今日が初対面だから」
その言葉に半信半疑の順平。しかし,父親とこれから幸せに生活しようとしていた順平には,目の前の人間が錠也だろうと,その双子の兄だろうとどうでもよくなっているようでした。
実は,この時にはすでに錠也は鍵人の存在を知っていたのです。鍵人は2人を殺害したと言いましたが,実は4人でした。育ての親である貴島夫妻も殺害していたのです。
兄弟を引き裂かれた恨みなのか。最難関の大学にまで通わしてくれた「両親」をも殺害するという恐ろしいことを平気でやってのける鍵人は真のサイコパスのように思えます。錠也は,順平が鍵人を拉致していることを知り,現場に向かいます。
そしてあのスキャンダルの張本人であった政田も。彼は錠也が情報を流したということで,錠也を狙っていたようです。
完全にカオス状態になる現場。一体,誰が生き残るのか。
政田,順平は2人に倒されてしまいます。残ったのは錠也と鍵人の双子。
そこに遅れて間戸村もやってきます。もちろん間戸村も錠也に双子の兄がいると思っていないですから,驚愕の表情。そしてさらに思ってもなかったことが起こります。鍵人が錠也と間戸村をも狙うのです。
鍵人は最初から計画していました。自分が殺害した貴島夫妻,田子,ひかりの4人の濡れ衣を,実の弟である錠也になすりつけることを。
恐ろしい人間です。そして最終決戦。鍵人 vs 錠也 & 間戸村。
数的優位に立った錠也たちは危ない場面がありながらも,鍵人を仕留めます。
警察に事情を説明し,半信半疑ながらも納得する警察たち。全ては貴島,いや坂木鍵人がやったことだと。
そして場面は青光園へ。ここに園長が坂木逸美から預かっていたある「箱」がありました。その箱をあける鍵が,双子が持っていた鍵だったんですね。
開けるのは錠也と鍵人のどちらでもよかったのです。つまりお互いが「合い鍵」を持っていたわけです。まさに「スケルトン・キー」
そこには,すでに錠也たちが辿り着いていた真実が書かれていました。
逸美は田子の子供を身ごもっていたこと,それが双子だったことなど。
「あなたたちは大丈夫です」
それが母からの手紙の最後に書かれていたことでした。「あなたたちは大丈夫」という言葉通りになっていたらよかったですが,残念ながらそうはなりませんでした。
でもいつか,二人が再び前を向いて,力を合わせて進んでいってほしいと思いました。
これまで「双子」を扱った小説を何冊か読んできました。小説の世界では「よくある話」ではあると思います。
他人だと思っていたのが実は「双子」だったとか,東野圭吾先生の「分身」でも主人公は瓜二つの二人の女性が主人公だったし。
確かに一卵性の双子はDNAが同じである。しかし何もかもが同じというわけではなく,そこには微妙な違いがあるように思います。
高校時代にも僕のクラスに双子がいましたが,彼らはいつも一緒にいるわけではなく,それぞれ違う友人と行動していました。でも帰る時は一緒。
通勤する時に見る双子の姉妹も仲良さそうに歩いている姿を見たりしますが,実際はお互いをどう思っているのでしょうか。本当に仲がいい兄弟もいれば,お互いのことをライバル視している兄弟もいる。
芸能人にもいましたよね。あの「茉菜・佳奈」とかは普段は仲良さそうに見えて,実際にはお互いライバル視していたと本人たち自ら話していたし。
仲が良さそうに見えて,実は心の中ではいろいろな葛藤を抱えているのかもしれないですね。
でも例え育った環境が違ったとしても,やはり血を争えない,まぎれもない双子なのだなと,本作品を読んで思いました。
● 錠也の出生の秘密を知って驚愕した
● 育った環境の異なる兄弟について,考えさせられた
● 「スケルトン・キー」の意味を知ることができた