コロナウィルス騒動が何となく一段落しました。
2023年のゴールデンウィーク明けから,コロナウィルスが第2類から第5類に格下げになり,事実上,インフルエンザと同じ扱いになりました。
まだ,少しコロナと聞くと身構える時もありますが。。。
本作品を読んで,インフルエンザワクチンをどのように作っていくのか,どんな問題があるのかなど,ストーリーでわかりやすく説明してくれ,本当に勉強になりました。ワクチン接種までには,本当に多くの人々が関わっているのだなと思います。
海堂尊先生の作品は,どうしても「チームバチスタ」のイメージが強いという方もいるかと思います。それは海堂先生の頭の中にある世界観がブレることなく不変であるからだとも言えるでしょう。
自分自身の狭い視野を広げてくれる作品です。
とても勉強にもなるので,是非読んでみてほしいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 インフルエンザワクチンのビジネス
3.2 ワクチンプロジェクトのアイデア
3.3 プロジェクトは実現するのか
4. この作品で学べたこと
● インフルエンザワクチンについて詳しく知りたい
● 新しいビジネスを考えるためのヒントを知りたい
● プロジェクトを実現させるために必要なことを考えてみたい
新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲う。今度は「ワクチン戦争」が勃発しようとしていた――霞が関の陰謀を察知した異端の医師・彦根新吾は、ワクチン製造に必要な鶏卵を求めて加賀へ飛び、さらに資金調達のために欧州へと旅立つ。果たして、彦根が挑む大勝負は功を奏するのか? 浪速の、そして日本の医療の危機を救えるのか。メディカル・エンタメの最高傑作!
-Booksデータベースより-
彦根新吾・・・浪速大学医学部 特任教授
名波まどか・・加賀大学に在学中。ナナミエッグの社長の娘
真砂拓也・・・加賀大学でまどかと同じゼミ。真砂運送の息子
鳩村誠一・・・加賀大学でまどかと同じゼミ。鳩村獣医院の息子
名波龍造・・・ナナミエッグの社長。まどかの父親
宇賀神義治・・浪速ワクチンセンター総長
1⃣ インフルエンザワクチンのビジネス
2⃣ ワクチンプロジェクトのアイデア
3⃣ プロジェクトは実現するのか
名波まどかは加賀にある養鶏ファーム・ナナミエッグの一人娘です。就職活動をするもなかなか内定が出なかったため,地元の加賀大学の大学院に進学します。ナナミエッグのアンテナショップである『たまごのお城』で,広報活動もしつつアルバイトをしていました。
しかし,田舎町でいつまでも生活するつもりはなく,いつか都会でOLをすることを夢見ているようです。
まどかは大学院で『地域振興総合研究室』に所属していました。新しく作られた研究室でしたが,特別なことをするわけでもなく,定年間際の野坂教授の下での学校生活。
研究室には,かつてF1ドライバーを夢見ながら,事故でそれを断念した真砂という男性や,実家が獣医院で,家業をを継ぐために獣医学部に入学した鳩村という人物もいました。ある日『たまごのお城』でバイトをしていた時,彦根新吾という男性が来店します。
あっ,あの彦根ですね。本作品のシリーズともいうべき「ナニワモンスター」に登場した「スカラムーシュ」と呼ばれる男。
渡された名刺には『浪速大学医学部社会防衛特設講座 特任教授』と書かれています。そんな肩書だったかなぁ。まどかは彦根をナナミエッグの中を案内します。そしてまどかの父で,ナナミエッグの社長でもある名波龍造と会わせるのです。
本作品を読むと,養鶏場というところがいかに大変な場所だというのがわかります。
鶏舎を第一鶏舎から第七鶏舎まで分け,ヒヨコが産まれてからの日数によって第一から第七まで移動していく。
まるで,小学生が一年生から六年生まで学ぶ場所を変えていくように。
そして産まれた卵は「洗卵」し,「検卵」で血卵やヒビの入った卵を取り除く。
それらをクリアした卵がサイズによってパックに詰められ出荷する。
-本文より-
ITを導入して効率化されているとはいえ,この鶏舎にいる鶏は全部で3万羽というから,すごい数をさばかないといけないわけです。
このナナミファームも複数あって,トータル100万羽,一日に採れる卵は80万個というからさらに驚きます。一通り見学をした彦根はとうとうここに来た目的を話し出します。
「10月から,一日10万個の有精卵を用立てていただきたい」
有精卵を作るためには,今はナナミファームにはない雄鶏が必要になります。一日10万個というのは,その一つのファーム一ヶ所分になるのです。
彦根の目的は「ファーム自体を有精卵の培地にして,インフルエンザ・ワクチンの培養地にする」というものでした。この依頼に,名波社長は怒り心頭です。食用のための卵を作るために大きくしてきたファームを,ワクチンのために作り替えること。
では,なぜ有精卵が必要なのか。
そもそも世の中に食用として出回っている卵は「無精卵」です。
インフルエンザワクチンを作るためには、まず元になるウィルスの株を十分な量、手に入れる必要があります。
インフルエンザウィルスは、生物の細胞の内部に入り込んで生息・増殖するウィルスです。
量を増やすためには「生きた細胞にウィルスを接種し,培養する」しかありません。
生きた細胞の供給源として使われているのは,鶏(ニワトリ)の有精卵(発育鶏卵)です。
-たまご博物館サイトより引用-
卵一個当たりの購入金額は無精卵の2倍。実現すれば当然売り上げは2倍になるわけです。
しかし,やはり名波社長は首を縦に振りません。断ろうとする中,まどかはナナミエッグの経営悪化を考え,一旦保留することにしました。
まどかとしては魅力的なビジネス。しかし創始者の父親の信念とはかけはなれています。
実は社長はナナミエッグを畳もうとしていました。
「会社を畳む前に,有精卵を試してみない? パパが無理ならわたしがやる」OLを目指そうとしていたまどかに,何か変化が現れたようです。
果たして,ナナミエッグの行方はどうなっていくのでしょうか。
まどかは同じゼミの真砂と鳩村に相談します。
何かいい手はないかと。まずは三人は実際にワクチンセンターに視察にも行くことにします。そこで得た知識、熱意を龍造に伝え、話は順調に進んでいきます。
当然,雄鶏を入手しなければならない。その数は13万羽。もちろん単純に雄鶏を入れればいいわけでもなく,ファームの環境も整備しなければならない。
つまり導入コストに問題があるわけです。そこに心強い味方が。ゼミの野坂教授でした。今回の大きな課題を研究室のテーマにしようというのです。そうすれば研究費として計上でき,コストに充てることができる。
一度はまどかは今回のプロジェクトを断ろうとした時がありました。
その時に現れたのが「浪速ワクチンセンター」の宇賀神総長でした。シルクハットを着けた総長らしくない風貌。
おそらく彦根から今回の話を聞いていたのでしょう。宇賀神総長はまどかと討論します。
宇賀神は「なぜ,ワクチンが必要なのか」を説得しにきたのでしょう。
まどかの中には,鳥インフルエンザに感染したということで殺処分され,両親が悲しむ中,穴に鶏たちが埋められるシーンが思い出されます。
さらに「無精卵はヒヨコにならないから」という理由でまどかは反対しているのです。有精卵だとヒヨコになる可能性があるから。
宇賀神は,この主張に対して反論します。
ニワトリにしてみたら,ヒヨコを殺されようが,無精卵を食べられようが同じや。たとえウチの依頼を断ったところで,嬢ちゃんはヒヨコを守られへん。
おたくが断ったら,別の養鶏場をあたるだけだから結果は同じや。
-本文より-
それを聞いたまどかは依頼を受けるかどうか改めて考えます。少しずつまどかの心が再度ワクチンに傾いていきます。
実は野坂教授は,まどかの父の恩師でありました。野坂教授は,父親に今回のプロジェクトに参加して協力してほしいと。そして何とナナミエッグを分社化し、その新会社の社長をまどかにするというのです。もちろんまどかは驚愕します。分社化することが,今回のプロジェクトによるリスクを分散させることが狙いのようです。
まどかは覚悟を決め,決心します。新会社『プチエッグ・ナナミ』の社長としてスタートするのです。
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浪速では、インフルエンザ「キャメル」の騒動があったため,厚労省の対応が批判にさらされていました。
(詳しくは「ナニワ・モンスター」のブログを読んでください)
そんな中「キャメル」に関する講演会が開かれます。講演者は彦根です。「キャメル騒動は第一波に過ぎない。これから第二波であるワクチン戦争が起こる」
彦根はこう訴えるのです。ん~,世間は前回の件があるから,なかなか信じないだろうなぁ。
おそらく官僚は汚名返上を狙っていると。「キャメル」の予防は重要だという風説を流し、一方でワクチンの供給を絞ろうとする。
つまり,ワクチン供給を限定してけば,浪速市民を混乱させ,官僚の名誉挽回につながるというのです。
彦根はその対抗策を考えていました。彦根がまどかたちに有精卵の用立てを依頼したのは,この混乱をさけるためです。
彦根は官僚の考え方が今の日本を貶めてしまうと言っているのです。
有精卵の用立てはできても,加賀から浪速ワクチンセンターまでは500kmあり,有精卵の輸送が困難です。実はまどかは「フクロウ運輸」と提携が決まりつつあったのですが,輸送距離の問題で「白紙」になってしまっていました。
そこでまどかは同じゼミ仲間の真砂の父親の企業に依頼をするのです。真砂の父親の企業は「運送会社」でした。
真砂運送を分社化し『真砂エクスプレス』を作り,まどかの「プチエッグ・ナナミ」と提携することになります。
真砂エクスプレスの社長は真砂拓也です。拓也は真砂運送のお荷物社員であった柴田と共に、ドライバーで3人分働くというのです。
そして売り上げを伸ばし,社員を増やす。大学生たちがこんなビジネスを自分たちで考えつくなんて,本当にすごいと思います。というか羨ましい。
いろいろな問題もありましたが,何とか期日までに有精卵を納品できるようになったのでした。
彦根には心強い味方がいました。浪速府知事の村雨です。こちらも「ナニワ・モンスター」でお馴染みの人物です。ただ彦根たちの足を引っ張ろうとする者もいました。
「ナナミエッグ」の存在を知った者が,このプロジェクトを妨害しようとします。
ある晩、鶏舎の見回りしていたまどかを,襲おうとします。しかしこれを予測していたのか,彦根と柴田に阻止されてしまいます。
実は彦根と柴田は医師時代の友人で、柴田は彦根から事情を聞いて,最悪の事態を防いだのです。
まどかや真砂たちは,同士として村雨のパーティーに呼ばれるのでした。
彦根の考えたプロジェクトを実現するために動いた大学院生。
自分の実家の家業をうまく利用し,それを実現しようと必死で考える姿に感心しました。
ワクチンの仕組みを理解できるだけでなく,ワクチン開発をより具体的にする方法についてもしっかり描かれていて,海堂先生の構成力にも驚きます。
問題が起きたら新しい手を考えようとする若者たち。そして実現するために多くの人の力を借りること。
何か新しいビジネスが生まれる時って,こういう形なんだろうなと考えさせられました。
まどかたちの考えた事業がいつか糧になることを祈りたいと思います。
● インフルエンザワクチンの作製方法を知ることができた
● ワクチン作製には多くの人々が関わっていること
● 新しいビジネスに取り組む覚悟と決断