ジェノサイドというと,「大量殺戮」という言葉を思い出します。
2021年には,中国政府が「ウイグル族」を大量虐殺したという報道がありました。
あの事件には誰もが驚いたのではないでしょうか。なぜそんなことが起こってしまうのか。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 本作品 3つのポイント
3.1 新人類の登場
3.2 ジェノサイドの目的
3.3 人類の進化とは
4. この作品で学べたこと
● ジェノサイドの歴史を知りたい
● 本作品のジェノサイドが起こった理由を知りたい
● 人類の進化について深く考えてみたい
イラクで戦うアメリカ人傭兵と日本で薬学を専攻する大学院生。二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。一気読み必至の超弩級エンタメ!
-Booksデータベースより-
このジェノサイドというものには歴史的な側面が大きいようです。
今回の場合はイスラム原理主義の影響を受けた反抗的なウイグル族が,中国共産主義への影響を考慮して実行されたものでした。
かつてはドイツでもヒトラーによる「ホロコースト」と呼ばれるユダヤ系民族の大量虐殺もありました。
過去から現在にかけ,民族的,宗教的な対立により多くの人々が命を失っています。
この作品の舞台はコンゴです。
人類存続の危機を感じたアメリカ大統領が一体何を恐れ,何を排除しようとしたのかというのことが話の大きなポイントとなっています。
作者は「高野和明」さんです。
1964年生まれ ロサンゼルス・シティ・カレッジ中退
宮部みゆきさんに影響され,執筆活動を始める
2001年「13階段」で作家デビュー
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(13階段)・山本風太郎賞(ジェノサイド)・日本推理作家協会賞(ジェノサイド)
二つも受賞した作品なんですね。惜しくも「直木賞受賞」にはならなかったようですね。
この作品のポイントは以下の3つです。
1⃣ 新人類の登場
2⃣ ジェノサイドの目的
3⃣ 人類の進化とは
新人類の登場
舞台は先ほど書いたようにアフリカにある「コンゴ」です。
かつてはザイールと呼ばれていましたが,1997年にコンゴ共和国となりました。
イェーガーという男には不治の病を持った娘がいて,彼女を救うという思いで,アメリカの極秘任務である「ガーディアン作戦」に参加します。
この作戦こそが後々ジェノサイドを引き起こすものだということがわかるのですが,それを知らずにイェーガーは仲間を含め4人でコンゴへと向かいます。
一方で,古賀という日本人が父親の遺志を継いで,不治の病の開発に乗り出します。この薬品を完成させるためには「GIFT」と呼ばれるプログラムが必要でした。
イエーガーの息子の命を古賀が開発する薬が救うのだろうか,という想像はつくのですが,ここからがこの話の面白いところです。
ここで「アキリ」という人間が登場します。
実はこのアキリこそがこの話の大きなポイントになります。
彼は人間というか「一目で普通の人間ではないことがわかる」という表現がされているように,これまでの人類とは違う,かなり知能の高い人間であることがわかります。アキリとはいったい何者なのか,非常に興味深い内容になっています。
ジェノサイドの目的
冒頭でも書いたように,ジェノサイドというのは民族的,宗教的な人間たちを排除しようとする行為と言われています。
今回のジェノサイドは,アメリカの大統領はじめとした人たちが考えた,アキリを殺害しようという計画でした。
「ガーディアン作戦」というのは建前のもので,今回のジェノサイドは,アキリを抹殺しようとする「ネメシス作戦」というものです。
イエーガーはその作戦に参加させられ,利用されていたわけです。
アメリカ大統領が,いったいなぜアキリを抹殺しようとするのか?
いずれにしても,利用されていることに気づいたイエーガー率いる4人は,この作戦を放棄し,アキリを守護しようとします。
そしてアキリの家族がいる日本へ彼を送り出す決意をするわけです。アメリカのジェノサイドに対し,イエーガーたちが必死で対抗します。
イエーガーの敵の中には銃を持った子供達もいました。
彼らを攻撃しなければならないイエーガーたちの心理も描かれており,ジェノサイドにはそんな側面もあるのだなと悲しくなりました。
それぞれの思惑があるとはいえ,ジェノサイドというものがいかに残酷なものであるかを考えさせられます。
また一方,古賀が開発しようとしていた薬品の製造に必要な,人知を超えたプログラム「GIFT」の手に入れようとする人間も存在しました。 それらの攻撃を交わし,古賀は無事に新薬を開発し,イエーガーの娘の不治の病を治すことができるのか。
ここから先は是非この作品を読んでみてください!
人類の進化とは
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最終的にはある国に双方が交わることになります。その国こそが日本でした。
古賀は新薬の開発に成功し,海外にいるイエーガーの娘にその薬が渡り,彼女は救われます。
イエーガーに導かれたアキリも自分の母親に会うことができ,さらには「エマ」というアキリの姉にも会うことができました。
今回の話は,恐ろしく高い知能を持ったアキリの存在におびえた人間たちが企てたジェノサイドでした。
その知能の高さを表している表現がこの作品の中にあります。
イエーガーたちがアキリを連れて航空機で今後から日本へ向かう途中,攻撃する戦闘機の攻撃をかわすのに,気象情報を予測してしまうというシーンです。
天気予報でさえも予知できない細かい風の流れや気象の移り変わりを,アキリがいとも簡単に予測するんです。
アメリカ大統領はこのおそろしい能力を知っていたからこそ暗殺を企てたんですね。
自分たちが世界を支配している。その世界に進化した高い知能を持った人類が登場し,将来的に支配されてしまえば,今の自分たちの地位や生活は脅かされるかもしれない。
結局,今の人類を守るというのは建前で,現在の地位や生活を誰にも奪われたくないというのが本音だったということでしょう。
なんて自己中心的で,欲深い人たちなんた。。。
現在の世の中,技術は進化し,私たちの生活もどんどん新しいものに変化していきます。
14, 5年前「そんな仕事が成り立つわけがない」「手のひらサイズのパソコンができるはずがない」と笑っていた人がいました。
現在は「YouTuber」という職業が登場したり「スマートフォン」が開発されたりして,当たり前のように存在しているものもたくさんあります。
現在のコロナウィルスに関しても,徐々に変異体というものが登場し私たちを苦しめています。
でもそれは自然の摂理であって,それを繰り返して人類も進化し,生活も新しいものに変化していってるのだと思います。それは良い部分もあれば怖い部分もあるのかなとは思います。
しかし,これまでの進化の過程を受け入れた結果が,現在の私たちの存在でもあるとも言えます。
いつか人間を超越した人種というものが登場してくれば,今の人間がどうなってしまうのか,わかりません。
動物や植物を食し,食物連鎖の頂点にいて,政治的,経済的にも頂点にいる人間が,今後どのように進化していくのか。それともある日突然これまで見たこともない生命体が現れるのか。
● 本作品のジェノサイドは,今の地位や生活を奪われたくないという人間の私利私欲からくる恐ろしくて身勝手なものだった
● 人間はこれまで技術とともに進化してきた。これからはその進化を受け入れなければならないのではないか
● ある日突然,高知能を持った生物が現れるかもしれない
いずれにしても,私達はさまざまな「進化」を受け入れていかなければいけないのではないかと思います。