2008年に「チーム・バチスタの栄光」が公開されました。もちろん原作も同名となっています。
本作品はシリーズ第三弾です。東城大学医学部付属病院の救急医療が舞台となっている作品で,ある一人の医師を中心に描かれています。もちろん前作の田口や厚労省の白鳥も登場します。
第三弾でありながら,映像化としてはチームバチスタの続編となるくらい,人気のある作品で感動しました。
一体「ジェネラル・ルージュ」とは何を意味するのか。直訳すれば「将軍の口紅」でしょうか。将軍とは誰なのか。
実は小説でのシリーズ第二弾は「ナイチンゲールの沈黙」なんですけど,この作品は,実は「ジェネラル・ルージュの凱旋」の裏のストーリーになっています。
本作品と共に読めば,深さ倍増・面白さ倍増間違いなしです。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 医師と企業の癒着
3.2 ジェネラルルージュの伝説
3.3 速水の処遇
4. この作品で学べたこと
● 「ジェネラル・ルージュ」とは何を意味するのかを知りたい
● 本作品の医師による「賄賂事件」の結末を知りたい
● 頼れる人間とはどのような人なのかを考えてみたい
桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。
それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。
病院長・高階から依頼を受けて田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査委員会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の“火喰い鳥”白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。
紅将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして,速水は病院を追われてしまうのか……。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。
-Booksデータベースより-
1⃣ 医師と企業の癒着
2⃣ ジェネラルルージュの伝説
3⃣ 速水の処遇
伝説の歌手である水落冴子がライブ中に吐血してしまいます。救急車で病院へ運ばれる冴子。
東城大学医学部付属病院のVIP病室である「ドア・トゥ・ヘブン」と呼ばれる部屋へ入院することになります。ここで登場するのが不定愁訴外来の田口です。チームバチスタシリーズの主要人物ですね。
「チームバチスタの栄光」での活躍で,田口はリスクマネジメント委員会の委員長になっていました。
そんな田口の元に,ある告発文が届きます。
「救急救命センター速水部長,医療代理店メディカル・アソシエイツと癒着している。ICUの花房師長は共犯である」速水は東城大学医学部付属病院救命救急センターの責任者。
かつて,大規模な火災事故での患者たちを迅速にさばいたことから「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれるようになった救命救急医です。
速水と田口は一応同期らしいです。今回の告発文について,病院長である高階権太とも話をし,今後の対応策を考えます。
民間人と民間企業との取引は贈収賄は罪にはならないと聞いたことありますけど,公共機関はそうではないでしょう。
ということは,大学病院という「独立行政法人」で働く人間は贈収賄が成立するということなんでしょうね。これはリスクマネジメント委員会の事案ではないということで,倫理問題審査委員会,通称エシックスに渡すということになります。
ところがこのエシックスが曲者揃いなんですね。
「チームバチスタ」の際に恥をかかせられた曳地という助教授が設立,委員長が沼田という精神科医という助教授です。
つまり,田口たちと対局にいるメンバーで構成されたのがこのエシックスなのです。
リスクマネジメント委員会 vs エシックスの構図。
告発にあった収賄について,エシックスは審議を始めます。
そして,実名で告発を受けた速水にスポットが当たります。
ところが意外にも,速水は内部告発をあっさりと認めてしまうんですね。あっけにとられた感のエシックスは,収賄の事実を認めた速水審議は不能となってしまいます。
そして今度は,リスクマネジメント委員会が審議をすることになりました。
速水晃一はリスクマネジメント委員会でも癒着の事実を認めます。
そしてとうとう辞表を提出してしまうんですね。この対応に疑問を抱いたリスクマネジメント委員会は調査を行います。
一体,速水と企業の癒着は何を意味するのでしょうか。
速水が「ジェネラル・ルージュ」と言われる理由。それは過去の出来事にあります。
本作品とは別の「ジェネラル・ルージュの伝説」で明らかになります。興味がある方は読んでみてください。
かつて,城東デパートで火災が起きました。東城大学医学部付属病院のICUに多くの患者が運び込まれてきました。
次々と運び込まれてくる重傷者たち。その対応をしていたのが当時新米医師だった速水だったのです。
速水どんどん処置で患者を手当てしていきます。しかし,病床が足りず,あっと言う間に満床になってしまうのです。
速水はこの状況で,館内放送で非常事態を宣言します。新米医師でありながら勇気を持って行動する速水。
その時の速水は恐ろい状況を目の当たりにしながら唇も青ざめていました。
新米医師の速水に看護師が言うのです。
「指揮官が青ざめていたら,部下へ弱気が伝染してしまう」
それを聞いた速水は覚悟を決め,花房が持っていた口紅を使って,速水自身が自分の唇に口紅を塗るのです。
机の上に立ち,陣頭指揮を執る速水。さらに病院のフロアも利用し,病床替わりにするのです。すべてを指示する,まさに「将軍」そのものでした。
多くの死亡者を出したものの,事態を最小限に食い止めた速水。
この事故,事件以降,速水は「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれるようになったのです。
そして時は過ぎ、ある日、その伝説を思い出させるような事態が起こるのです。桜宮バイパスで多重衝突事故が発生したのです。
バイパスの近くには石油コンビナートが存在し,この事故がコンビナートに飛び火してしまい,さらに爆発してしまいます。事態の報道をしている中,速水が登場します。速水はこの事態の陣頭指揮を買って出ます。
過去の経験からか,病院内のベッドを取り除き,フロア自体を病床替わりにするという覚悟を決めた速水。
唇にルージュを塗ります。「来い!」という言葉が聞こえてきそうです。
そしてとうとう事故に遭った患者たちがどんどん運び込まれてきました。あの「伝説となった日」のように,速水は全員を指揮下に置きます。速水の迅速な対応と決断力。口紅をつけて落ち着きを取り戻した将軍の姿が目に浮かびます。
事態は沈静化し,患者たちも回復した者はどんどん去っていきます。
速水は絶対絶命の事態の中,冷静に対処していったのです。そして徐々に病院や事態も落ち着きを取り戻すのでした。
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実は当の告発文を送ったのは速水だけではなかったのです。花房美和師長も送っていたのです。つまり告発文は2通あったということです。
花房師長は,東城大学医学部付属病院看護課にいて,次期総師長と噂される人物でした。
花房は速水の元で看護師長として働いており,実際に速水晃一にも好意を持っていました。
実は,告発文を作成したのは速水であり,好意を持っていた花房が「速水自身が告発しようとしている」ことを知って,花房自身の名前で告発文を送っていたのです。
速水は「メディカル・アソシエイツ」と癒着していました。しかしその理由は,オレンジ病棟の赤字を補填するためだったのです。つまり,私的な利益享受ではなく,あくまで病院のためだったんですね。
オレンジ病棟の運営は赤字でした。いずれオレンジ病棟が潰れてしまうと考えた速水は,オレンジ病棟を根本から見直させるために告発状を送っていたのです。
その証拠は花房が握っていました。収賄の証拠である領収書は速水が「シュレッダーにかけろ」言ってたのに,全て花房が持っていたのです。
つまり,速水が「私的な利益享受をしていなかった」証明となるわけなんですね。
ここで「チームバチスタ」でも活躍したもう一人の人物である,あの「厚生労働省大臣官房秘書課付技官」の白鳥圭輔が登場します。
相変わらず,長い肩書です。。。ホントにこんな役職あるんでしょうか。そんな白鳥はこう告げます
「速水は私的な利益を得ておらず,これは組織的収賄にあたる。告発するのならば,速水ではなく病院長である高階院長を告発することになる」
白鳥は速水を弁護するわけです。そして速水は告発を免れるのです。
辞めなくてもよくなったはずの速水でしたが,何と速水は「辞表の撤回要請を拒否」するのでした。つまり「辞める」と。
しかし速水には,北海道の「極北救命救急センター」から医師派遣要請がきていました。
高階院長は速水に極北救命救急センターへ異動することを勧めます。
結局,救急医療の現場から離れることができない運命だと悟った速水はこれを承諾し,極北救命救急センターへ派遣されることになるのです。
病院もやはり経営しているわけだから、売上が上がらなければいけないし、コストも削減したい。ドクターヘリの必要性を説く速水はそのやり玉に上げられました。でも速水のように,医療とは何のためか,誰のためにあるのかを考えてそれが必要であると訴える人も必要なのではないか。
お金ではない,それを望む人間がいればそれに応える。
それがプロであって,医療業界に限らず,どの業界も同じなのではないかと思います。
最後に起こった交通事故での速水の迅速な対応には感動しました。
緊急事態で頼りになるのは,自分で責任を取る覚悟と勇気を持った人間なのだと改めて感じます。
● 「ジェネラル・ルージュ」の意味を理解することができた
● 緊急事態,不測の事態で頼りになるのはどんな人間かを考えさせられた