久しぶりに伊坂先生の本が読みたくなって購入した作品です。
世の中には「どうもこの人とは合わないなぁ」って思う人がいると思います。
ネットなどで見るとそういう時は「距離を置く」って書かれていることがありますけど,実際には距離を置きたくてもできない人っていますよね。
それは企業であれば自分の上司や部下,学校であれば教師や他のクラスメイト。
同じ屋根の下に住む者同士であれば,自分の夫,自分の妻。あるいは兄弟などなど。
「義理の母」つまり姑というのもありがちですよね。嫁姑の関係。
本作品ではある女性が,天敵であり,なおかつ一緒に住んでいる「義理母」とのやり取りが話のメインになります。
しかしこの2人,何やらそれぞれ裏の顔を持っているようなんですよね。その設定が本作品の面白いところではないかと思います。
一体,その秘密とは何なのか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 嫁姑の闘い勃発
3.2 セツは宮子の敵なのか
3.3 宮子,大ピンチ!
4. この作品で学べたこと
● 嫁姑の問題の意外な展開を知りたい
● 主人公,宮子の正体を知りたい
● 「シーソーモンスター」の意味を考えてみたい
バブルに沸く昭和後期。一見、平凡な家庭の北山家では、元情報員の妻宮子が姑セツと熾烈な争いを繰り広げていた。(「シーソーモンスター」)
アナログに回帰した近未来。配達人の水戸は、一通の手紙をきっかけに、ある事件に巻き込まれ、因縁の相手檜山に追われる。(「スピンモンスター」)
時空を超えて繋がる二つの物語。「運命」は、変えることができるのか――。
-Booksデータベースより-
1⃣ 嫁姑の闘い勃発
2⃣ セツは宮子の敵なのか
3⃣ 宮子,大ピンチ!
本作品の時代は,日本がバブル経済で盛り上がっていた,昭和末期の頃です。
直人は製薬会社の営業を担当しています。彼には綿貫という上司がいました。直人は気に病んでいることがありました。自分の母親セツと,妻の宮子との関係です。
どうやら妻と義理母はあまりうまくいっていないようです。それを綿貫に相談していました。直人にはかつて父親がいましたが,事故で亡くなってしまっていました。
綿貫は直人にある病院の院長を紹介します。その院長が直人の父親の親友だったのです。
綿貫はそれを知っていたのか知らなかったのかわかりませんが。。。
直人は製薬会社の社員なので,医者には頭が上がらない。院長は自分の息子に病院を継ごうとしているようです。
そんなある日,直人は病院の次期院長を接待することになりました。
この院長,どうも金遣いが荒いようなんですよね。直人は不信感を持っているようです。
いろいろ調べてみると,どうも院長は保険料の水増し請求している疑いがあることがわかります。直人はその証拠を掴もうと水面下で動くことになります。
一方,直人の悩みの種である嫁姑問題。話は宮子と直人の母親との初めての顔合わせの頃に飛びます。
レストランで三人がテーブルを囲み,直人は宮子を紹介します。しかしどうも宮子と直人の母親セツの間に溝が出来てしまったような気がします。
初めての会話もスムーズにいかず,なぜうまくコミュニケーションが取れないのかを悩んでいる様子の宮子。
セツは物事の善悪をハッキリ言う女性で,宮子の発言に対して何かしら気にくわないような言葉を返します。
ん~,最初からセツは宮子を疑ってかかっているような印象が。。。
実は宮子には裏の顔がありました。情報員,スパイを本業としているようなんですね。レストランで,神経毒のやりとりがあったようで,宮子の同僚たちが張り込んでいました。
「トイレに行ってきます」と言い,宮子は敵とトイレで遭遇します。
宮子は凄腕の情報員のようです。あっという間に疑いのある工作員を拘束してしまいました。
これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた宮子としては,自分の持ち前のコミュニケーション能力をすれば義理母ともうまくやっていけると思っていたようですが,どうもそうなはならないようです。
宮子が何度もトイレに行くものだから,セツはかなり疑り深くなっているようでした。宮子はうまくやっているように思えましたが,逆にセツは不信感を持ってしまったようです。
しかし宮子にもセツに対して不信感を持つことがありました。
セツの両親がかつて不審死を遂げ,セツのかつての夫までが亡くなっていたのです。
「セツは一体何者なのか?」
宮子はセツに対して不信感を抱いていたようです。
つまりお互いが何かしら不信感を持っているようなんですね。
宮子はその真実を知りたいと思い,同僚の人間にセツの正体を探るように要請するのです。
自分の義理母を調査させる情報員なんて,あまり聞いたことないですね。この辺りが本作品の面白いところでしょうか。そんなセツを調査する宮子に,いろいろな事件が起こり始めます。
ある日,宮子は自宅の縁側にいました。洗濯物が地面に落ちていることに気づき,それを拾い上げようとした時です。
宮子の傍に植木鉢が落ちてきました。これをかわしたのか運が良かったのか,宮子に直撃はしませんでした。それだけではありません。宮子が新宿を歩いている途中,多くの人たちにぶつかられるということが起きます。
宮子を狙っている人間がいるのでしょうか。間一髪,命はとりとめます。
「これはセツの仕業ではないのか?」
義理母を疑う宮子。そしてとうとう大事件が起きます。
直人と一緒にいた宮子に,正体不明の男たちが襲ってきました。宮子は情報員で特殊部隊にいた経験がありますから,この男たちに挑みます。
ただ,直人自身はそんなことを知らないので,直人の頭に袋をかぶせ,その間に男たちと闘います。
宮子の完勝。やはり宮子は只者ではないようです。もちろん直人は何が起こったのかはわからないわけです。
セツの仕業なんでしょうか。でもセツの仕業なら,直人と一緒にいる時を狙わないような気がしますよね。別の人間なのかな?
一方,直人は自分が担当している院長の保険料水増しの証拠を掴みました。それを突き付けようとした時,直人は何者かに襲われ拉致されてしまいます。気が付いた直人の目の前には上司の綿貫がいました。
そうなんです。実は保険料水増しは綿貫の指示だったのです。それで見返りを貰っていたわけですね。
綿貫は直人に「遺書」を書かせようとします。つまり綿貫は直人に自殺させようとしているわけです。
綿貫は直人に電話をするように言います。宮子に対して。そしてセツに感謝の気持ちを伝えようとします。
「今,どこにいるの?」
もちろん偽装自殺の最後の電話だとは言えない直人は,いつものような会話をするのです。
「何か,怪しい」と感じた宮子。仲間に,直人の居場所を突き止めるように指示します。果たして,宮子は直人を救うことができるのか。
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宮子たちは直人の電話の逆探知に成功します。そして宮子は直人と,彼を拉致した男たちの前に現れます。
しかし相手は体格のいい男たちです。宮子は闘いを挑むも逆に大ピンチに陥ります。多勢に無勢の状況下にあった宮子。そこに助っ人が現れるのです。
それは「セツ」でした。どうやってセツはこの場所を知ったのか。いや,セツは大丈夫なのか。
セツは宮子とタッグを組んで,屈強な男どもをやっつけてしまったのです。嫁姑の勝利。
一体,どうなってんの???セツの正体。実はセツ自身もかつて「特殊部隊」にいた経験があったのでした。
意外なことに宮子とセツは「水と油」くらいの違いがあるのかと思いきや,実は同業者だったんですね。
過去にセツの両親やセツの夫が亡くなったのは,セツに恨みを持つ工作員によるものだったことも判明します。
なるほど,やはりセツは関係なかったんですね。しかもセツは宮子が情報員であることを知っていました。初めてレストランで直人の恋人として現れた日,宮子がトイレに行くと言って裏で敵を拘束したのも,セツにはお見通しだったのでした。
セツは「自分の息子を護ることができる女性なのか」を試していたのかもしれません。
そんなことを知らなかった宮子はセツに対して同情しているようでした。
これまで苦悩しながら,大切な息子を育ててきたセツ。
少しずつではありますが,宮子はセツと距離が近くなっていくのを感じているようでした。直人は自分の妻と母親が共闘している姿をおぼろげながらにみていたようです。
宮子は「何かの間違いじゃないの?」と夫に言うのでした。
話の冒頭から嫁姑の問題かと思いきや,実は嫁には別の顔があるというのを知ったあたりから一気読みでした。
完全に伊坂ワールドにのめり込んでいるのを感じました。
宮子のセツに対する先入観は,そのまま読者の説に対する先入観に直結していたわけです。
宮子の視点に立っていた自分が,最後はセツの視点を知ることになるのです。
物事には,人によって捉え方も異なることがあると思います。
自分中心で見れば「悪」と思えることも,他人の視点ではそれも「悪」に映ることがある。
一方の話を聞けば「それは良くないねぇ」って思うことも,もう片方の話を聞けば「ん? これはどうなのか?」って感じることもあるということでしょう。
シーソーという言葉が腑に落ちます。
以前「シッダールタ」という本を読んだときに「人間とは善と悪の両方を持つ生き物である」という言葉を思い出しました。
実はこの「シーソーモンスター」
後半は「スピンモンスター」という,シーソーモンスターから数十年後の未来の作品になっています。
そこにシーソーモンスターのある人物が登場してくるので,2倍楽しめる作品になっています。
興味のある方は是非「スピンモンスター」も読んでみてほしいと思います。
● 嫁姑問題かと思いきや,裏の顔を持つ2人の話だった
● 物事は見る角度によって異なって見えることがある
● 人の善悪というものを簡単に判断することはできない