今から数十年前,僕は大学生になって初めて経験したアルバイトがコンビニでした。レジ打ちはもちろん,商品を補充したり,奥にある商品を前に出す「前出し」や「フェイスアップ」(ラベルを正面に向ける),フロアの掃除などなど,コンビニでもやることはたくさんあります。
バイト同士で引き継ぎしたとき,お金が合わなければ銀行みたいにその原因を探ったり,いちゃもんをつけてくる客対応をしたり,意外と大変だったかなと思います。
飲み屋街に近い場所だったので,酔った人を相手にしたこともありました。徐々に慣れましたけど。
約3年間続けました。よく続けた方かなと思います。
そんな僕が興味を持って買ったのが「コンビニ人間」でした。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 本作品 3つのポイント
3.1 コンビニで働く理由
3.2 社会不適合者??
3.3 自分に合った仕事を選ぶ
4. この作品で学べたこと
● コンビニの仕事に興味がある,あるいは実際に経験したことがある
● 将来やりたい仕事が何か,探している
● 自分に合った仕事を見つける上で,大切なことを知りたい
「普通」とは何か? 現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。
-Booksデータベースより-
作者は村田沙耶香さんで,2016年芥川賞受賞作です。
1979年生まれ 玉川大学文学部卒業
小説を描くため,実際にコンビニでアルバイトを経験
主な受賞歴
群像新人文学賞(授乳)・野間文芸新人賞(ギンイロノウタ)・三島由紀夫賞(しろいろの街の、その骨の体温の)・芥川龍之介賞(コンビニ人間)
この作品は本当に興味があり,「うんうん,やっぱりそうだよなぁ」って納得させられることもありました。
コンビニバイト経験者には特におすすめです!
1⃣ コンビニで働く理由
2⃣ 社会不適合者??
3⃣ 自分に合った仕事を
主人公の古倉恵子は,コンビニで18年アルバイトをしています。
それまでの人生の半分はコンビニのアルバイトで,正社員として働くこともなく過ごしてきました。ということは36歳です。恵子は幼い頃から変わった人間だと思われて,家族からも心配されながら生きてきました。
小鳥の死骸を焼いて食べようとしたり,友達にスコップで殴りかかろうとしたり,思ったことをすぐに実践してしまう人だったからです。
つまり,感情による自制心がないんですね。
親からも「この娘は大丈夫だろうか。いつか治るんだろうか」って思われてたわけです。次第にそれを察した恵子も周囲との距離を置くようになります。
他人から変わっている人間と思われていることが嫌だったんでしょうね。
しかし,彼女も大学一年生になって,スマイルマートというコンビニに採用されるのです。
ん~,自分と同じ境遇なんでやっぱり共感できるなぁ。
ほとんどの仕事にマニュアルがあって,基本的にはその通りに仕事をこなせばいいという,恵子はようやく自分に合った仕事を手に入れた気分になるわけです。それから18年。彼女は独身で,コンビニバイト生なんです。
親からも「いい年なんだから早く結婚してほしい」というようなことを思われながらもコンビニでバイトを続ける恵子。
確かに36歳独身でコンビニバイトというのは,普通に考えたら正直「どうなんだろう」って,思う人も多いでしょう。
でも,彼女はアルバイトで褒められることに喜びを感じていました。
先にも書いたようにコンビニのバイトって,ある程度はやることは決まっています。
マニュアル通りに動くことができるコンビニという仕事に恵子はやりがいを見出したのでしょう。ただ,コンビニという仕事がそれほど難しい仕事ではないからうまくいっている,ということを暗に言っているようにも感じました。
それは作者の考えではなく,世間一般的な考えという印象です。
「変わっている」から正社員として普通の仕事に就けない。
では「普通の仕事」って何なのだろうかとも思います。
正社員として働けない人を「社会不適合者」と呼ぶのでしょうか。18年間もコンビニバイトを続けている恵子は社会不適合者なのでしょうか?
恵子は,周りが望むことをやっている,社会適合者のふりを無理やり演じている,という印象を受けました。
そこにも恵子の苦悩や生きづらさが伝わってきます。
読みながら思ったのは,世の中には能力がある者とない者,向いている仕事,向いていない仕事など,いろいろあるということです。
もちろん,自分が憧れる仕事に就きたいという人もいるでしょう。
それはとても良いことだと思うし,実現できれば幸せなことなんだと思います。
でも実際には,やってみないと分からない。入ってみないとわからない。
企業のホームページや求人票を見て「とても良さそうな会社だな」って思ったとしても,結局入社してみないとその良さというのはわからないと思います。僕自身も学生に就職指導しながら,いつもそう言っています。
働いてみると「自分に合わないなぁ」って思うこともあるだろうし,何よりも職場の人間関係の方が実は重要だったりするんじゃないかな。
最近ではパワハラ,セクハラ,モラハラなどもあるし。
我慢しながら働いている人の方が意外と多いんじゃないかと思います。
では,古倉はどうなんでしょうか。
彼女はコンビニの店員に向いていたのだと思います。
コンビニのアルバイトが古倉の能力を活かせる場所であって,仕事というのはそこにやりがいを感じることができるか,というところにあると思います。
決められたレールなんてのはそれぞれの人間の価値観によるものだと思います。
自分が輝いていられる場所を見つけて,そこで活躍することの方が何よりも大切なのではないでしょうか。渡辺和子さんの著書「置かれた場所で咲きなさい」という本を思い出しました。
自分に合っている,やりたいと思える仕事をやってみればいいと思うのです。
もちろん仕事をしていれば嫌なことも少なからずあるとは思います。
でも,合わない仕事をやってストレスを抱えて働くよりも,自分に合っている,自分の本当にやりたい仕事をすることの方が幸せなのではないでしょうか。
恵子のように18年間続けられたということは,「合っていた」ということではないでしょうか。
● 仕事によっては「社会不適合者がやるもの」と思い込んでいる人がいる
● 自分がやりたい,自分に合うと思える仕事をまず選んでみるべき
● 自分に合うか合わないかは,実際に継続してみないと分からない
この仕事が自分には天職だ! と思って生きている方は正直,うらやましいです。
古倉は「置かれた場所でずっと咲き続けている花」なんだと思います。