2020年に発刊された本作品。文庫本になってようやく読むことができました。
やはり有名な作家さんの作品って,実際に文庫本になるまでに3年くらいはかかるんですね。
ずっと気になってました。「クスノキの番人」ってどんな作品なんだろう。
読んだ感想は『伝える』ということを考えさせられる一作だったということです。
みなさんは誰かに伝えたいことありますか?
伝えずに心残りになっていることはありませんか?
直接話すのか,手紙で伝えるのか,LINEで伝えるのか。
いろいろ手段はありますが,本作品の「クスノキ」の役割にはとても感動するはずです。残りの人生をどう過ごしていくのか。
本当に考えさせられる作品でした。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 「クスノキの番人」の玲斗
3.2 佐治が祈念する理由
3.3 クスノキの役割
4. この作品で学べたこと
● 「クスノキの番人」の意味を知りたい
● 自分に与えられた使命について考えてみたい
● 誰かに何かを遺すことについて考えてみたい
恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。
-Booksデータベースより-
直井玲斗・・・主人公。千舟に言われ,「クスノキの番人」となる
柳澤千舟・・・玲斗の伯母。ヤナッツコーポレーションの顧問
直井美千惠・・玲斗の母親。千舟の異母妹
佐治寿明・・・クスノキで祈念する男性
佐治優美・・・寿明の娘。父親を怪しんでいる
佐治喜久夫・・寿明の兄で,すでに亡くなっている
柳澤将和・・・ヤナッツコーポレーションの社長
1⃣ クスノキの番人の玲斗
2⃣ 佐治が祈念する理由
3⃣ クスノキの役割
主人公の直井玲斗は「トヨダ工機」というリサイクル企業で働いていました。ある日,自分の会社が製造した商品に欠陥があるということを知り,客にそのことを話してしまいます。
これに怒った直井の上司は不当解雇されてしまいました。正直に言ったのになぜ自分が辞めさせなければならないのか。。。
そして玲斗は復讐しようと,夜中にトヨダ工機に忍び込み,退職金を盗もうとしますが,セキュリティの網に引っ掛かり,捕まってしまいます。現行犯逮捕で言い逃れができない玲斗は刑務所行き確定なんですけど,自分の祖母の富美から依頼された岩本弁護士がやってきます。そして手紙を渡されます。
「自由の身になりたいなら、釈放されたあと私のところに来なさい。そして命令に従うこと」
一体,誰がこの手紙を書いたのか。玲斗はしょうがなくこれに従います。何か大きな力を持った人物の手紙なのか,留置所から解放されるのです。
そして指定された場所に向かうとある人物がいました。玲斗の伯母の柳澤千舟でした。
千舟とは玲斗が幼い頃に会っただけで,玲斗は見覚えありませんが,伯母の言うことに従うしかありません。柳澤家は元々林業をしていた大地主で,千舟の祖父から建築業や不動産業,今ではヤナッセコーポレーションというグループに発展していました。
玲斗の母親は直井美千恵と言い,すでに亡くなっています。祖母である富美の実の娘ではありますが,千舟は富美の娘ではありません。
つまり,千舟と美千恵は異母姉妹だったんですね。何かここに大きな因縁がありそうですが,千舟は何も言わず,玲斗を受け入れるのです。
千舟が留置所からの解放と引き換えに出した条件こそが「クスノキの番人」でした。
この巨大なクスノキの番人とは一体何なのでしょうか。
玲斗は,柳澤家の敷地のある一角にある月郷神社の社務室で寝泊まりする事になります。
クスノキには大きな穴が開いていて,大人でも通ることができる洞窟のような空間がありました。どうやら,この空間に多くの人々がやってきて,何かをお祈りをするらしいのです。ただのお祈りではなさそうです。
このクスノキにはルールがあって,昼間は誰でも自由に入ることはできるんですけど,夜は予約が必要で,しかも誰かがお祈りしている間は誰も,番人である人間でさえも近づいてはならないようなのです。
益々謎が深まるクスノキの存在に引き込まれます。
ある日,時々予約して訪れる佐治寿明という男性がいました。彼はクスノキの中で一体何を祈っているのか。佐治の娘である優美がやってきます。どうも優美は父親の行動を怪しんでいるようで,後を付けてきたみたいですね。
しかも,佐治は女性の家にも時々言っているようです。ん~,確かに怪しい。。。愛人か?
玲斗は多くの人々を案内するたびに何かに気づいたようです。
それは「お祈り」自体が,新月と満月の夜に行われることが多いことでした。
しかも,新月の夜に来る人と満月の夜に来る人が異なっているのです。これは何を意味するのか。。。後でわかりますが,実はこの「2つの夜」には意味があります。千舟にそのことを聞くんですけど「いずれわかります」と,うまくごまかされます。
先に書いたように,千舟は「ヤナッセコーポレーション」の顧問でもあります。
先代からの遺志を受け継ぎ「ホテル柳澤」を中心とした大きなグループへの発展に寄与した人物でもありました。
その千舟にも2つ悩みがありました。一つは取締役会で,千舟自身が顧問という立場から解任させられるということ,そしてもう一つは「ホテル柳澤」を廃止し,新たなホテルを作ろうという動きがあることでした。例え自分自身が解任されたとしても「ホテル柳澤」だけは存続させたいと思っている千舟にとっては辛い選択を迫られていました。
千舟が「クスノキの番人」を玲斗に譲ったことに関係あるのでしょうか。
ある日,玲斗がパソコンで「祈念記録」を入力しながら,新月・満月の夜の意味を考えていました。
いろいろ考えながら作業している途中に,今から5年前「佐治喜久夫」の名前が登録されているのを見つけます。あの「佐治」と関係ありそうですね。案の定,美優に聞いてみるとそれは父親である寿明のの兄であることがわかります。
しかし,この喜久夫はすでに亡くなっていました。かつて介護施設にいたことがあり,その施設で亡くなったらしいのです。
そこで玲斗は美優と一緒に,佐治喜久夫について調査を始めます。介護施設へ行き,二人は予想外の事実を聞くことになります。
喜久夫は,実は重度の「アルコール依存症」になっていました。
10年前に介護施設に入居した時は精神は安定していたようなんですけど,徐々に糖尿病が進行し,肝硬変までも患っていたようです。そして重要な証言を聞き出します。何と喜久夫は5年前に一度だけ「クスノキ祈念」のため外出していたことを聞き出します。
一体,喜久夫は何を祈念していたのか。
美優の中ではやはり父親が会っている女性のことが気になっているようです。
美優に勧められ,玲斗はクスノキの事を知るため、二人は佐治が何を念じているのか探ろうと決意します。
そんなことがバレたら千舟に怒られそうですが,佐治が祈念にやってきたときのために「盗聴器」を仕掛けるのです。
「ふん,ふん,ふー」佐治はクスノキの中で,何やら歌を口ずさんでいるようなんですよね。どういうことなんでしょう?さらに怪しむ優美ですが,とうとう盗聴器が仕掛けられていることがバレてしまいます。
バレた玲斗たちは開き直り「この女は誰なのか、喜久夫さんと何か関係があるのか」と聞きます。
観念した様子の佐治は,過去のことについて語りだします。
喜久夫は長男で,勉強も出来る少年だったようです。ある日,喜久夫の母親は「ピアノの才能がある」と気付くのです。喜久夫はその才能を開花させ,母親は音楽の道に進ませようします。しかし,当の喜久夫はあまり気が乗らないようでした。
喜久夫は「自分がピアノを好きでやっているのか、やらなくちゃいけないのか分からなくなっている」と弟の寿明(佐治)にも伝えます。
一方,寿明にはそんな才能もないし,勉強もできない。兄の喜久夫に嫉妬しているようでした。
そして半信半疑のまま,喜久夫は音大に進み,作曲家を目指し学生寮で暮らし始めるのです。
ところが喜久夫はどういうわけか勝手に大学を退学し,何と役者を目指していました。
寿明にとっては,両親の関心は長男の喜久夫にあり,何の取り柄もない自分に嫌気がさしていたようです。そして寿明は結婚します。美優が生まれた頃,喜久夫と寿明の父親が亡くなってしまいます。
父親の葬儀にも帰ってこなかった喜久夫。寿明は怒りを感じますが,ここで意外な事実を知ることになります。
喜久夫は重度のアルコール中毒で入院していると知らされたのです。これが喜久夫,そして寿明の過去でした。
現在,母親は認知症となってしまい,介護施設に入ることになりました。佐治は「クスノキに預けました。受け取ってください」と喜久夫から母親宛の開封されていなかった手紙を発見します。
ここでクスノキの意味がようやく判明します。クスノキの役割とは一体何なのでしょうか。
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「新月の夜に念を預ける人の事を『預念者』、満月の夜にそれを受け取ることができる血縁関係を『受念者』といいます」
なるほど,だから新月と満月にはそれぞれ意味があり,やってくる人も血縁関係である異なる人物だったんですね。
喜久夫は自分の母親に「受念」してもるつもりでしたが,血縁者である佐治自身も受念できると知りそれを望んだのです。
料金は蝋燭代だけであり受念する方法は相手のことを思うだけでいいと説明されます。
佐治が受念したもの。それは「ピアノの音色」でした。
受念しながら不思議と鍵盤が見え,喜久夫がピアノを弾いている姿と想いが伝わってきます。佐治は,喜久夫が母親に感謝の気持ちを持っていることを知ります。
ピアノを辞め,さらに音大を勝手に退学し,さらにアルコール依存症にまでなってしまった喜久夫を最後まで見捨てずに看病してくれた母親。
喜久夫は後悔していたようです。ピアノを辞めてしまったことに。
「楽しく弾いていた頃に戻りピアノを母親に聞かせたい」佐治は母親に聞かせるために何度も「受念」に来ては鼻歌をスマートフォンで録画していたのです。
しかし,佐治の力では喜久夫が伝えたかった音楽が実現できない。
そこでそれを本当の音楽にすることが佐治の目的でした。つまり,佐治が会っていた女性はピアノの講師だったのですね。
怪しんでいた優美は本当のことを知り,何か力になれないかと考えます。よく考えれば優美も喜久夫の血縁関係です。そう,今度は優美自身が満月のよるに受念することにするのです。
そしてとうとう曲が完成します。佐治と優美は玲斗と千舟を連れ,佐治の母親が入居している介護施設に向かいます。
演奏が始まると母親は反応します。「喜久夫のピアノ」と繰り返しながら涙を流していました。
その姿を見ていた玲斗は言うのです。
「忘れるってそんな悪いことじゃないかもしれませんよ。覚えていなくてもいいじゃないですか」
一方,玲斗は前に番人をしなくていいと言われた事がありました。しかし玲斗は直感します。
千舟が自分に何かを残そうと「預念」したのではないか。そして玲斗は密かにその想いを「受念」したのです。
ここで役員会議での話に飛びます。顧問を降ろされることになっていた千舟。玲斗は,千舟自身が顧問を自ら降りると伝えていた事を受念により知ります。
玲斗は役員会議に入っていきます。忘れものを届けるフリをして。
顧問の解任が決定し千舟は出て行こうとしますが玲斗は役員の前で言うのです。「念がきれてもいいのですか」と。
あなた方が自分の色を出すためにやってきたのはすべて千舟の知恵に影響されてのこと、それほどの功績をなかったことにしようとしている。
功労者が残した功績を消すのが賢明なのですか
それを聞いた千舟は「帰りましょう」と言って玲斗とともに部屋を出て行きます。
実は玲斗は受念により気づいていました。千舟自身も「認知症」を患っていることに。顧問を退任したのも認知症が原因で、謝恩会のあとに行なわれるはずだった役員会を忘れてしまたのも認知症の症状でした。
役員会で「ホテル柳澤」を救うチャンスを永遠の手で失ってしまったことに自責の念を感じていたのです。
そもそも千舟が「クスノキの番人」を継承しようとした理由。
それは,母親は違うが,唯一の妹に姉らしい事をしてやれなかった事を悔やんでいたからでした。
千舟は富美から「玲斗が警察に捕まった」ことを知って、美千恵にしてやれなかった事をするべきだと思ったようです。
美千恵に謝りたかったんでしょうね。その償いが後継者を玲斗にすること。
実は千舟は旅に出るつもり,と言いながら,自ら命を絶つつもりでした。
しかしその事も玲斗は受念で感じ取っていました。
「絶望の世界ではないはず、どんな千舟さんでも自分は受け入れます」そして「ホテル柳澤」の存続が決定していました。何かしらの念が社長をはじめとする取締役に通じたのでしょう。
親の期待が大きすぎてストレスを抱えてしまい体を壊してしまうこともあるとは思います。
でも親だからわかることもあるんですよね。子供にとって何が一番良いのか,向いているのか。
本作品を読んで,いろいろなこと考えさせられました。
僕自身も「受念」したことはあります。それは昔であれば,転校して離れ離れになった人たちの想い,亡くなった祖父や祖母の気持ち。
そして,まだこれからというのに若くして亡くなった同級生。
一体,何を思って残りの余生を過ごしていたのか。
本作品はある意味ファンタジー的な部分もありますが,何か「生きている間にできることがあるのではないか。知るべきことがあるのではないか」と考えさせてくれます。
そうならないように,今生きているうちにできるだけ多くの人と関わっていた方がよい。
特に,僕自身の両親は幸いまだ健在です。でも以前より力も衰えているし,少々認知症も患っています。
今のうちにできるだけ会って,目の前で伝えられることもあるのではないかなと思います。
話したことを忘れられてしまうことがあっても。伝えることだけは続けていきたいです。
● 「クスノキの番人」の役割
● 人に伝えるべき想いは早く伝えておいた方がよい
● 後悔しない人生を送りたい