一度亡くなったはずの人間が,急に意識を取り戻したらどうなるか。
もし本当にそんなことが起こったら誰でも驚きますよね。僕自身にとってはもちろん目の前でそんなことが起こったことはないです。
でもそれに近い経験をされたことがある方もいるかもしれませんね。
死者の魂って本当にあるのだろうか,亡くなったらどこへ行くのだろうか。そんなことを考えさせられる作品でした。
かつて亡くなった小林真という青年。あの世?にいる天使のプラプラが,主人公であり,亡くなった魂である「ぼく」を小林真の身体に乗り移らせます。危篤状態だった真の体を使って「ぼく」は生き返るのです。そして小林真として生きることになります。
生き返った真がなぜ自殺しなければならなかったのか。乗り移った「ぼく」が真実に迫るという,なかなか面白い設定の作品になっています。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 死者に乗り移るという挑戦
3.2 家族の思いを知る真
3.3 「カラフル」とは
4. この作品で学べたこと
● 生きていくのが苦しいと感じている
● 生きる勇気を与えてほしいと考えている
● 「カラフル」の意味を知りたい
老若男女に読み継がれる、不朽の名作。 生前の罪により輪廻のサイクルから外されたぼくの魂が天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。 真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになる……。 実写映画、アニメにもなった、累計100万部突破の青春小説! 解説・阿川佐和子
-Booksデータベースより-
ぼく・・主人公。かつて亡くなった魂?
プラプラ・・・「亡くなった人間」に死者を案内する天使
小林真・・・・睡眠薬で自殺を図った少年。「ぼく」が乗り移る
桑原ひろか・・真の後輩。
佐野唱子・・・真の同級生で美術部員
1⃣ 死者に乗り移るという挑戦
2⃣ 家族の思いを知る
3⃣ 「カラフル」とは
「おめでとうございます。抽選に当たりました!」そんなことを言うのは天使の「プラプラ」でした。何の抽選かというと,すでに亡くなっていた「ぼく」が,他人の体に乗り移って生きることができるというのです。
半信半疑ながらも「ぼく」は小林真に乗り移ることにするのです。プラプラはこれを「ホームステイ」と呼んでます。小林真の中に住むということなのでしょう。
転生輪廻って本当にあるんでしょうか。
「人が何度も生死を繰り返し,新しい生命に生まれ変わるということ」あまり深くは考えたことはありませんが,ないとは言えないですよね。
小林真は3日前に服薬自殺をしていました。現在危篤状態の真。
そして「ぼく」がホームステイを決断した瞬間,真は生き返るのです。大喜びの真の両親たち。
(ここから「ぼく」は「小林真」として表現します)
真は「なぜ自分が自殺してしまったのか」不思議に思います。プラプラは真の家族の説明をします。
父親は自分さえよければよいという利己的な人間,母親はフラメンコ教室の講師と不倫をしていました。
真には兄の満もいましたが,無神経の意地悪男で,真と会えば真の低い身長のことを言う。
プラプラの言うことが本当なら,真の育っていた環境は最悪なものでした。中学生である真には友人がいました。桑原ひろかという女性です。ひろかは真の初恋の相手でもありました。
ただプラプラの情報だと,ひろかは中年男とラブホテルに入ったりしていました。この辺りに真の事件が絡んでいるのでしょうか。
必要以上に警戒心を持って生きている真。周りの人間の素性を知るうちに不信感でいっぱいになってきます。
ただ一人だけ,真の「変化」を敏感に感じている女性がいました。真は美術部員だったようです。同じ美術部員に佐野唱子という女性がいて,真の変化に違和感を感じているようです。
「最近,何かあった?」みたいな感じで。唱子と真の関係もかなり気になります。
登場するさまざまな人物の関係がわかり,ここから徐々に深い部分に入っていきます。
真は高校受験を控えていました。高3で,公立へ行くのか私立にするのか考えていたようです。
両親だけでなく,担任の先生も心配しているようでした。一度,生き返った真に対し,慎重に接しているようです。両親は真の自殺の原因が受験にあると思ったのでしょうか。
「俺,公立受けるから。自殺の原因,受験じゃないし」と真琴は告げます。さらに,
「フラメンコの先生,元気?」
と母親の心をえぐるようなことも話し出すのです。真は,すべてに対して不満を持っているようでした。自分の生きている環境は最悪だ。何も考えたくない。そんな真の気持ちがわかるような気がしますが,プラプラからは
「お前は家族をぶち壊す気か?」
と責められてしまいます。何もかもが投げやりになっている感じの真。徐々にに無気力になっていく真。
真はプラプラに「再挑戦を辞退したい」と話しますが,どうやら辞退はできないようです。
辞退したい真というよりは,乗り移った「ぼく」という人物は真そのもののようにも思えました。完全に真になり切っているような。。。
いろんなことに嫌気がさし,野宿を決め込んでいた誠に事件が起きます。真が公園にいたところを,何者かに襲われたのです。数人の黒い影が見えます。物取りか?
真は頭を殴られ,財布も取られ,さらには大事にしていた高価なスニーカーまでも取られてしまうのです。踏んだり蹴ったりの真。そこに助けが現れます。兄の満でした。あれだけ嫌味を言っていた兄が真を助けたのには驚きました。
母親からも手紙を受け取ります。フラメンコ講師と不倫をしたことに対する謝罪の手紙でした。「あなたを傷つけた罪は,永遠に持ち続けていくつもりです」と。
父親は真を川釣りに誘います。「穴場の,いい清流の川があるんだ」
そして父親は話し出すのです。「あの頃,父さんが一番参っていた頃の話。弱音を吐きたくなかったから言わなかったが,結局かっこつけてただけかもしれない。真が自殺を図った時,すごく後悔したんだ。もっといろんなことを話しておけばよかった」
子供の前では弱音は出したくない。僕自身も仕事で我慢しすぎてしまって体を壊してしまったことを思い出しました。
そして,自分の両親もそうやって踏ん張って生きてたのかなって。
でも弱音を吐いたっていいんですよね。そう教えられている気持ちになりました。
真は両親や兄と接し,彼らが意外と自分のことを考えてくれていることに気づきます。
もちろん,一度亡くなったと宣告されているわけですから,気を遣っている部分もあるでしょう。
でも身近な「死」というものを経験したことで,家族の真に対する考え方も変化しているように思いました。
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ある日,医大を目指していたはずの兄の満が,医大を諦めると言います。
なぜあれだけ一生懸命医大のために勉強してきたことを放棄するのか,疑問に思う真。
「まさか,自分のせいか?」真は兄に言い寄ります。そして満は言うのです。
「頭悪くて,いくじなしで,病的な内弁慶で,友達もできない弟。14年間もまったく目が離せなかった弟がある日突然ベッドの上で死にかけていた。どんな気分になるか考えろ」真の父親,母親,兄の満の話を聞いて思うのは,みんな真のことを心配していたんだなということです。
真は自分のことしか考えてなかった。でも周りはとても心配していた。
真は家族の話を,本当の「小林真」に聞かせてやりたかったって思うのです。
真は,小林家にあった「黒」のイメージが,徐々に実は多彩な色があったのだと感じるようになるのです。
それが「カラフル」という言葉なのでしょう。家族が真に対して話している言葉は「ぼく」に対してではない。そして「ぼく」が家族に対して話していること,思っていることは本当の家族に対してではない。
「ぼく」はプラプラに「この家の人たちに本物の真を返してやりたい」と話すのです。
プラプラは真に「前世での過ちを24時間以内に思い出せば,元の『ぼく』,つまり輪廻のサイクルに戻れる」ということを話します。ん? どういうことだ? 必死で考える「ぼく」。そして美術室に向かうのです。そこで唱子と会います。
「真はすごく変わったけど,根っこのところは変わっていない。絵も,色使い,筆のタッチなど変わっていない」というのです。
どんな絵を描くかというのは,ある意味指紋のようなもので,描いている人物特有のもののはずですよね。
なるほど,それは僕自身も薄々は考えていたことでした。ひょっとしたら「ぼく=小林真」なのではないかと。「なるほど,真は『ぼく本人』だったのだな」と真は気づいたのでした。
つまり「ぼく」の過ちは,「自分で自分を殺してしまったこと」だったのです。
「ぼく」という魂は真の魂だったと気づいたのです。そして,再挑戦に成功した瞬間でもありました。
これで本当の意味で,小林真は新しい人生を歩んでいくのでした。
世の中には自分のことで苦しんで,最悪の決断を下してしまう方もいます。本当に残念なことですが,「苦しい」という気持ちは僕にもよくわかります。
かつて僕自身も精神疾患になって「生きているのがキツいな」って思ったこともありますから。
不安とか悩みというのはずっと続くわけではないと思います。
でも苦しい時って先が真っ暗にしか思えないから「いつか夜も明けて日が昇る」とか「今が一番苦しいどん底で,あとは上がるしかないから大丈夫」って言われても納得できないことがあると思います。苦しい時期の,苦しんでいる本人からすれば「何言ってるんだ,そんなこと思えるわけないよ,楽になりたいよ」って思うんですよね。
僕自身,何度もそれを経験しましたから本当によくわかります。
本作品は「他人の体に乗り移る」というストーリーでした。一見,ファンタジーのような作品にも思えます。
しかし,他人の体に乗り移ったら,ひょっとすればこれまで以上に堂々と,恐れることなく,自信を持って行動するかもしれない。
「客観的に自分のことを見る」というのは,実はこういうことではないかと思いました。自分の行動を,あたかも他人の行動として客観視するということ。それはとても難しいことだとは思います。
「ホームステイだと思えばいいのです」プラプラの言葉が身に沁みます。
難しいですが,これが「カラフル」から,そして作者からのメッセージのような気もします。
同時に,本作品は「命の大切さ」を教えてくれたような気がします。
残された者の気持ちを考えたことはあるか。苦しい時はそこから逃げ出したくて,考えることも難しいとは思いますが。。。
生きていれば何かいいことがあると信じて行動できるのではないか。そんなことを考えさせてくれました。
勇気を出して生きよう!背中を後押ししてくれる作品でした。すばらしい作品です。
● 苦しい時に「自分を客観視」することで,少しは楽になれるかもしれない
● なぜ自分自身を殺めてはいけないのかを考えさせてくれる
● 勇気を出して,もう一歩進んでみようと思う気持ちが湧いてきた