2010年に発刊された本作品。「カッコウの卵」という言葉を聞いて,ピンときた言葉がありました。それはカッコウという鳥が「托卵」と呼ばれる育て方をするということです。
ここを深堀りしてしまうと完全にネタバレになってしまうのですが,本作品はある人物の出生に焦点があたっています。その真相な何なのか。早く知りたくて一気読みしました。
本作品は2016年にWOWWOWでドラマ化されています。主演が土屋太鳳さん,伊原剛志さん。ドラマ自体は観ていませんが,原作が面白かったので観てみたい気がします。
人間の奥深い部分にも踏み込んでいる作品なので,是非読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 風美に対する脅迫状
3.2 宏昌の前に現れた男性
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● 「カッコウの卵」とは何を意味するのか知りたい
● 主人公の出生の秘密を知りたい
● 遺伝子について興味がある方
スキーの元日本代表・緋田には、同じくスキーヤーの娘・風美がいる。母親の智代は、風美が2歳になる前に自殺していた。緋田は、智代の遺品から流産の事実を知る。では、風美の出生は? そんななか、緋田父子の遺伝子についてスポーツ医学的研究の要請が……。さらに、風美の競技出場を妨害する脅迫状が届く。複雑にもつれた殺意……。超人気作家の意欲作!
-Booksデータベースより-
1⃣ 風美に対する脅迫状
2⃣ 宏昌の前に現れた男性
3⃣ 本作品の考察
緋田宏昌は元オリンピックのスキー日本代表選手です。彼には智代という妻がいました。日本代表なので,世界の大会を転々とする宏昌は,家に長期間帰ってこないことも度々ありました。
智代は妊娠していました。宏昌は生まれてくる子供に風美と名付けようとしていました。宏昌は競技から引退することを考えているようです。そして「スキーはこの子に任せるかな」と智代に話します。風美が無事に生まれ,宏昌は風美がかわいくてしょうがないようでした。
ところが妻の智代は元気がない。育児ノイローゼかもしれないと宏昌は思うのです。指導者として仕事を始めた宏昌に,とんでもないことが起きます。スキーの合宿に帯同していた時,智代が自宅のベランダから転落という連絡を受けたのです。
遺書はありませんでしたが,自宅内が整理されているところから,警察からは自殺と断定されます。あまりのショックに声を失う宏昌。これから風美を一人で育てていかなければならないということで,宏昌は指導者という仕事を辞め,スポーツクラブに再就職します。そして,風美をスキーヤーとして育てることを決心するのです。そしてメキメキと実力をつける風美。
ある日,宏昌はある新聞記事を目にします。
『新潟の病院で新生児不明。夕食の準備で看護師気づかず』
この事件が起こった日というのが,風美が生まれた日ととても近かった。このことを宏昌は気にしています。実は智代は母乳が出ない体質だったようです。しかも,智代は流産していことも明らかになります。
宏昌は確信します。風美は自分の子供ではないと。そして智代がこの事件に絡んでいるのではないか。宏昌の気持ちはそこから離れなくなってしまうのでした。
では,行方不明の新生児の両親は誰なのか。記事によると、父親は上条伸行という人物で、建設会社の社長をしているようです。この人物が風美の本当の父親なのだろうか。
ある日「新世開発スポーツ科学研究所」の柚木洋輔という人物から、宏昌と娘の風美の遺伝子を調べたいと頼まれます。宏昌はそれを断ろうとします。当然,宏昌は風美と血が繋がっていないと確信しているようですから。
遺伝子にはいろいろなパターンがあるようです。
スポーツ遺伝子について
運動能力と遺伝の関係については、1970年代から欧州でおこなわれている「双子研究」が知られており、最近も「運動能力の66%は遺伝要因で決まる」という研究成果が報告されました。
双子を対象とした疫学研究において、持久系の運動能力の約50%は遺伝要因の影響を受けること、さらに父親よりも母親の遺伝の影響を受けるとされています。
例えば、瞬発系の能力に関連する「F」タイプは持久系の能力に関連する「G」タイプよりミトコンドリアの機能が低く、糖尿病になる人が多い可能性を発表しています。その代わり酸素を使わないでエネルギーを産生するシステムが発達しており、瞬発系に強い。
-順天堂大学サイトより-
本作品にもこの「Fパターン」「Gパターン」という言葉が登場します。これを調べたいというのです。上記にあるように,Fパターン=持久系,Gパターン=瞬発系となります。
どういう意図で,柚木は風美の遺伝子に興味を持ったのか。単純に,スポーツ遺伝子のためだけなのか。。。
ここで風美の所属する新世開発スキー部に,脅迫状が届きます。
新世開発スキー部に告ぐ
緋田風美をメンバーから外せ。ワールドカップ及び,すべての試合の出場を辞退させよ
宏昌は柚木からこの脅迫状を見せられ,驚きます。
一体,誰がこの脅迫状を送ってきたのか。そしてその意図とは何なのでしょうか。
ある日,宏昌の元に一人の男性が訪ねてきます。上条伸行です。そう,あの行方不明児の父親です。彼は風美のことについていろいろと調べていました。そして,風美がある女性にそっくりだというのです。
彼はその女性のことを明かさず「Aさん」と表現します。上条の妻のことでしょうか。上条はこの女性の血液が入ったケースを持ってきていました。つまり「この血液のDNAと,風美のDNA鑑定を行ってほしい」と言い出すのです。
衝撃を受ける宏昌。すでに風美が自分の子供でないと考えている人物がここにいるのですから。ここで思いがけない事件が起こります。風美が乗るはずだったバスが交通事故に遭うのです。風美は携帯電話を忘れていて,幸いこのバスには乗っていなかったようです。
ひょっとして,これってあの「脅迫状」の犯人によるものなのでしょうか。さらに驚くことに,このバスには上条伸行が乗っていた。彼は風美のファンだと偽って,近づこうとしていたようです。上条は意識不明の重体となってしまいました。
どうやら上条はバスに乗る前,風美と話していたようです。風美のファンだと思っていた男性が事故に遭ったことで,風美も衝撃を受けているようでした。
「どうしていいかわからない。。。」風美は困惑しています。
ある日,宏昌は柚月を訪ね,とうとうDNA鑑定を依頼します。さらに宏昌にとって衝撃的な事実が明らかになります。上条の持ってきた血液のDNAは「Fパターン」であり,これは風美のパターンと一致したのです。
つまり,上条夫妻こそが風美の本当の父親だったということなのです。ところが宏昌はこの事実に違和感を持ちます。それは上条の見舞いにきた伸行の妻である世津子が,風美とは全く似てなかったからです。
さらに世津子の血液型は「AB型」であり,絶対にO型の風美が生まれるはずがない。これは一体どういうこと? 上条の妻だと思っていた「Aさん」とは,誰なのか?宏昌の心は揺れ動きます。ただ,柚木はこんなことを言いだします。
「跳び箱,マット運動などはFパターンと関係しています」
つまり柚木は,宏昌の妻がかつてそういうことに関係していたのではないかと期待しているのです。しかし,それを調査することを宏昌は反対します。
次に柚木は風美本人に確認します。母親はかつてそういう競技をしていなかったかと。
これに対し,風美は不信感を抱きます。父親との繋がり,母親との繋がりにこだわる柚木に対して。
ここから少しずつ,風美の母親が誰なのかが判明していきます。
この続きは是非,本作品を読んでほしいと思います。
本作品のポイントは,主人公の出生の秘密と,脅迫状を送った真犯人は誰なのか,ということでした。この二つが見事にリンクしていて,読みながら「なるほど」と思ってしまいました。
冒頭に書きましたが,カッコウ自体が「托卵」という育て方をするのを知っていたので,ストーリー自体もある程度は想像していました。
その大きなテーマにストーリーを乗せて見事に構成された本作品。「誰のもの」というタイトルですが,僕自身は,簡単には切れない親子の絆というものを感じることができました。
以前,ブログにも取り上げた東野先生の「化身」や「希望の糸」という作品もそうですが,出生の秘密というのが一つのテーマになっている作品が多いように思います。その度に,いろいろと学ばせられます。
さらには「DNA」から「スポーツ遺伝子」という世界にまで踏み込んで構成しているストーリーに,さすがは東野先生だなと。よく研究されているなと思うのです。
先にも書きましたが,映像化された作品は観ていないので,今後機会があれば観たいと思っています。
本作品を是非読んでみてください!
● スポーツ遺伝子の仕組みを少しだけ知ることができた
● 主人公の出生の秘密に驚かされた
● 親子の絆というものを考えさせられた作品でした