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【オーダーメイド殺人クラブ】辻村深月|誰にも言えない計画とは

オーダーメイド殺人クラブ

「オーダーメイド殺人クラブ」というタイトル。そして作者の辻村深月先生ということで手に取った本作品。

僕自身は中学や高校時代といった,いわゆる青春時代に「死」というものをそこまで深く考えたことはありませんでした。

でもニュースでは若い少年少女が亡くなってしまったり,あるいは加害者となったりという報道をやっていたのを見たことはあります。

このオーダーメイドという言葉が意味するものは何なのか,とても興味を惹かれました。

何か恐ろしい作品なのではないかと思いましたが,そこまでグロテスクでもないし,比較的読みやすかったです。もちろん読んだ人それぞれ感じ方はあるかもしれませんが。。。

本作品の中心になっているのは二人の男女。席が隣同士で,特に仲が良かったわけでもない二人が「ある計画」へ向けて動き出します。それは「ある人物を亡き者にすること」でした。

果たしてその計画とはどういうものなのか。その計画を完遂させることはできるのか。

青春小説でもあり,ミステリー要素もある本作品で,辻村先生が何を伝えたかったのかを考えさせられる作品でした。

こんな方にオススメ

●「オーダーメイド殺人クラブ」の意味を知りたい

● 主人公の異様な人生観を知りたい

作品概要

私を殺してほしいの」中学2年生の美少女・小林アンは、同じクラスの「昆虫系」男子・徳川にそう依頼する。ふたりは被害者と加害者として「特別な存在」となる計画を進めるが…
-Booksデータベースより-


主な登場人物

小林アン・・・主人公。中学二年生で「死」を意識している

徳川勝利・・・アンのクラスメートで,隣の席に座る少年

斉藤芹香・・・アンのクラスメート。リーダー的存在

成沢倖・・・・アンのクラスメート

本作品 3つのポイント

1⃣ 臨床少女という本の影響

2⃣ アンと徳川の計画

3⃣ アンの運命は

臨床少女という本の影響

本作品の主人公は小林アンという女性。母親が「赤毛のアン」が好きらしく、こんな単純な名前を付けたことに何かしら不満も持っているようです。アンそれだけでなく、何となくアンは母親に対してもあまり好きそうな感じではないんですね。
アンはバスケ部に所属していました。かつては河瀬という彼氏もいたことがあり、友人からも慕われている女性です。

斎藤芹香と成沢倖という友人がいますが、何か不穏な空気を感じるんです。どちらかというと芹香はクラスの中心的人物で、怒らせると怖そう。アンや倖は気を遣いながら接しているようでした。

最初は芹香と仲がよかったアンも、ちょっとしたことで無視されることもしばしば。女性3人のグループって、よくいろんな小説でも描かれることがありますが、関係性が難しいんですかね。毎日学校へ通うのが億劫になっているようにも思えます。アン同じクラスには「昆虫系」と呼ばれる男子グループもいます。昆虫系って,どんなグループ?

僕自身も昔、女子から○○系って呼ばれてたのかなぁ。怖い,怖い。。。無邪気な男子連中を女子グループはある意味面白がりながら眺めていたのかもしれないですね。

ところで,アンは他人には明かせない楽しみがありました。それはある大きい本屋にある『臨床少女』という写真集を見ること。

この写真集は人形を写したもので、ただちょっと不気味なんですよね。ケガをした人形だったり、特にお気に入りなのは腕が取れている人形だったり。。。

こういうのを好んで見るアンという人間像がちょっとわからないです。

アンは本屋で『臨床少女』を読み、その帰りに河原でクラスメイトの徳川勝利を見つけます。徳川には父親がいて、同じ学校の英語教師でした。徳川だから「ショーグン」というあだ名がついていて、その息子ということで「ショーグンJr.」とも呼ばれていました。徳川実はアンの隣の席が徳川の席。徳川には特技がありました。絵を描くこと。彼の『魔界の晩餐』という絵はコンクールで入賞するくらいのものでした。

そんな徳川は河原で何をしているのか。地面にある「何か」を蹴りつけていました。それを陰で見ていたアンは徳川が去っていった後、河原の草むらに急ぎます。

河原草むらにあったのは、赤黒い、どろっとした液体が漏れる袋でした。ん? 何かの血? 怖くて中身は確認できませんでしたが、明らかに血だったようです。

この辺りからアンは徳川のことを気にするようになるのです。

アンは次の日、河原へ行きます。そこにはあの「袋」がまだありました。彼女は人目につかないように隠します。なぜ隠したかの意図はわかりませんが。。。

ところが学校が終わり、また河原に足を運ぶと「袋」がなくなっていたのです。アンは後ろから声をかけられます。そこには徳川がいました。

アンは袋の中身を知りたくてしょうがなかったようですが、なかなか聞き出せません。しかし,アンは勇気を出して聞くのです。徳川が言った言葉に衝撃を受けます。「あれはネズミだよ」と。袋こういうのって、女の子は嫌がると思うんだけど、アンは何か他の女性とは違うんですよね。「臨床少女」といい、このネズミといい。

明日の早朝にネズミを置いとくから見て、と徳川はアンに伝えます。教えられたとおりアンは次の日の朝早く河原に行きますが、ネズミも、徳川の姿もありませんでした。

学校へ着くとそこには徳川の姿が。何か裏切られた感のするアン。

この頃、芹香から仲間外れにされたり、教師からも目をつけられたりしていたアンは、何か孤独というか孤立しているようにも思えました。母親とも言い合いをし「家出して困らせてやろうか」とも考えだします。

ただ、徳川は次の日に約束のネズミを準備してきました。我関せずな感じの徳川ですが、アンに対してはちょっと気にかけているようです。そしてとうとうアンは意を決して徳川に言います。

『私を、殺してくれない?』 それを聞いた徳川は驚いている様子もなく『いいの?』って言うのです。う~ん、何かやっぱこの二人、ちょっと普通の人間とは違う気がする。いや、普通じゃないよな。。。

これが自分で自分を傷つけようとする人間の会話なのでしょうか。

アンと徳川の計画

アンは、徳川に事件を起こしたいわゆる「少年A」になってほしいと思っているようなんですね。いや、この二人、ホントに何を考えているのかわからない。

アンが考えている自分を殺める方法とは「いつまでもテレビで流れて何年も語り継がれる、今までにない殺人事件」のようです。アン目的がわからない。自分が追い込まれていたということを訴えることで、誰かを後悔させたいのか。承認欲求なのか。

アンはそのために自分の計画を一冊のノートである『悲劇の記憶』にしたためていました。『これは、悲劇の記憶である・・・』こんな始まりの文章に、アンはさらに考えた事件を書こうとしているようなんです。

これに対し、徳川は実際に「死ぬ日」「死に方」などの具体的なものを決めようと話します。しかしアンは急に怖くなった感じもありました。ノートの計画アンは家に戻ると、一人でどうしたいのか、理想の形を考えます。痛いのは嫌だから、痛みや苦しみが伴わない方法で死にたい。それを実行するのが少年Aとなる徳川。

アンは『臨床少女』のように一枚の写真のような死に方をしたい。あの人形のように。そして、実際に撮影する撮影スタジオへ行きます。選んだのは秋葉原にあるスタジオでした。

アンと徳川は東京駅で待ち合わせることにします。アン自身は一人で新幹線に乗って東京に向かうのです。ところがここでアンは驚くべきことを目にします。友人の倖が,かつて芹香と付き合っていた津島と一緒にいるところを目撃したのです。

ん~,何かイヤな予感がします。どうやら倖は津島と付き合っているようです。すぐに新幹線に乗ったアンは,予定どおり東京駅で徳川と合流します。

秋葉原のスタジオに到着。そしてアンは衣装を着て,撮影してもらうのです。このスタジオ,普通の写真館とはかなり異なる雰囲気。AVやグラビアなどを撮影している異様な雰囲気なんですね。スタジオ徐々にアンはこの雰囲気に入り込んでしまい「首絞めてもいいよ」と徳川に言います。そして徳川は躊躇なく首を絞めます。倒れ込み,さらに咳き込むアン。徳川の手が緩みます。

この光景が本当に異様でした。アンは本当に死のうとしているのか。徳川は本当にアンの言う通りにしようと思っているのか。結局,撮影会は中途半端なまま終了してしまいました。

次の日、倖と津島が付き合っているということを芹香が知ってしまいます。倖はアンを味方につけようと芹香の陰口をたたきます。やっぱりこうなってしまうんだなぁ。いじめ芹香はクラスの中心的な人物ですから,倖とアンの二人は次第に無視されるようになります。ところがある日,思いもよらないことが起こります。何と,芹香が自殺未遂をしたというのです。

芹香が自殺未遂しかことが伝えられ、アンは自分に出来なかったことを芹香がしてしまったことにショックを受けます。

次の日,芹香は登校してきました。ただ,芹香は倖とはなぜか仲直りし,むしろアンに対して怒りがあるようです。

結局,アンがクラスでも浮いた状態になってしまうのでした。女性同士の関係って,本当に難しいですね。。。

部活も休むようになり,アンにとって,学校では徳川しか自分のことを理解してくれていないようにも思えます。

そして、とうとう徳川に「本気で事件を起こす」ことを伝えるのです。

アンの運命は

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アンは,自分の死に方について、12月までになるべく苦しまない方法を考え,12月に実行することを心に決めます。やはり思い浮かべるのはあの『臨床少女』です。臨床少女アンが死んでから少年Aとなる徳川がアンの体を切り刻み、川に浮かべることをイメージするのです。アンは作ったノートの最初のページに,

これは悲劇の記憶である。オーダーメイドした事件

と付け加えていました。自分のシナリオを記した『悲劇の記憶』。残りのページは徳川に託すことにし、当日の待ち合わせ時間を決めて二人は別れます。

そして計画実行の日がやってきました。アンはとうとう亡き者になってしまうのか。

しかし,待ち合わせしていたはずの徳川がやってきません。一体何があったのか?徳川は待ち合わせ時間から一時間も遅れてやってきます。アン「ごめん,俺『事件』できなくなった」

ん? どういうこと? さらに,

「お前と『事件』は無理。俺,今から行かなきゃならないことがある。やらなきゃならないことが。。。」

アンと徳川は言い合います。アンとしては覚悟を決めてきたわけだから,どうしても計画を実行したい。しかし,なぜ徳川は急に「できない」と言い出したのか。

実は徳川には別のターゲットがいたんですね。それが,教師の櫻田でした。徳川は「アリア」という絵を描いていました。その中心にいる女性こそ教師の櫻田だと思っていたアン。徳川だからアンは,徳川は櫻田という教師のことが好きなんだと思っていました。ところがそれはアンの勘違いだったのか。アンは徳川の口から衝撃の事実を聞きます。

彼女は徳川の父,つまり「ショーグン」と付き合っていました。徳川に母親はいないようです。中学時代に亡くなったようなんですね。そしてその櫻田はどうやら妊娠してしまっているようなんです。

さらに徳川には小2の妹がいますが,妹は櫻田のことをひどく嫌っている様子。徳川家は本当にひどい状態にあったようです。つまり,徳川は櫻田を殺害しようとしているのです。アンではなく。徳川怒るアンはこの時の徳川の反応を敏感に感じます。「徳川は怯えているのではないか」

徳川は人を殺めることに対しては何の躊躇もない。ただ,理由がないのに人を亡き者にすることはできない。だから櫻田に対しては実行できて,アンに対しては実行できないのではないか。いや,実は徳川はアンのことを好きなのでは?

「私との『事件』をやりたくないから,だから今夜,サクちゃんのところに行くんでしょ?」

その言葉で,徳川は「おおおおお」と咆哮を上げます。それを押さえつけるアン。

結局『事件』を起こせなかった二人。アンは「私たちはやり損ねた」と思うのでした。

二人は卒業を迎えます。あれからこの日まで一度も会話を交わさなかった二人。

そして話はアンが大学進学する場面に飛びます。東京への引っ越しの準備をするアン。その日,アンに来客がありました。それは徳川でした。

彼が手渡したのは、あの『悲劇の記憶』のノートと茶色い包みでした。ノートの中を見ると,見慣れない絵が描かれていました。スケッチブック『臨床少女』の構図で、最後のページまで二十枚近く描かれています。

そこに描かれていたのはアンでした。そして最後のページ。光が差し込む河原の水面の下に、アンの腕が切られて沈み、中学の冬服を着たアンが水の中をのぞき込んでいる絵でした。

もしあの『事件』を起こしていたら、徳川が見るはずだった光景。茶色の包みの中身はあの『臨床少女』でした。徳川が購入したのでしょう。

中学校の時にコンクールで入賞した絵『アリア』を思い出します。そこに描かれていた女性は、教師の櫻田ではなく「アン」だったのです。

アンはある友人から言われたことを思い出します。その友人は徳川に振られた女性でした。

「徳川に振られた時,言われたの。他に好きな人がいるって」

アンは徳川を追って走り出していました。アンは徳川を見つけ,大声で呼び止めます。アンがここで思ったことがとても印象的です。

私は余生を生きている。あの日,死なずにここに残った。

少年Aや少女Aが命を削り,寿命を振り切る陰で,どれだけの私や徳川がいるのだろう。私たちはやり損ねた。認めて,腹をくくって,諦めて。

なるべく楽しく,精々,生きるのだ。

迷惑そうな徳川に,アンは拒否されないかとドキドキしながら勇気を出して言うのです。「東京の住所、教えて」と。徳川とアン

誰にでも「辛い時」というものはあると思います。僕自身も小さい頃はイジメられたこともありますし,仕事でも「逃げ出したいなぁ」って思ったこともあります。

そして特に辛い時には「死」というものを意識したこともあります。

「早く楽になりたい」そんなことを考えたこともありました。いろんなことがありすぎて,全てが嫌になって,この場からいなくなりたいと。。。

ただ,それを実行する勇気はなかったのでしょう。きっと世の中にはもっと辛い思いをして生きている人もいるのではないか。

我慢できずに,誰にも相談できずに,という人も多いのかなと思います。

そのことが支えになっていた部分,実行してしまえば家族にも迷惑をかけてしまう。それが抑止力になっているように思います。

日本という国は平和なのに,なぜ命を絶つ人が多いのか。紛争に巻き込まれてしまう国々の人たちはそんなことを思っているかもしれません。

本作品を読んで思ったのは,主人公が「生きよう!」と前向きになったことです。

辻村先生の「生」や「死」に対する考え方とそのギャップの描き方がとても絶妙だったと思います。タイトルから想像するイメージとは異なる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 「生」と「死」の間で苦悩する主人公の姿

● なぜ生きなければならないのかを考えさせられた

● 生きる希望を与えてくれる作品だった

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