2013年,日曜劇場で放映されたドラマ「半沢直樹」。
銀行を舞台に,半沢がどう不正を暴いていくのか,そして「倍返し」というフレーズ。ネットでも「このドラマは面白い」と噂になり,見るようになるとハマってしまって毎週観ていたのを思い出します。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 西大阪スチールの不正
4.2 浅野支店長の思惑
4.3 半沢の倍返し
5. この作品で学べたこと
● 銀行の業務について学んでみたい
● 半沢がどうやって支店長を追い詰めるかを知りたい
● 原作とドラマで違うところを知りたい
崩壊した銀行神話。給料は下がり、ポストも減り、逆境にさらされるバブル入行組の男たちの意地と挑戦を鮮やかに描く痛快エンターテインメント小説
-Booksデータベースより-
半沢直樹シリーズだけでなく,池井戸潤さんの作品は経済小説で,銀行のことだけでなく企業経営をも描いた作品が多く,本当に勉強になります。
1963年生まれ 慶応大学文学部・法学部卒業
三菱銀行に入行 退職後コンサルタント業,ビジネス書の執筆を経験
1998年「果つる底なき}で作家デビュー
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(果つる底なき)・吉川英治文学新人賞(鉄の骨)・直木三十五賞(下町ロケット)
池井戸潤の「半沢直樹シリーズ」は後に2020年にも復活を遂げ,前回同様,社会現象となりました。
なぜここまで面白いのか。
それはやはりそのベースとなる原作がとにかく面白いからだと思います。
苦しんで苦しんで,大ピンチでどん底まで行きそうになるも,最後は大逆転。
そのわかりやすい展開に誰もがハラハラし,そして感動し「また次を観たい」となっていったのだと思います。
この作品は半沢直樹シリーズの「第一作目」です。
ドラマ半沢直樹の前半部分となります。舞台となるのは東京中央銀行です。
半沢直樹・・・もちろん主人公。東京銀行大阪西支店 融資課長
浅野 匡・・・東京銀行大阪西支店長。半沢を陥れようとする
渡真利忍・・・半沢の同期で親友。半沢の窮地に必ずいる頼りになる人間
東田 満・・・西大阪スチール社長。今回の最大の悪の根源。
半沢が入行するのはバブル期で,当時の産業中央銀行に入行します。
後に銀行は合併し,半沢は東京中央銀行の大阪西支店の融資課長をしているというところから話は始まります。
その支店の支店長である浅野が「西大阪スチール」という企業へ5億円もの大金を強引に融資しようとしました。
しかし,半沢はその融資に疑問を抱き,この浅野を追い詰めます。
この二人の対決というのがこの第一作目の大きな見どころです。
1⃣ 西大阪スチールの不正
2⃣ 浅野支店長の思惑
3⃣ 半沢の倍返し
西大阪スチールへの5億円の融資に疑問を持つ半沢でしたが,融資実行の後に西大阪スチールは経営破綻し,さらに粉飾決済をしていたことがわかります。
しかもこの責任を支店長である浅野は半沢に擦り付けようとします。
浅野はかつて人事部長をやっていたことがあり,半沢自身の人事にも影響するということを匂わせ,稟議を通させた上,責任を取らせようとするのです。
この半沢シリーズだけでなく,銀行系の小説ではよくこの「人事をチラつかせる」ということがよく出てきます。
もし自分の言うことを聞かなければ昇格はさせない,特に銀行というところはそういうところなのかと思ってしまいます。
渡真利と近藤という同期が登場します。時々会っては愚痴を言い合っていたようです。近藤には統合性失調症で休職した経験もありました。
どこの企業もそうかもしれませんが,特にこの銀行というところは出世,融資など,大きなプレッシャーがかかるような特別な場所なのかもしれません。
ところで,西大阪スチールの社長だった東田は,経営破綻後,リゾート開発へ投資をしていることがわかります。
倒産しながらも,東田自身には多額の金の存在があることがわかってきました。そして,半沢の独自の調査でいろいろなことが分かっていく中,支店長の浅野は「裁量臨店」を受け入れることになるのです。
「裁量臨店」では,銀行本部の面々が実際に臨店し,これまで支店で実行された融資や融資先の評価が行われます。
支店側の担当は半沢なのですが,なぜか浅野は本店側に回ります。
ん? あからさまに半沢を嫌っている?
明らかに半沢を陥れようとする企み。浅野の意図はなんなのかというのが疑問でした。
「ただ単に半沢が気に食わない」という理由だけではないような雰囲気がこの裁量臨店ではありました。
ここから「倍返し」が始まります。賢い半沢はこの裁量臨店を利用して罠を仕掛け,渡真利のサポートもあり,裁量臨店を乗り切り,浅野の思惑を跳ね返します。
ところで東田は,中国へ移住しており,さらに新事業を立ち上げようと計画していました。
さらに半沢は,東田と一緒にいる人間の写真を入手しました。
それが今回の大きなポイントとなります。
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この作品ではとにかく「倍返し」という言葉がはやりました。
東田と一緒に写っていた人物こそ,支店長の浅野だったのです。
これで完全に浅野との闇のつながりを突き止めた半沢は,浅野への不信感さらに大きくします。
そして,浅野が不在時に支店長室へ侵入し,西大阪スチールへの融資を行った見返りとして,5000万円を受け取っていた証拠を握ることに成功します。
浅野と東田は実は同級生でした。
浅野は株の運用に手を出し,失敗していたのです。
株にどんどんのめり込んでいき,気が付いたら多額の金をつぎ込んでいたというわけです。
そこで社長をやっている同級生の東田に泣きついたのです。
自分の都合で失った金を埋め合わせるため,融資する代わりに大金を手にするという行為に走った浅野。
本当に許せない男です。
半沢という人間の最初の倍返しはこの浅野に対してのものです。
ただし,浅野に対しては十倍返しでしたけど。
半沢は,女性になりすましたメールを送ります。
あなたの罪を告発し,それを銀行の人間だけでなく,家族にも告げると。
焦る浅野と不敵な笑みを浮かべる半沢。
そしてとうとうクライマックスが訪れます!
証拠を掴まれ,窮地に追い込まれた浅野はとうとう罪を認めるのです。
浅野のこの謝罪シーンがドラマではクライマックスだったと思います。すべてを告白し,半沢に泣きすがる浅野のみじめな姿はなんとも言えませんでした。
ところがそこに浅野の妻が現れます。
彼女はその状況をすぐに察したのでしょう。これが女性のカンなのでしょうか。
「どうか,よろしくお願いします」という浅野夫人の言葉に揺れ動く,半沢の心情がよく表れたシーンでした。
情に流されそうになるも,半沢からの要求は自分自身の出世でした。
土下座する浅野に対し「本店の営業第二部の次長ポストにつかせるようにしろ」と。
不正を許さず,自身も出世を目指す。
そこまで考えていたのか。彼の逆境に対する容赦ない行動力に感服します。
そして東田も,愛人の店で豪遊しているところで半沢と対決になります。
半沢は東田の不正を暴き,彼の資産をすべて差し押さえていました。泣き崩れる東田。
そしてとうとう半沢は5億の回収に成功するのです。
銀行って大変なところだなというイメージをこの作品で受ける人も多いと思います。
また,逆に企業経営の大変さも同時に伝わってきました。
融資を成功させ,民間企業の発展に寄与するという大義名分はあっても、やはり最後は「回収」しなければならない。
企業側も経営を立て直すため,社員の生活を守るため,融資してもらうのに必死になります。
作品中では半沢の視点で話が進みますが,企業側のの視点も考えさせられる作品でした。
銀行員とはやりがいのある仕事ではあるのかも知れないけど、銀行もバブル崩壊後の今は民間企業化しています。
「護送船団方式」で大蔵省からの保護を受けていた銀行も,バブル崩壊後は変わってしまいました。
つまり,どの銀行もつぶれないように,みんなで一緒に頑張っていきましょう,みたいな感じでしょうか。
銀行の経営を成り立たせるためには心を鬼にしてでも企業から返済させ、最悪は吸収・合併しながら生き延びなければならない。
東京中央銀行もその例外ではなかったのです。
また銀行における人事、人脈によって,社員の人生をどうにでもできてしまう空気には恐怖すらも感じました。
危うく半沢もその一人になりそうでしたね。
最終的に敵だった浅野のサポートを得て,半沢は東京中央銀行の本店への栄転を決めてしまいます。
こんな大変な業界の中で、きっとこれを見て勇気をもらったサラリーマンも多いのではないでしょうか。
● 銀行業界は,新しい事業をやりたい,傾いている企業の経営状態を立て直したい,と思っている企業のために融資を行う
● 銀行業界は,融資・融資の回収だけでなく,人事・出世などに影響する人間関係など,いろいろな要素が絡み合っている印象がある
● 半沢の倍返しは,自分を信頼してくれる社員たちからの情報の上に成り立っている
半沢は,自分の言いたいことを勇気を持ってはっきりと言える人間です。
誰のために銀行はあるのか。
新しい事業をやりたい,傾いている企業の経営状態を立て直したい。
その企業に寄り添い,新しい事業のサポートをする「銀行」という業界。
銀行員だけではなく,企業で働く多くの人々に勇気を与えた作品だったのではないかと思います。ちなみに原作とドラマで違ったのは一つだけ。
原作では「半沢の父親は実は自殺していない」です。ピンピンしてます。
ドラマでの半沢の原動力と,次の話へつなげるために原作に色をつけたのでしょう。
ドラマ後半の,あの「大和田常務」との対決のために!
そして,次の「オレたち花のバブル組」へと話はつながっていくのです。
やっぱり,何度読んでも面白い作品ですね。