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【オリエント急行の殺人】アガサ・クリスティー

オリエント急行の殺人。あのアガサ・クリスティーの名作とも言われる作品の一つ。僕自身の中では「そして誰もいなくなった」とともに印象に残っている作品でもあります。

これまで何度も映像化されてきています。1974年,そして2017年にも。意外なのは日本人も映像化に挑戦しているということです。脚本家の三谷幸喜先生。

幼い頃から印象に残っている作品を,自分での手で映像化したい。そして登場人物は全て日本人というアイデア。舞台は当然日本という設定ですが,昭和初期の鉄道を舞台に本作品を構成されたのです。

2015年の年始に2夜連続で放送されたのを覚えています。本当にすごいと思いました。驚愕のトリックや真相にハマってしまう作品で,これだけ多くの人を魅了しているという証でもあるのかなと思います。

こんな方にオススメ

● アガサ・クリスティーの代名詞とも言われる作品を読んでみたい

● ポアロが導き出した意外な犯人を知りたい

作品概要

オリエント急行列車に乗り合わせた乗客たちは積雪に閉じこめられてしまった。その翌朝、ひとりの乗客が体いっぱいに無数の傷を受けて死んでいた。乗客のひとりエルキュール・ポワロの目と鼻の先で起きた事件である。被害者はアメリカ希代の幼児誘拐魔だった。そして乗客は世界中の雑多な人々――その全員にアリバイがあったのだ。有名な映画にもなった、クリスティを代表する傑作!
-Booksデータベースより-




主な登場人物

ポアロ・・主人公。言わずと知れた探偵

ラチェット・・・アメリカ人の実業家

デブナム・・・イギリス人の家庭教師

アーバスノット・・・イギリス人の大佐

マックィーン・・・ラチェットの秘書

マスターマン・・・ラチェットの執事

ハバード夫人・・・アメリカ人の陽気な女性

ドラゴミロフ公爵夫人・・・ロシアのお金持ち

シュミット・・・ドラゴミロフのメイド

アンドレニ伯爵・・・ハンガリー人。外交官

アンドレニ伯爵夫人・・・外交官の夫人

ハードマン・・・イタリア人のセールスマン

フォスカレッリ・・・イタリア人の大男

ミシェル・・・列車の車掌

本作品 3つのポイント

1⃣ ポアロの目の前で起こった事件

2⃣ 事情聴取で判明したこと

3⃣ ポアロの推理

ポアロの目の前で起こった事件

探偵のエルキュール・ポアロは,イスタンブールから,カレー(フランスの地名)へ向かっていました。実は,ポアロは観光をする予定だったんですけど、ある事件に進展があったという知らせを受け、急遽ロンドンに帰らなければなってしまいます。ポアロイスタンブール=カレー間の寝台車を予約しようとするんですけど,普段は少ないはずの客室が満席となっています。こんな想定外のことが起こるなんて,ポアロの目の前に事件が舞い降りてきそうな予感。。。

それでもいろいろと都合をつけ,ポアロは一つの相部屋の寝室が与えられることになります。マックィーンという青年がいました。バタバタしながらも,ポアロは無事に寝台車へ乗り込むことができたのです。

しばらくすると,ポアロはラチェットという男に話しかけられます。実はこのラチェット,誰かから命を狙われていると言うのです。ラチェットはポアロに対して「大金を渡すから,自分を守ってほしい」という依頼をしますが、ポアロはこれを断ります。ラチェットそして夜中になり、ポアロは何者かの悲鳴で目を覚まします。事件か? 隣の部屋にはラチェットがいました。ラチェットに何かあったのかと思いましたが,フランス語で誰かが車掌に話しかける声を聞きました。

これが午前0時37分。そして,ポアロは列車が大雪で停車していることに気が付きました。しかし翌朝、ポアロはブークに呼ばれました。なんと,あのラチェットがナイフで殺害されていたのです。

医師のコンスタンティンによると、死亡推定時刻は午前0時から2時の間のようです。ちょうどポアロが声を聞いた時間の辺りですね。ラチェット部屋の窓は開いていました。何者かが入り込んだのか。しかし,雪には足跡はついていない。ということは犯人は今もこの列車にいるということになります。オリエント急行ラチェットの遺体を調べて見ると,体には12ヶ所もの刺し傷がありました。刺された場所によって凶器の深さは様々で、中には骨と筋肉の固い層を貫いている傷も中にはありました。

一体、これはどういうことなのか。いずれにしても,相当な殺意を持って殺害されたことは間違いなさそうです。ポアロは,おそらくこの列車の中にいるであろう犯人を探すことになったのです。

事情聴取で判明したこと

ポアロたちはラチェットの部屋を捜索。犯人が燃やしたと思われる手紙の切れ端を見つけます。ポアロはこれをアルコールランプの炎にかざします。そしてじっくり見てみると,ランプ『小さなテイジー・アームストロングのことを忘れ』

という文字が書かれていることがわかりました。ポアロはこの意味をすぐに理解します。かつて起こった「アームストロング誘拐事件」と関係あると直感します。

なんと殺害されたラチェットは偽名で,本当の名前はカセッティと言いました。アームストロング事件の犯人です。アームストロング誘拐事件とは,アームストロング家の子供が誘拐され,殺害され発見された事件です。

この事件は,かつて「リンドバーグ誘拐事件」という実話を元に作られていると言われます。

リンドバーグ事件とは

飛行士チャールズ・リンドバーグの生後20か月の息子が,床に置かれたベビーベッドから誘拐された。

米国ニュージャージー州。 身代金を渡したものの,子供の遺体は近くの道路脇でトラック運転手によって発見された。

-Academic Acceleratorサイトより-

本作品でのアームストロング事件とは次のような事件でした。アームストロング大佐には,有名な女優であるリンダ・アーデンの娘であるデイジーがいて,3人で幸せに暮らしていました。ところが、デイジーが3歳の時に誘拐されてしまいます、アームストロングは娘のために莫大な身代金を支払いました。

しかし,デイジーは殺害されて発見されます。さらに当時妊娠中だった夫人は流産し、亡くなってしまいました。幸せだったアームストロング一家は絶望に叩き落され,大佐も後を追うように拳銃で自殺してしまいます。墓そして警察の捜査の結果,誘拐犯一味のボスであったカセッティが逮捕されます。ところが、カセッティは証拠不十分として「無罪」となり,何と「ラチェット」という偽名を使い生きていたのです。そう、殺害されたあの男です。

ポアロは、夜中にカセッティの声を聞いており、犯行は声を聞いた0時37分の辺りが怪しいと判断して捜査します。ポアロは同じ車両の客室にいた全ての人物に事情聴取を行います。ヒアリングポアロが一人ひとりと話した内容は割愛しますが,何と全員に完璧なアリバイがありました。これによりポアロたちの捜査は難航するのです。

ただ,捜査の問題となるいくつかの点に疑問を持ちます。

① ラチェットの部屋に落ちていた「H」のイニシャルのハンカチの持ち主とは

② ラチェットの部屋にあったパイプ・クリーナーの持ち主とは

③ ポアロが車両の廊下で見た真っ赤なガウンを着ていたのは誰なのか

④ 車掌の制服で変装していたのは誰なのか

⑤ 時計の針が1時15分で止まっているのは犯行時刻なのか

⑥ ラチェットを刺したのは一人か,複数人なのか

①の「ハンカチ」について。Hというイニシャルを持つ女性は3人いましたが,誰も自分のものだと認めませんでした。

②の「パイプ・クリーナー」について,使用する可能性があるのはアーバスノット大佐だけです。しかし,わざと現場に落として彼に罪を擦り付けようとしているのかもしれない。

③の「真っ赤なガウン」を着ていた人物はいまだに分かりません。その真っ赤なガウンを持っている人物すらいない。そのガウンは一体どこかに隠されているのでしょうか。

④の車掌の制服で変装していた人物についても,誰がそれを実行したのか見当がつかない。

⑤の時計の針が1:15指していたことについて、この時刻に犯行が行われたのか、またはその前後なのか。その真相になかなか辿り着けない様子です。

⑥ラチェットを刺した犯人については、刺し傷からは少なくとも2人の人間が関与していることが分かっています。

このようにポアロは客室にいた人物の証言,目撃情報などを元に、仮説を立て,じっくり推理をしていくのでした。

そして,全員を食堂へ集め,推理を披露するのです。

ポアロの推理

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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①の落ちていたハンカチについて。実は伯爵夫人のパスポートに書かれたファーストネームは油のしみでぼやけ、エレナ(Elena)に見えます。しかしポアロはこれが実はヘレナ(Helena)なのではないかと推理します。

おそらく犯人の最初の計画では、雪で列車は止まることなく時刻通りに動き,車掌の制服はトイレに脱ぎ捨てられていたのではと考えます。つまり,犯人は外部の者という流れになり、犯人は到着した駅で逃げたことにする。

そう考えると,あの大雪は想定外だったのではないか。「アームストロング」という文字が浮き彫りになった,焼かれた手紙については,犯人の失敗だったのではないか。

燃えカスのせいで,ポアロは犯人の動機に気づいてしまいました。アームストロング家と深い関係を持つ人物がこの列車に乗っているということをポアロは確信しましたから。

ポアロはまずハンカチの持ち主がアンドレニ伯爵夫人であると見抜きます。そして彼女は観念したのか,本当のことを話し出すのです。ハンカチ彼女の本名はヘレナ・ゴールデンバーグと言いました。ハンカチのヘレナは本名だったんですね。彼女はリンダ・アーデンの娘で、ソニア・アームストロングの妹でした。油で書き換えようとしたパスポートの細工も認めます。カセッティを殺害する強い動機があることも認めますが,殺害を否認します。パスポートアンドレニ伯爵も、妻が部屋から一歩も出ていないと証言します。そしてハンカチ自体も自分のものではないとアンドレニ伯爵夫人は言うのです。でもハンカチを使用したのは誰か。すると今度は、ドラゴミロフ公爵夫人が,ハンカチは自分のものであると白状するのです。

ん~,一体どういうことだ。ちょっと混乱してきたぞ。。。

どうやら彼女の名前はナタリアと言い,ハンカチのイニシャルはロシア語で書かれていて,ロシア語では「NがHになる」ということのようです。ドラゴミロフ公爵夫人はソニアの妹であることを知っていましたが,それを黙っていたようです。

しかし,公爵夫人の胸ポケットにはハンカチが入っていました。彼女は嘘をついているのか。ポアロは、食堂にいる人物に次々と矛盾する事実を突きつけていきます。

例えば,デブナムはアームストロング家の家庭教師をしていたことを突き止めていました。次々と自白させるポアロの推理力は圧巻です。そして驚くべきことがわかります。

何と,この車両に乗っている人物たちは,みんな嘘をついていた。つまり,アームストロング家の関係者だったのです。犯人登場人物の正体を整理します。

デブナム・・・アームストロング家の家庭教師
アーバスノット・・アームストロング大佐に救われた友人
マックィーン・・・ソニアを昔から尊敬していた
マスターマン・・・アームストロング家の召使い
ハバード夫人・・・リンダ・アーデン(女優)ソニアの娘
ドラゴミロフ公爵夫人・・リンダ・アーデンの親友
シュミット・・・・アームストロング家の料理人
アンドレニ伯爵夫人・・・ソニアの妹
アンドレニ伯爵・・・・・ソニアの義理兄
ハードマン・・・・自殺した子守娘の恋人
フォスカレッリ・・アームストロング家の運転手
ミシェル・・・・・自殺した子守娘の父親

カセッティにつけられた12の傷の秘密も判明します。2人による人間の仕業かと思いきや,何と12人の人物によって刺されたものでした。

カセッティが無罪放免になった時、彼女たちは自分たちの手で死刑を執行しなければならないと考えました。カセッティの行方を突き止め、彼がオリエント急行に乗ることを使用人から知ります。

ミシェルが車掌を務める日に合わせてカセッティを乗車させ、他の人もその日に乗車。そして今回の計画実行したのです。ただ,彼らには想定外のことが起きてました。

それは大雪による立ち往生だけでなく,その車両に偶然あのポアロが乗り込んできたことです。それでも彼らは犯行を実行します。この時しかカセッティを殺害できないと,後戻りはできなかったのです。

誰が殺害したのか分からないように12人が1回ずつカセッティをナイフで刺します。ポアロは嘘の証言で調査を撹乱しつつも,お互いにアリバイを作ることで犯行を外部犯行説にするつもりでした。ナイフしかし、ポアロはそれを完全に見抜きました。これがポアロの披露した推理です。

ところが、ポアロはもう一つの推理を披露します。外部犯行説です。カセッティを狙っていたとされる謎の人物が途中の駅で乗車し、車掌の制服で変装して彼を殺害。列車が発車する前に駅にまた戻った。つまり,元々が計画した通りの推理,もちろん事実とは反する推理です。

このように事件の真相はポアロたちによって隠されました。犯行に関与した彼らは警察に突き出されずに済みます。ポアロの判断はどうだったのか。正しい判断だったのか。プライベートの旅で起こった殺人事件だったから,見て見ぬふりをすることにしたのか。

それとも、アームストロング一家に同情したのか。ポアロの真意はわかりませんが,先に書いたように,真相は闇の中ということになったのです。

一度,三谷幸喜先生のドラマで観てはいましたが,その原作を読みながら,改めて本作品のすごさを目の当たりにしました。これは世界中のアガサファンだけでなく,その一人である三谷先生をも魅了するはずです。

こんな小説を1930年代に作るなんて,やっぱりアガサ・クリスティーという人は只者ではない。本当にすごい人なんだなって思います。

90年前の時を超えても色あせしない本作品だからこそ,現代になっても次々と映像化される所以なのでしょう。ますますアガサ・クリスティーの作品を読みたくなりました。

この作品で考えさせられたこと

● ポアロが導き出した意外な犯人に驚いた

● 1930年代に作られた伝説の原作に触れることができた

● アガサ・クリスティーの構成力のすごさ

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