「ウツボカズラ」とは,主に赤道近くの東南アジアに生息する食虫植物です。
葉をふくらませたような捕虫袋を持ち,そこに落ちた虫は消化してこれを栄養源として生きています。その袋には蜜腺と呼ばれる,虫をおびき寄せる物質を出すようです。これが甘い息ということでしょうか。
本作品はまさにある一人の女性が他の女性を言葉巧みにおびき寄せ,詐欺行為を行うというものです。
柚木裕子先生の作品の中でも,一番ページ数の多い作品かなと思います。ざっと550ページです。
ページ数の多いですけど,中身は非常に濃く,一気に読んでしまうくらい面白いです。
これ,ドラマ化したら良さそうですけど,まだ映像化はされていないようですね。
本作品での「ウツボカズラ」とは一体誰で,何をしたのかというのがポイントになります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 月50万円のビジネス
3.2 文絵は被害者なのか
3.3 事件の真犯人
4. この作品で学べたこと
● 本作品での「ウツボカズラ」とは何を意味するのか知りたい
● 用意周到な真犯人が何者なのかを知りたい
鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として逮捕された主婦の高村文絵。無実を訴えるが、鍵を握る女性は姿を消していて――。全ては文絵の虚言か、悪女の企みか? 戦慄の犯罪小説。
-Booksデータベースより-
1⃣ 月50万円のビジネス
2⃣ 文絵は被害者なのか
3⃣ 事件の真犯人
高村文絵には夫の敏行と子供もいて,平凡に幸せに暮らしていました。
しかし、夫の敏行には嫉妬深い一面がありました。そして二人の子供を持つ文絵には育児のストレスもあるようです。
多くの悪いことが重なって,徐々に文絵自身は自分は醜いと感じるようになったようですね。
文絵には大きな問題がありました。ストレスからくる過食症もそうですが,それ以上に「解離性離人症」に苦しんでいました。
そういえば「解離性」って言葉をよく聞くようになりました。解離性同一障害(多重人格),解離性健忘症(ストレスによる記憶喪失)などなど。
この離人症というのは,ストレスなどで意識がボーッとしてしまい,自分の行動に非現実感を持ってしまうものらしいです。ストレス発散が目的なのか,文絵にとって楽しみなことは懸賞に応募することでした。
応募し続け,ある懸賞に当選します。それが人気タレントのディナーショーでした。
普段頑張っているご褒美だと言わんばかりに,文絵はディナーショーという贅沢を味わいます。
幸せな気持ちにさせてくれた「ご褒美」の後,ある女性が文絵に「牟田さん」と声を掛けます。
牟田というのは文絵の旧姓で,声をかけたのは中学時代の同級生だった杉浦加奈子でした。彼女はサングラスをかけていました。う~ん,何か胡散臭いのが来たぞ。。。
文絵は加奈子のことを覚えていませんでした。しかし昔のことを考えているうちに,おぼろげに「スギカナ」と呼んでいた人物がいたことを思い出します。
加奈子はかつての加奈子とは似ても似つかないという感じでした。どうやら「整形」したようです。
加奈子は言います。美しい彼女にずっと憧れていて、整形したことを告白。
「私にとって牟田さんは憧れの存在だったの!」
文絵は何かしらの疑惑の目で加奈子を見ていますが,加奈子はどんどん話を進めていきます。ホントかなぁ。ん~、やっぱ何か胡散臭い気がする。。。
加奈子は大事な話があると、文絵を鎌倉にある別荘に招待するというのです。
最初は断るつもりでしたが、文絵は後日、加奈子の別荘を訪れることにするのです。
鎌倉の別荘に到着した文絵。そこには約束通り加奈子がいました。
加奈子は改めて大事な話があるとして、その前にいつも着けているサングラスを外します。
彼女には右目の部分に「痣」があります。
どうやらかつて交際していた男性に何と硫酸をかけられたものだったようです。
だからサングラスをかけていたのか。でも顔を隠したいのか,素性を知られたくないのか,読者も疑問に思いそう。
加奈子は重要な話を始めます。フランスである男性と運命の出会いを果たします。ピエールという,有名な化粧品の創業者の御曹司と出会ったのです。そして加奈子は彼の愛人となります。
加奈子は、ピエールの会社が富裕層向けに販売している化粧品を日本でも会員向けに売り出そうとしていました。しかし、加奈子は痣があるため,人前でセミナーなどを行うことが出来ません。
つまり加奈子は,自分の代わりにそのプレゼンを文絵にやってほしいみたいなんですね。
短時間セミナーをして,報酬は何と一ヶ月に50万円も稼げるという何ともおいしい話。
ただ、いきなりこんな条件を出されてもすぐに「Yes」とは言えませんよね。
疑いを持っている文絵に対し,加奈子はこの化粧品を試して見せます。
すると、あっという間に肌は潤いを持つのを目の当たりにします。
「これは本物だ!」と思った文絵はこの話を信じ込み,人前に出るためにダイエットするようになるのです。
文絵はこのビジネスに乗ります。そして共にビジネスをする仲間である飯田という男性を紹介します。
順調かに見えたこのビジネス。次第に状況が変化していきます。
ここで二人の刑事がある事件を追っていました。秦と中川と言います。
彼らは鎌倉にある別荘での殺人事件の捜査をしていました。
殺害されたのは田崎実という男性です。
家の中には女性用のパンプスがありました。このパンプスを履いていた女性が事件に関わっているということで捜査します。
二人は周辺から聞き込みを行い「サングラスをかけた女性」の存在を知ることになります。
えっ,これって加奈子のこと?
殺害された田崎は,株式会社コンパニエーロという美容関係の企業の経営者でした。
しかし、この企業は賃貸契約を解約されていて誰もいない。
以前,コンパニエーロには二人の派遣社員がいました。捜査したところ,高村文絵に当ります。
とうとう警察は文絵にターゲットを絞って捜査を始めるのです。
一方,順調だったはずの文絵のビジネスにも変化が現れます。
ある日,加奈子と章吾がフランスに行くことになりました。そしてビジネスは一時中断されます。
ここで予期せぬことが起こっていました。
文絵の元に,知らない番号からの電話が頻繁にかかってくるようになったのです。
「リュミエール化粧品が上場するから株を買ったのに、まだ上場していないのはどういうことなのか」株? 文絵には全く知らされていない事実でした。いや,事実かもわからない。
文絵はどういうことかと,加奈子や章吾に連絡を取ろうとします。しかし繋がらないのです。
そして加奈子がいるはずのビルへ行きますが,そこは「もぬけの殻」でした。
「リュミエール代表 高村文絵」の名刺を頼りに,文絵の家に刑事の秦と中川が訪れます。
彼らは文絵から事情を聞き出そうとしますが,文絵が知るはずがありません。
そして殺害された田崎の写真を見せるのです。
何とその男はあの飯田章吾でした。田崎は偽名を使って行動していたんですね。
これは詐欺の匂いがプンプンします。
警察署に連行され、文絵は田崎殺害事件について聞かれます。文絵はこれまでのことを正直に話します。
そして「サングラスの女」つまり,加奈子が怪しいと捜査をはじめるのでした。
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文絵はストレスでまた「解離性離人症」を発症してしまいます。
こうなると文絵の証言も怪しい。そう思った警察は夫の敏行からも話を聞くことにします。
実は文絵の本当の病名は別にありました。「解離性同一性障害」です。つまり,先に書いたように「多重人格」です。二人の娘は実は事故ですでに亡くなっていました。文絵はそのショックからか,二人の子供との生活の「幻覚」を見ていたわけです。
事件のあった時間帯、文絵は自宅に一人だったようです。つまりアリバイがあったと。
しかし多重人格ですから,別の人格が事件を起こしたのかもしれない。
ここで秦と中川は別の視点,つまり加奈子について捜査します。
まずはかつて加奈子の通っていた,岐阜県の中学校へ向かいます。
しかしここで重大な事実が。。。何と加奈子は亡くなっていました。約5年前に。
加奈子は自殺していました。マルチ商法で騙され,多額の借金を抱えたらしいのです。
ということは,加奈子は一体何者なのだろうか。加奈子を名乗る別の人物ということになるのか。
秦と中川は,加奈子の同級生に聞き込みを始めます。そしてとうとう決定的な証拠を掴むことになります。
加奈子と接触した「サングラスをかけた女がいる」と言うのです。
サングラスの女は別にいたんです。偽名を使っていたんですね。
サングラスの女性の名前は園部だと言います。その園部の通っていた小学校を訪ねます。
しかし何と,園部もまた7年前に自殺していたようなのです。
う~ん,混乱してきた。悪の根源がどこかにいるということか。。。。
園部にも「サングラスの女」が絡んでいました。
そして,とうとう本物の「サングラスの女」がATMに並んでいるところを発見します。
振り込んだ彼女は明細書を落としてしまいました。彼女が振り込んだ先は「白鳩の園」という介護施設で,振込者は「真野知世」でした。
秦と中川は「白鳩の園」に向かいます。
真野修という人物が入居していました。そして施設のスタッフに「サングラスの女」の似顔絵を見せると「それは知世だ」と言いました。
知世は修を入居させるために、数千万円という大金を支払っていました。
どうやら真犯人は「真野知世」で間違いないようです。
知世はオーストラリアにいるようです。秦はこの時、知世がウツボカズラのようだと感じるのでした。
自分の利のために多くの人間に成り代わり,同じような手で稼いでいた知世。
しかし,彼女自身もかつては騙されて逆上して殺人を犯したことがあり,今回の事件はある意味世間への復讐のような様相にも見えました。
上手い話によってきた人間を落として逃げられなくするという卑劣な行為。まさに「ウツボカズラ」のような犯罪でした。
他人になりすまし,悪事を働く。そして大金をせしめる。
そしてまた他人に成り代わり,別の手口で犯行を重ねていく。
世の中には多くの詐欺が存在します。オレオレ詐欺,架空請求詐欺,金融商品詐欺,保険金詐欺,補助金詐欺。SNSを使って勧誘する詐欺。一見,金目当てと思いがちですが,かつて自分が被害にあったその復讐のために犯罪を起こす人もいるということでしょう。
しかし,今回登場した人物たちは真犯人とは全く関係ない,復讐する必要のない人物たちでした。
悪いことをされたわけでもない人物を詐欺行為に貶めるのはちょっと許せないですよね。
何が原因で自分が詐欺に遭うのか,わからない時代になってきました。
普段から警戒して気を付けるしかないのでしょうね。
● 自分の私利私欲のための詐欺行為の卑劣さ
● 他人になりすます詐欺の恐ろしさ
● 「ウツボカズラ」にひっかからないように気をつけないといけないですね