初めて読んだ早見先生の作品です。
「日本推理作家大賞」を受賞しているということで手に取りました。
とてもインパクトのある表紙だったので,この絵に込められたものって一体なんだろうと興味を持ったのが本作品を購入したキッカケです。
数ヶ月前に「店長がバカすぎて」を読みましたけど,とても同じ作家さんが描かれたものとは思えないほど重厚な作品です。
ある犯罪を犯してしまった主人公の田中幸乃が,なぜ死刑判決を望むのかが大きなポイントとなります。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 田中幸乃の生い立ち
3.2 幸乃が疑われた事件とは
3.3 「死刑執行」を止められるか
4. この作品で学べたこと
● 主人公の幸乃がなぜ「死刑判決」を受けてしまったのかを知りたい
● 幸乃を責めるもの,護るものの存在を知りたい
● 幸乃の「死刑」をくい止めることができるのかを知りたい
田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。
-Booksデータベースより-
1⃣ 田中幸乃の生い立ち
2⃣ 幸乃が疑われた事件とは
3⃣ 「死刑執行」を止められるか
田中幸乃の生い立ち
冒頭は女性刑務官である佐渡山瞳の話から始まります。彼女は裁判を傍聴する機会があり,裁判に興味を持つようになります。そして刑務官を目指すのです。その時に膨張していた裁判が「田中幸乃」という女性が容疑者のものでした。
当初は興味だけで膨張していましたが,一切言い訳や弁解をしない幸乃の姿に,「本当に罪を犯したのだろうか」という疑問を持ちます。
この佐渡山瞳が最終的にどう関わっていくのかというのもポイントです。話は変わって,田中幸乃の話になります。そう,先に書いた事件の容疑者になってしまった女性の話です。
最初に田中幸乃の生い立ちが描かれています。彼女の母親は田中ヒカルです。
父親から性的暴行を受け,母親からも見て見ぬふりをされていた彼女は,精神的な疾患か,急に気絶することがありました。
そんな彼女が大きくなり妊娠します。当初は中絶を望んでいましたが,後に産む決意をします。それが幸乃でした。
幸乃の家庭環境は劣悪でした。父親が暴力を振るったり,母親のヒカルが交通事故なくなったり,昔からの負の連鎖を引き継いでいるようでした。
そんな幸乃にも大切な仲間がいました。丹下翔と佐々木慎一です。
彼らは「丘の探検隊」というグループを結成し,とても深い絆で結ばれていました。丹下は,幸乃が生まれた病院の息子でした。イジメが大嫌いで,弱い者を味方する正義感の強い少年です。
そして佐々木も丹下同様,正義感が強く,特に幸乃のことをいつも気にかけていました。
この佐々木は話の後半でもよく登場します。
そんな環境の中で生活していた幸乃ですが,あることを機に人生が大きく変わってしまいます。
幸乃に大事件が起こってしまうのです。
幸乃が疑われた事件とは
中学時代,幸乃には仲のいい友人がいました。小曾根理子です。ある日,皐月という,ちょっとワルな友達の誕生会に誘われます。
理子はそこに参加しますが,酒を飲まされ,挙句の果てに遠山という男に性的暴行を加えられます。
その時に撮っていた写真をネタに,理子は皐月から脅迫され,さらにたかられます。
金が足りなくなった理子は佐々木書店で,レジからお金を取ろうとしますが,それを書店員に見つかってしまい,突き飛ばして逃げます。ところがそこには幸乃もいました。幸乃は彼女の身代わりになって捕まり,児童自立支援施設に送られてしまうのです。
この幸乃も,丹下,佐々木と同じように正義感が強い女性だったのだろうと思います。
施設から出てきた幸乃はすでに20歳になっていました。
敬介と付き合うようになった幸乃。パチスロなどに入れあげる敬介から暴力を振るわれていました。それでも一途な幸乃は敬介から離れませんでした。
しかし,とうとう敬介は別の彼女を作ってしまいます。納得いかない幸乃は問い詰めますが,敬介の気持ちは変わりませんでした。
幸乃にはきっといい人がいるよ,と言いたくなります。付き合っている時って,客観的に自分のことを見れないですもんね。
そして敬介が別の女性と一緒に住みだしました。
ここで世間を騒がす大事件が発生してしまいます。
幸乃は敬介に嫉妬したものと思われ,彼の家に火を放ったということで「死刑」を宣告されてしまいます。幸乃はストーカーで,生い立ちは「私生児」であり,父親からも暴行されて育った。
こんな清濁併せたような事実が,世間の想像を膨らましフェイクニュースとして公になるってことってよくありますが,それに似た感じにも思えました。
世間も「そんなやつは死刑にするべき」という流れになってしまい,「死刑囚 田中幸乃」というレッテルが貼られてしまったのです。
「死刑執行」を止められるか
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ここで佐々木慎一が再び登場します。常日頃から幸乃を気遣っていた慎一,彼は独自に捜査し,とうとう犯人をつきとめます。
真犯人は金髪の少年であり,幸乃ではありませんでした。
これを一刻も早く幸乃に伝えないといけない。必死で幸乃を説得しようとしますが。。。
死刑は執行されてしまいました。
なぜ? 幸乃はなぜ罪もないのに「死刑判決」に抗おうとしなかったのか。それだけが理解できませんでした。引っ込み思案で他人の気持ちを優先する彼女は本当に純粋な女性です。
女性同士の関係性というのは女性ではないからわからないですが,本作品の幸乃というのは本当に素直で優しい性格の持ち主に見えます。
それに人間関係が悪くなったとしても,幸乃は決して人の悪口は言わない女性でした。
幼馴染の翔と慎一の二人の少年が成長して,かつて少年時代に幸乃たちと「俺たちはずっと仲間で,困ったら助ける」という約束を果たすべく,彼女を無罪へと導くために動こうとしました。きっと最後は幸乃は翔や慎一に助けられ,無罪となって感動の結末を迎えるだろう。
そんなことを想像しながら読みました。でもそうはなりませんでした。
振り返ってもまだわかりません。彼女はなぜ頑なに「死刑」を望んだのだろうか。
何に対して罪の意識を持ったのか。興奮すると気を失うという病気を持っているとはいえ,結末はあまりに残酷でした。
衝撃的だったのは刑が執行される最後のシーン。
冒頭で,佐渡山瞳が刑務官になった話を書きましたが,この最後のシーンにつながって行くんですね。
死刑執行が決まった時の佐渡山の心中はどうだったのでしょう。とても他人事とは思えない心境だったのではないか。
刑務官が刑の執行場所へ連れていき,落ちる床の上の赤ラインで囲まれた場所に向かいます。
緊張からか,幸乃は気を失いそうになるのを懸命にこらえていました。
元々神経の持病があって時々気を失うことがあった幸乃が最後の最後にこらえたのです。
精神的疾患があると,死刑が執行できなくなるというルールがあるというのは知っています。
最後の最後に自分の持病を克服したいと思ったのか。ただ誰かを護りたいという気持ちなのか。何度も罪を被せられ,生きていく力がなくなってしまったのか。幸乃は本当に優しすぎる。真実は別のところにあるのに,それが捻じ曲げられても幸乃は抗おうとしなかった。
「なぜ死刑を望むんだ?」ずっとそのことばかり考えてしまいました。
女性刑務官の佐渡山の無念さ,親友の佐々木の無念さだけが最後に残りました。罪もない人間が死刑を望んでしまうこと。
これほど周りに無力さを感じさせるものはないと思います。そして刑は執行されたのです。
今回の話は完全に「冤罪」でした。他の作家さんの作品を読んでも「冤罪」を扱っている作品は数多く存在し,その恐ろしさを感じることがあります。
東野圭吾先生の「虚ろな十字架」,中山七里先生の「死にゆく者の祈り」など。
執行する人間からすれば,手続きに従って実行するしかないわけですし,その手続きに「過ち」があったとしても,もう遅いのでしょうか。
「過ち」を生み出してしまえば警察,検察の信用は失墜する恐れもあります。たった一つの事実に,多くの人間の考えが交差しているようにも思います。
真実って,何なんでしょうか? 目にするもの,耳にするもの,これらは真実とは限らないのではないでしょうか。
真実を知ることが難しかったとしても,「冤罪」だけはなくなってほしいと願います。
「イノセント・デイズ」
田中幸乃が,友人と無邪気に笑い合い,励まし合い,生きていくことを願ってしまう,そんな作品でした。
● なぜ幸乃は罪を認めたのか,真意を知りたかった
● 「冤罪」を生み出してしまわないようにするためにはどうすればよいのか