町工場で働く「山崎瑛」と海運業の御曹司である「階堂彬」が登場します。
ライバルであり友でもある2人の「あきら」の物語です。彼らが幼い頃,駅で父の帰りを待っていた「瑛」が高級車に撥ねられそうになりました。
高級車には「彬」乗っていて,それが彼らの運命的な出会いとなります。
それから十年後,彼らは意外な場所でさらに運命的な再会を果たします。
企業経営,銀行でのライバル関係,そして友情の話です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 零細企業と大手海運業
3.2 瑛 vs 彬
3.3 アキラがあきらを救う
4. この作品で学べたこと
● 二人のあきらのことを知りたい
● アキラとあきらのライバル同士の争いを知りたい
● アキラがあきらを救うシーンを読んでみたい
零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。
-Booksデータベースより-
1⃣ 零細企業と大手海運業
2⃣ 暎 vs 彬
3⃣ アキラがあきらを救う
半沢直樹では,半沢家の稼業である町工場が経営に苦しむ場面を思い浮かびますが,この話も同じような場面が出てきます。まずは一人目の主人公「瑛」です。
瑛の父が経営する町工場は運転資金がショートして,工場の資材まで取り上げられてしまいます。
父親は自己破産にまで追い込まれますが,若き銀行員である男性に助けられ,融資を受けた父親の会社は何とか復活していきました。それを見た瑛も銀行にあこがれを持ち,東大に入り経済を学んで「産業中央銀行」へ入行します。
産業中央銀行と言えば,あの半沢直樹も入行した銀行で,この作品を越えたつながりは面白いですよね。
一方,もう一人の主人公「彬」は東海郵船という企業の御曹司です。彬の祖父が興した会社をどうやって引き継ぐかで苦悩しているようです。彬の父であり,祖父の長男でもある一磨は優秀なのですが,次男と三男はそうでもないようで,跡取りをどうするかで迷います。
とうとう東海郵船と分社化し,東海商会は次男へ,東海観光は三男へ引き継ぐことになりますが,結果的にはこの次男と三男が足を引っ張ります。
しかし遺産相続の関係で,赤字事業をも東海郵船が引き継いでしまいました。
ここで一磨とある銀行員が東海郵船の再建案を作ります。
その案に感動した彬もまた東大で経済を学び,家業を継がず,産業中央銀行へ入行することになるわけです。二人のあきらは共に銀行に惹かれたわけです。
半沢直樹の話はどうしても銀行の良くない部分が強調されているんですけど,この作品はむしろ企業再建のために銀行あり,というまさに銀行の存在意義を象徴するような話になっています。
全く別の道を歩んできた二人のアキラが産業中央銀行へ同期として入行するという,これからが面白い展開になります。
同期として「山崎瑛」と「階堂彬」が再会するわけなんですが,その能力の高さは研修を行う上司や先輩にも知れ渡ります。
同期300人の中から選ばれた2チームが対決します。「瑛」チーム vs「彬」チームです。
階堂彬のチームが融資を受ける会社側,山崎瑛のチームはそれを審査する銀行側という設定です。まさに瑛 vs 彬です。階堂は自分たちに与えられた設定が「絶望的な経営難の会社」であることに愕然とするんですけど,ここで奇策に出ます。
融資を受けるために,巧妙に仕組んだ「粉飾」データを提出するんです。
研修で粉飾? って思いますよね。それもすごいと思いますけど,普通であれば見逃してしまうこの罠を山崎は見事に見破ります。「これは粉飾である」と。
この研修は将来語り継がれる「伝説の研修」となったのです。
二人のアキラの能力の高さを研修での対決という形で引き立て,お互いが実力を認め合うというストーリーがこの作品の良さをさらに引き立てる構成になっているのがとても良いです。
最初は二人のアキラが「半沢直樹」のように対決するのかなって思いました。
しかし,ここからが本作品の面白いところです。
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二人はバンカーとして成長していきます。「カネは人のために貸せ」という言葉を胸に。
そしてとうとう前記した展開が起こります。階堂彬は,父の遺志で東海郵船の株を相続することに。東海郵船の筆頭株主になります。
ところが,バブル期に90億かけて東海商会が建てたホテル経営もバブル崩壊を境に赤字化してしまいます。年間5億を垂れ流し,さらにメインバンクである三友銀行にトータル140億の借金があることがわかります。
彬の叔父たちに嵌められ,彬と敵対し,社長に就任していた彬の弟である「龍馬」もメンタルをやられてしまいます。
そしてとうとう彬が社長に就任することになるんですね。つまり彬はバンカーを辞めるということです。
三友銀行に対する140億もの借金をどう返済するのか。焦点はそこです。
ここで彬は大きな決断をします。それが「ホテル経営の黒字化」です。
大きな負債を返済するために,東海商会を売却するとか,東海郵船がその保証になるべきとか,何かを売って返済するという先入観にとらわれてしまっていたことに気づきます。
それは「ホテル経営はもう無理だ」という先入観でした。
ホテル再建のノウハウを得た階堂彬は,メインバンクを三友銀行から産業中央銀行へ代え,140億の融資で黒字化してなおかつ返済をするという覚悟を決めます。
そう,ここで産業中央銀行の「瑛」が登場するのです。そして彬の企業再建のための稟議を通そうとする。まさに「アキラがあきらを救う」です。
最後は自分たちの力で黒字化するという,企業のあるべき姿へ向かって進んでいくストーリーに感動しました。
『儲かるとなれば,なりふり構わず貸すのが金貸しなら、相手を見て生きた金を貸すのがバンカーだ。同じ金を貸していても、バンカーの貸す金は輝いていなければならない。相手のことを考え、社会のために金を貸してほしい。金は人のために貸せ。金のために金を貸したとき、バンカーはただの金貸しになる』(本文引用)
まさにこの融資は企業の将来のために,生きている,輝いている融資であり,山崎瑛は階堂彬の力を信じたからこそ融資を通そうとしました。またその融資の稟議を通した山崎瑛の力,その稟議が上司よりOKが出た時の「いい稟議だった」という上司のセリフもよかったです。
もしその上司が半沢だったらもっと面白かったのになって思ったりもしました。二人のアキラが多くの人の未来を救ったわけです。
「人のために融資する」
カネのために,自分の出世のために,人間って私利私欲に生きてはいけないことが学べました。
誰かを貶めよう,自分さえよければいい,それがよくないということがわかっていても人間というのはいつの間にか大事なことを忘れてしまうことがあると思います。
自分の今があるのは決して自分ひとりの力ではなく,誰かのサポートが必ずあってここまで生きているわけですから。
企業で働いていられるのも多くの人に支えられてきたからであり,感謝の気持ちを忘れてはならないのだと思います。
何かのために,誰かのために尽くすということ。その大切なことを教えてくれる作品でした。
● バンカーとは,困った誰かを救うために「生きたカネ」を融資する大切な存在
● 融資とは,金貸しとは異なる。その企業が成長していくために必要な資金である
● ライバル同士だった二人のアキラが,最後は力を合わせて共闘するという面白さ