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【むかしむかしあるところに,死体がありました】青柳碧人

むかしむかしあるところに,死体がありました

以前「赤ずきん,旅の途中で死体と出会う」を読了後に,本作品がその前作であるということを知りました。

赤ずきんの時は,西洋のおとぎ話のオールキャスト的な作品でなかなか楽しめましたが,本作品は,幼い頃から読んだり教えてもらったりした日本の昔話のキャラクターが登場するミステリーです。

こういう発想って,面白いですよね。

今回の作品も,読者は昔話をある程度知っているという前提で描かれていると思います。

もちろん,知らない人はいないと思いますし,昔話をベースに色を付けて,あるいは予想外の展開に驚かされます。

読んでいてとても楽しい作品になっていますので,実際に手に取って読んでほしい作品です。

こんな方にオススメ

● 日本の昔話をベースにしたミステリーを読んでみたい

● 「赤ずきん,旅の途中で死体と出会う」を読んだことある方

● 昔話ミステリーのの意外な犯人を知りたい

作品概要

昔ばなし、な・の・に、新しい! 鬼退治。桃太郎って……え、そうなの大きくなあれ。一寸法師が……ヤバすぎる! ここ掘れワンワン。埋まっているのは……ええ!? 「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった皆さんご存じの《日本昔ばなし》を、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといったミステリのテーマで読み解く全く新しいミステリ!
「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」「つるの倒叙がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」の全5編収録。
-Booksデータベースより-



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本作品3つのポイント

1⃣ 日本の昔話のミステリー

2⃣ アレンジされた昔話の結末

3⃣ 作者の構成力のすごさ

日本の昔話のミステリー

① 一寸法師の不在証明
一寸法師と言えば,体の大きさが一寸しかない少年で,お姫様が鬼に襲われた際に鬼をやっつけました。そして「打ち出の小槌」なるもので体が大きくなり,お姫様と幸せにくらしましたとさ,みたいな作品ですが,その中にミステリーが入ってきます。

冬吉という男が首を絞められて殺害され,それを江口という男が調べます。真犯人は一寸法師だと断定します。

言い逃れをする一寸法師。一体どんなトリックで殺害したのでしょうか。

一寸法師 vs 鬼

② 花咲か死者伝言
花咲か爺さんと言えば「枯れ木に花を咲かせましょー」の爺さんですよね。灰を撒いて花が咲き乱れ,お殿様から褒美をもらいますが,それを見ていた意地悪じいさんが真似します。

予想通り咲くどころか,ただ灰を撒いただけ。怒り心頭のお殿様はとうとう牢屋へ入れられるという話だったと思います。

ある日,花咲か爺さんが殺害されます。今回は意地悪じいさんが犯人かと思いきや,意外な人物が容疑者となります。

花咲か爺さん

③ つるの倒叙がえし
ある日,庄屋に借金をしていた弥兵衛が,庄屋を殺害し,自分の家の襖の奥に隠します。そこへ「つる」がやってきます。名前を「つう」と言いました。

金のなかった弥兵衛のためにつうは機を織る,いわゆる「つるの恩返し」なのですが,話は徐々にエスカレートしていき,大変なことになってしまいます。

鶴のおつう

④ 密室竜宮城
もちろん浦島太郎の話です。砂浜でいじめられていた亀を助け,浦島太郎は竜宮城へ行くことになります。かなりもてなされる浦島太郎。

ここまでは同じような話ですが,竜宮城内で殺人事件が起こります。竜宮城にいる生き物の中に犯人が。。。

浦島太郎,竜宮城へ

⑤ 絶海の鬼ヶ島
鬼ヶ島といえば桃太郎ですよね。今回は面白い視点で「桃太郎」が描かれています。鬼ヶ島の視点では,仲良く幸せに暮らしていた鬼たちの元へ,浦島太郎,キジ,サル,イヌがやってきます。

みんな恐ろしいまでの攻撃力で鬼たちを殺していきます。視点を変えるとこうも変わるんですね。そして再び浦島太郎が現れる?

桃太郎軍団

アレンジされた昔話の結末

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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① 一寸法師の不在証明
江口は黒三日月という男から「ある男が怪しい」と打ち明けられます。それが実は「一寸法師」なのです。しかし一寸法師にはアリバイがありました。

冬吉が殺害されている間,一寸法師は鬼にのみ込まれていたのです。だから殺害できるはずがないと。まさに「不在証明」です。

しかし調べていくうちに,江口は真相に辿り着きます。

遺体のあった部屋は密室だったのですが,一寸法師が通れるくらいの隙間はありました。しかしこれはフェイクでした。

キーポイントは打ち出の小槌だとは思ったんですが,打ち出の小槌は自分自身を大きくしたり小さくしたりすることはできません。

一寸法師は,冬吉を一旦小槌で小さくし,首に紐を巻き,そして再度小槌で大きくして,うっ血させて殺害したのでした。

まさか「打ち出の小槌」が利用されるとは。。。恐ろしい道具ですね。

トリックに使われた打ち出の小槌

② 花咲か死者伝言
花咲か爺さんは何者かに後ろから石をぶつけられ,亡くなってしまいました。一体犯人は誰なのか?

作品中でいろいろな容疑者が現れます。ここで探偵役になったのが,爺さんの大事にしていた「しろ」という犬の亡きあと,新しく「次郎」と名付けられた犬です。

爺さんは死者伝言,つまり「ダイイングメッセージ」を残していました。爺さんの腰巾着には灰や入っていて,亡くなった際に転がった後にきれいな花をさかせていました。

その中の「ぺんぺん草」を握って亡くなっていたのです。一時は「ぺぺん,ぺん,ぺん」ということで,三味線を弾く沢蟹奴(さわがにやっこ)が疑われました。

ここからがお爺さんの優しさが身に染みるエピソードになります。確かにおじいさんが握っていたぺんぺん草は沢蟹奴を指していました。ところが次郎は気づきます。

殺害された時,お婆さんが一緒にいたことを。お爺さんは優しいから,お婆さんが大好きだから,お婆さんが疑われないように別の人物を指す「ダイイングメッセージ」を残したのです。

お婆さんの動機は,もらった金銀財宝を人のために役立てようとするお爺さんに耐えきれなかったからでした。は~,なんとも切ない話じゃ。。。

お爺さんの思いやり

③ つるの倒叙がえし
この「倒叙がえし」の意味が最初わかりませんでした。とにかく読み進めます。

弥兵衛のために機を織って反物を作る「つう」ですが,この反物が高くで売れるので,弥兵衛は欲が出てきます。これが最後と何度も言いながら反物を織らせる弥兵衛。

庄屋は跡取りがいないため,近しいものが庄屋を継ぐことになるのですが,そこに弥兵衛が名乗りを上げます。そして弥兵衛が庄屋となるのです。自分で殺した庄屋の代わりになるなんて,ひどい男ですね。

ある日,勘太という男に子供が生まれました。どういうわけか,勘太はその子供に「弥兵衛」と名付けます。少々混乱しますが。。。ここにこの作品のヒントがあります。

そこに「つう」がやってきます。20年前,現在の庄屋(かつての弥兵衛)からひどい仕打ちをされた復讐に,この鍬で一発で殺害するように仕向けます。

つまり,弥兵衛(勘太の子ども)に庄屋を殺害させようとするのです。そして庄屋はなくなるのです。その家にいるのは弥兵衛と「つう」です。

あれ? これって,最初の状態に戻ってきたような。。。

そうなんです。倒叙がえしとは,話の永久ループのことだったのです。結末を知っている上で,永久に話が繰り返されること。ん~,よく考えましたよね。。。

つるの恩返し

④ 密室竜宮城
竜宮城内の密室でおいせ姉さんが殺害されます。最初は自殺と思われましたが,おいせ姉さんは強い女だから自分で死ぬわけないということで,殺人事件として捜査がはじまります。

捜査といっても登場人物は竜宮城内の生き物と浦島太郎です。密室をどうやって作ったのか。

ここで浦島太郎たちはある推理を立てます。犯人は「平目」であると。平目は周囲の色に溶け込むことができる,つまり「擬態」できるので,最初に誰かが扉を開けたと同時に,擬態したまま外に出たというのです。

よくある密室殺人事件のようなパターンですが,きっとこれは推理をミスったんだろうなって思いました。乙姫様は真相を知っているのでしょうか。

「もうお帰りください」と言われ,浦島太郎は亀に乗って元の人間の世界へ戻ってくるのでした。玉手箱をもらい「絶対開けてはならない」ということを言われた浦島太郎。

戻る途中に亀の推理を聞かされます。そこで「自分は間違った推理をしてしまった」ではないかと思うのです。

陸に戻ってくると,その世界は400年後の世界でした。そして玉手箱を開けるのです。

煙が出て,徐々に老けてゆく浦島太郎。その煙の中で気づくのです。明らかに間違った推理をしてしまった。つまり真相を知ったのです。

しかし,時すでに遅し。二度と竜宮城へは行けないし,周囲は知らない人ばかり。絶望感いっぱいの浦島太郎でした。

玉手箱を開けた浦島太郎

⑤ 絶海鬼ヶ島
桃太郎の鬼退治,そう思っていた話が,逆の視点だと桃太郎軍団の連続殺人,いや殺鬼と言えばいいのでしょうか。

バッサバッサと鬼たちをあっという間に殺していくという事件が起こってしばらくした後の話になります。

ある日,何人かの鬼たちの中で,鬼が一頭殺害されます。いろいろ調べていくと,ひっかかれて殺害されたり,ナイフのような鋭い嘴のようなもので一突きされたり,「ひょっとして,これは桃太郎たちが再びやってきたのか?」と鬼たちは恐ろしくなってきます。

白い肌の桃太郎のような人物が立っているのを見るのです。「あぁ,やはり桃太郎だったか」そう思った次の瞬間には最後の一人も殺害されてしまいます。

元々,鬼と桃太郎が戦ったのには理由がありました。実は昔,サルの一族たちが鬼に食べられてしまったのです。それを知らずに最初の話を読めば「桃太郎たちって,ひょっとしてひどい人たち?」って思ってしまいますけど,理由があったんですね。

鬼退治が成功した桃太郎。なぜか一人だけ島に残るというんですね。それにも理由がありました。

桃太郎は一人のきれいなオニ(女性)とできていたのです。そこで二人には子供ができました。その子供は白い肌をしていました。

そうなんです。つまり最後の鬼を殺害した桃太郎と思った人物は,桃太郎とオニの間にできた子供だったのです。これで鬼は全滅してしまうのでした。

どんな戦いにも「理由」があるのですね。

桃太郎と鬼が恋仲に

一寸法師のトリック,花咲か爺さんのお婆さんへの思いやり,鶴の恩返しの永久ループ,浦島太郎の竜宮城殺人事件,桃太郎軍団 vs 鬼の話。

昔話のストーリーを踏襲しつつも,絶妙にアレンジされていてとても楽しめました。

短編ではありましたが,とても構成が練り上げられています。

作者の構成力のすごさ

自分が幼い頃から慣れ親しんだ昔話。年を重ねるにつれてなかなか読む機会も減ってきてましたが,ここで本作品を読むことができたことで,何とも言えない懐かしさを感じました。

もちろん話をアレンジしてはあるんですけど,自分がこれまで思い描いていた主人公や登場人物が,本作品の中では意外な行動をしたり,実は事件の犯人だったり,本当によく練られた作品だなと思いました。

一番印象深かったのは,昔話とのギャップです。

例えば桃太郎の話では,桃太郎たちの視点,鬼側の視点でこうも印象が変わるのかと思いましたし,一寸法師の話では,あの伝説の道具がトリックに利用されていたり。作者もかなり悩みながら構成したのではないかと思います。

特に鶴の恩返しのアレンジ版の構成には「なるほど,短編もそういう構成にできるのか」と思えるような斬新アイデアで描かれてしました。

子供たちの夢を壊さないように描かれているような気遣いも感じましたし,また大人が読んでも面白いと思えるような作品に仕上げるのは,青柳先生も結構苦労されたのではないかと思います。

是非,読んでみてほしいと思います。

また読まれた方は続編の「赤ずきん,旅の途中で死体と出会う」も読まれれば,また西洋の昔話の見方も変わるのではないかと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 日本の昔話をミステリーにした物語の面白さ

● それぞれの話の主人公の意外な一面が見れる作品

● 「赤ずきん,旅の途中で死体と出会う」同様,作家の構成力を感じた

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