岬洋介シリーズの第四弾作品です。
大好きな「大どんでん返しの帝王」である中山七里先生。
最も作品数の多いシリーズの中の一作です。
「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」などの続編だと思って読んでました。
しかし読んでいくうちに,
「あれ? これって,さよならドビュッシーより前の時代の話では?」
と思い始めました。読んだことある方ならピンと来るでしょう。
天才ピアニストでありながら,いろいろな事件をも解決してしまう主人公の岬洋介。事件の犯人や真相を突き止めるのはもちろんですが,岬自身の父親との関係,なぜ洋介は難聴になってしまったのか。
これまで明かされてこなかった秘密がわかるような,興味ある作品になっています。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 転校生の岬洋介
3.2 殺人事件発生
3.3 事件の真相
4. この作品で学べたこと
● 岬洋介シリーズの続編を読みたい方
● 岬洋介が「突発性難聴」という障碍を持った理由を知りたい
● どうやって学校で起こった事件を解決したかを知りたい
ニュースでかつての級友・岬洋介の名を聞いた鷹村亮は、当時起きた殺人事件のことを思い出す。岐阜県立加茂北高校音楽科の面々は、9月に行われる発表会に向け、夏休みも校内での練習に励んでいた。そんな中、豪雨によっ土砂崩れが発生し、一同は校内に閉じ込められてしまう。そこでクラスの問題児・岩倉が何者かに殺害されてしまう。警察に疑いをかけられた岬は自らの嫌疑を晴らすため、素人探偵さながら、独自に調査を開始する。岬洋介、はじめての事件! さらに、書き下ろし短篇「協奏曲」も豪華収録!
-Booksデータベースより-
岬洋介・・・主人公。加茂北高校に転入してくるピアニスト
岬恭介・・・洋介の父で検察官
鷹村亮・・・洋介のクラスメイト
岩倉・・・洋介のクラスメイト。洋介に嫉妬し,イジメている
春菜・・・洋介のクラスメイト。洋介の味方?
1⃣ 転校生の岬洋介
2⃣ 殺人事件発生
3⃣ 事件の真相
岬洋介が,岐阜県の加茂北高校の音楽科へ転校してくるところから話は始まります。
洋介はルックスもいいが,何か天然が入っているというか,いろいろなことに鈍感なので,隣の席の鷹村の第一印象はあまり良くなさそうでした。
しかし岬洋介は「天才ピアニスト」なんです。初めて本作品を読めばこれから起こることが新鮮でしょうし,これまでのシリーズ作品を読んでいれば,きっと周囲は洋介の腕前に驚くだろうなと思いながら読めます。
案の定,洋介がピアノを弾くと,一瞬にして空気が変わります。あまりの上手さに周囲のクラスメイトが驚き始めます。
「本当にこれが高校生の弾くピアノなのか」
一気に噂は広がります。しかし,徐々に良くない方向に流れていきます。
洋介のすごすぎる演奏を聴いた生徒たちの中に,洋介に嫉妬する生徒が現れてきたのです。
もちろん洋介を称賛する生徒もいるんですが,ほとんどは洋介によい感じを持っていないようです。音楽科に在籍しているというプライドでしょうか。能力があるということは羨ましいことであるけど,それが他の人間がいくら努力しても手に入れることができない領域であった場合には,必ずしもそうとは思えない部分もあるのだなと。
つまり,洋介を貶めてやろうという人間が出てきてもおかしくはないわけです。
ただ,洋介はピンときていない。
洋介自身は,他人が嫉妬してしまうような能力を持っていることすら自覚していないようです。高い評価を受けることに疑問すら持っている様子。謙虚とは言わない,何か別のもの。こういうところが洋介の鈍感さなんですよね。いい意味で。
ただ,クラスメイトの中で,洋介をイジメてくる生徒もいました。岩倉という生徒です。
こうやって相手を貶めようとする者もいますが,洋介は平然としています。
ホントに羨ましい。。。洋介は多くのことを達観している感じもします。
ところが学校の文化祭へ向け,夏休みの練習をしている時,とんでもない事件が起こってしまうのです。
その事件で,洋介が疑われることになってしまいます。
夏休み中の登校日,音楽科の生徒たちは学校にいました。
その日,豪雨が降り始めます。あまりの大雨に学校にいる生徒たちは不安でいっぱいになります。
そこで思ってもないことが起こります。学校中が突然停電になったのです。危険を感じた洋介は鷹村を連れて学校周辺の調査に行きます。そこで目の当たりにしたもの。
何と川の橋が崩れてしまい,学校は外と完全に隔離されてしまいました。
洋介は助けを求めます。そしてレスキュー隊員がやってきます。
安堵した生徒たちでしたが,さらに想像してなかったことが起こります。
岩倉という生徒が遺体となって発見されてしまいます。ここで警察は洋介を疑います。確かに,レスキュー隊員を呼びに行ったときにいなかったわけですから,アリバイがないということになります。
岩倉は洋介をイジメていたし,周囲もそれを認識していたはずなので,洋介には十分動機があると思われたんでしょうか。
洋介はそんな人間じゃないことはシリーズ作品を読んでいる方ならわかりますよね。
警察は,洋介の父が検事であることを知り,及び腰になります。
「岬検事の息子さんだとわかっていれば話は早かったのに」
やっぱり警察は検事を苦手にしているのでしょうか。いろんな刑事ものの小説読んでみてそう思います。
ただ,周囲の生徒たちは依然,洋介を疑っているようなんですよね。親が検事だろうが関係ない。
音楽科の棚橋という教師は,岬のピアノを中心として文化祭に臨もうとしていました。しかし,他の生徒たちが拒否している雰囲気なんです。
「どんなに素晴らしいピアノでも,弾く人の品性が無視されてはいけない」
これが彼らの言い分です。しかし棚橋先生は言います。
「お前たちは,岬の何を持って品性と言っているのか。噂や見聞でそれを判断する方がよっぽど品性に欠けるのではないか」
これは読者も岬洋介の人間性を知っているからだけでなく,棚橋先生の話す言葉には重みがあります。先入観が入ると,どうしても考えを転換できなくなってしまいますもんね。
結局,クラスの混成四部合唱の部分は春菜が伴奏を,その後は岬のソロで落ち着きます。
演奏曲は「ベートーヴェン」の「悲愴」。しかし,最後の部分で岬はミスをします。
おかしい。どうも岬の様子がおかしいのです。
クラスメイトはミスを責め,冷やかします。しかし鷹村だけが岬の味方でした。
洋介は思ってもないことを口にします。
「左の耳が聞こえなくなったんだ。。。」
洋介は「突発性難聴」になってしまったのです。自分の弾く繊細な音を聴くことができない。
父親恭介にもそこのが知れ,とうとう喧嘩になってしまいます。
「検察官の息子として,疑われるような状況になるな。その難聴は,お前の高慢に対する報いだ」ん~,恭介の厳しさは仕事柄なんでしょうか。
いや,親としてこんな言葉を浴びせるのはどうなんでしょうか。
自分と同じ道を進んでほしかった恭介にとって,洋介が音楽の道を目指そうとするのは許せなかったんでしようか。
洋介は,鷹村と一緒に事件の調査を始めることになります。
一体,真犯人は誰で,動機は何なのか。
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突発性難聴に罹ってしまった洋介。友人の鷹村は他の生徒に話します。
「ピアノを弾く者にとって,音が聞こえないということがどれだけ辛いことかわかっているのか!」
恭介からも,この先どうやってピアノを続けていくつもりなのかを問われます。
何かここで初めて迷いを見せる洋介。
さらに他の生徒も難聴になったことを嗤います。それを見ていた鷹村はキレます。
「ここにいる音楽科の連中の才能はからっきしだ。そんなお前らがどんなに努力しても,神様がお前たちに微笑むわけではない!」
クラスの雰囲気が悪くなってしまいますが,岬にとって鷹村は唯一の味方なんです。
岬の味方になりたい人間もいるかもしれない。でも誰も言えない。それを勇気を振り絞って鷹村が堂々と言っているわけです。
岬は「ありがとう」と言って事件の証明を始めます。
岬は学校にあったマネキンで,事件があったと思われる崖からマネキンを落とします。
流れ着いた場所は岩倉の死体があった場所でした。
さらに岩倉の左側頭部に殴打された痕が残っていました。つまり犯人は左利きです。
その左利きの人間は,実は「春菜」でした。
彼女は石で岩倉を殴ったのです。そして川に流され,現場に打ち上げられた。
殺害現場を探せば,ルミノール反応に引っかかる石が見つかるはず。
追い詰められた春菜はとうとう母親とともに出頭します。
岬にとっては心苦しい証明だったと思います。自分の友人が犯人である証拠を突き付けたわけですから。
ではなぜ春菜が岩倉を殺害したのか。その裏には本人同士ではなく,親同士の深い理由がありました。
春菜の親は町長,そして岩倉の親はイワクラ建築の社長。
つまり,町長とイワクラ建築の間で賄賂があったのではないかという噂がありました。どうやらその話は本当で,岩倉自身は自分の父親がどうなっても全然平気だというのです。
岩倉は春菜を脅してきたのでした。「この賄賂を明らかにする」と。
それを阻止しようとしたのが春菜です。
世間に知れ渡れば家族だけでなく,春菜自身も周囲の生徒から後ろ指さされる立場になることは間違いない。
そう考えた春菜は岩倉を殺害したのです。これが動機でした。
事件を解決へ導いたのは,やはり岬洋介でした。
しかし洋介は一つ隠していたことがありました。
「春菜が犯人であることを鷹村が知っていた」ということです。
それを最初から打ち明ければ岬は周囲の生徒から疑いの目で見られることはなかった。
ある意味,洋介は鷹村に裏切られていたのです。しかし洋介は我慢した。
周囲から非難されながらも,唯一自分をかばってくれた鷹村を救おうとしていたんですね。
そして,鷹村が春菜のことを好きであることを知っていたからでもありました。
「犯人隠蔽罪」という罪を犯した鷹村を,洋介は不問にしたのです。
何という友情なんでしょうか。
そんな洋介は「最後の演奏」を鷹村に披露します。「これでもう悔いはない」これが岬洋介,最後の言葉でした。
岬洋介が犯人ではないことはわかっていながら,一体真相は何なのかというのがポイントでした。
事件の真相を暴き,すぐに転校していった洋介。
それまで彼を責め続けていた生徒たちは何を思ったのでしょうか。
自責の念で追い込まれていただろうと思います。でもその岬がいなくなってホッとした雰囲気もありました。
しかし,仮に洋介が残っていたとしても,自分を責めた生徒たちを批判することはなかったでしょう。
そのくらい岬洋介は「人間性に優れた人物」ですから。
岬洋介はピアノを辞めてはいないでしょう。それは続編があるからわかりますけど,鷹村にとっては何とも言えない後味だったと思います。
「どこかでベートーヴェン」
どこかで岬の活躍を見るたびに鷹村たちは「最後の演奏」を思い出すことでしょう。
● 岬洋介が犯人ではないとわかっていても,責められる姿が心苦しかった
● 事件の真相は意外なところにありました
● 岬洋介は,自分を犠牲にしても大切な人物を守ろうとする人間である