青山美智子先生の作品を数冊購入しました。そのうちの一冊が本作品です。「木曜日にはココアを」のデビュー作で一気にブレイクしてから,多くの作品を提供されている青山先生。
僕自身は「ちょっとほのぼのとしたいなぁ」って思った時に読む作家さんの一人です。
以前「お探し物は図書館で」をブログで書きましたが,一つ一つの短編が微妙に繋がっていて,作品全体に深みを増す作品の数々。
短編集なので読みやすいし,文章がとてもやわらかい感じで,一気に読めます。そして各短編の主人公は,毎朝同じバス停でバスを待っている人々という共通点もあります。ちょうど表紙に描かれているように。
クスッと笑ってしまうシーンもあって,本当に大好きな作品です。ちょっと癒されたいなぁ,という方には是非オススメの一冊です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 5つの短編の概要
3.2 各短編の結末とは
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● 本作品に登場する神様とはどんな神様なのかを知りたい
● 自分の夢や希望をかなえたいと思っている方
● 「神様当番」という言葉の意味を知りたい
ある朝、目を覚ますと手首から腕にかけて「神様当番」と太くて大きな文字が書かれていた!
突如目の前に現れた「神様」を名乗るおじいさんのお願いを叶えないと、その文字は消えないようで……?
「お当番さん、わしを楽しませて?」
幸せになる順番を待つのに疲れている印刷所の事務員、理解不能な弟にうんざりしている小学生の女の子、SNSでつながった女子にリア充と思われたい男子高校生、大学生の崩れた日本語に悩まされる外国語教師、部下が気入らないワンマン社長。
奇想天外な神様に振り回されていたはずが、いつのまにか主人公たちの悩みも解決していて……。
笑えて泣けるエンタメ小説です。第1回宮崎本大賞を『木曜日にはココアを』で受賞した、青山美智子さんの最新作です。
-Booksデータベースより-
水原咲良・・・第一話の主人公。OL(デザイナー)
松坂千帆・・・第二話の主人公。小学生
新島直樹・・・第三話の主人公。高校生
リチャード・ブランソン・・第四話の主人公。英会話講師
福永武志・・・第五話の主人公。零細企業社長
神様・・・各短編に登場するおじいさん(神様?)
1⃣ 5つの短編の概要
2⃣ 各短編の結末とは
3⃣ 本作品を読んで考えたこと
一番 水原咲良(OL)
何かいい出会いがないかなぁ,と期待している水原咲良。そのためにコンパにも参加したりしていました。
ある日,いつものバス停で自分の好きなアーティストであるキュービックの初回限定版のCDを発見します。
こそっと持ち帰る咲良。次の日に思ってもないことが。。。腕に「神様当番」の文字が書いてあるのです。
一体,この神様当番というの何のことなのか。そこに神様を名乗るおじいさんがが現れるのでした。
この神様,一体何者なのでしょうか。
二番 松坂千帆(小学生)
松坂千帆は小学六年生。彼女には3つ下の弟がいました。
ある日,バス停に一番に着いた千帆の視界に「ピンクのエナメルバンドがついた腕時計」が入ります。それは千帆がとてもほしかったもの。こそっとバッグに忍ばせます。
そして次の日,千帆の腕には「神様当番」の文字が。弟のイタズラかと思いきや,あのおじいさんが登場。
今度の神様の要求は何なのでしょうか。
三番 新島直樹(高校生)
新島直樹は高校生。SNSをやっていて「オクラ」という名前でツイートしてました。そこに現れた「アザミ」という人物の書き込みが気になります。アザミが書き込みをすればすぐに「いいね」を押す。
ある日,バス停に着くと,そこには「ワイヤレスイヤホン」が。三万円を超えそうな,直樹が欲しかったもの。これをこそっとバッグに忍ばせます。
ところが次の日,直樹の左腕には「神様当番」の文字が。消そうと思っても消えない文字。今回も神様の仕業でした。今度の要求は何なのか。
四番 リチャード・ブランソン(大学非常勤講師)
リチャード・ブランソンは英会話の講師。一生懸命日本語を学びつつ,高校生に英会話を教えていました。ところが授業を高校生は真面目に聞いてくれない,時には生徒とぶつかり場面もありました。
そんなある日,バス停に「黒い折りたたみ傘」があるのを発見。彼は持ち帰ってしまいます。次の日,リチャードの腕には「神様当番」の文字が。「So Cool。。。」
日本語が大好きなリチャードはこの文字がとてもかっこいいと感じたようです。
では神様の目的は一体何なのでしょうか。
五番 福永武志(零細企業社長)
零細企業の社長である福永武志の腕に「神様当番」の文字が。いきなりこの部分からストーリーは始まります。
「そうか,自分が神様であるという証か?」と考える福永。
実は前日,バス停で一万円札を見つけ,それを財布にしまっていました。そして目の前に神様が現れるのです。神様の要求は何なのか。
この短編では神様の真の目的がわかります。真の目的とは一体何だったのでしょうか。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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一番 水原咲良(OL)
「楽しませて~。咲良ちゃんがわしのことを楽しませるの!」神様と言っても,とても可愛げのある神様。というか神様らしくないんですよね。
合コンに行った咲良は,誰からも声をかけられませんでした。そんな咲良には会社の仲のいい同僚であるユイがいました。しかし彼女はヘッドハンティングで,別の会社に移ることになったのです。
結婚もしていて,仕事も認められるユイを羨ましく思う咲良。実は神様もユイのことが大好きでした。ショックを受ける神様。
咲良は一度「白馬さん」と密かに呼んでいる女性と偶然ワークショップで一緒になったことがありました。それ以来会っていなかった咲良。
しかし,後ろ向きだった性格の咲良は,ここで勇気を出してSNSで「白馬さん」に「友達リクエスト承認お願いします!」と打ちます。
「リクエストありがとう!」と返信を受けた咲良はとても幸せそうでした。それを見た神様は,咲良の左腕の中に帰っていきました。
彼女は王子様を待つのではなく,自分から積極的に行動することが自分を楽しませんてくれる一つの要素であると気づいたようです。
二番 松坂千帆(小学生)
「最高の弟を持たせてもらうまで,わし,待たせてもらうわ」千帆にとって,弟の勝(すぐる)はちょっと変わった弟であると感じているようです。そんな弟のことをとても「最高」とは思えませんでした。
千帆は生き物係で,飼育小屋の2匹のうさぎの面倒をみていました。勝はそのうちの1匹の元気がないと感じていたようです。
勝の予想通りにそのうさぎは体調を崩します。岡崎の餌のやり方が悪いと感じていたようです。動物病院で獣医も,勝の洞察力を褒めていました。
そしてその勝は,いつもいじめられていた岡崎に立ち向かうのです。本当は怖いはずなのに,勇気を出して木刀を向けるのでした。
千帆は思い出します。勝という弟が出来た時のことを。とても嬉しかった思い出。そこで気づいたのです。勝は「最高の弟である」と。気づくと「神様当番」という文字は消えていました。
三番 新島直樹(高校生)
「わし,リア充になりたい」これはどういう意味なのか。
直樹は,SNS上でしか知らない「アザミ」に対し「スクエア・パーツの曲が最高」というメッセージを送ります。
しばらく,直樹(オクラ)とアザミのやりとりが続く中,直樹はアザミと一度会ってみたいと思い始めます。
勇気を出してアザミを映画に誘います。アザミの本名は「菊子」と言いました。二人の距離が接近します。これがリア充であると思っていた直樹の左腕には未だに「神様当番」の文字があります。
実は,アザミこと菊子は,自分の顔を画像加工して偽っていました。一緒に写真を撮ろうと言う菊子のお願いを断ります。つまり,直樹は加工した画像を友達に見せてしまい,菊子の「本当の姿」を見られるのがイヤだったのでしょう。
それに気づいたアザミは連絡を取らなくなります。必死で言い訳をしようとする直樹。直樹も菊子に嘘をついていました。自分はバスケ部でレギュラーであると。実はまだ始めたばかりなのに。
等身大の自分を知ってもらおうとする直樹に,菊子はようやく許すことにしたようです。不完全な二人こそが,本当の完全体であると。
リア充を感じた神様はすでにいなくなっていました。
四番 リチャード・ブランソン(大学非常勤講師)
「美しい言葉でお話がしたいの」
リチャードは一生懸命日本語の勉強をし,JLPTの1級も取得していました。何とか日本人の高校生に英語を身につけさせたい。しかし,リチャードの授業を聞いてくれる高校生はあまりいませんでした。
生徒のハヤトからは「リチャードの授業,超つまんない。去年のアレックスの方がよかった」と言われる始末です。
「What ant is the largest?」(アリの中で一番大きいものは?)という質問をしても,まともに答えようとしません。ここでリチャードは生徒たちに本音をぶつけます。
「日本人と。。。あなたたちと仲良くなりたくて,日本語を勉強しました。私は人間だから,日本を好きだという心を持っています。人間だから。。。」
その言葉にハヤトたちも何かを感じ取っているようでした。初めて生徒と真剣に向き合い,言いたいことを伝えたリチャードの勇気。
一年契約のリチャードは,それ以降契約するつもりはなくなったようでした。しかし慰めたのは神様でした。
「今日のリチャードはよかったよ。ちゃんと想いを言葉にできていた」と。そこでリチャードは気づくのです。
自分に足りなかったのは,一方的に模範解答を言うのではなく,生徒と心のこもった会話をすることであると。ハヤトたちも,リチャードに対して誤解していました。リチャードがあまりにも日本語がうまく,日本人らしいからバカにされていると思っていたようです。
ようやくリチャードと生徒たちの間で美しい言葉が交わされるようになっていったのです。
五番 福永武志(零細企業社長)
「わし,えらくなりたいの」
神様は,電器工事を請け負う零細企業の福永にそんなことを言いだします。福永は,他人から一番えらいと認められたいと思っていました。「私は神だ」と。社員には厳しく,社員は社長のことを傲慢に感じている様子です。
そんなある日,事務の喜多川という女性以外,社員が一斉に出社拒否した日がありました。退職代行サービスから,5人の社員が退職するということが福永に告げられます。そして彼らは自らの企業を興していました。
あまりの急な事態にうろたえる福永。しょうがなく,彼は自分自身が作業着をきて,現場の仕事に行くことになります。
ある日,福永は喜多川に誘われて「ストリップ」へ行くことにします。女性である喜多川がストリップに行くことに驚く福永。ネネという踊り子のステージを観終わった二人は,席についてくつろいでいました。そこにキャップをかぶった初老の「ディー」という男性が現れます。
ここで福永は,自分が社長で,多くの社員が退職して出て行ったことを伝えます。そして,ある女性がエアコンの怪奇現象を話し出します。
福永はそれが怪奇現象ではなく,エアコンの構造上の原因があることを見抜きます。周囲の人々は驚きます。「名刺がほしい」と言われた福永は,渋々名刺を渡します。
事務員である喜多川は福永に嘆願します。自分も電気工事がやりたいと言い出すのです。この嘆願を福永は了解します。妻の八重子も賛成します。
福永は「ヒビヤ・エレクトリック」の社長,日比谷徳治の講演会に出席しますやはり大企業の語る言葉には重みがあると福永は感じているようでした。
そして講演会後,福永は日比谷の秘書から「日比谷が福永様とお話がしたいと」言うのです。何かの間違いと思っている福永でしたが,日比谷から「自分はあの『ディーだ』と告げられるのです。唖然とする福永。
福永は,日比谷から電気工事のメンテナンス部門のまとめ役として正規雇用を依頼されるのです。意外な展開。しかし福永の答えも意外でした。
「ありがとうございます。でも辞退させていただきます。裸一貫,やり直します」と断るのでした。福永はいろいろ考え,神様に言うのです。
「あんたが。。。左手がやってきたことって,本当は自分がやりたいと思ってきたことだったんだよな」
神様の目的は,まさに「自分の本当にやりたいことを実現させる」ことだったのです。しかも自分の力で。
5つの短編の本当の意図は何なのだろうかと考えながら読みました。それは最後の5話目で明らかになりました。「なるほど」と。自分の夢や希望って,神頼みして実現することではないんですよね。
よくいろいろな人が言いますけど,やはり夢を実現するためにはまずは行動しなければならない。頭の中で考えすぎて「きっと自分にはできないだろう」って思って何もしなければそれまでなんですよね。
行動すること。それが成功するか失敗するかはわかりません。ひょっとしたら失敗する可能性の方が大きいかもしれない。でも,失敗しないとわからないことも多い。世界の偉人や,世界の経営者たちは「失敗することの重要性」をよく説かれておられます。
いつも思うのは,やはり人生の最期に後悔はしたくないということです。あれやっとけばよかった,やってたら人生は変わっていたかもしれない。
今回の神様は,そのほんの少しのきっかけを作ってくれる,思いやりのある神様だったのだと思います。
● 本作品に登場する神様の本当の目的
● 自分の夢や希望をどうやってかなえるのか
● こんな神様がいたらいいなぁ,と思わせられるストーリーでした