2002年に公開された新海誠先生のアニメ作品です。ご覧になった方も多いかもしれませんね。
本作品を手に取ったのは,やはり「君の名は」のノベライズ作品を読んだからでしょうか。基本的に僕の場合,原作を読んでしまって,映像化された作品は気が向けば観る方なんですけど,新海先生が苦心の末,書き上げたノベライズは本当に読みやすいし,イメージしやすいです。
本作品も僕のイメージの中で想像しながら読みました。映像化されたものを観ていないのでわかりませんが,活字だからこそ活きる部分もあるんじゃないかと思います。
そして,SFだとはわかっていても,その話に入り込んでしまい「早く先を読みたい」と思いながら,一気読みしました。
ノベライズ作品があまり好きではなかった僕にとっては,その良さを知るキッカケとなった作品の一つと言っても過言ではないです。
是非,ノベライズ版としても読んでもらいたい作品です。
「君の名は」の時もそうでしたが,本作品は映画のイメージが強いため,風景画像をメインに挿入してあります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 主人公と「閉じ師」の存在
3.2 鈴芽たちを襲う巨大な敵
3.3 鈴芽が唯一入れる扉
4. この作品で学べたこと
● 主人公の見ていた夢は何を意味する者なのか知りたい
● 戸締まりをする「閉じ師」とはどんな役割を持つ者なのかを知りたい
● 本作品の背景とは何なのかを知りたい
美しい青年とすれ違った17歳の少女・鈴芽は、「扉を探してるんだ」という彼を追って山中の廃墟へ辿りつく。しかしそこにあったのは、古ぼけた白い扉だけ。鈴芽はその扉に手を伸ばすが……。新海誠監督が自ら執筆した原作小説!
-Booksデータベースより-
岩戸鈴芽・・・主人公。宮崎県に住む女子高生
宗像草太・・・日本各地の扉を閉める為に旅をしている「閉じ師」
岩戸環・・・・鈴芽の叔母。母親のいない鈴芽を大事にしている
ダイジン・・・要石から解放された,白い猫の姿をした生物
1⃣ 主人公と「閉じ師」の存在
2⃣ 鈴芽たちを襲う巨大な敵
3⃣ 鈴芽が唯一入れる扉
舞台は宮崎県。静かな町に一人の女子高生が住んでいました。岩戸鈴芽(すずめ)という女性です。彼女には繰り返し見る夢がありました。まだ鈴芽が子供の頃,母親を探している夢。「おかあさん! ねえ,おかあさん,どこーっ!」
廃墟が立ち並ぶような草原の中をひたすら歩きながら,母を探すも見つからず疲れ果ててしまう夢。そこに現れた一人の女性。誰かはわかりません。
ある日、鈴芽は登校中に宗像草太というと出会います。彼がかなりの美青年だったため,鈴芽は引き返し,彼の後を追います。ところが彼は見つかりません。
そうこうしているうちに,ある廃屋の水溜まりの中にある1つの古い扉がぽつんと立っていました。恐る恐る扉をあける鈴芽。そこには広い草原とすべての時間が混ざり合ったような空がありました。
そう,鈴芽が夢の中で何度も何度も見てきた光景だったのです。それは死者が行くという常世(とこよ)の世界でした。
鈴芽は扉の下の足元の部分にに刺さっていた「石」を見つけます。この「石」は猫の形をしていて,鈴芽は思わず持ち上げてしまいます。すると石は白い猫の姿に変え,そのまま逃げていきました。一体,この猫はなんだったのか。
そして,鈴芽は学校へ行きます。すると山の方から煙が上がっているのを目撃します。同時に「緊急地震速報」のアラームが鳴り響きます。地面が大きく揺れます。
何か胸騒ぎがして,鈴芽はさっきの廃屋の扉の場所へ戻るのです。そこで見たのは,戸を締めようとしている草太の姿がありました。
一体,彼は何のために扉を締めようとしているのでしょうか。訳もわからず草太と一緒に扉を締めるのを手伝う鈴芽。そして「戸締まり」に成功するのです。
草太はこの「戸締まり」で怪我をしてしまいました。そして草太から衝撃的なことを打ち明けられるのです。実は,地震の原因は巨大な「ミミズ」だったようです。日本列島の下を動き回るミミズ。それを草太は必死で抑えていたのです。
本来であればそのミミズの動きを封じ込めている「要石(かなめいし)」がありましたが,それを鈴芽が取ってしまいました。
さっきのあの「石」は要石だったんですね。「西の要石」と呼ばれるようです。地震を止めるためにはもう一度要石を刺す必要があります。申し訳なさそうな感じの鈴芽でしたが,草太とともに「戸締まり」の旅をすることになります。
もともと要石であった猫は「ダイジン」と言いました。そのダイジンが二人の前に現れます。ダイジンを捕まえようとする二人ですが,なかなか捕まりません。
最終的には,草太は椅子の中に閉じ込められてしまいます。鈴芽が幼い頃から大切にしていた子供用の椅子に。それを見届けると,ダイジンは船に乗って逃げ出してしまいました。
フェリーが向かう先は愛媛県。愛媛県と言えば「みかん」でしょうか。ダイジンを探す中で,たくさんのみかんが転がってきます。それらをすべてキャッチした鈴芽に目を丸くする女性が千果という女性でした。鈴芽は千果と仲良くなります。しかし,ここでもあの「扉」がありました。ミミズを目撃した二人。今度は千果と一緒に後ろ戸を締めます。何とか抑え込めたようです。
千果と仲良くなった鈴芽は,椅子になった草太と共に宿に泊まることになりました。
スマホでSNSを見ていた時,ダイジンの姿がアップされていました。
白いひげが昔の大臣のようだとSNS上で話題になり、鈴芽たちはその足跡を追います。神戸へ向おうとする鈴芽たち。
鈴芽はヒッチハイクをします。すると神戸へ向かうルミという女性のトラックに乗ることになりました。ルミには二人の子供がいて,鈴芽は乗せてくれた代わりに子供二人の面倒を看ます。
夜になってスナックを手伝っていると、何とその店にダイジンがいました。ダイジンは何を考えているのか。。。
ダイジンが逃げたので後を追います。するとここでもミミズが暴れています。ミミズが出ていたのは廃園となっていた遊園地の観覧車でした。
その隙に,椅子になった草太はダイジンを捕らえようとしますが,失敗し逃げられてしまいます。そして観覧車に苦戦した鈴芽でしたが、なんとか後ろ戸を閉じることに成功します。
SNSを見ると,またダイジンが別の場所にいることがわかりました。そして世話になったルミさんに別れを告げて旅立つのでした。
今度は新神戸駅から新幹線に乗り東京へ向かいます。LINEには叔母で義母の環さんから、55件のメッセージが溜まっています。どうやら,なかなか帰ってこない鈴芽を心配して,探しているようです。
二人は東京に到着し,草太のアパートへと向かいます。部屋で様々なミミズに関する文献を読んでいるところに,草太の友人である芹澤朋也と出会います。
そして地震速報が鳴り響きます。小さな揺れが襲い、鈴芽は部屋の外に出ます。今度は神田川の電車用トンネルから巨大ミミズが現れたのです。あの「扉」はどこにあるのか。後ろ戸は地下にあるようです。
ところがここで思わぬことが起こっていました。実は「東の要石」も抜けてしまってました。草太,いや椅子になった草太はミミズに飛びつきます。椅子の脚がミミズに食い込みます。そして巨大なミミズが上昇する中,鈴芽も飛び乗ります。
空は,巨大なミミズが覆ってしまい,辺りは異様な雰囲気になってしまいます。そして鈴芽と草太はダイジンと向かい合います。そこでダイジンは言うのです。「かなめいしはおまえだ」と。それを言われた瞬間,草太の体は石化します。つまり,要石となってしまうのです。
ミミズは地面に落下していきました。そして鈴芽は覚悟を決めます。要石となった草太をミミズに突き刺したのでした。ミミズは破裂し,跡形もなくなりました。
落下していく鈴芽を助けたのはダイジンでした。そのダイジンは鈴芽にこんなことを言うのです。
「すきじゃないのぉ,だいじんのこと」
ダイジンがいなければ草太は要石になる必要もなかった。そして鈴芽は答えます。
「二度と話しかけないで!」
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
後ろ戸を締め、地上に出ることに成功します。そこはあの「皇居」の前でした。鈴芽は草太の育ての親であり,草太の「閉じ師」としての師匠でもある祖父の宗像羊朗の入院している病院へ行きます。常世に入る方法を知りたい。そして草太を助け出したい。一度は宗像も反発します。
しかし,鈴芽の覚悟を知ると,宗像の考えが変わります。「人のくぐれる扉は一つしかない」と教えられるのです。そしてさらなる旅に出発します。草太の部屋で身支度し出発すると御茶ノ水駅前で芹澤に声をかけられます。そしてここでようやく鈴芽の叔母である環も会うことになるのです。
長い間,留守にして心配させた鈴芽のことを環は執拗に責めます。「既読スルーばっかだがね」と。環にとって,鈴芽は大事な姪っ子でした。
鈴芽の母親,つまり環の姉が亡くなり,ひとりぼっちになった鈴芽をたった一人で育てたのが環です。芹澤のボロ車に乗って,鈴芽,環,そしてなぜかダイジンも一緒に出発します。鈴芽の実家の近くにあるはずの扉へ向かって。
行先は岩手県です。まず一行は,気仙沼にある道の駅・大谷海岸に到着します。相変わらず環は鈴芽と口喧嘩をするも鈴芽。その時,ダイジンは側にいた巨大な黒い猫に気付く。
その猫の名は「サダイジン」と言いました。左大臣? ボロ車にサダイジンを乗せ,実家へと向かうが,車が故障してしまいます。
鈴芽は二匹と実家へ走って向かおうとしますが,環が廃棄されていた自転車に乗り、鈴芽を乗っけて実家へ向かいます。
そしてとうとう鈴芽たちはかつて実家のあった跡地に辿り着くのです。鈴芽は思い出します。
私が四歳の頃,大きな地震があった。
それは日本の東側半分をまるごと揺らすほどの,本当にほんとうに大きな地震だった。
(中略)
私のお母さんは,結局最後まで帰ってこなかった。
昔のことを思い出しながら,鈴芽は裏庭にあった井戸の穴を掘りだします。何か思い出したのか。「がちん」という音とともに何かが出てきました。「すずめのだいじ」と書かれたクッキー缶です。缶の中に入っていたのは日記帳でした。
三月三日のこと。三月四日のこと。。。そして三月十日に誕生日を迎えた母親のことを書いた文章。そして三月十一日。ページは真っ黒に塗られていました。
母を待つ鈴芽は,不快な感触,爆発しそうな感情を押し殺しながら「黒く塗りつぶしていた」のでした。めくってもめくっても黒いページが続くばかり。ところがあるページで目が止まります。
何と「扉の絵」でした。ドアの中には星空が描かれています。これは鈴芽が見た光景なのか。「夢じゃなかった。。。」鈴芽は思いました。そしてダイジンが鈴芽を呼びます。声をかけられたダイジンの後を追っていくと,そこには草木に覆われた錆びた扉を見つけます。
実はダイジンは,今まで後ろ戸のある場所に案内していたようなんですね。そのことに気づいた鈴芽はダイジンに礼を言います。元気を取り戻したダイジン、サダイジンと共に常世へ向かう。
扉を見つけ出した鈴芽は,ダイジンとサダイジンらと常世の国へ入って行きます。そして大地の一点が鈴芽たちに向かってやってきます。それはあの「ミミズ」でした。
見たこともない巨大なミミズ。同時にサダイジンが巨大化し,ミミズに襲い掛かります。そのミミズにはあの「椅子」が刺さって,丘のようになっています。そう,草太です。
鈴芽はダイジンと力を合わせてその「椅子」を引き抜きます。椅子からは本来の姿の草太が戻ってきました。
二本の青く長い光の槍が,ミミズの頭と尾を同時に貫いた。
次の瞬間,その長大な体は弾け飛び,光の雨となって地表に激しくふりそそいだ。
ダイジンとサダイジンは,揃って要石となってくれたのです。そして巨大ミミズを鎮めたのでした。顔を上げると常世の向こうに幼い頃の自分がいます。迷い込んだかつての自分に形見の椅子を渡した女性。
知りたいようで,実は知りたくなかった。鈴芽がお母さんだと思っていた女性。それは大きくなった「すずめ」自身だったのです。
幼いすずめが鈴芽に対してひどく興奮します。「お母さんのところにいかないといけないんだ」と。しかし,鈴芽は幼い頃の自分に言うのです。
あのね,すずめ。今はどんなに悲しくてもね。。。
すずめはこの先,ちゃんと大きくなるの
だから心配しないで。未来なんて怖くない!
今は真っ暗闇に思えるかもしれないけれど,いつか必ず朝が来る
そして鈴芽は現在の世界へ戻ってくるのでした。「行ってきます」と戸締まりをして鈴芽は環さんたちの元に帰っていくのです。
鈴芽は駅のホームで「必ず逢いに行く」と言った草太とハグをして別れました。そして環と共に助けてくれた人たちに会いに行きながら宮崎に帰っていったのです。
季節は変わり冬になった頃、いつもの暮らしをしている鈴芽の元に、ある男がやってきます。「おかえり」と鈴芽は言うのでした。
日本列島は,構造上多くの地震が起こる要素を持っています。
4つの地殻プレートが交わり,東北地方近海には「日本海溝」という深い溝がある。
海の上にかろうじで浮いているようにも見える日本で起こったのが2011年3月11日の「東日本大震災」地震の揺れもさることながら,やはりその後の「津波」の恐ろしさを改めて知ることになった大震災でした。
新海先生はこの震災が心の中でずっと不協和音が鳴り響いていたといいます。それが今回のアニメーション化に繋がったとも。(本書あとがきより)
今から12年以上の前の出来事も,作品の中では「まだ終わっていない」ということも描いているように思います。今回は一人の女性が,自分の宿命へ向かって必死に,そして覚悟を持って行動するという物語でした。
そして,作品を通して,被災した人々へ向かって希望を与えてくれるものでもあったのかなと感じました。宮崎から東北まで,それは他人事ではないぞ,と訴えているようにも思えます。
いつ何時,あの規模の災害が自分の近くで起こる可能性がないとは限らないのですから。
● 「すずめの戸締まり」の意味
● 本作品と,かつて起こった大震災との関係
● 生きる希望を与えてくれる作品でした