東野圭吾の作品の中で,一番最初にハマってしまった作品です。一気読みでした。
自分の娘を殺害された長峰という男が,殺害グループの少年たちを追いかけ,復讐するという話です。
この作品,2009年に映像化されています。長峰は寺尾聡さん,それを追う刑事である織部を竹野内豊さん。
そして2021年になり,WOWWOWの30周年記念ドラマとして,今度は長峰役を竹野内豊さんが演じるという,ファンにとってはたまらない作品になっているのではないでしょうか。
子を持つ親,特に娘さんを持つ父親にとっては衝撃な作品なのではないかと思います。
自分の娘を殺害された長峰は果たして復讐を果たすことができるのかがポイントになっています。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 娘を殺害された父親の心理
3.2 恐ろしいまでの復讐心
3.3 長峰の復讐は達成されるのか
4. この作品で学べたこと
● 「さまよう刃」の意味を知りたい
● 娘を殺害された人間の恐ろしいまでの復讐心を知りたい
● 主人公の復讐は達成されるのかを知りたい
長峰重樹の娘、絵摩の死体が荒川の下流で発見される。犯人を告げる一本の密告電話が長峰の元に入った。それを聞いた長峰は半信半疑のまま、娘の復讐に動き出す。遺族の復讐と少年犯罪をテーマにした問題作。
-Booksデータベースより-
長峰重樹・・・主人公。過去に妻を亡くし,一人娘と過ごしている
長峰絵摩・・・長峰の一人娘。高校生のグループに襲われる
織部孝史・・・警視庁捜査一課の刑事。長峰を追う
丹沢和佳子・・ペンションを経営。宿泊客の長峰に気づく
菅野快児・・・絵摩を襲ったグループの一人。主犯格
伴崎敦也・・・絵摩を襲ったグループの一人
中井誠・・・・敦也・快児の同級生
1⃣ 娘を殺害された父親の心理
2⃣ 恐ろしいまでの復讐心
3⃣ 長峰の復讐は達成されるのか
主人公の長峰重樹には絵摩という一人娘のがいました。何かギクシャクしている感じの二人の関係。長峰は接し方に困っているようでした。
そんなある日,絵摩は友達と花火大会に行くことにします。楽しそうに出かける絵摩。
複雑な感じの重樹ですが,この後,思ってもないことが起こります。
絵摩が待てども家に帰ってこないのです。何かあったのではないか。子供と連絡が取れないという状況,親としてはとても辛い時間です。そして長峰は警察へ捜査願いを出します。
実は絵摩は高校生グループから声をかけられ,連れ去られてしまいます。
高校生グループとは菅野快児と伴崎敦也,そして中井誠の三人です。絵摩をクロロホルムで眠らせた彼らは車を運転し,絵摩を拉致します。そしてさらに薬を注射し,抵抗できないようにします。
その後,蹂躙しました。ここだけでも許せないんですけど,その状況をビデオで撮影して保存していたのです。そして最後には絵摩は殺害されてしまいました。
絵摩の遺体は荒川でみつかりました。茫然とする長峰。
そして長峰はさらに知りたくもない情報を手に入れてしまいます。
長峰はある刑事から犯人グループの存在を伝えられます。そして快児と敦也の二人が主犯んであることがわかります。この刑事が誰かはわかりませんが。。。
長峰は二人のうちの一人である敦也の自宅に侵入します。そこで不審なビデオテープを見つけます。自分の娘が目の前のモニターに映り,男たちに蹂躙されているのです。
このビデオを見ているときの長峰の心理を想像するだけでも気分が悪くなりました。激しい憎悪が襲ってくるのは間違いないです。
長峰はそのビデオをわざと目に焼き付け,復讐心をむしろ増幅させている印象がありました。「必ず復讐してやる」そんな声が聞こえてきそうでした。
そして長峰が敦也の家に潜んでいるところへ,敦也が帰ってくるのです。
長峰の殺害シーンには驚きます。ここでは触れませんができませんが,男性ならその恐ろしい犯行に気分が悪くなる人もいるかもしれません。あまりにも生々しい。
この文章を書きながらそのシーンを想像するだけで恐ろしいシーンが脳裏に浮かんでくるくらいです。
少しだけ明かせば,躊躇なくナイフで切ったことからもその恐ろしい復讐心を悟ることができます。
そして,あと一人,快児が残っています。彼を殺害することが長峰の復讐の完遂なのです。
しかし快児は逃げていました。長峰は長野県に快児がいることを突き止めます。さらに長野のペンションにいることがわかり,趣味で持っていた猟銃をもち,長峰はとうとう復讐の旅に出ます。 長野についた長峰は,クレセントというペンションを拠点に快児のいるペンションを探して彷徨います。まさに「さまよう刃」です。
ところがこのクレセントの娘である和佳子は,敦也殺しで指名手配されている長峰に気づいてしまいます。長峰,ピンチです。
と思っていたんですが,彼女は自分の息子をかつて失っていたということで,長峰の心情に共感したのでしょうか。長峰の味方になるのです。
「快児を探す手伝いをさせてほしい」と。
この部分が少し理解できなかった部分です。報道ではおそらく凶悪犯として長峰は追われていたと思います。
普通はそんな報道を見た人ならば,自分のペンションにまさにその犯人がいるとわかれば恐ろしくなるんじゃないかな。
でも不思議なんですよね。読者の価値観もいろいろかもしれないですが,どうしても長峰を応援しています。何か複雑です。。。
罪を犯している人間を応援するというのはよくないことなのかもしれないけど,そういう気持ちにさせられるような描き方が絶妙なんですね。
「早く見つけろ。そして復讐を果たせ」
そんなことを思いながら読んでいる自分がいることに気づいて驚きました。
しかし,その動向に警察も動き出していました。長峰の潜伏先を突き止めます。徐々にクライマックスが迫ってきていることを感じます。
しかし,快児は自分を狙う者の動きを察知したようでした。ペンションから逃げてしまいました。
あともう少しのところで復讐できたのに,この残念な気持ちはなんだろう。
警察に「余計なことをするな」と思ってしまいます。ん~,やっぱり複雑です。。。
そして快児は上野駅へ戻ります。その動きを察知した長峰は追います。警察も動いています。
自首をすすめる和佳子を振り切り,とうとうクライマックスへと突入していきます。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
これを読んだ人,あるいは映像化された作品を観た人は,長峰の心理をどう感じたのでしょうか。
上野駅のクライマックスまで,読者は復讐を完遂できることを信じていたのではないだろうか。
ただ警察が近づいているのが気になります。快児に限りなく近づいている長峰。その動きを察知した警察。
「捕まる前に撃ってくれ」と思った読者は多かったのではないでしょうか。そのくらいこの作品には長峰に同化され,長峰に引き込まれる描き方をしています。
とうとう長峰が快児を見つけ,彼に向かい銃を向けます。
しかしそこに和佳子がやってきてました。そして彼女は長峰の名を叫んでしまうのです。
そこで一瞬長峰の動きが止まってしまいます。
次の瞬間,刑事の織部が長峰に発砲。長峰は警察に撃たれてしまった瞬間でした。
そして,長峰の復讐は達成されることなく,亡くなってしまうわけです。 「こんな終わり方って。。。。」
確かに長峰は人を殺めているからそれは償わないといけない。
でもそれならせめて快児への復讐を遂げてからにしてほしかった。なぜ和佳子は彼の名前を呼んでしまったのか。やはりかつて息子を亡くし,復讐をしても何も解決にはならないと思ったのでしょうか。
読んだ後の「喪失感」はすごかったです。それだけ自分が長峰になりきっていたことに気づかされます。
娘を凌辱された屈辱と喪失感。炎のように燃え盛るような復讐心。
長野のペンションをひとつひとつ消去法でつぶしながら「さまよう」長峰の姿。ここまで苦労して探し当てた娘の仇をうつことができなかった長峰はさぞ無念だったと思います。
復讐がよくないことはよくわかります。もし長峰が快児に復讐を遂げていたとすれば,今度は快児の肉親が長峰に復讐するかもしれない。
どんな理由があったとしても,自分の子供を失った気持ちは何よりも大きいと思います。
だから復讐はさらなる復讐を生むという「連鎖」が起こるというのも理解できます。
では何でとめるのか。それは「法」しかないのかなって思います。しかし快児は未成年。「少年法」で護られます。だから,長峰の復讐心が増幅したのだとも思います。
法律云々で納得できないこともあるとは思います。自分の娘を殺した人間がこの世に生きていること自体が許せない。それは本当に痛いほどわかります。
でもそれを復讐で止めることができないとすれば,「法」に従うしかないのかなと思います。結局いろいろと考えても,最終的にはそこに辿り着いてしまうんですよね。
それはわかっているんだけど。。。
今回の話はどうしても長峰に同情してしまいました。
● 子を持つ親でならば,この長峰の気持ちは理解できるのではないか
● 長峰の復讐が達成されるのかどうか,クライマックスが衝撃だった
● 復讐心は理解できるが,それはさらなる復讐を呼ぶことがある