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【お前の罪を自白しろ】真保裕一|ある政治家が隠した罪とは

お前の罪を自白しろ

真保裕一先生の作品をこれまで何作か読んできました,今回は「誘拐事件」と「政治汚職」がテーマになっています。

お前の罪を自白しろ」書店で本を選びながら強烈なタイトルで手にした作品。

「帯」にも,2023年10月に上映が決定されるということが書いてあったので,それも購入したキッカケでもあります。現在,上映されているようですね。

一体,誰が何の罪を犯し,誘拐事件を犯した真犯人は一体誰なのか,ということが最大のポイントとなります。

罪を重ねてきた政治家の父を持つ主人公は,果たして事件を解決できるのか。そして誘拐された子供を解放させることができるのか。

意外な展開に圧倒されること間違いなしの一作です。

こんな方にオススメ

● 誰のどんな罪を自白させようとしているのかを知りたい

● 公共事業と政治家や関連企業との関係を知りたい

● 誘拐事件について考えてみたい



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主な登場人物

宇田晄司・・・主人公。政治家の清治郎の息子で秘書

宇田清治郎・・衆議院議員で,大臣経験もある

宇田楊一郎・・清治郎の息子。晄司の兄

緒方真由美・・清治郎の長女。晄司の姉

緒方恒之・・・真由美の夫。戦略結婚?

平尾宣樹・・・埼玉県警の捜査一課の刑事

本作品 3つのポイント

1⃣ 誘拐事件発生

2⃣ 罪を自白する会見

3⃣ 事件の真相とは

誘拐事件発生

緒形麻由美は娘の柚葉を公園で遊ばせていました。その時に事件が起きてしまいます。

ある男がその光景を盗み見していまいした。何かを企んでいる様子。

麻由美は政治家の大御所である宇田清治郎の娘です。

男は白い車を走らせ,自転車に乗った麻由美と柚葉の二人を倒します。誘拐した白い車そして柚葉だけ車に乗せ,連れ去ってしまいました。つまり「誘拐事件」発生です。

よって,警察内の「記者クラブ」とは「報道協定」を結び,誘拐事件が公にならないように仕向けます。

まさに横山秀夫先生の「64(ロクヨン)」の時と同じですね。

一方,そんな事件が発生していることも知らないのは清治郎の家族たちです。

清治郎の長男・楊一朗は、県会議員で党県連幹事長の座についていました。

清治郎の次男・晄司は清治郎の秘書をしています。秘書かつてはデザイン会社を立ち上げ,自分の父親からも支援を受けていましたが,一緒に立ち上げに関わった人間が別の企業を立ち上げてしまいました。

そして晄司は企業からはじき出された形になってしまってしまい,父親の秘書をやることになったというわけです。

また,麻由美の夫である市議会議員の緒形恒之は政界への進出を狙っていました。戦略結婚というところでしょうか。

ここで冒頭で書いた事件の一報が入ります。宇田一家に戦慄が走ります。清治郎の孫娘が誘拐されたことが判明します。脅迫電話警察に捜査依頼をする宇田家。そしてその誘拐が真実であることがネット上に現れます。

WEBサイト上に「孫娘を預かった」という書き込みがされていました。

ネット上のどこから送信されたものなのかを調べても,匿名ソフトによる書き込みで,所在が完全に隠蔽された状態だったんですね。

犯人は相当知能の高い人間なのでしょうか。そもそもネットが発達した時代に「報道協定」って効果あるのか? とも思ったりしましたが。。。

そして,さらに犯人からも連絡が入ってきました。

「明日の午後5時までに会見を開き、おまえの罪を自白しろ」と。犯人からの電話一体,誰の罪の自白なのか。「孫娘」という表現から,ターゲットは宇田清治郎ではないか。

身代金ではなく「自白」が取引条件の誘拐事件。よく誘拐事件を扱った小説もたくさんありますが,だいたいは身代金の要求が多いような気がします。

しかし今回は明白に「罪を自白しろ」という条件ですから,清治郎がこれまでの政治生活の中で多くの「悪事」を行ってきたことを想像してしまいます。

政治家は「清濁併せ吞む」とよく言われますもんね。実際のところは突っ込みませんが。。。

とにかく,犯人側はどの罪を自白することを望んでいるのかもわからないわけですから,宇田家,そして警察も混乱するわけです。混乱する警察清治郎からいろいろと思い当たることを問い詰めているうちに,一つ心当たりがありました。

橋梁建設で総理の友人の土地を通るルートへ変更させ、その資金の見返りを授受しようという罪。

その指示は総理側からあったという疑惑がもたれており,清治郎と総理には何かしらの繋がりがあるのは明白ですが,清治郎はぼかして発言します。

現総理の足を引っ張っぱれば,政界における自分の立ち位置も危うくなっています。これが政治家の「性」なのでしょうか。

清治郎は何とか穏便に解決できないかを探っているようでした。

しかし,それをうやむやにしたまま会見を開いたのでは,孫娘の命がとても危なくなってしまいます。孫娘清治郎には、過去にいくつかの心当たりのある「罪」があったようです。本当に政治家という人たちは。。。って思ってしまいます。

当然清治郎は苦悩します。いや清治郎だけではなく,息子の楊一郎や晄司,娘の麻由美たちにとっても気が気ではなかったでしょう。

その中で問題を冷静に対処しようとしているのが,清治郎の次男の晄司です。

清治郎の気持ちを察し,さらに麻由美や家族の気持ち,他の政治家との関係,そして警察とのやりとり。晄司の行動どうやら今回の作品のポイントは,この晄司の行動なのではないかと思わせられます。

罪を自白する会見

自分の政治生命を絶つことを優先しようとする晄司は,何が一番大事かを常に考えながら行動しています。それは当然「柚葉」を救うことであると。

タイムリミットの時間となり,清治郎はとうとう会見を開きます。

「本日はお集まりいただき,誠にありがとうございます。ただいま木美塚幹事長に離党届を提出し受理されました」記者会見政治家を辞めることを伝え,そして同時に自らが犯した過ちを話し出します。

既に時効になった政治資金規正法違反。清治郎の友人の関連会社への工事の斡旋の見返りに献金を受け取る。そしてそれを記録しなかった秘書の罪の黙認。

時々政治家による汚職の問題が話題になるたびに,誰かを更迭とか責任を取るとか言っているのを聞きますけど,今回の清治郎も責任を当然問われる罪の自白をします。

取材が揺れるほど記者たちのどよめきが起こります。

これに対し,犯人側から反応がありました。「柚葉が解放か?」と思われましたが,違いました。犯人からの次の脅迫が来たのです。

記者会見は見せてもらった。だが,要求は果たされずに終わった。

お前にはまだ罪があるはずだ。五時間後の午後十時まで待とう。

それまでにもう一度記者会見を開き,お前の罪を洗いざらい全て国民の前で自白しろ

もちろん,それができなかったら人質の命はないとも描かれています。

まだ隠していることがあるというのです。それは一体何か。

これは最初から警察が追っていた、橋梁建設ルート変更問題でした。新競艇場の建設のためにルートを変更しようという企み。警察は清治郎に「全て話すべき」と詰め寄ります。橋梁問題これを話すということは,総理にも被害が及ぶということです。それだけは絶対に避けたかった清治郎。

この辺りを読んだところで,柚葉は生きているのか,犯人は本当に外部の人間なのか,何か政治的な陰謀があって内部の人間の犯行なのではないか。

中心人物である晄司や兄姉,義理兄などなど,全ての人間に対して不信感を持ってしまいました。

話はやはり「新競艇場」の建設の話になります。新競艇場建設のルート変更で封鎖を決めた研修センターの駐車場に注目するのです。

柚葉たちを襲った白い車は,この駐車場から盗難されたもの。何かの意図を感じますよね。なんだろう。。。

晄司は幹事長の木美塚と直接話をすることになります。その途中,何と総理から晄司へ直接電話が入るのです。首相からの電話総理は晄司の父親である清治郎をちゃんと見守ってやれと言いますが,晄司自身の考えはもうすでに次のステップへ行っているようです。

真実を明かすことで,宇田清治郎と総理の罪は逃れないだろうと。目の前にいる木美塚こそが次期首相になるだろうと。

そこにしたたかな晄司の姿を見たような気がしました。そしてとうとう清治郎は二度目の会見を開くのです。

橋梁建設ルート変更の問題は総理からの忖度みたいなもので

君の力で橋の建設地を変えることができれば,次の内閣改造が楽しみだ

と言われたのでした。首相への忖度将来の大臣ポストを期待するあまり,恥ずかしいことをしたと猛省するほかありません

清治郎が完全に自白した瞬間でした。

そうなれば,橋梁建設ルート変更問題は,元のルートに戻るはず。

そしてとうとう犯人からの回答がくるのでした。

事件の真相とは

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宇田清治郎の罪を全て暴露したことによって,何と柚葉は解放されました。

脱力感いっぱいの宇田清治郎,そして彼を取り巻く家族,母親の麻由美。柚葉解放宇田は政治生命を投げうって,自分の孫を守りました。しかし,晄司はまだ解決していないと思っていました。

そう,柚葉を誘拐した人間を捕まえないといけない。

世間では当然橋梁建設ルート変更問題について関わっていた政治家たちに、メディアは追及していました。

宇田清治郎は言われるがままに行動していたある意味「被害者」という味方もあるかもしれません。

しかし,完全に汚職に関わっていたのでメディアは追及します。

一方,平尾刑事は犯人につながるものはないかと現場検証に訪れます。刑事そして同じ場所に晄司も現れます。「なぜ犯人が日の出町緑地で人質を解放したのか」

何やら晄司には秘策があるようです。犯人を自ら登場させる方法を考えついたようです。

その後,宇田清治郎親子は議員辞職会見を開きました。

全て洗いざらい告白したのに,まだ会見を開くのか? 司会は宇田晄司です。

宇田清治郎は再度自分の犯してきた罪を謝罪します。そして長男の楊一郎が発言します。

「戸畑競艇場建設と,跡地の再開発に全力を注いでまいります」と。

橋梁建設再開発の調査は宇田たちが自費で行って継続することを伝えたのです。

えっ? ルートは結局変更しないの? それだとまた犯人が動き出すのでは?

実はこれが晄司の狙いでした。公に今後の方針を説明したことで,犯人が動き出すと読んでいたのです。そしてそれは成功します。

ある雨の降る日に,警察や晄司たちは息を潜めて緑地公園にやってきていました。張り込みすると,ある男が夜中にやって来て地面を掘り起こそうとしています。

このタイミングで警察が動きます。「容疑者確保!」容疑者確保一体,容疑者は誰で,何が起こったのでしょうか。

男の逮捕によって、ある事実が明らかになりました。今から24年前に「金沢清則」という男が行方不明になりました。

彼の妻である初美からは捜索願が出されていましたが、実はすでに殺害されてこの場所に埋められていたようなのです。

殺害したのは、初美の愛人である「寺中勲」でした。寺中本作品を読めば,冒頭の誘拐の計画の件。「寺中勲」という名前が書いてありました。

さらに犯行に気がついた初美の実の弟をも殺害して,緑地公園に遺体を埋めています。

つまりこの緑地公園には遺体が二体あったということになります。

それを掘り返されてしまっては事件が明るみになってしまうと考えた寺中は,まんまと晄司たちの罠にかかってしまったんですね。

全ては,自分の犯した殺人事件を公にしないようにするため,橋梁建設ルート変更工事に関わっていた宇田清治郎を脅したということなんですね。

本当に許せない犯罪です。確かに宇田は「公共事業に対して関わっているという罪」がありました。私利私欲の清治郎でも柚葉には罪はないわけです。それだけにこの寺中という男の身勝手さがとても許せない。

全ては「私利私欲」がさせたものだったんですね。

今回の作品は公共事業の不正による事件が,別の事件を隠蔽するためのものであることがポイントである事件でした。

犯人逮捕に貢献したのはもちろん警察ですが,犯人確保のアイデアを警察に進言したのは宇田の秘書であり,次男であった晄司でした。

ストーリーが進むにつれ,誘拐事件を解決しようという目的のもとに多くの人々から話を聞いて,最終的には事件解決のための推理力も働かせたことには本当に驚きました。

おそらく最後を読む限り,晄司は想像以上の役割を与えられそうです。重要な役割ただ,幼い子供たちの誘拐事件でいつも思うのは,無力で罪もない人間が犠牲になってしまうことがあるという事実です。

誘拐された親の気持ち,犯人の私利私欲という身勝手な犯行。

その苦しみは決して消えることがないし,特に誘拐された子供は半永久的にトラウマに陥ってしまう可能性もある。

何が一番大切なのかを考えさせられた作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 人間の私利私欲によって,罪もない人間が苦しい思い,あるいは無念な思いをすること

● 政治家の公共事業の裏には,いろいろな企業とのつながりや罪もあるのかもしれない

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