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【おわかれはモーツァルト】中山七里|盲目のピアニストのピンチ

おわかれはモーツァルト

「岬洋介シリーズ」第7弾。中山七里先生の最大のシリーズモノです。

僕自身の好きなシリーズは「御子柴礼司シリーズ」「ヒポクラテスシリーズ」とありますけど,ピアニストでありながら事件を解決するというマルチな能力を持つ岬洋介の姿に毎回感心させられます。

本作品は「いつまでもショパン」の続編的な描き方になっています。あの作品で描かれていたのがポーランドで行われたショパンコンテストの話があったんですけど,その時に参加したあるピアニストが大ピンチに遭遇します。

それを救うべく颯爽と現れる岬洋介にある意味の安心感を覚えてしまうのは,岬のすごさをこれまで何度も見せられてきたからというのは間違いありません。

あるピアニストに起こった大ピンチとは一体何なのか。

今回も必読の一冊です。

こんな方にオススメ

● 岬洋介シリーズを読んでみたい

● 実在する音楽家がモデルになった作品を読んでみたい

● 大どんでん返しを味わってみたい

作品概要

盲目のピアニストが殺人事件の容疑者に?
友人のピンチに天才ピアニスト・岬洋介が駆けつける!
累計175万部突破の“音楽ミステリー”シリーズ! 友人のピアニスト・榊場を助けるため、岬洋介が活躍する『おわかれはモーツァルト』が待望の文庫化です。
盲目ながらショパン・コンクールで2位に入賞したピアニストの榊場隆平は、クラシック界の話題を独占し人気を集めていた。しかし、「榊場の盲目は芝居ではないか」と絡んでいたフリーライターが銃殺され、榊場は一転犯人として疑われることに。そんな友の窮地を救うべく、榊場と同様、ショパン・コンクールのファイナルに名を連ねたあの男がやって来て……。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

岬洋介・・・・主人公。ピアニストであり,検事を父に持つ人物

榊場隆平・・・ショパンコンテストで入賞した,盲目のピアニスト

榊場由布花・・隆平の母親

TOM・・・・本名はトーマス・山崎。榊場のマネージャー

潮田陽彦・・・隆平のトレーナー

寺下博之・・・フリーのジャーナリスト。今回の被害者。

熊丸貴人・・・警察官。生活安全課に所属

本作品 3つのポイント

1⃣ 恐るべきジャーナリストの存在

2⃣ 榊場隆平,大ピンチ

3⃣ 岬洋介の登場

恐るべきジャーナリストの存在

本作品の中心人物は榊場隆平という人物です。彼は先天性緑内障の疾患があり,生まれつき全く目が見えません。つまり「盲目のピアニスト」です。

この言葉を聞くと,辻井伸行さんを思い出しますね。モデルは彼なのでしょうか。YouTubeでも辻井さんの演奏を何度も観たことがありますし,おそらく世界中の人々を魅了するピアニストの一人であることは有名ですよね。中山先生の意図はわかりませんが,本作品で登場する榊場隆平と辻井伸行をダブらせて読んでいる方も多いのではないでしょうか。

隆平は母親の由布花(ゆうか)のサポートを受けながら「ショパンコンクール」に出場し,その類まれなる演奏で2位入賞を果たします。それ以降,隆平は潮田という指導者に従事し,TOMという人物のマネージャーの元,世界的に活躍するようになりました。

そんな隆平は,近々コンサートを開催することになっていました。全てモーツァルトの曲の演奏会。本作品でも書かれていますが,モーツァルトはかつて『神童』と呼ばれていました。

5歳の頃にはすでに作曲をするようになり,彼の一生で作曲した曲の数が900曲と言いますから,本当にすごい人だったんだなと思います。

それだけに隆平だけでなく,由布花やTOM,潮田にも緊張感が漂っているようでした。世間にも認められ,有名人になった隆平にも取材が舞い込みます。彼を称えるものもあれば,本人たちの意図とは異なることが伝わることもありました。

メディアって,本人の意思とは違う形で伝わることがあるというのはよく聞く話ですよね。一つの事実を勝手に捻じ曲げて解釈する人もいれば,メディア自体が捻じ曲げて報道,出版することもある。有名になればなるほど大変な思いをすることも多いのだろうなと思います。本作品の隆平も例外ではないわけです。

そんな中,寺下というフリーのジャーナリストから取材依頼が入ります。彼は「週刊春潮」という出版社と繋がりがあり,今回の取材を出版社に持ち込むというのです。ん~,何かイヤな予感がするなぁ。。。

寺下は隆平が幼い頃から,現在に至るまでの多くの質問をしていきます。取材に異様な雰囲気が漂ってきたのは「ゴーストライター」の話の時です。時代の寵児ともてはやされたある作曲家の制作する作品が,実はゴーストライターによるものだったということです。

そういえば,かつてそんな事件がありましたよね。耳が聞こえないふりをして,ゴーストライターに曲を書かせていたという事件。2014年の頃だから,ちょうど10年前のことだったんですね。それを思い出し,本作品の一つのテーマが頭に浮かぶのです。

予想どおり寺下が書きたかったもの,それは「榊場隆平は,本当は目が見えるのではないか」というものでした。これには当然本人だけでなく,母親の由布花,TOM,潮田も激怒します。取材を受けたことを後悔しますが,後の祭りです。

この辺りから,隆平の調子もおかしくなります。コンサートへ向けて練習しますが,ミスを連発。思ったような音が出せない。完全に週刊誌の報道に動揺しているようでした。

目が見えないということで,サポートしてきた由布花は,自分の息子のメンタルが弱いことを痛感します。でも,よっぽどこういう批判に慣れていない人からすれば,しょうがない気もします。

このことに対して,彼らは警察官を呼びます。やってきたのは生活安全課の熊丸という警察官です。警察って「民事不介入」という掟みたいなものがあります。つまり,何かしらの事件が起きない限りは動けないと。

確かに世間の人々の苦情を全て捜査していては,警察の人数が足りな過ぎる。ストーカーなんかもそうですよね。限りなく事件が発生しそうな状況でも,そこに人を投入するわけにもいかない。

かと言って,事件が起こってからではもう遅い。よくある話で,難しい問題なのかなとも思います。由布花とTOM,潮田も次のように考えるのです。

寺下は榊場隆平の禍(わざわい)となる人間だ

何とかしなければ。。。

そんな時,思ってもない事件が発生するのです。

榊場隆平,大ピンチ

事件は隆平の練習部屋で起きました。あの寺下というジャーナリストが殺害されたのです。凶器は銃で,二発発射されていて,死因は臓器損傷かあるいはショック性失血死のようです。

死亡推定時刻は午後十一時から深夜一時の間。通報したのは,七時に遺体を発見した母親の由布花です。この時間,隆平はすでに眠っており,母親やTOM,潮田にもアリバイがあります。また,事件発生時は,練習室は電気が点いてなかったことが周辺の人々の証言で明らかになります。犯人は暗闇で撃ったのでしょうか。

七時には隆平はピアノの練習を始めています。でも近くには遺体が横たわっていたはずなのです。隆平は目が見えない分,他の感覚が発達いますから,遺体にも気づいたと思うんだけどな。。。

一時は榊場家に足を運んだ熊丸も,事件が起こってしまったことを残念に思っているようでした。ただ,寺下の存在にも怒りを覚えているようでもあります。なんだろう,この違和感は。

事件の最有力容疑者は,隆平であるということになってしまいます。そして警察である長沼も隆平を追及するのです。任意同行を求められ,警察に行く隆平。そこでは厳しい取り調べが行われます。もちろん榊場は容疑を否認します。寺下の腕時計から,隆平の指紋が出てしまったのも大きな問題です。一体何があったんでしょうか。

そもそも寺下という人物は,仕事のために,でっち上げを作るのが得意だったようです。今の世の中でも,嘘なのか本当なのかわからないニュースが毎日のように起きますよね。

確かに事実を公表する被害者の存在もあったりしますけど,SNSでバズりたいために嘘をでっち上げる人間もいるような気がします。寺下もどちらかというと後者だったということなのでしょう。

ただ,遺体で気になるのは,防犯カメラでは寺下はジャケットを羽織っていたんですけど,殺害時には来ていなかったようなんです。これはなぜなのか,というのが大きなポイントとなっていきます。一度は解放されたものの,再び同行を求められる隆平。警察も容赦ないです。

隆平は,かつてショパンコンクールの時に,同じように自分に容疑がかかった時に救ってくれた人物にメールをします。「自分はどうすればよいのか」と。弁護士として吉川という女性がつくことになりそうなんですけど,何かしら頼りなさを感じます。

それは隆平も同じ気持ちだったようです。TOMの会社の顧問弁護士であって,殺人事件の弁護をしたことがないというのはちょっと致命的な気がします。徐々に隆平の容疑が強まり,それと比例するかのように隆平自身も疲弊していくようでした。

これはちょっとまずいかもしれない。そう思っていた矢先,ある人物が現れます。そう,あの岬洋介です。やっと現れてくれたか。正義の味方! 読みながらホッとしてしまいました。榊場隆平のことをよく知り,殺人事件をいくつも解決した類まれなる人物,それが岬洋介です。

ここから,隆平を守ろうとする岬洋介の逆襲が始まるのです。

本作品を読んで

この続きは是非読んでほしいと思います。僕自身は完全にミスリードさせられました(悲)

まさか,そんな展開が待っているとは。。。という感じです。同時に母性,友情,信頼,いろいろなことを考えさせられました。さすが「大どんでん返し」の帝王,中山七里先生。

それにしても,やはり岬洋介という男は本当にすごいです。頭がキレて,さらに人格者である。中山先生のシリーズの中でも,一番真っすぐで,素直な性格を持つ人物だと思います。

普段の優しさと,事件を解決する時の恐ろしいほどの洞察力のギャップがあるからこそ,僕自身はこのシリーズに惹かれるのかもしれません。

もうすでに新刊で,本シリーズの続編が登場しているようなので,早く文庫化されないかなと待ち遠しいです。

この作品で考えさせられたこと

● 岬洋介の優しさと事件解決の洞察力のギャップ

● 音楽と殺人事件の融合に毎回感服します

● やはり,今回も完全にミスリードしてしまいました

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