「岬洋介シリーズ」第二弾です。岬洋介は凄腕のピアニストです。前作の「さよならドビュッシー」では,ピアニストでありながら事件を解決しました。
前作は「ドビュッシー」でしたが,今回は「ラフマニノフ」です。僕自身は音楽に疎い方ですが,ラフマニノフの音楽は一曲だけ聞いたことがあります。
YouTubeで「辻井伸行」さんがソリストとなって,オーケストラとともに演奏をする動画を観た際に,その時の曲を「どっかで聞いたよなぁ」って思ったんです。
それは2014年のソチ五輪の時,浅田真央さんが演技していた時に流れていた曲でした。曲は「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番」だそうです。
音楽ってすごいですよね。聞いただけで思い出を呼び起こすことができますから。
岬洋介シリーズはどの作品を読んでも面白いですし,数ある中山先生の作品の中でも最大のシリーズと言ってもいいと思います。
同シリーズだけで6,7作品もありますから。それだけ岬洋介が評価されている証拠かなって思います。
どんな事件もさりげなく,華麗に解決してしまう岬洋介のファンも多いのではないでしょうか。
今回は伝説のチェロ「ストラディバリウス」が盗まれてしまうところから話が始まります。
岬はこの事件をどうやって解決するのでしょうか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 ストラディバリウスの盗難事件
3.2 定期演奏会は中止となるのか
3.3 驚愕の事件の真相
4. この作品で学べたこと
● 岬洋介シリーズの作品を読んでみたい
● なぜ「ストラディバリウス」が盗まれた理由をしりたい
● 真の犯人は誰なのかを知りたい
秋の演奏会を控え、第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室の空間で保管されていた、時価総額2億円のチェロ・ストラディバリウスが盗まれてしまう……。果たして無事に演奏会を迎えることができるのか。ラフマニノフやチャイコフスキーなどの名曲が、情熱的に、力強く描かれるなか、天才ピアニストにして臨時講師・岬洋介が鮮やかに事件を解決する!
-Booksデータベースより-
岬洋介・・・・主人公。練馬署の刑事
城戸晶・・・・大学でヴァイオリニストを目指す
下諏訪美鈴・・大学でピアニストを目指している
柘植初音・・・大学でチェリストを目指す
柘植彰良・・・学長。有名なピアニスト
1⃣ ストラディバリウスの盗難事件
2⃣ 定期演奏会は中止となるのか
3⃣ 驚愕の事件の真相
愛知音大で学ぶ生徒たちは,ある発表会のメンバーに選ばれるため,一生懸命練習していました。
この発表会に選ばれれば,ひょっとすればスカウトされるかもしれないという大事なイベントです。
そんな中「ストラディバリウス」が作ったチェロが盗まれるという事件が発生します。時価二億円の伝説のチェロです。「ストラディバリウス」って,正月に放映される「格付けチェック」でもよく登場しますよね。
バイオリンを弾いて,本物はどちらかを当てるやつ。音楽を志している人にはすぐわかるんでしょうか。いつも感心しながら見てます。話はズレましたが。。。
大事なチェロが保管されていた部屋は密室でした。
楽器というのはしっかり管理しないと,原型をとどめず,例えば反ってしまったりして,音にも影響がでるらしいです。
湿度や温度を調節して保管しなければならないので,部屋には窓がありませんでした。だから「密室」だったんですね。
ここで城戸晶という音大生が登場します。彼は母親を亡くしており,経済的にも恵まれていませんでした。
学費免除を目指して,そして将来はヴァイオリニストを目指して,必死に練習する晶。そして晶が必死になる理由はもう一つありました。定期演奏会オーディションで選ばれれば,学長であり音楽会の権威でもある柘植彰良と共演できるという名誉も得られるのです。
コンサートマスターになればなおさら注目されるようになります。
コンサートマスターというのは,第二の指揮者とも呼ばれ,オーケストラ全体を引っ張ることができる名誉ある枠割を持ち,さらにストラディバリウスを弾くこともできるはずでした。
そんな中に事件が起きたということです。
日本中や世界からも注目されている今回の定期演奏会に出場するため,ある男性からも声をかけられていました。
それが岬洋介です。彼はこの音大の講師になっていました。果たして,岬は事件の真相に辿り着くことができるのでしょうか。
ストラディバリウスの盗難事件。警察に知られれば定期演奏会にも影響が出るということで,岬を中心に調査が始まります。
「不協和音」なメンバーたち。何かお互いが疑い合っているといった感じなんですね。
城戸晶にはライバルがいました。入間裕人です。高い技術を持った入間に城戸は挑みます。しかし,城戸は入間の演奏を聴いて絶望感でいっぱいのようでした。
しかし,柘植学長や岬たちが選んだのは城戸晶でした。しかもコンサートマスター。
入間はメンバーにも入れませんでした。音楽のことはよくわかりませんが,要は入間の歩き方に問題があったようでした。明らかにケガをしている歩き方だと。
見る人が見れば一発でわかるものなんだしょうか。やっぱ音楽は奥が深いですね。
一方で,別の事件も起こっていました。アメリカの大学で「大麻」が盗まれたというのです。日本で大麻といえば「逮捕」という言葉が思い浮かびますが,海外ではそれを鎮痛剤など,医学に利用されているというのはよく知られています。
どうやら,その大麻の出入りを探っていた警察が,愛知音大の関係者が顧客名簿に入っていたらしいんですね。
一体,誰が大麻を手に入れたのだろうか。そうこうしているうちにまた事件が。。。
学長専用のグランドピアノが水浸しにされてしまったのです。次々に起こる名器の盗難,破壊。何か演奏会をやめさせようとしているんじゃないかと思うような事件が続きます。
そしてとうとう,今度は音大のサイトに柘植学長の殺害予告が書き込まれます。
一体,犯人は誰で,真の目的は何なのでしょうか。
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「大学関係者に告げる。秋の定期演奏会が予定通り開催されれば,白い鍵盤は柘植彰良の血で赤く染まるだろう」
柘植学長の殺人予告が出てしまい,とうとう定期演奏会を中止することが決定していまいます。目的はやはり開催をやめさせようとしていたんですね。
しかし必死で練習し,将来の夢のために頑張ってきたメンバーたちは反対します。「定期演奏会を開催したい」と。
人命がかかっていると判断した大学の理事会と,演奏会メンバーとの対立の構図になります。ここで岬洋介が意外な提案をします。「ラフマニノフを学長以外の人間が弾いてはどうか」
そもそも演奏会メンバーは学長が決定したわけだし,ピアニストも心当たりがあると。それは下諏訪美鈴でした。
しかし,彼女のピアノは「個」が強すぎて,オーケストラと一緒に演奏するには調和がとれないと美鈴本人もわかっていましたが,逆にそれを克服するチャンスだと岬は訴えるのです。
最初は大反対していた当の美鈴でしたが,学長の代わりを引き受けます。
しかし開催前,とうとう事件の犯人がわかるのです。犯人は何と「コンサートマスターに選ばれし者」でした。
えっ? 噓でしょ? それは絶対にないと思ってたのに。。。何のために。。。
岬にはわかっていたようです。というか,何か企んでいるようなんだよなぁ。
ん~,でも何かまだありそうな予感はあるんですよね。。。何だろう?
メンバー全員の批判がコンマスに集中する中,岬は驚くことを言うのです。
「このメンバーで演奏を強行する」と。
犯人が中心メンバーであるにも関わらず,そんなことは演奏には関係ないと言い放つのです。
恐るべし岬洋介。世間一般的な常識が通用しない,ただ事実のみを追及する姿。
岬の指揮により定期演奏会は行われました。すさまじい盛り上がりを見せ,成功に終わります。そして最後の真実が明らかになるのです。やはり真犯人は別にいました。
柘植初音でした。城戸晶は彼女をかばっていたのです。彼女は「多発性硬化症」という難病に罹っていました。
この病気は脳や脊髄の疾患で,体が麻痺したり,温度の感覚がおかしくなったり,最悪の場合は寝たきりになってしまう可能性のあるものです。
初音に同情した晶はかばっていたんですね。
しかし,真実はさらに無情なものでした。初音の犯罪を誘導していた人間がいたのです。それが初音の祖父であり学長である柘植彰良です。
実は彼も「多発性硬化症」でした。だから麻薬のリストに名前が載っていたんですね。
初音は祖父を尊敬していたのです。その祖父が多発性硬化症罹っていることを知り,定期演奏会を中止に追い込もうとしたのです。
全ては尊敬する祖父のためにやったこと。真実を知ってしまうと,とても切なくなりました。
音楽家として,自分の子供にも同じ道を進ませたいという身内の気持ちもわからなくはないです。たとえ大成しなくても文句を言わないのならわかります。
しかし,才能がないとか決めつけてしまうのはどうかと思います。そして犯罪を黙認してしまうことも。
結局,全てはこの一人の人物を中心に行われたこと,いや行われてしまったことでした。
「永遠に名前を残したい」「麻薬を手に入れ,痛みを減らしたい」
そんな私利私欲の思いで周囲の人間を翻弄した人物の行為はやはり許されるものではないと思います。
ストラディバリウスを盗んだ本人も,まさか自分が操られているとは思わなかったでしょう。
定期演奏会は大成功をおさめました。きっとそこで演奏した人たちにはこれから良い人生を送ってほしいです。
しかし,今回の真の犯人もきっと最後は自分の足元をすくわれたのだと思います。
● 岬洋介の視野の広さと洞察力に感服した
● 音楽を志す者の過酷さと選ばれるための必死の努力
● 今回も大・大どんでん返しの結末でした