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【いつか,虹の向こうへ】伊岡瞬|大切な人を守る主人公の勇気

伊岡瞬先生の作品をこれまで何冊が読んできましたけど,ブックオフで手に取った本作品がまさかデビュー作だとは思ってませんでした。

伊岡先生の作品のタイトルって「代償」「祈り」「悪寒」「本性」など,シンプルなものが多いので,本作品のタイトルを見て,一瞬違和感を感じました。

でも中身はさすが「横溝正史ミステリ大賞」受賞作だけあって,かなり重厚。

元刑事の主人公が同居する人物たち,暴力団員との関係,そして事件の真犯人と疑われる人物たち,いろいろな要素が絡み合い,目まぐるしく進む展開に一気読みしました。

柚木裕子先生も「孤狼の血シリーズ」で暴力団の話を書かれますけど,伊岡先生が同様の作品を描いていたとは驚きました。

最後の大どんでん返しには驚きましたが,伊岡先生の原点とも言うべき作品を是非読んでみてほしいと思います。

こんな方にオススメ

● タイトルの「虹」とは何を意味するのか知りたい

● 主人公の底知れぬ精神力を知りたい

● 暴力団との抗争の話を読んでみたい

作品概要

尾木遼平、46歳、元刑事。ある事件がきっかけで職も妻も失った彼は、売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんな彼のところへ、家出中の少女・早希が新たな居候として転がり込んできた。彼女は、皆を和ませる陽気さと厄介な殺人事件を併せて持ち込んでくれたのだった……。優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。第25回横溝正史ミステリ大賞& テレビ東京賞をW受賞した著者のデビュー作。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

尾木遼平・・・主人公。元刑事で,3人の人物と一緒に暮らしている

村上恭子・・・尾木の同居人。事件を起こし,尾木と関わりがあった

柳原潤・・・・尾木の同居人。尾木はなぜかジュンペイと呼んでいる

高瀬早希・・・ある人物の殺人の容疑者として逮捕される

二宮里奈・・・早希の友人。殺人の目撃者の可能性あり。

檜山景太郎・・檜山興業の社長。やぐざの組長。

本作品 3つのポイント

1⃣ 早希の逮捕に疑問を持つ尾木

2⃣ 尾木の味方たち

3⃣ 組事務所に乗り込む尾木

早希の逮捕に疑問を持つ尾木

尾木遼平という男は,村上恭子と,尾木自身がジュンペイと呼んでいる青年の3人と同居していました。何やらいわくつきの三人。過去にそれぞれ事件を起こし,尾木とつながりができて一緒に住んでいる様子。尾木たち尾木自身も刑事時代に事件を起こしていました。ある料亭の女将が付き合っていた男が尾木に絡んできて揉みあいになり,不運にも男は自分が持っていたサバイバルナイフで,自分で刺してしまったんですね。

正当防衛を主張するも,行き過ぎているということで懲役5年。妻とも離婚し,出所してからは生活費を稼ぐために警備会社で働きながら,ギリギリの生活をしていました。

ある日,尾木は自分の部屋に女性がいることに気づきます。早希と言いました。どうやら尾木は居酒屋で飲んでいた時,早希に絡んでいる三人組の男と揉み合ったようなんです。

元刑事の強さなのか,この三人組を追い払い,早希が尾木の家までついてきたらしいのです。もう既に三日ほど泊まっている早希は,まだ泊めてほしいと言います。尾木の部屋にいながらも,尾木とは関係は持っていないようです。早希ところが仕事から帰ってきた尾木を待っていたのは予想外のことでした。身長180cmもある大男が尾木を襲ってきたのです。尾木も抵抗しますが,相手があまりにも強すぎる。

「このクソじじい。死ねスケベ野郎!」

そんな言葉を吐きながら何も抵抗できない尾木は聞かれます。「早希はどこ行った」

ということは,尾木を襲っているのは早希が付き合っている男なのか。どうやらこの攻撃している男は,尾木が早希と関係を持ったと勘違いしているようです。

結果的には尾木は大怪我。アバラが折れているかどうかという状態です。そして気を失ってしまいます。

しばらくすると近川という刑事がやってきました。尾木とはかつて関係があったようです。実は尾木を襲ったと思われる久保裕也という男が,橋から突き落とされたらしいんですね。橋から突き落とされるその久保が付き合っていたのがやはり早希でした。そこで刑事の近川は早希と関りがあった尾木を訪ねてきたというわけです。

もちろん,早希のことは泊めたことを認めても,関係を持ったことは否定します。でも疑われているようです。そして警察へ連行され,かつての上司であった室戸警部補を再会するのでした。

警察で取り調べを受ける尾木。早希との関係,久保のことを知っているのか,いろいろ聞かれます。ただ早希は「美人局(つつもたせ)」をしていたようなんですね。尾木はそんなことまで知らないんですけど,完全に疑われています。

解放されてからも悪いことは続きます。今度は檜山興業の社長で,ヤクザのトップである檜山景太郎が尾木を追い詰めます。実は久保裕也は,檜山の甥っ子らしいのです。完全に尾木がやったと思っている檜山は木村という大男に暴力を奮われます。暴力団すでに大けがをしている尾木は,さらに攻撃されてしまう始末。もうボロボロです。よくこれだけ痛みつけられて生きてられるなって思ってしまいます。

そしてそうこうしているうちに,早希が警察に逮捕されてしまうのでした。

尾木の味方たち

周りはみんな敵に思えてしまう尾木ですが,心強い味方もいました。花房という弁護士です。彼はかつて尾木が事件を起こした時に弁護してくれた男性でした。

その花房が調査したところによると,早希は久保の事件当日,友人と一緒にいたようです。その女性は二宮里奈と言いました。

ひょっとすると,早希が護衛を頼んだこの二宮という女性が事件に関係しているのでは?早希と里奈早希は逮捕されたものの,送検はされていないようです。それまでに何とかしないと早希は本当に犯罪者になってしまいます。焦る尾木。

尾木は檜山の会社の若頭である新藤と連絡を取らされていました。毎日,尾木が捜査したことを電話で報告するように。この新藤という男も怒らせたら何をするかわからない人物です。

尾木は早希のこと,事件のことを知っていると思われる二宮を探しますが,なかなか見つからないんです。一体,どこに隠れているのか。。。

ある日,尾木はかつての同僚である近川とサシで飲むことになります。尾木は二宮を探している。ひょっとすれば近川は何か手掛かりを持っているのではないか。しかし,近川は心当たりがない様子。でも檜山や新藤の名前を出してからは尾木の質問に少しずつ答えるようになります。居酒屋ちょっとここで違和感。刑事の近川,あるいは警部補の室戸は檜山たちと関りがあるのではないか。二宮のことも知っているのか。知ってて黙っているのか。強い泡盛を一気に飲み干す近川の変化がちょっと気になりました。

尾木はある男から『虹売り』という絵本の話を聞かされます。確かにタイトルにも『虹』という言葉がありますもんね。

ある日,虹売りがやってきた。彼は『虹の種』を幌馬車いっぱいにつめていました。ただ,この虹の種,売り物ではないのです。

『あなたが今までで一番悲しかった出来事を教えてください』

つまり,その悲しい話と引き換えに虹の種をもらい,土に埋めると,初めての雨上がりの空に虹がかかるのです

ある少女が虹の種を手に入れ,雨上がりの虹を渡って,亡くなった両親のところへ行った,というエピソードでした。この話と尾木のこれからがどうやって結びついていくのだろうか。。。尾木悩むところで,二宮の行方を探す尾木ですが,どうやら檜山たちが匿っているようです。実は早希が犯人ではなく,その二宮里奈が真犯人だからか?

そして尾木は決心します。檜山の事務所へ乗り込むことを。

組事務所に乗り込む尾木

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檜山の事務所に乗り込んだ尾木。そこにはあの大男,木村がいました。また鳩尾を殴られる尾木。もう何発殴られるのか。不死身か? って思ってしまいます。

木村は,尾木と早希の関係を知りたいようでした。もちろん尾木は二宮の居場所をつきとめたい。当然言うはずがない。ただ,尾木はこの木村に対して一つのカードを持っているようです。木村をうろたえさせる何かを。

そしてさらに辛いことが尾木を襲います。あの同居しているジュンペイが何者かに暴力を奮われ,入院してしまったのです。怒り心頭の尾木。自分の行動が周囲の大切な人たちを不幸にしていることに心を痛めているようです。ジュンペイ入院柳原潤という名前なのに,なぜ尾木は「ジュンペイ」と呼んでいるのか。どうやら尾木には三歳で亡くなった子供がいたようです。名前を「純平」と言いました。先天性の心臓疾患でした。そんな自分の子供と,柳原潤をダブらせていたのでしょう。

ジュンペイという名を口にするたびに,自分が最低のクズ人間だったことを忘れないようにできるからだ

何とも尾木らしい考え方です。そんな時,あの新藤から尾木に電話が来ます。どうやら二宮を探していることが伝わったようですね。新藤からすれば,探してほしくないようです。だから怒りの電話をかけてきたわけです。

このルートでは手掛かりが掴めないと考えた尾木は次の手を打ちます。菊池という,ヤクザの組長に会いにいくのです。かつて刑事として関わりがあった菊池組に乗り込むのです。

菊池組は,檜山組と拮抗する組織です。そこで二宮の所在に心当たりがないか追及します。
どうやら菊池は何となく知っているようでした。でもそれを明かさない菊池。しかしここで尾木は菊池を説得する話をしだします。

新藤は,最近気になる動きをしています。それも檜山会長に隠れての活動らしい。出所不明なシャブやコカが流れ始めました。

麻薬どうやら新藤は隠れて金儲け(シノギ)のために必要な麻薬のルートを,会長に断りもなく築こうとしているようです。組長の檜山がやろうとしていることを,いち早くやってしまおうというのです。新藤の真意はわかりませんが。。。

これに折れた菊池は,とうとう二宮の所在を尾木に明かすことになります。そしてとうとう,尾木は二宮の居場所を知るのでした。

久保裕也が橋から落ちた時に,早希と一緒にいたことを証言してほしい

そうすれば,早希は警察から釈放される

これを聞いた二宮里奈は揺れているようでした。警察に証言できない何かを隠している。尾木は追及します。どうやら二宮は,あの新藤から引き留められているようです。

尾木は二宮の話し方,部屋の様子などを鑑みて,おそらく二宮は「シャブ」をやっていると推理します。しかしそこに新藤がやってきました。尾木はバレないように,こっそりと二宮の部屋から逃げ出します。新藤さて,尾木はどうするのか。まずは木村の元へ行きます。尾木にはこの事態を打破する考えがあるみたいです。実は二宮里奈は,木村の実の妹らしいんですね。檜山の愛人になり,木村も出世していったというわけです。

尾木はさらに檜山景太郎に,新藤の企みを暴露します。檜山は当然驚きます。麻薬取引で金を稼ごうとしている上に,二宮をシャブ漬けにしているわけですから。

そして新藤は檜山から攻撃され,亡くなってしまうのでした。

では,久保裕也を突き落とした犯人は誰だったんでしょうか。それは尾木と同居していた村上恭子でした。

恭子は,家にやってきた早希の後をつけていました。尾木が三人組に家でボコボコにされた後,恭子も暴力を奮われてました。

大事なピアノの教本「バイエル」も引き裂かれ,無我夢中で久保裕也を追っていたのです。そして早希にさえも暴力を奮った久保を突き落としたのは恭子だったのです。恭子,突き落とす尾木は警察へ恭子を連れて行きます。そして警部補の室戸と会います。実は新藤と関りがあったと思い込んでいたのは室戸ではなく,近川だったようです。

尾木が久保殺しの真相に辿り着くと,新藤の女でもある二宮に手が及ぶと考えた。尾木と近川が二人で飲んだときには,かなり動揺していたんですね。

全てが解決した尾木は思うのでした。自分の目の前にも虹は出来るのか。最後の言葉が印象的でした。

もしもいつか,自分にも虹が立ち上がったら。自分にその虹を渡る資格があるなら。私も虹を昇って,純平に会いに行こう。

本作品を読みながら,まずは暴力団の抗争,恐ろしさを痛感しました。

暴力団の「シノギ」としてよく出てくるのが麻薬取引です。どうやってカネを手に入れるのかを常に考えているのでしょうか。

本作品を読んだ後に,ちょうど友人が「以前,組事務所に行ったことがある」って話しているのを聞いて,絶対自分には無理だと思いました。よくそんな行動ができるよな,と。

そんな怖さを感じさせられた反面,主人公の尾木の底知れぬ精神力,そして他人への思いやりが引き立つような作品で,とても感動しました。他人のために,自分の身の危険を顧みずにこんな行動ができるのだろうか,と。

悲しいこと,苦しいことを乗り越えた人々たちに,ある日虹が立ち,それを渡って自分の望む世界へ行けるといいな,と思います。

虹の向こう

この作品で考えさせられたこと

● 苦しいこと,悲しいことを乗り越えた人々が,虹の橋を渡れる日がきてほしい

● とにかく,暴力団にも屈しない主人公の精神力・行動力に脱帽でした

● 最後の大どんでん返しに驚きました

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