「あの花が咲く丘で,君とまた出会えたら。」の続編です。前作を読んで,あまりの悲しみに大号泣したのを思い出します。
本屋へ行った時,かの続編があるということで店頭に2つの作品が並べられているのを見ながら「これは絶対に読まないと!」と思って購入しました。
前作の主人公は百合でしたが,今回は百合のことを想う一人の青年の視点で描かれています。自分がかつて恋をした男性を忘れられない百合に対し,その百合に恋をする主人公の存在。とても切ない部分も多いですが,最後は意外な展開で感動しました。
前作を読んだ方は,是非,読むべき作品だと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 転校してきた一人の青年
3.2 百合の秘密を知ってしまう涼
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● 「あの花が咲く丘で,君とまた出会えたら。」を読んだことがある方
● 主人公の青年と百合の恋の行方を知りたい方
初めて会ったはずの君に
僕はどうしようもなく惹かれた
中2の涼は転校先の学校で、どこか大人びた同級生・百合と出会う。初めて会うのになぜか懐かしく、ずっと前から知っていたような不思議な感覚。まっすぐで凛とした百合に涼はどんどん惹かれていく。しかし告白を決意した矢先、百合から聞かされたのは、75年前の戦時中にまつわる驚くべき話で――百合の悲しすぎる過去の恋物語だった。好きな人に、忘れられない過去の恋があったら、それでも思いを貫けますか?愛することの意味を教えてくれる感動作。
-Booksデータベースより-
1⃣ 転校してきた一人の青年
2⃣ 百合の秘密を知ってしまう涼
3⃣ 本作品の考察
中学校2年生の宮原涼は,夏休みの直前に,それまで通っていた中学校から転校してきました。父親の転勤で,遠く離れた場所で住むことになりました。転校先に挨拶に行くことになり,母親と新しく学ぶことになる学校へ向かいます。
校庭を見るとサッカーをしていました。涼も前の中学校ではサッカーをしていたので,綺麗で広い校庭を見ながら練習を眺めています。そこで涼はふと一人の女の子が後ろにいました。彼女は涼を見つめながら「。。。あ」と漏らします。そんな彼女を見ながら疑問に思っていました。同時に涼自身も思い出します。
涼は夢でよく見るシーンがありました。綺麗に晴れた空を飛んでいたり,飛行機を操縦していたり。そしてたくさんの百合の花に囲まれている丘にいる一人の女の子の夢も。その女の子を思い出したのです。「やっと見つけた」そんな言葉が出てきそうな出会いでした。
彼女の名は加納百合。そう,あの前作の「百合」です。涼が編入してくることを伝えると「よろしくね」と百合が言います。そして夏休み明けの初日,涼は百合のクラスに入ることになりました。自己紹介をする涼。でも,百合は心ここにあらずな印象。何か以前の百合とは印象がまるで違います。
前作の時は,とても活発で,思ったことは口にするし,先生や母親にまで反抗するような,ある意味周りから一目置かれる(あまりいい意味ではないが)存在でした。それが何か人が変わったようにおとなしい。それはクラスメイトもそう感じているようでした。その理由は前作を読んでいる方にはよくわかりますよね。そうでなくても,本作品では百合がどんな経験をしたのか,説明されています。
クラスではグループ活動を行うことになりました。かつて社会科見学をして,それをグループごとにまとめる作業をすることになります。涼はいろいろありましたが,百合と同じグループになりました。社会科見学へ行ったのは夏休み前なので,涼はどこへ行ったか知りません。
行った場所は「特攻資料館」でした。なるほど,そういうふうに繋がっていくのか,と前作の読者は思ったことでしょう。特攻資料館には特攻隊員の写真や手紙などがあります。そんな会話をしているうちに,涼は百合が目に涙をためていることに気づきます。なぜなのか。「加納さん,大丈夫? どうかした?」涼はちょっと心配になります。
ある日,浅井という少年の机の上に,花の入った花瓶が置いてありました。浅井はイジメられていて,そんなことされたんですね。なにも考えずにそんなことを平気でする人間がクラスにいたのです。涼が複雑な表情で眺めていると,そこに百合が入ってきます。百合はその花瓶を見た瞬間,その花瓶を床に叩きつけ,割ってしまうのです。
「あんたたち,死というものがよくわかってんの!?」
百合の怒号が響き渡ります。おそらく,死というものを一番わかっているのは百合なのでしょう。どうやら三島という男子生徒が花瓶を置いたようです。その三島に百合は張り手をしたため,三島も怒り出します。そこで涼が意外にも怒り出します。
「ちょっとは相手の気持ちも考えろよ。お前たちのやってること,むちゃくちゃダサいし,情けないよ!」
百合もそうですが,涼も相当勇気がある人物のようです。意外な展開に,百合は涼に感謝するのでした。
グループ活動の一環で,涼と百合は市立図書館へ行くことにしました。戦争や特攻隊のことを調べ,それらをまとめて発表用のプリントを作成することが目的です。どの本を手に取っていいかわからない涼に対し,百合は必要そうな書籍をどんどん選んでいきます。
百合は戦争当時のことを涼に話し出します。第二次世界大戦,太平洋戦争では,当初は日本は連勝していたこと。徐々に日本が負けるようになって,不利になっていたこと。それをメディアはあたかも日本が勝っているかのように放送していたこと。
何か,今の世の中もメディアの報道に振り回されることがあると感じますけど,それは昔からあったのかもしれませんね。そして崖っぷちに立たされた日本は最後の抵抗として「特攻」という手段をとったわけです。
特攻隊員が遺した遺書,遺品,写真などを見て,涼は衝撃を受けるのです。
涼は「加納さんって,戦争のことに詳しいんだね」と感心しますが,百合は何かを思い出している様子です。
借りた本やノートを持って,彼らは「百合ヶ丘公園」へ行くことにします。百合の花が咲く丘。ここで涼は既視感に襲われます。涼がよく見る夢の中に百合の花が咲き誇るシーンが出てくるからです。物思いにふけっている涼を見ながら,百合は涼に言います。「生まれ変わりって信じる?」と。さらに,書籍の遺書の文字を指でなぞりながら「宮原君は,恩返しできてないことってある?」とも。
これは一体,何を意味するのだろうか。ひょっとして。。。と考えてしまいます。
この日から,二人の距離はさらに接近します。涼は百合のことを好きになってしまった様子。その反面,百合が見せる表情,戦争のことに詳しいこと。何よりも自分の中に出てくるシーンと百合がリンクすること。涼はこれには何か理由があるのではないかと考えているようです。百合は涼に本当のことを告白します。自分はかつて終戦間際の時代にタイムスリップしたことを。そしてその時に「あきら」という特攻隊員に恋をしたことを。この一連の流れを聞いた涼は唖然とすることになります。
涼と百合の関係はどうなってしまうのか。
この続きは本作品を読んでほしいと思います。
前作の「あの花が咲く丘で,君とまた出会えたら」が映画化されて一年経ったばかりなので,本作品が今後映像化されるのかはわかりません。もしされたら,ファンにとってはとても嬉しいことでしょう。ただ,前作を観ていない,あるいは読んでいない方にとっても感動するものにするためには,ちょっとアイデアが必要かなとも思ったりします。僕自身はやはり前作のイメージを持ちながら読めましたけど,そうでない人にとってはその深みが異なってくると思うので。
涼と百合の恋の行方はどうなるのか。ある意味「あきら」との三角関係にある状況がどうなってしまうのか。結末は書きませんが,文庫本のあとがきで汐見先生が結末に悩んだことを打ち明けています。実は本書の結末について,読者から賛否両論の意見があったようです。ん~,確かにこれは意見が真っ二つに分かれるだろうなって思います。
でも僕自身にとっては,一番いい終わり方だったと思うし,涼という人間のすごさを感じることができて満足しました。と言っても,このブログを読んでいただいている方にはよくわかりませんよね。人によって捉え方はそれぞれじゃないかと思います。
やはり,本作品を実際に読んでほしいと思います。
● 涼と百合の関係がどうなっていくのか,ドキドキしながら読みました
● やはり戦争がなくなってほしいと改めて思います