みなさんは「家庭裁判所調査官」という仕事をご存知ですか?
家裁調査官の話は,例えば伊坂幸太郎先生が「サブマリン」という小説でも描かれています。なかなか小説で読むことはないのかなと思います。
柚木裕子先生の作品って,警察,弁護士,暴力団関係の作品が多いように感じますが,その中でも家裁調査官のストーリーを描いた作品があるのは意外でした。調査官補という立場から,少しずつ重大な案件を手掛け,成長していく主人公の姿が印象的な作品となっています。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 家裁調査官の仕事とは
3.2 少女の壮絶な生活
3.3 大地が下した重大な決断
4. この作品で学べたこと
● 家庭裁判所の調査官がどんな仕事をするのかを知りたい
● 主人公が当事者の生活や人生を救うことができるのかを知りたい
● 家裁調査官の下す判断の難しさを知りたい
寄り添う事で、人の人生は変えられるのか―― 家庭裁判所調査官見習いの若者の奮闘を描く感動作! 家庭裁判所調査官として研修の間、九州の福森家裁に配属された望月大地。 そこでは窃盗を犯した少女、ストーカー事案で逮捕された高校生や親権を争う夫婦とその息子など、心を開かない相談者たちを相手に、懊悩する日々を送ることに……。 大地はそれぞれの真実に辿り着き、一人前の家裁調査官となれるのか!?
-Booksデータベースより-
1⃣ 家裁調査官の仕事とは
2⃣ 少女の壮絶な生活
3⃣ 大地が下した重大な決断
望月大地という青年は家庭裁判所で調査官補として勤務しています。
家庭裁判所調査官とは
家庭裁判所で取り扱っている家事事件,少年事件などについて,調査を行うのが主な仕事です(裁判所法第61条の2)
-日本裁判所サイトより-
九州の福森地方裁判所という慣れない土地で一人暮らしをしながら生活していました。
家庭裁判所というところは,少年が犯した罪を裁いたりするだけでなく,夫婦の離婚調停なども対象となります。
最終的にその是非というのは裁判官が決定するものなのでしょう。
しかし,当事者それぞれがどういう環境で育って,どんな人間とつながっていて,なぜそういう行動を起こしたのか,というようなことを調査官は事前に調べなければならないわけです。安易に決断を下すことができない,責任のある仕事だということがわかります。
さらに調停委員や裁判官をサポートしながら、裁判にて解決していかなければならないんですよね。
本当に大変そうな仕事です。当事者の今後の生活に直接影響がある判断をしないといけないわけですから。
大地は「調査官補」なので,これまでは上司や先輩の補佐を中心に仕事をしていましたが,ついに独り立ちの時期がやってきます。
初めての案件は、SNSで知り合った男性とラブホテルに行った少女の事件でした。
ホテルに入った男性は,その少女に財布を奪われ,さらに逃げてしまったために,窃盗の疑いで捕まってしまいました。
大地は少女の面談を担当することになります。しかし少女は事件について全く話してくれないんですね。
困った大地は少女の母親にも会い,面談を行います。しかしどういうわけか他人事のようなんです。ん~,何か親子関係がうまくいっていないのか。。。
大地は住民票に記載されている,少女が住んでいるはずの住所の家に行きます。
しかし住民票に書かれた住所は何とネットカフェのものでした。つまり,少女はちゃんとした家に住んでいなかったのです。
一体,少女はどうやって生活しているのでしょうか。
大地は少女の壮絶な生活に衝撃を受けます。大地本人が味わったことのない苦しい生活。
少女は働かない母親の代わりにアルバイトをしながら生活費を蓄えていたんですね。しかし全て生活費に消えてしまうというギリギリの苦しい生活だったのです。
アルバイトの他に,インターネットで下着売ったりして,何とか凌いでいたようです。しかし、大地が調べると,その少女は月に20万近くも稼いでいたらしいんんですね。
では,なぜ窃盗までしなければいけないのか。
少しずつ大地の質問にも答えてくれるようになった少女から,新しい事実が。。。
実は少女は病院に通っているらしいのです。さらに彼女には妹がいて,彼女にも持病がありました。
しかし保険証を持っていないので,保険診療を受けることができなかったのです。少女がたくさんのお金を必要とする理由は、この妹の治療費が大きな原因だったようです。
少女の生活環境を知り,大地は少女は「少年院に入るべき」だと考えます。
少女が少年院で生活している間に、母親には行政を頼ってもらい、しっかりした家庭の基盤を作ってもらおうと考えたのです。そういう考え方があるんですね。大地は初めて自分が中心になって仕事をこなしたわけです。
しかし同時に,社会の生き辛さや,自分は困っている人間にどう接するべきかを悩んでいるようでした。
ある日,地元の同窓会が開催されることになりました。久しぶりに同級生との再会に、大地の心は踊ります。
大地が楽しみにしていたのは、学生時代に好きだった理沙が参加するということでした。実は理沙は学生時代に妊娠し、そのまま結婚してしまいました。そんな忙しい毎日を送っていた理沙。大地は楽しい時間を過ごすことができました。
大地は久しぶりに帰った実家で家族と過ごすため,一次会で帰ることにします。
そして一緒に参加していた理沙も大地と一緒に帰ることになりました。
何かいい感じの二人を想像しますが,ここで大地は驚くことを聞かされます。理沙は実は離婚調停中だというのです。逆に大地は仕事に行き詰っていることを話すなど,二人はさらに意気投合します。
理沙から「私は家庭裁判所調査官のアドバイスに救われた」という言葉をかけられました。
仕事で悩んでいた大地でしたが,理沙の言葉に大地自身も救われたような気になるのでした。
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理沙と意気投合し,勇気をもらった大地。大地には新しい上司である露木から指導を仰ぐようになりました。
ただ,容赦なく厳しい露木の指導に,自分の自信も揺らぎ始めているようです。そんな時に大地は離婚調停問題を担当することになりました。
離婚するつもりの夫婦が自分たちの子供の親権をどちらが持つかで議論していたのです。
母親は、子どもの現校区内の新しい家に住み,子供に負担をかけない生活をすると訴えます。
逆に父親は,自分の母親と一緒に育児を行うと訴えます。一体どちらがいいのか。いや,子供にとってどちらがいいのか。子供の気持ちがおざなりになっていますよね。案の定,子供は両親のどちらと暮らしたいか選ぶことはできないと落ち込んでしまいます。
大地は両親の気持ちよりも子どもの気持ちを大切にするべきだと考えます。
そして自分なりに子供の気持ちに寄り添って,調査や面談をすることを勧めます。
そんな時、母親には同居中の恋人がいることが判明してしまいます。これで親権争いは父親に有利になります。
ところがその恋人は、子供の本当の父親だったのです。どうやら父親もそのことは知っていたようです。なぜなら父親は子どもができない体質だったからなんですね。
つまり父親は,妻の妊娠は自分の子どもではないと知りながら,敢えて自分の子どもとして育てていたのです。その思いを知った妻は衝撃を受けます。
このことがきっかけで母親の態度にも変化が現れ,子供が離婚を受け入れるまでは家族で暮らす決心をするのでした。家裁調査官って,本当に大変な仕事だと思います。
当事者がみんな全てを語ってくれるわけでもないし,当事者以外の人間にも聞き込みを行わないといけない。
何とか本音を語ってくれるようなアプローチも試さないといけない。
しっかりと当事者の心理をくみ取り,寄り添って,粘り強く対応できないと,その結果とんでもない方向へ向かうこともあるという,責任のある仕事であることがわかりました。片方の意見ばかり聞いてそれを鵜呑みにして他人を誹謗中傷する人間が多くなってきたような気がします。
普段の生活でもそんな争いはありますし,SNSの書き込みでも多く見られます。
物事を客観的に見ることはとても難しい。話は違いますが,現在,裁判員制度というものがあります。
一般人が裁判員としてできるのは,目の前にある明らかに有罪とわかる証拠と,それに対する心証なわけです。
本当は冤罪かも知れない。本当は死刑になるほどのことでもないかも知れない。それを一般人の力を借りて実際に判決が行われている。
人って,何かのバイアスがかかると,物事の見方が変わってしまう場合があります。
好き嫌いも関係することがあるし,本当に客観的に物事を見ることって難しいことだなと改めて思います。
僕自身も,そんな客観的で冷静な判断ができる人間になりたいと思うわけです。
● 家庭裁判所の調査官の仕事を知ることができた
● 調査官の判断は重要で,時には人の人生を左右させることもある
● 当事者の立場を理解し,状況聞くことに勤め,判断する難しさがある