櫛原秀一という優秀な高校生が,元父親の殺害計画を企てそれを実行するという話です。
最初に犯罪が描かれ,警察がそれを捜査して犯人を追い詰めていくという,いわゆる「倒叙ミステリ」となっています。
完全犯罪を計画した主人公である秀一が,逃げ切れるのかが大きなポイントです。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 完全犯罪計画
3.2 目撃者が現れる?
3.3 罪を犯すことの代償
4. この作品で学べたこと
● 倒叙ミステリを読んでみたい
● 犯罪を計画した主人公の境遇を知りたい
● 今回の事件が「完全犯罪」となるのかを知りたい
秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹の三人暮らし。その平和な生活を乱す闖入者がいた。警察も法律も及ばず話し合いも成立しない相手を秀一は自ら殺害することを決意する。
-Booksデータベースより-
主な登場人物
櫛森秀一・・・主人公。神奈川の高校2年生で,頭がいい
福原紀子・・・秀一のクラスメイト。秀一を気にしている
櫛森友子・・・秀一の母親。元夫は亡くなっている
櫛森遥香・・・秀一の妹。曽根の連れ子である
曾根隆司・・・友子の元夫。秀一とは血はつながっていない
1⃣ 完全犯罪計画
2⃣ 目撃者が現れる?
3⃣ 罪を犯すことの代償
完全犯罪計画
秀一の母親,妹の三人で暮らしていたんですが,離婚して出て行ったはずの父親である曾根がなぜか戻ってきてしまいます。
曾根の目的はカネです。自分の娘である遥香とは戸籍でつながっているのをいいことに,脅してくるんですね。
「俺と遥香は血がつながっている。だから別れることはできないのだ」と。
つまり秀一の本当の父親ではないのです。だから逆に虐待を受けたりもしていたんですね。
警察は取り合ってくれない,弁護士に聞いたら縁を切るのは難しそうな状況で秀一は苦悩する日々が続くんです。
絶望感いっぱいだったことでしょう。
徐々に秀一には曾根に対して復讐の気持ちが湧いてくるのです。
とうとう秀一は父親殺害を計画するわけです。
その方法が,鍼治療の針を体に刺し,そこに電流を流して心停止させるというものでした。
つまり,事故死と見せかけようとするわけです。
その知識を作者は調べてこの作品を描いたということになるわけですね。
こんな犯罪方法をどうやって作者は知ったのでしょうか。
化学? 科学? の知識が必要だし,巻末の参考文献を見るとそれらしき書籍も紹介されてますから,相当リサーチされたのかなと思います。
そして計画を練り上げる話を創作するまでの作者の試行錯誤が,この秀一に乗り移っていったようにも思えました。
「天網恢恢云々は信じない」と,秀一はこの作品の冒頭で話しています。
つまり,犯罪を犯したからといって,自分には罰は当たらないし,そもそも見つかるはずがない。
本当に「完全犯罪が成立するのではないか」そんなことを思わせられます。
そして,犯罪は実行されるのです。
目撃者が現れる?
完全犯罪実行の日がやってきました。予定どおりに計画が実行されていきます。
昼休みにロードバイクで自宅に帰宅し殺害を実行するため,秀一は美術の時間を利用します。
外でスケッチしてくると言い残し,秀一は外に出るなり,ロードバイクで自宅へ直行。
そして計画通りに曾根を殺害するのです。
その殺害シーンがあまりにもリアルで,ゾクゾクときました。
自分に気がある紀子という同級生もアリバイに利用されてしまいましたが,疑問は持っていたようです。
もちろん秀一の家には警察もやってきます。父親が亡くなった原因を探るために。
巧妙に仕掛けたトリックがうまくいったのか,警察はそれ以上疑っていない様子でした。
でも,アリバイに利用された紀子は気づいていたような気がします。
秀一を護るために,嘘の証言をしてしまうんですね。
そうとも知らず,達成感でいっぱいの秀一。これで平和がやってくると思っていたでしょう。
ところがその行動をずっと追っていた同級生がいたのです。石岡という友人です。
それが秀一だけでなく,読者にとっても盲点でした。
罪を犯すことの代償
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今度は石岡を殺害するという計画を練りはじめます。
連続殺人と思われないようにするためか,秀一は前回とは異なる方法をとるのです。
秀一がアルバイトをしているコンビニに強盗犯を装って石岡がくるというシナリオを思いつきます。
しかし,秀一はそのシナリオを逆手に取って今度はナイフを使って殺害するのです。
一度目は計画犯罪でしたが,二度目は予定外の犯罪。
何となく嫌な予感を感じているような秀一の姿が目に浮かぶようでした。
秀一の元へ,とうとう一人の優秀な刑事がやってきます。
秀一の周りの人間が二人亡くなっていることに疑問をいだいたのでしょう。
とうとう秀一は追い詰められるのです。
やはり罪を犯して逃げ延びるというのはできないのかなと思います。
秀一は虐待にも我慢したり,家族が不幸になっていくところも見ています。
いろいろな人に相談もしています。それでも助けてくれる人がいなかったのです。
もしこれが自分だったらと考えます。絶望的な境地になるのではないでしょうか。
しかし結果的に,秀一の復讐は報われませんでした。
「天網恢恢疎にして漏らさず」
罪を犯せばそれなりの罰が与えられるということなのでしょう。
彼は自分のためだけではなく,家族のことも考え,おそらく正義感でこの計画を実行したのだと思います。
果たしてそれは本当に正義なのでしょうか?
確かに,秀一の気持ちになれば同情できる部分はあります。こういう境遇になってみないとわからないこともあるでしょう。
しかし,結果的に秀一が罪を犯したことに対して周囲の人はどう思ったのかを考えてしまいます。
警察に嘘のアリバイを証言した紀子の気持ち,そして息子が犯罪を犯したことを知った母親,妹の気持ち。おそらく紀子も,母親も,妹もみんな自分自身を責めるのではないかとも思います。
この作品では,残された人間の気持ちを考えずに罪を犯すことの愚かさを表現していたような気がします。
では,どうすればよいのかと言われても難しいですよね。
罪を犯してはいけないというのはよくわかりますが,秀一のように苦しんでいる人間が多いということも現実にはある。とても複雑です。。。
いろいろな作品を読んでいても,犯罪は何かしらの不遇な環境によって引き起こされることが多いように思います。
青い炎というのは「復讐の炎」というふうにも表現されるそうです。
世の中には不遇な環境で生活し,我慢しながら生きている人もいる,ということをこの作品に教えられているような気がしました。
そして,たとえどんな理由があったとしても,決して復讐という選択をしていけないということも。
● 犯罪は,不遇な環境によって引き起こされる可能性が高いのではないか
● 自分の悪意なる行動が,周囲の人間の気持ちにどういう影響を与えるか考えるべき
● 加害者に同情できる部分もあるが,復讐をしても結局は幸せにはなれない
最後に秀一がロードバイクに乗っているシーンは何とも言えない気持ちになりました。