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【長い長い殺人】宮部みゆき|財布の視点で描かれた小説

長い長い殺人

面白い視点の作品でした。ミステリーの王道的な作品ではあるんですけど,全部視点は「財布」でした。

つまり,登場人物の「財布」を擬人化し,財布が見たであろう,あるいは聞いたであろう視点で構成されているという発想の作品です。財布を視点としたストーリー同作家の「理由」では,刑事からインタビューをされたという設定ですべてのストーリーを構成していましたが,今回も新しい視点での描き方を思考錯誤しながら描いたのだろうなと思います。

アイデアを実際にそれを実行するから,さすが宮部先生と唸ってしまいました。

しかもそのストーリーが面白い。ミステリーでありながら,財布でなければわからないことを織り交ぜつつ,見事に構成された作品です。

こんな方にオススメ

● 登場人物の「財布」の視点で描かれた作品を読んでみたい

● 事件の意外な真相を知りたい

● 「財布」の視点だからこその細かい描写の作品を読みたい




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登場人物の紹介

小宮雅樹・・・主人公。叔母である早苗が好きな小学生

塚田和彦・・・早苗の夫。レストランを経営

森元法子・・・和彦の愛人

三木一也・・・無職。事件に絡んでいる

河野・・・探偵事務所を経営

本作品 3つのポイント

1⃣ 保険金殺人発生!

2⃣ 交換殺人事件なのか

3⃣ 真犯人の登場

保険金殺人発生!

短編で構成されてますが,実はすべてつながってます。

各章の「財布」にはもちろん持ち主がいて,その持ち主の行動や言動を「財布」が見たり聞いたりしてストーリーを構成しています。

基本的に財布は胸ポケットやバッグなどに入っているわけですから,「○○という声が聞こえた」とか「○○したであろう」みたいな表現になっています。法子と和彦の企みある日,事件が発生します。森元法子は夫の隆一を殺害して保険金を手に入れたというのです。

しかし当初から重要参考人とされていた法子には鉄壁のアリバイがありました。

ここで一人の少年が登場します。主人公の小宮雅樹です。主人公の小宮雅樹彼は早苗の結婚式に出席し,そこである女性に一枚の名刺を渡されます。塚田和彦のものでした。

わたしは約束を忘れない。あなたを愛してる。N」と書かれていました。

塚田が持っていたわけですから,このNって法子? 一体,何の約束なんでしょう。

和彦は結婚式前に,早苗に高額の保険金をかけていました。もしそれが本当なら,早苗の身に何かあるかもしれない。そう考えた雅樹は不安で仕方なくなってしまうんですね。

新婚旅行へ行った早苗と和彦。早苗は和彦とスキューバをしていましたが,おぼれかけます。しかし和彦は助けようとしないんです。

早苗を殺す気? これは本当に雅樹の嫌な予感が当たるかもしれない。雅樹の不信感これを機に早苗は探偵に相談します。和彦が何やら怪しいと。。。

しかし,とうとう嫌な予感が的中するのです。

交換殺人事件なのか

早苗はとうとう殺害されてしまいます。羽田空港の近くにある倉庫で見つかってしまうのです。

和彦は結婚相手の女性である早苗が殺害されたことで保険金を手に入れたのです。早苗が亡くなるここまで読めば,どう考えても保険金が目当てのようですね。

きっとこの話は,法子と和彦の二人がが中心になっていて,最初はこの二人が最終的には逮捕されるという「倒叙的な流れ」なんだろうなって思ってました。

ただ,読みながら妙な不自然さもありました。

この二人,何となく堂々としているんですよね。まるで自分たちは犯罪に関わっていないかのように。ということは「交換殺人?

交換殺人なら,二人のアリバイは鉄壁になるし,真犯人にもたどり着きにくいでしょう。殺害を交換しているわけですから。

そして,堂々としている二人の態度もなんとなく説明がつきます。

しかし,読み進めていくと,また違う流れに変わってきました。

一体,この事件の真相は何なのか。本当に法子と和彦が真犯人なのか

真犯人の登場

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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話は次第に「真犯人が第三者である」ことを匂わす展開になってくるのです。

この辺りが絶妙でした。二人が犯人であるという先入観を読者に植え付け,完全にミスリードさせられました。「三木一也」という人物が現れるのです。真犯人の三木東京の大学の法学部を卒業したある意味エリートの三木は,大手商社に就職しますが,半年足らずで辞めてしまいます。

ある日,三木は和彦を襲います。金が欲しかったのでしょう。しかし逆に反撃に遭ってしまい,三木は弱みを握られます。

これを利用したのが和彦と法子でした。二人は全く殺人には手を下してないのです。

殺人を犯したのは三木でした。あぁ,だから和彦と法子のアリバイは完璧だし,堂々としていたんですね。

そんな中,法子や和彦は罪もないのに濡れ衣を着せられたということで,世間を賑わせてました。テレビのコメンテーターになったり,女優として勧誘を受けたり。

三木としたらいい気持ちはしないでしょう。自分だけが殺人者で,それを依頼・計画した人間だけが良い思いをしているわけですから。怒りの気持ちがわくでしょうね。法子と和彦に嫉妬する真犯人
しかも,真犯人を名乗る「偽物」まで現れてしまいます。「濡れ衣を着せてよかった」では終わらなかったんです。

三木は人生がうまくいかず,ただ頭が良くてプライドの高い人物だったので,世間からとにかく注目を浴びたかったようですね。

世間を賑わす犯罪者。彼のモチベーションはそこにあったのです。自己顕示欲の強い男でした。

最後は偽の犯人をつけていた三木を警察が取り押さえます。彼が持っていた財布には被害者のネクタイピンが入ってました。それが決定的な証拠でした。

財布にネクタイピン

保険金,世間に認められたい。そんな理由で殺害をする犯人の心理は許せないですよね。

特に,殺害された早苗を慕っていた雅樹の気持ちを考えると何かやるせない気がします。

本作品の「財布」の視点の話は面白かったです。

殺害された人間の財布の視点だったり,被害者の周囲の人間,恋人だったり,刑事だったり,少年だったり,目撃者,そして最後は真犯人の財布の視点などなど。

財布なのでもちろん感情はないが,擬人化されていますので,一つの事件を違う角度から見ている感覚でとてもよかったです。

財布だからこそ聞こえる声や物音,見えていないからこその想像だったり,本当によく考えられている構成だと思いました。

この作品で考えさせられたこと

● 「財布」を主体とする作者の構成力のすごさに驚いた

● 後半のミスリードに完全にひっかかってしまいまいた

● 「財布」が擬人化されてつつも,本格的に描かれたミステリーだった

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