国や自治体からの公共事業というのは昔から行われてきました。
道路や橋梁だけでなく,電気,ガス,水道などのライフラインの確保や病院や学校の建設などの公的事業を請け負い,それらとともに発展してきた企業も数多あります。企業の経営が安定することで国民の生活をも安定させ,建設したものを利用するだけでなく,企業の繁栄とともに私たちは生活できたのだと思います。
この話はその公共事業を入札する企業による「談合」がテーマとなっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 公共事業の入札制度
4.2 「鉄の骨」の談合
4.3 談合が与える影響
5. この作品で学べたこと
● 公共事業入札の歴史を知りたい
● 「談合とは何か」を知りたい
● 公共事業の入札制度の本来の目的を知りたい
談合。謎の日本的システムを問う感動大作! 建設現場から“花の談合課”へ。若きゼネコンマン富島平太は、会社倒産の危機に役立てるか。大物フィクサーとの出会いの真相は――この一番札だけは、譲れない。
-Booksデータベースより-
経済の発展の裏で行われてきたこのルール違反がなぜ行われてきたのか,どんな影響を与えてしまうのかを考えることができる作品でした。
作者は「池井戸潤」さんです。
1963年生まれ 慶応大学文学部・法学部卒業
三菱銀行に入行 退職後コンサルタント業,ビジネス書の執筆を経験
1998年「果つる底なき}で作家デビュー
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(果つる底なき)・吉川英治文学新人賞(鉄の骨)・直木三十五賞(下町ロケット)
今回の作品は,一松組の平太が業務課へ異動になるところから話は始まります。
この富島が公共事業受注にどう関わっていくのかがポイントです。
1⃣ 公共事業の入札制度
2⃣ 「鉄の骨」の談合
3⃣ 談合が与える影響
国や地方公共団体が実施する公共事業を入札するというのは現在も行われているものですが,そもそもこれはいつから行われてきたのでしょうか。
国や自治体は,民間の技術を利用した物品やサービスを「調達」してきました。
そこには「公平性の確保」が必要であるということで,明治時代からこの「入札制度」が実施されてきたそうです。
ところが,この入札では問題が起こってきました。
それは,事業を落札したい企業の中に,十分な技術を持たない企業が出てきます。
これにより「手抜き工事」が行われ問題になりました。
そこで良い事業者が排除されないように「指名競争入札」という制度により,少しは改善されてきましたが,ここでさらに問題が発生します。
それが「談合」です。事前に入札について複数の業者が話し合い,落札すべき業者を決めてしまうということが問題なりました。
今回の話はまさにその談合が舞台となっている作品で,「鉄の骨」とは鉄筋を扱う業者のことを言っているわけです。
この作品では一松組という企業と,そこで働く平太という男,そして上司の尾形などが登場します。
談合に関わる企業の中でどのような動きをするかというところがとてもリアルで,まさに談合の闇というものを知る上ではとてもわかりやすい作品でした。
一松組は地下鉄工事に入札します。尾形は単独落札を考えているようです。
しかし尾形は,談合に参加する複数の企業をまとめるフィクサー的な人物である三橋の元に平太を送り出します。
そこで平太は談合の存在を知ることになるわけです。
尾形の意図は何だったのでしょうか。
談合は必要悪?であって,それを知ることが企業の存続に不可欠であることを理解させるためなのでしょうか。
一松組の単独落札を狙う尾形が,なぜ平太を談合の中心地に送り出したのか。
この後の展開は是非作品を読んでみてください!
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尾形の真意は最初はわかりませんでした。
三橋は「今回の事業は真野建設に落札させろ。その代わり,次の瀬戸内海の橋梁建設工事を落札させてやる」という話になります。
これがこの作品での談合です。
フィクサーである三橋は裏で多額のカネを受け取っており,これを東京地検特捜部が調査します。しかし証拠が見つからない。
地下鉄の入札が予定通り真野建設のものになると思いきや,一松組が落札してしまいます。
さらに三橋は,彼を追っていた東京地検特捜部に逮捕されます。
なぜ捕まったか。
はっきりとは述べられませんが,おそらく尾形が仕組んだ罠だったのだと思います。
そして平太は尾形に利用されたことを悟るわけです。つまりスパイですね。
しかし,尾形の存在はこの業界における「正義」だったのだと思います。
この作品では「談合は必要悪である」という言葉が出てきます。
多くの業者が経営していくためには談合は必要であると。
しかし果たしてそうなのでしょうか。
談合は間違いなく法律違反です。
私的独占の禁止,公正取引の確保,いわゆる独占禁止法違反です。
これはまさに入札制度ができた目的に反するものなのです。
企業が訴えられてしまえば企業の経営が難しくなり,その結果,従業員が路頭に迷ってしまいます。
それが大企業であれば子会社,孫請けもダメージを負ってしまう。
切磋琢磨し合って技術を進歩させなければならないはずの企業の技術は発展せず,企業のあるべき姿からかけ離れたものになってしまう。
そして何よりもこれは「税金の無駄遣い」となってしまいます。
話し合って少しでも高い金額で入札すれば当然企業の利益はあがるかもしれないが,それは私たち日本国民の税金から発生しているものです。
どう考えても必要悪にはならないのがこの談合なんだと思います。
でも,一度悪に手を染めたらなかなか抜け出せないわけなんですね。
● 建設業界の企業が倒産せずに経営を続けていくために必要なのが談合という意見は誤っている。決して必要悪ではなく,法律違反である。
● 本当の入札制度は,企業の技術を発展させようという狙いがある
● 逆に言えば,談合があるがために企業が発展しない可能性がある
公共事業を入札するために各企業は技術を磨いたり,新しい技術を開発したりしながら,努力をし続けるべきであるのだと考えさせられる作品でした。