2009年に出版された作品。湊かなえさんの第三作目です。
主人公の足立麻子が,4人の少女に復讐するという話で,「贖罪」という言葉から連想すれば,この4人が麻子に対して償いをする話なのかな?と思いながら読みました。
麻子の娘が亡くなるんですけど,何が原因かを探っていくうちに衝撃の事実が明らかになります。
ところで,本作品は2018年の「エドガー賞」にノミネートされました。エドガーとはもちろん「エドガー・アラン・ポー」です。かつてエドガー賞にノミネートされた日本の作品は実は過去に3作品だけなんです。
● 2004年 桐野夏生「OUT」
● 2012年 東野圭吾「容疑者Xの献身」
● 2018年 湊かなえ「贖罪」
アメリカ探偵作家クラブが主催ということですから,アメリカのミステリー大賞って言っても過言ではないかもしれないですね。
仮に大賞にならなくても,その影響力は大きいらしく,多くの国で翻訳されて出版されるらしいです。
ちなみに僕の大好きな東後圭吾先生の作品は,16ヶ国もの国々で読まれているようです。
とにかく,長い年月を経て評価された作品を読んでほしいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 娘を殺害された母親の復讐
3.2 4人の女性を襲う不幸
3.3 真の「贖罪」とは
4. この作品で学べたこと
● 娘を亡くした母親の復讐の話を知りたい
● 娘の死に関わった4人の女性の人生を知りたい
● 本作品の「贖罪」とは果たして誰のものだったのか
15年前、静かな田舎町でひとりの女児が殺害された。直前まで一緒に遊んでいた四人の女の子は、犯人と思われる男と言葉を交わしていたものの、なぜか顔が思い出せず、事件は迷宮入りとなる。娘を喪った母親は彼女たちに言った──あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖の結末は!?
-Booksデータベースより-
足立麻子・・・主人公。娘のエミリを殺害される
菊池紗英・・・エミリと一緒にいた4人の一人
篠原真紀・・・エミリと一緒にいた4人の一人
高野晶子・・・エミリと一緒にいた4人の一人
小川由佳・・・エミリと一緒にいた4人の一人
足立エミリ・・何者かに殺害される
足立敏郎・・・麻子の夫
1⃣ 娘を殺害された母親の復讐
2⃣ 4人の女性を襲う不幸
3⃣ 真の「贖罪」とは
15年前、ある少女が男に襲われて殺害される。ある田舎町で起こった殺人事件。
足立エミリと,紗英,真紀,晶子,由佳の5人は学校の体育館で遊んでいました。するとそこに一人の男がやってきます。「プールの更衣室の換気扇の点検をしたいが,脚立を忘れたから手伝ってほしい」と。
彼女たちは手伝おうとするんですが,どういうわけか男はエミリだけを連れていきます。
待っていた4人の少女たち。しかしエミリはなかなか戻ってこないんですね。
違和感を感じた彼女たちはプールの更衣室へ向かいます。そこで信じられないものを目撃します。
エミリが遺体となって亡くなってしまっているのです。どうやら性的暴行を受け,そのまま殺害されたらしいのです。
慌てふためく4人の少女たち。警察を呼びます。そこで4人に対して聞き込みが行われるのですが,4人とも顔を覚えてないというのです。
顔を覚えてないというのは少し違和感を感じましたが,あまりの突然だったから覚えてないのでしょうか。友達が殺害されたということで,精神的なダメージを受けたために思い出せなかったのでしょうか。
そしてこの事件の犯人は捕まらず,迷宮入りするのです。
ここで麻子が登場。4人の少女たちへ向かって「あなたたちを絶対に許さない」と言い放つのです。最愛の娘を殺害された母親の気持ち。何か同作家の「告白」を思い出してしまいました。
ここから麻子は4人に「贖罪」を強要するのです。
一生をかけて償えと言わんばかりの麻子と4人は,成長してからも関わりを持つことになるのです。
麻子と4人がどういう人生を歩んでいくのかということがこの作品のポイントでもあります。
15年後。4人の少女たちは成長していきました。麻子に監視されながら。
「紗英」の話。紗英は結婚式を挙げることになり,そこに麻子を招待します。かつて紗英は罪の意識からか,犯人がいつか自分たちを探しに来ないか,精神的に怯えていました。生理が始まらないくらいのストレスだったようです。
彼女の夫は貴博と言いました。ところが貴博には耐えがたい趣味がありました。
フランス人形が好きだということです。紗英に対しても,まるで人形のように接しており,紗英自身も我慢しながら付き合い,結婚した様子があります。
ある日,紗英に体の要求をしてきました。突然生理が始まったため,紗英は断るんですね。
これに激しく怒った貴博は暴行を加えますが,恐ろしくなった紗英が置時計で殴ってしまい,貴博は亡くなってしまいます。
「真紀」の話。彼女は小学校の教師になっていました。ある日,プールの授業の時,ナイフを持った男が突然襲ってきます。それに対し冷静に蹴りを入れ,プールに落ちる男。彼はそのまま亡くなってしまいました。
その事件で一時は称賛されつつも,徐々に非難を浴びるようになります。
ナイフの男に臆せず立ち向かった真紀。彼女はエミリの時のことを思い出したのでしょう。
自分たちが逃げてしまい,エミリを亡くしてしまった後悔。
「晶子」の話。晶子はエミリの殺害事件の後,精神的に病んでしまいました。そんな中,彼女は幸司という男が春花とその娘の若葉と出会います。徐々に仲良くなるにつれ,晶子の心理状態も落ち着いてきたようです。
晶子は若葉の「痣」に気づくのです。この痣が何を意味しているのか。
ところがある日事件が起こります。それは,若葉の忘れ物を幸司の家へ届けようとした時です。幸司が若葉と性行為をしようとしていたのです。
エミリのことがフラッシュバックした晶子は幸司の首を絞め,幸司は亡くなってしまいました。
「由佳」の話。由佳には姉がいました。その姉が結婚することになります。その姉の夫は,由佳がかつて好きだった安藤という男に似ていたんです。
それで由佳は姉の夫のことが気になりだし,とうとう体の関係になってしまうのです。
そして妊娠。由佳の姉はこれを苦に自殺未遂してしまいます。
由佳は姉の夫と向き合い,出ていこうとしたところを羽交い絞めにされてしまいます。
抵抗する由佳。逆に姉の夫を階段から突き落としてしまい,男は亡くなってしまいます。
麻子に償おうとしていた4人の女性たち。その思いが強すぎて,逆に彼女たちは結果的には人を殺めてしまったのです。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
時代が流れ、その4人も成長していきました。
しかし,彼女たちにも恐ろしい結末が待っていたのは先に書いた通りです。
夫を殺害してしまったり、不審者を殺害したり、実の兄を殺害してしまうなど、不幸に遭ってしまった4人の女性。ここからが本作品の最大のテーマ「贖罪」です。いや,真の贖罪はここから始まるのです。
エミリが生まれ,4人の友達ができるも,エミリを亡くした麻子。
何の詫びも入れず,線香も上げにこない彼女たちに憎しみを抱く麻子。
「決して許さない」という言葉はここからきていたのです。
償おうとする4人に次々と不幸が訪れたのは書きました。まさに「負の連鎖」です。
この連鎖を断ち切ろうとしたのが麻子だったのです。
つまり真の贖罪とは,自分自らが精神的に追い詰め,死ぬまで償わせる覚悟を負わせようとした麻子が4人に対して償おうと思ったことだったのです。そもそも今回の事件の発端は,麻子が大学生の時にあったのです。
麻子は秋恵という女性と親しくなります。秋恵のためにいろいろと尽くそうとする麻子。
この時,麻子はある男性を好きになります。弘章という男性です。
秋恵からも何かをしてほしいと願う麻子は仲介を秋恵に頼みますが,なぜか断られます。
秋恵は実は弘章とひかれあっていたのです。二人の関係を知った麻子は衝撃を受けます。
しかしその秋恵が自殺してしまいます。いろいろなものを失った麻子は,弘章からも離れていくのです。
実はこの時,麻子は子供を身ごもっていました。それがエミリです。
しかし弘章とは縁を切っていた麻子は,足立という男と結婚することになります。足立は無精子症であることから,エミリを自分の子供として育てるのですね。そしてとうとう本作品のクライマックスがやってきます。
秋恵の遺書を見つけた弘章が,今度は麻子に復讐しようとするのです。
それが冒頭のエミリの殺害事件です。彼は最初からエミリを狙っていたのでした。
そうなんです。弘章は自分の実子を暴行し,殺害したのです。
4人の女性に復讐を誓わせ「精神的」に復讐を実行した麻子。
4人それぞれが殺人を犯すという予想外の事態に慌てたことでしょう。
「贖罪」は4人が麻子に対して行ったものだとばかり思ってました。
過去を紐解けば,実は別の原因が潜んでいたということです。
目の前の出来事に対してだけ批判したりすることがありますけど,しかしよく考え過去を紐解いていけば,実は理由が別にあるということもよくある話です。
湊かなえ先生が本作品で何を言おうとしていたかは聞いてみないとわかりませんが,結果的には麻子自身の行為・行動が元凶になっていたということなんだと思います。
麻子はどこで道を間違えたのでしょうか。
真犯人に、真実を伝えることが彼女の本当の「贖罪」だったのかもしれませんね。
● 娘を亡くした母親,4人の友人の心理を考えると切なくなった
● 一人の人物に翻弄された4人の女性の意外な人生が衝撃
● 「贖罪」とは,意外な人物のものだった