「秘密」は知っている方も多いと思いますが,東野圭吾先生の伝説のような作品です。
先生の作品の中には「あの頃の誰か」という短編集がありますけど,「秘密」の原作は元々この短編集の中の一作だったんですよね。
「さよならお父さん」というタイトルで描かれたのが最初です。
確かに短編よりは,今回の長編の方がかなり深みがあり,それ以上に衝撃を受けました。
短編では気に入らなかった東野先生が書き下ろした,衝撃的な作品となりました。
東野先生の作品を好きな人に話を聞いていも,ほとんどの人が本作品を推します。
かつて二度,映像化もされています。一作目は映画で「広末涼子」さんが,二作目はドラマで「志田未来」さんが主演されています。
男性と女性で読了後の感想が異なる作品でもあると思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 妻と娘を載せたバス事故
3.2 次第に関係が悪くなる二人
3.3 最大の「秘密」とは
4. この作品で学べたこと
● 娘の体に憑依した妻と,夫の関係がどうなるのかを知りたい
● 映画やドラマでは描かれていない部分を読んでみたい方
● 本作品の「秘密」とはどういうものなのかを知りたい
妻と小学五年生を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだ筈の妻だった——。
-Booksデータベースより-
1⃣ 妻と娘を載せたバス事故
2⃣ 次第に関係が悪くなる二人
3⃣ 最大の秘密とは
ある日,杉田平介の妻直子と,娘の藻奈美が二人でバスに乗って直子の実家の長野県に帰省することになります。少し不安ながらも送り出す平介。
しかし,平介にとんでもないものを目にします。テレビの報道で長野行のバスが事故に遭ったというのです。最初は大丈夫かと思っていた平介でしたが,同じくらいの時間のバスに乗っているはずと考えた平介は慌てます。
事故に遭ったバスは,まさに直子と藻奈美が乗ったバスでした。嫌な予感が的中してしまいました。
直子は亡くなってしまいます。そして藻奈美も植物状態になってしまうのです。茫然とする平介。平介は直子が亡くなる直前に,藻奈美の手を握らせます。
すると思ってもない奇跡が起きるのです。藻奈美の意識が回復するのです。絶望感いっぱいだった平介は驚きます。不幸中の幸いということでしょうか。
少しずつ回復していく藻奈美。少しずつ話すこともできるようになるんですけど,ここで平介に衝撃の事実が。。。
藻奈美は「自分は直子だ」と言うのです。何を言っているんだと言わんばかりの平介はまともに受け止めません。それは信じられないですよね。中身だけ入れ替わっているなんて。
直子は必死で訴えます。自分たちしか知らないことを話していく直子。徐々に平介の表情が変わっていきます。「本当に直子なのか?」
最終的には平介は藻奈美,いや直子の言うことを信じます。そして二人だけの「秘密」を抱えて生きていくことになるのです。
直子の結婚指輪は,テディベアの中に隠すことにしました。これも二人だけの秘密です。平介はバス事故の「被害者の会」に入ります。そこで運転手の妻と話をします。
原因は運転手の勤務状態にありました。
過去の大事故を思い出しました。2016年に起こった超過労働を強いられた高速バスがガードレールをなぎ倒した挙句,道路脇に転落した「軽井沢スキーバス転落事故」
15名の人々の命が奪われた事故。調べてみると,現在でも高速バスの事故というのは発生しているようです。
「人手不足」という大きな問題が解決できていないのは今も変わらないようですね。小学生だった藻奈美は直子として生きていくことになります。大人でありながら小学生でなければならない直子はバレないように友達と接していきます。
そして中学受験。当然のように合格します。そして中学生活が始まっていくのです。
平介も悩んでいるようでした。妻と性行為をするわけにもいかない,自分は父親なのか,それとも夫なのか。
この辺りから徐々に夫婦の間に違和感が出てくるのです。
直子は,藻奈美になり切っているようでした。藻奈美が生きていくはずだった道を何とか直子自身が切り拓いていく。そんな強い気持ちを感じます。
中学受験から三年後,今度は高校受験に突入するのです。そして志望校に合格します。高校生になった直子はテニス部に入部します。
部活で徐々に帰りが遅くなっていく直子。その生活に平介は不満を持ち始めていました。
平介にとって直子はやはり妻,しかし直子は藻奈美の人生を歩いているのです。
平介は直子を心配しているというより,嫉妬しているように映ります。
さらにその嫉妬が大きくなることが起こります。自宅に相馬というテニス部の先輩から電話が来るのです。
平介の心境はどうなのか。藻奈美であっても嫉妬するでしょうが,それが直子なわけですから,嫉妬は倍増しているのではと思わせられます。
直子は関係を否定します。しかし平介は不信感を募らせているようでした。
平介は異常な行動を取るようになります。直子の部屋に盗聴器を仕掛けます。さらに藻奈美宛てにくる郵便物もチェックするのです。ん~,気持ちはわからなくもないが。。。ちょっと行き過ぎでは。。。
そして決定的な亀裂が走る出来事が。
クリスマス・イブの日,相馬は直子と会う約束をします。もちろん平介に嘘をついて。
ところが密会現場に平介がやってきます。何と直子を自宅へ強引に連れて帰るのです。
盗聴器のことや郵便物のことなど,自分が信用されていないと感じる直子は,平介とぶつかってしまいます。口も聞かなくなった直子。何とか自分の気持ちをわかってほしい平介。もはや夫婦とは言い難い状況になってしまいました。
僕自身は平介に同情してしまう部分があるんですけど,女性の方はどうなんでしょうか。
藻奈美の成長を自分自身が実現するという直子の気持ちを理解できるのでしょうか。読みながら本当に考えさせられます。
しかし,平介は徐々に変わっていきました。直子のことを「藻奈美」と呼ぶようになったのです。直子の気持ちを理解しようと必死になっているのかなと思いました。ところが直子はそれを聞いて衝撃を受けたようです。平介の父親として直子と向き合う覚悟を感じたと同時に,何か違うものが直子の中に入ってきたかのように。
そして翌日,異変が起きます。藻奈美の人格が現れたのです。当然戸惑う平介。しかし直子の人格が無くなったわけではありませんでした。時々,直子の人格も現れます。2人の人格が交互に現れる状態になってしまった直子と藻奈美。
徐々に藻奈美である時間が増えていきます。直子はもうすぐ自分の人格が無くなってしまうことを感じていました。
そしてとうとう,運命の日が訪れます。
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ある日,藻奈美は平介に「山下公園に連れて行ってほしい」と伝えます。平介は藻奈美と一緒に行くことにしました。
山下公園は平介と直子の初めてのデートの場所でした。
直子の人格になっていた藻奈美。彼女は衝撃なことを話し始めます。
「最後にもう一度ここに連れてきてくれて,ありがとう」直子が話します。
「もう少し何とかならないのか」と平介。
「うまく説明できないけど,直子はこれでおしまい」
そう言い残して,直子の人格は消えてしまいました。直子がいなくなったことを知った藻奈美の人格は号泣するのです。そして,話は藻奈美の結婚式のシーンへ飛びます。
藻奈美は大学病院で脳医学を研究しています。25歳になっていました。
「娘の結婚くらいで泣くわけないだろう」平介はそんなことを言っています。
ここまでいろいろなことがありましたが,何か一区切りの瞬間を迎える気持ちの平介。
「一種の二重人格みたいなものだったんじゃないかなぁ」
脳医学を専門にしている藻奈美は平介にそんなことを話します。
平介は持っていた懐中時計が壊れたため,式場に行く前に松野時計店へ寄ることにします。店主に「そういや,今日は藻奈美ちゃんの結婚式だったな」と言います。
平介は驚きます。「なぜ知っているんですか」と。すると店主はこんなことを言います。
「結婚指輪をね,うちで世話してやったものだから」
「えっ?」平介は藻奈美からそんなことを聞いていません。初耳だったようです。そしてさらに店主は,
「これねえ,藻奈美ちゃんからは口止めされてたんだけど,話しておくよ。あまりにいい話だから」
どうやら藻奈美は直子の結婚指輪を持ってきて,それを材料に新しい指輪を作ってほしいとお願いしたようなんです。その結婚指輪とは「テディベアに入れた指輪」であって,二人だけの秘密だったはず。平介は衝撃を受けます。
「君は消えていないのか。ただ消えたように振舞っていただけなのか」
式場に行き,藻奈美と向き合う平介。そして,夫になる男性に言うのです。
「ほら,よく言うじゃないか,娘を取られた父親が花婿を殴るって」
一発は娘の分,そしてもう一発は「もう一人の分だ」
そう言いながら,平介は殴る前に崩れ落ちるのでした。この話は平介の気持ちになると,最後は切ない結末でした。これは僕自身が男性目線で見ているからでしょうか。
話の中にいろんな秘密が出てきますが,最後の「秘密」には本当に驚きました。
娘を持つ父親であればなおさら許せないという人もいるかもしれません。
でも本当にそうなのだろうか,とも思います。
藻奈美の成長を心の底から願っていた直子。自分の意思で大切な人生を送ることができなかった藻奈美に代わって直子が「藻奈美には幸せになってほしい」と切なる願いで人生を送っているようにも思えます。
父親の覚悟,そして子供の体に乗り移った妻の覚悟。子供の成長を願う母親の覚悟。
男性の目線,女性の目線で最後の結末の印象もだいぶ違うのではないかと思いました。女の子を持つ親にとっては,その気持ちが痛いほど伝わるのではないのかと思います。
過去に広末涼子さんや志田未来さんが映画やドラマで演じているのを読了後に観てみました。
最後のシーンで父親を見上げるその目は,これ以上の覚悟があるのかという気持ちになりました。
父親と母親,自分の娘の幸せを一番に願っているのは同じだけど,全く異なる考え方や行動についてとても考えさせられた,すばらしい作品でした。
● 娘の成長を願う母親の気持ち
● 本作品最大の「秘密」を知った夫の気持ち
● 本作品のその後がどうなっていくのかを知りたくなった