2018年8月24日公開の原作です。当時,木村拓哉さん,二宮和也さんのW主演ということでとても話題になっていたのを思い出します。
もうあれから5年も経つんだな。。。時が経つのは早い早い。
実際に映画を観に行きました。映画化するにあたって,作品の捉え方も人それぞれなのだなと感じた記憶があります。
検察官と言えば,やはり同じ検察官を演じた「HERO」を思い出しますけど,今回,木村拓哉さんが本作品でどのように演じようとしたのかが気になります。
上下巻読みながら,本当に検察官という仕事は過酷だなと思いました。
有罪率99.9%という日本の裁判。
犯人を起訴したからには絶対に有罪にしなければならないというプレッシャー。
刑事モノも面白いですけど,僕の場合は検察官や弁護士の話がハマるかもしれません。
かつての教官の元に,教え子である検察官が配属されるというところから話は始まります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 最上に疑問を持つ沖野
3.2 「冤罪」を作り出した検事
3.3 沖野の葛藤
4. この作品で学べたこと
● 沖野の上司である最上の罪が何かを知りたい
● 検察官という仕事の難しさを知りたい
● 「冤罪」が作られるシーンを読んでみたい
人が人を裁くとは? 雫井ミステリーの最高傑作 蒲田の老夫婦刺殺事件の容疑者の中に、時効事件の重要参考人・松倉の 名前を見つけた最上検事は、今度こそ法の裁きを受けさせるべく松倉を追い込んでいく。 最上に心酔する若手検事の沖野は厳しい尋問で松倉を締め上げるが、 最上の強引なやり方に疑問を抱くようになる。 正義のあり方を根本から問う、雫井ミステリー最高傑作!
-Booksデータベースより-
1⃣ 最上に疑問を持つ沖野
2⃣ 「冤罪」を作り出した検事
3⃣ 沖野の葛藤
5年目の若手検事である沖野啓一郎が,東京地検の刑事部に配属されます。
実は沖野には尊敬する検事がいた。それがかつての教官でもあった最上でした。
ある日,蒲田で殺人事件が発生。その捜査に最上と沖野が担当することになります。
殺害されたのは都築夫妻という老夫婦でした。
都築は個人的に金貸しを行っている関係,おそらくカネ絡みの犯行と思われました。
犯行に使用されたの包丁はまだ見つかっていません。
最上は,都築に借金をしていたリストの中にある人物の名前を見て驚愕します。
それは「松倉重生」という男だったからです。
彼は遡ること23年前、根津で起きた殺人事件の容疑者でしたが、証拠不十分で不起訴となっていました。
実は最上にとっては忘れられない,そして許せない人物でした。
この23年前の事件の被害者が、久住由季と言い,かつて最上が妹のように接していた少女だったからです。
由季は松倉に暴行された形跡がありました。最上としては絶対に許せない。
ところが有力な手掛かりもないまま,時効を迎えてしまっていたのでした。
そんなことを思い出させる,忘れられない名前を目にし,最上の心は揺れ動きます。
最上としては23年前の「仇」を取りたい。完全に先入観に占有されている様子です。
「罪を犯した者は必ず裁かれなければならない」
松倉が犯人かどうかというよりは,犯人であってほしいという考えになっている。
この流れに疑問を持った人物が最上の部下である沖野です。
松倉犯人ありきで捜査を行っている状況に違和感を感じている様子です。
ところがここで重要な証言が手に入ります。松倉が事件当夜,都築の家の周りをうろついていたというのです。
一気に松倉犯人確定路線に突入。沖野も「自分が間違っていたのだろうか」と考えるのでした。
そしてとうとう松倉が逮捕されるのです。でも証拠はあるのか?
やはり取り調べをするも,松倉は否認しています。
確かに目撃証言はあったが,決定的な証拠がないわけです。いわゆる状況証拠のみ。
それがなければ起訴もできない。ところがここで大きく状況が変わります。
DNA鑑定で23年前のことを再調査することをちらつかせ,とうとう松倉は自供するのです。
とうとう流れは完全に検察側に向かいます。そして都築家を捜査。
しかし最上はここで意外なモノを目にします。
『5時8分 銀龍』というレシートを見つけてしまいました。
警察の推定犯行時刻は4時半です。この領収書が本物であれば松倉は「シロ」ということになってしまいます。
松倉も「5時過ぎに銀龍を出た」と証言も一致しているのです。
そしてここで最上は意外な行動を取ります。このレシートを握りつぶし,ポケットにしまうのでした。
やはり,最上は何としても松倉を犯人に仕立て上げたいようです。つまり冤罪を作り出してしまう。
最上は沖野に松倉の取り調べを任せます。徹底的に取り調べろ。罵るような口調で攻めても構わない。
沖野は最上から言われた通りの取り調べをします。沖野のキャラとはかけ離れた感じの取り調べです。
沖野って,優しいイメージがあったんですけど,取り調べになるとみんなこう変わってしまうんですかね。
それにしても警察や検察庁では,こんな感じの取り調べが行われているのでしょうか。恐ろしくなります。
こんな取り調べを受ければ精神的にまいってしまうような気がしますが,松倉は自白しません。
松倉は犯人じゃないのでは? と思わせられるような展開です。
さらに検察側に不利な方向へ流れは動きます。何と,弓岡嗣郎という容疑者が浮上してきたのです。
都築家の借用書リストにはなかった名前。ひょっとして,弓岡は本当に自分の借用書を抜き取るために押し入ったのか。
しかも弓岡はこのことを居酒屋で仲間に話しているのです。
警察しか知りえない「秘密の暴露」のような内容を。犯人は弓岡で間違いないようです。
この事実を知った最上はある行動に出ます。
それは信じられないものでした。
最上は考えます。何としてでも松倉を犯人に仕立て上げなければならない。
そのためにはこの弓岡が邪魔なんですよね。
そしてとうとう最上は隠蔽工作を始めることを決意するのです。
弓岡に連絡を取った最上は彼に対して指示します。
「お前にとって安全な隠れ家とカネを渡す」
つまり,警察が追っていることを伝え,逃亡するように仕向けるのです。
その「隠れ家」と呼ばれる場所で最上は弓岡と会いますが,最上は思ってもない行動に出ます。
最上はまず凶器の包丁を弓岡から受け取ります。そして拳銃で弓岡を撃ってしまうのです。
何と最上はブローカーから拳銃を購入していました。
山中に弓岡の遺体を埋め,何食わぬ顔で戻ってくるのでした。
なるほど,最上の狙いは弓岡の持っていた凶器である「包丁」だったのか。。。
つまり最上が考えたのはこういうことです。
この凶器に松倉の指紋を付着させ,新聞紙にくんで河川敷に捨てます。
最上はわざと一般市民になりすまし,警察に通報するのです。そして松倉を都築家の殺人事件の犯人に仕立て上げようというわけです。
松倉は当然否認します。本当の犯人は弓岡なのですから。
決定的な凶器が出たことで,検察側は起訴に踏み切ってしまうです。大丈夫なのか。。。下手したら「冤罪」になるんじゃ。。。
この一連の流れを沖野は複雑な思いで見ていました。
松倉を取り調べ,都築家の事件には関わっていないと判断している沖野。
とうとう沖野は自分が考えている違和感を最上に訴えます。
最上はそれを聞き,松倉に厳しい取り調べをしていた沖野を担当から外してしまうのです。
真っ向から対立する最上と沖野。
沖野は検察官のあるべき姿に葛藤しているようでした。
「これが本当の正義なのか」と。
最上の暴走を止めなければならない。そのためには。。。
沖野は大きな決断をします。検察官を辞めるというのです。
最初は「そこまでするか」って思いましたけど,沖野は正義感の強い人間です。最上のやり方が本当に許せなかったのでしょう。
「君は君の信じる道を進めばいい。成功を祈っている」と最上が言えば,
「その言葉を胸に、がんばらせていただきます」と沖野は返します。
そして,沖野は東京地検を去っていくのでした。
沖野は何と,松倉の弁護側に入ります。
松倉の国選弁護人である小田島と話,沖野自身が知っている情報を渡すのです。
そしてここで弁護団に大きな見方が現れます。白川雄馬です。
白川は「無罪職人」と呼ばれており,これまでも数々の冤罪事件に関わってきました。
マスコミをも味方にし,劣勢だった松倉側に追い風がやってきます。
最上自身も逆風がきていることを悟っているようでした。しかもそこにはあの沖野までいる。
さらに最上にとって悪いことが。。。
『別荘地から男性の遺体が見つかる 山中湖』
新聞にこの記事が上がってしまったのです。最上は顔面蒼白です。
この記事に敏感に反応したのは沖野です。彼は誰かが松倉を犯人に仕立て上げるために,弓岡を始末したのではないかと考えます。
それができるのは都築家の事件の捜査関係者。最上の顔も思い浮かびます。
そして沖野は決定的な事実を知ることになります。
実は最上は,23年前の被害者である由季とつながりがあったことを掴んだのです。
これで沖野は確信します。弓岡を殺めたのは最上であると。
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沖野はマスコミに情報提供します。
「現職検事が殺人事件の容疑者である!」
これまでの状況を辿れば,最上が関わっていることは一目瞭然。
最上には最高検からの厳しい取り調べが入ります。まるで松倉が同じ目に遭ったように。
Nシステムによって,最上が山中湖へ向かっていることもわかり,最上は完全に「クロ」になっていきます。
「Nシステム」とは,車のナンバーで車がどのルートを走ったかを追跡できる警察のシステムです。
状況証拠,そして決定的な証拠も掴まれ,とうとう最上は逮捕されたのです。
最上逮捕により,もちろん松倉は釈放されます。
そして弁護団の祝勝会が執り行われます。
そこには松倉,白川弁護士,そして沖野の姿もありました。
沖野を見つけた松倉はいきなり怒鳴ります。
「い、いったいどの面下げて来やがった! こいつは無理やり罪を認めさせようとしたんですよ!」
沖野は深々と頭を下げ,当時のことを謝ります。
彼は複雑な心境でした。確かに裁判では勝ちましたが,弁護団には歓迎されていない感じですから。
沖野は考えます。「自分は正義を成し遂げたのだろうか?」と。
23年前の事件,これはおそらく松倉が犯人なのでしょう。しかし今回の都築家の事件は違った。
最上は両方ともに松倉を犯人にしたかった。でも結果的には松倉というモンスターを世に放ってしまった。
何が正しかったのか。沖野はここでも葛藤しているようでした。
弁護士として生活することを決心した沖野は,ある日拘置所の最上を訪ねます。
何か落ち着いた雰囲気であいさつを交わす二人。そこには敵味方も関係内容でした。
最上は沖野に対してこう言うのです。
君のような将来のある人間を検察から去らせてしまった。それだけが痛恨の極みだ。ほかには何も悔いることはない
これまでの経緯,尊敬していた最上をこの場所へ導いてしまった後悔。沖野にはいろいろな思いが渦巻いています。
最上さん,僕に弁護人をやらせてください。
お願いします。一生懸命やります。最上さんの力にならせてください。
これに対し,最上は静かに返すのです。
ありがとう。でも、もういいんだ。俺を十分助けてくれる人間はもういる。
君は他の人間を助けてやってほしい。君にしか救えない誰かが、きっとどこかで途方に暮れているはずだ。
君が本当に救うべき人間を見つけて、力を注いでやってくれ。それは俺じゃない
本作品は最後にこう締めています。
彼はずっと検事だったのだ。
時効で罪の償いから逃れた男に,彼はとてつもない代償を負わせることを思いついた。
やってもいない罪で極刑を科す。およそ考えられるどんな手よりも、苛烈で凄まじい制裁方法だ。
しかし,それをするには彼自身も大きな代償も払わなければならなかった。
また新たに、罪の償いから逃れる人間を作るわけにはいかなかった。
それもはやり、彼が検事だったからだ。
自分は、何を間違ったのだろう? 何も間違えていないのに,こんな気持ちになるものだろうか。
正義とはこんなにいびつで、こんなに訳の分からないものなのか。
沖野の葛藤はピークに達し,彼は大声で叫ぶのです。
自分はこれからどう生きていけばいいのか。救いたかったのは最上ではなく,自分自身だったのではないか。
厳しい司法試験を突破し,晴れて検察官になった沖野。
自分の理想である「正義」を胸に秘め捜査にあたりながら,現実の厳しさを目の当たりにしました。
自分の元上司を追い詰める辛さを感じつつも,裁判には勝利しました。
しかし,そこには達成感どころか更なる葛藤が現れ,検察官を目指したことにすら疑問を抱いた沖野の姿がありました。
検察官の厳しさを感じずにはいられませんでした。
果たして,本当の正義とは何なのでしょうか。
● 正義をかざした沖野自身の心は満たされたのだろうか
● 検察官という仕事の厳しさ
● 「冤罪」が作られることがあるという恐ろしさ
