東野圭吾先生の作品の中でも,かなり感動した作品の一つです。
1979年,主人公(拓実)の前に「トキオ」と名乗る少年が現れます。
そして,若き拓実の人生の分岐点にやってくるのです。
実はこのトキオ,未来の拓実の息子なんですね。名前を「時生」と言います。
他人の体を借りて拓実の目の前に現れ,そこで起こる様々な事件や出来事を2人で乗りこえていくという面白い趣向の話です。SF的な作品。
これ,「トキオ 父への伝言」というタイトルでドラマ化されています。
拓実役を元TOKIOの国分太一さん,時生役を櫻井翔さんが演じています。
本当にいい作品なので,いつか観ようと思ってるんですけど,未だに観れずにいます。
感動必至,オススメの一冊です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 トキオは何者なのか
3.2 千鶴と追う拓実とトキオ
3.3 トキオの最期
4. この作品で学べたこと
● 時生(トキオ)とは何者なのかを知りたい
● 本作品の「過去に戻れば未来を変えられるのか」を読んでみたい
「あの子に訊きたい。生まれてきてよかった?」
悩む妻に夫が語る、過去からの伝言
不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、20年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った――。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。
-Booksデータベースより-
1⃣ トキオは何者なのか
2⃣ 千鶴と追う拓実とトキオ
3⃣ トキオの最期
拓実が50歳の頃から話は始まります。彼には時生という息子がいました。
しかし時生は「グレゴリウス症候群」という不治の病に罹っており,人生の最期が近づいているようでした。「グレゴリウス症候群」とは,遺伝性の病気で男児のみに発症し,かなり高い確率で死に至るという病気らしいです。
拓実か,拓実の妻である麗子のどちらかが持っていたということになりますね。
ネットで調べても,この名前の病気は出てきませんでした。東野先生が独自に考えた病名なのかなぁ。
そんな時ふと拓実は麗子に対して, 20年以上も前の思い出話を始めるのです。時代は1970年後半,主人公の拓実が25歳の頃のことです。
拓実はしっかりとした仕事にも就かず,本当にどうしようもない生活を送っていました。
拓実には恋人がいました。千鶴という女性です。彼女はスナックで働いているんですけど,自分で稼いだお金を拓実に貢いでいるんですね。
堕落した生活から抜け出せない拓実。千鶴が拓実のために持ってきた採用試験のチャンスでも、面接の際に拓実はキレてしまい、面接を棒に振ってしまいます。
千鶴は業を煮やしたのか,呆れ果ててしまったのか,拓実の前から姿を消してしまいます。
「しっかりしろ,拓実!」と言いたくなるような始まりです。
口は達者ですけど,何とも頼りない感じの拓実なんですけど,ある日,花やしきで拓実の前に少年が現れます。
名前を「トキオ」と言いました。なぜ拓実の前に急に現れたのか。
トキオには親戚らしい人がいないようでしたが,拓実が親戚だと言い張ります。
心当たりのない拓実はもちろん信じることができません。
トキオは拓実についてまわります。当初はウザそうにしていた拓実でしたが,拓実はトキオに対して,徐々に何かしらの親近感を感じているようでした。
ここで、トキオの存在ですが、読者には早い段階で「トキオ=拓実の息子」というのはわかるんですけど、拓実には当然理解できていないようです。確かに、将来の自分の息子が目の前にいるなんて、想像すらできないですもんね。トキオだけが拓実は自分の父親だと知っているわけなんですね。
拓実はいなくなった千鶴を探し始めます。トキオも一緒に行動します。
千鶴は何か厄介なことに巻き込まれたのでしょうか。イシハラユウジロウというヤクザの男も彼女を探し回っているようなんです。
ん~、拓実に嫌気がさしていなくなったわけではないのかな。。。
二人は千鶴の友人であるタケコという女性が行方を知っているのではないかと、大阪へ向かうのでした。
千鶴を探そうと大阪へ向かった拓実とトキオの二人。その背後ではイシハラという堅気でないような男が動いているようです。
得意の競馬で大金を当て、大阪に行こうとする拓実とトキオ。そんなトキオが話し出します。「いずれ電話は小さくなって、いつでも利用できるようになる」
言われた拓実は「そんなSFみたいなことがあるわけないじゃないか」と反論します。
未来を知っているトキオと未来を知らない拓実の会話です。確かに,自宅や公衆電話でしか連絡手段がなかった時代から比べると,技術は進歩しましまよね。
今の時代には携帯電話どころかスマホまでありますから。
あのホリエモンでさえも,平成26年の近畿大学の講演で「一人一台,電話を持つ時代が来るとは思わなかった」って言ってましたもんね。
本作品の発表が2002年なので、さすがにスマホの存在までは予知できなかったでしょうけど。。。ここでトキオは拓実に「絶対に愛知へ行く」ように伝えるのです。
「愛知に行ったら、拓実さんは僕に感謝することになるよ」
これはどういうことなんでしょう。一体、愛知に何かあるのか。
拓実には母親がいましたが、その母親は育ての親であって、拓実を産んだ母親は別にいるんですね。東條須美子という女性です。
どうやらこの須美子という女性、拓実を育てられない理由があって、里子に出したようなんですね。今は和菓子屋に嫁いでます。
拓実としては「自分は捨てられた」と思い込んでいるようで、トキオの依頼を拒否しようとします。
なぜトキオは産みの母に会わせようとするのか。それは須美子は癌を患っており、余命いくばくかという状況だからのようです。そして須美子自身も「拓実を里子に出したこと」を後悔しているようです。
須美子は拓実に一冊の本を、いや漫画を託します。「爪塚夢作男」という漫画家。
実はこの漫画家、拓実の実の父親だったんですね。それに感づいたはずの拓実。何と拓実はこの漫画を質に出してしまうのです。拓実のアホ。。。
実は、拓実を里子に出したのには理由があったんですね。
元々須美子は爪塚のファンでしたが、そこで爪塚が下半身の動かない障碍者であることを知ります。
ところがある日、爪塚の家が火事になってしまうんです。
最後の力を振り絞って爪塚が渡した本が、先に書いた漫画だったんですね。
それに気づいた拓実ですが、本はすでに質に出してしまいました。大事な大事な形見だったのに。母親がどれだけ貧しかったのかもわかったはずなのに。
やっぱり「拓実のアホ。。。」って思ってしまいます。
でもその話が拓実の心を動かしたのでしょうか。
「俺を産んでくれてありがとう」
それが拓実が最期の須美子へ告げた言葉でした。拓実はずっと捨てられたと思っていたけど、最後の最後に須美子に会えてよかったのではないかな。
自分の先入観だけで誰かの生き方を批判したまま、真実を知らないまま生きるよりはずっとマシだったと思います。
そして、須美子は亡くなってしまうのでした。
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千鶴は大阪にいました。実は千鶴自身、拓実以外からもプロポーズを受けていたようなんです。でも拓実から離れたのです。
確かに以前の拓実の生活を見ていれば、やはり嫌気がさしてしまうのは仕方ないかも。。。
結局、千鶴は拓実を混乱させた責任を感じ、拓実自身ももはや千鶴にプロポーズをするような心境ではなかったようです。
そして重大なことが明かされます。トキオは拓実に
「自分は拓実の息子だ」 と言うのです。ただ、拓実は何となくそれを感じ取っているようでした。やっぱり親子って何かしら通じるものがあるのかな。
拓実とトキオは夜行バスで再び愛知県に戻ることになります。
そのバスの前にいた赤い車を運転している女性がいました。それはトキオの母親であり、拓実の後の妻でもある麗子です。トキオはこの後、高速で何が起こるか知っていました。
この先のトンネル内で大事故が発生するはずなのです。このまま進めばバスも、麗子も危ない状況。トキオは悩みます。
自分がもしここで両親が大事故に遭わないようにするということは、未来を変えてしまうことになってしまう
しかし、バイクに乗ったトキオは前の車に「これ以上先に行ったら危ない」と言い続け、そして見えなくなってしまいました。
麗子の証言があります。
「あの事故が起こる前に、バイクに乗った青年が、『この先で事故が起こるから進んだらダメだ!』って叫んでた」
そして、こんなことも言います。
「頑張って生き続けて。素晴らしい人生が待ってるから」
そして、トキオは戻ってくることはありませんでした。
ここで話は現在に戻ります。拓実は思い出すのでした。
「あの時、トキオが叫んでくれなければ、大事故に巻き込まれ、さらに拓実自身と麗子が結婚することもなかった」と。
トキオは自分を犠牲にしてまで、未来を変えたのでしょうか。
でも、よくよく考えてみれば、拓実と麗子の間に時生が生まれたのも、まさにトキオのおかげだったわけだったんですよね。未来を変えたのか、それともトキオの最後の行動がなくても変わらなかったのか。
それは読者の想像におまかせします、というところなのでしょうか。
僕自身も今現在、生きることができています。両親への感謝の気持ちもあります。
でもひょっとすると,感謝するべき人はそれだけではないかもしれませんね。
今の自分には実は「自分ではない誰かの魂」が乗り移っていて、昔の記憶もないままに自然に生活しているってことがあるのだろうか。生まれ変わりとか輪廻というのでしょうか。
現実的にはありえないって思ってしまいますけど,でもわからないですよね。
よく前世の記憶がある人の話を耳にすることもありますけど、そうやって「輪廻転生」というものは存在するかもしれないですし。それにしても本作品のラストのシーンには号泣しました。
例え過去に戻ってやり直したいと思ったとしても、やはり運命は変えられないのかも。
トキオの最後のシーンが真実であったとして、実際に未来は変わったのか。
「流星ワゴン」を思い出しました。人生の分岐点にタイムマシーンのようなワゴンで過去に遡り、何かを変えようとする話。「過去を振り返るな」「目の前のことに集中しろ」という言葉は、どうにもならないことに一喜一憂せず、残された人生を精一杯生きろ、と言われているようです。
とにかく感動しました。まだ読んだことない方は是非読んでみてください。
● 例え過去に戻れたとしても,何かを変えることはできないかもしれない
● だからこそ,人は今を精一杯生きる義務があるのではないか
● 今の自分の意思は,本当に自分自身のものなのだろうか