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【儚い羊たちの祝宴】米澤穂信|儚い羊たちの意味するものとは

儚い羊たちの祝宴

最近,米澤先生の作品を探しては楽しく読ませてもらっています。さすが文学部出身だなと思うような語彙力,そして「あっ」と唸らせる構成力。

デビュー作の「氷菓」が未だに「読者メーター」サイトでも人気なのがわかるような気がします。

僕自身は短編よりも長編を好んで読むことが多いんですけど,本作品は短編でありながら,最後はいろいろ考えさせられました。

各短編とも深いんですけど,それを結びつけながら最後は一気に伏線回収。本当に見事です。これは絶対にブログに書かなければと。。。

とにかく,一読の価値アリです。是非読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 「儚い羊たちの祝宴」とは何を意味するのか知りたい

● 最後の一行に愕然とするような作品を読んでみたい

作品概要

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
-Booksデータベースより-


主な登場人物

丹山吹子・・・「身内に不幸がありまして」の主人公

内名あまり・・「北の館の罪人」の主人公

屋島守子・・・「山荘秘聞」の主人公

小栗純香・・・「玉野五十鈴の誉れ」の主人公

大寺鞠絵・・・「儚い羊たちの晩餐」の主人公

本作品 3つのポイント

1⃣ 5つの短編の概要

2⃣ 各短編の結末とは

3⃣ 儚い羊たちとは

5つの短編の概要

身内に不幸がありまして

「この手記は誰にも見られてはいけません」

と始まるのは,村里夕日という女性の手記の書き出しです。夕日は孤児院で育ちますが,丹山という名家に使用人のような形で引き取られます。

そこで出会ったのが丹山吹子でした。とても仲が良くなった二人でしたが,少しずつ秘密を共有することになります。

しかしこの丹山家に不幸が起こるのでした。

手記

北の館の罪人

内名あまりは母親の遺言で、六綱家へ行くことになりました。実は,あまりは母親と六綱虎一郎との間にできた子だったのです。

やってきた六綱家の主である光次に,本館とは違う別館に住むことになります。光次には兄の早太郎という人物がおり,彼の世話をし,そして彼をこの別館から外に出ないように見張るように言われます。

長男で,後継者であるはずの早太郎がなぜこのような待遇を受けているのか。何やら長男と次男の間には深い事情がありそうです。

離れ屋

山荘秘聞

辰野という貿易商が所有していた飛鶏館に,屋島守子がやってきて,飛鶏館の管理を任されることになりました。ところがこの飛鶏館。客が全く来ないのです。それが守子にとっては不満でした。

そんなある日,守子は近くの雪山で意識を失っている越智靖巳を助けます。彼は屋島の献身的な介抱によって一命を取り留めたのです。

守子は越智にこの飛鶏館に留まるように伝えます。そして越智の仲間である山岳部が助けに来ることになりました。

客人がいなかった飛鶏館に,思いもよらない客たちがやってきたことに喜ぶ守子でしたが。。。

雪山登山

玉野五十鈴の誉れ

後継ぎが欲しかった小栗家。男の子が欲しかったようですが,生まれたのは女の子の小栗純香でした。

純香には罪はないのですが,小栗家の中心である祖母からひどい仕打ちを受けながら生活していました。純香には母がいましたが,彼女も純香と同じ境遇で育っていたようです。

そんなある日、祖母は純香と同い年の女の子を連れてきます。玉野五十鈴と言いました。厳しい環境の中で,五十鈴は使用人として小栗家に仕えるのです。

純香にとっては心強い味方が現れたような気がしましたが,ここでいろいろなことが起きてしまうのです。

虐待

儚い羊たちの晩餐

『バベルの会』の行われていた場所は荒れ果ててしまってました。そこに一人の女子学生がやってきます。円卓には本が置かれていて、めくると「バベルの会はこうして消滅した」という書き出しがありました。

どうやらこの短編を読めば,全てが繋がっていくのか?

この手記は大寺鞠絵のもので、彼女はバベルの会に所属していたようです。鞠絵の父親は厨娘という料理人を雇っていました。この料理人がすごい料理を作る女性だったようです。

実はこの料理人,本当に恐ろしい料理を作る女性でした。

一体,どんな女性だったのか。

料理を作る女性

各短編の結末とは

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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身内に不幸がありまして

吹子には兄の宗太がいましたが,素行が悪く,後継ぎとしては相応しくない人物だったようです。仕舞には勘当されてしまいます。

吹子にとっては,使用人である夕日しか心を開ける人間はいなくなってしまいました。大学生になった吹子は屋敷を出て、一人暮らしを始めることになります。

大学では『バベルの会』という読書サークルに入ります。この『バベルの会』が最後までキーワードになるんですが。。。

『バベルの会』は夏休みに蓼沼の別荘で読書会を行っていました。しかし、読書会の前に,宗太が復讐のために屋敷に乗り込んできてしまい,使用人たちを殺害するのです。

家の者を守るべく,吹子は宗太の右手首を切り落とします。逃げ出した宗太を,家の者は亡くなったことにしました。そして葬儀まで行います。そのため、読書会には参加できませんでした。

これで終わりではなく,丹山家では宗太の命日に連続で殺人事件が起こります。犯人は宗太なのか?

ある日,夕日は思うのです。自分が寝相の悪さから,まるで夢遊病のごとく,自分が殺害しているのではないかと。そして,宗太の命日の前日、夕日は自分が悪いことをしないように,自分の体を縛って眠るのです。

ここで手記が,吹子のものに変わります。

実は過去に犯罪を犯したのは,何と吹子だったのでした。そして体を縛った夕日は,吹子によって殺められました。

吹子も夜,何をするかわからない人間だったようです。だから本当は読書会にも参加したくなかった。

だから宗太の命日を利用して,犯罪を犯したのでした。

吹子

北の館の罪人

あまりは別館で早太郎とともに日々を過ごしていきます。あまりは早太郎から時々買い物を頼まれます。光次は疑問に思い始めますが,そこまで追及しませんでした。

早太郎はどうやら絵を描いているようです。これまであまりが頼まれていたものは絵の具だったようです。

ある日,あまりは早太郎からその絵を見せられます。3人の人物が描かれた絵。でも全体が青紫の色をした不気味な絵でした。描かれている人物は早太郎と光次、そして妹の詠子でした。

どうやら詠子はあの『バベルの会』に入会しているようです。しかし,早太郎は絵を描き上げた後,なぜか亡くなってしまいます。

早太郎の絵は本館に飾られることになりました。そしてその絵を見た光次が,絵の中に「髪の毛」があるることに気が付きます。

詠子は青の塗料が色褪せ,やがては青から赤に変わるのだと考えます。そして,この絵の他にもあまりを描いた絵があることが判明します。早太郎はこの絵の中にトリックを仕掛けていました。

あまりが早太郎を砒素で毒殺したのです。それはなぜか。あまりは早太郎のことが憎く,さらに遺産が少なくなってしまうことを思い,早太郎を殺害したのです。恵まれた地位を簡単に捨ててしまえる早太郎が殺したいほどに嫌いだから。

ただ,早太郎はそれに気づいていました。絵の中に髪の毛があった意味。それは髪の毛を調べれば,砒素が出てくるはずなのです。

そして,あまりを描いた絵。あまりは紫の手袋をしていました。早太郎はかつてこのようなことをあまりに言ってました。

『殺人者は赤い手をしている。しかし彼らは手袋をしている』

最後に詠子がこの絵を見て,絵の中のあまりの手が,いつかは赤くなると言います。詠子はわかっていたのかどうか。少なくとも早太郎には確信があったんですね。

絵画

山荘秘聞

越智を探しに,山岳部の仲間たちが飛鶏館にやってきます。しかしなぜか守子は「何も知らない」と嘘をつくんですね。ただ,守子は越智の捜索のために泊まってもらうために飛鶏館を使ってほしいと伝えます。

越智の存在を隠した理由は「飛鶏館に客人を迎え入れるため」だったのです。なるほど。越智が見つかるまで,仲間たちは飛鶏館に寝泊まりし,朝から晩まで救出活動を行います。

守子は、客人をもてなすことに喜びを感じているようでした。少しでも長く滞在してもらうために,守子は越智の持ち物を少しずつ目撃させます。

捜索隊の世話に人手が足りなくなったため,歌川ゆき子という女性を連れてきて,救助隊の世話を続けるのです。しかし,救助隊の捜索費が増えていき,支払う費用をこれ以上負担できないこと理由に捜索は中止されることになります。

結局,二人だけになってしまった守子とゆき子。ただ,ゆき子は守子へ不信感を募らせていました。ゆき子は,守子が外で越智の履いていた靴で足跡をつけている所を目撃しました。

どうやら守子の魂胆がバレてしまったようです。真実を知られた守子はゆき子に襲い掛かります。守子の手には煉瓦のような塊が握られていました。最初,これが何を意味するのかわかりませんでした。

煉瓦が何かが表現されていませんが,ひょっとしたら「札束」かもしれません。それでゆき子を買収したのでしょう。

越智は防音設備のあるレコード室に寝かされていたようです。だから捜索隊が来たこと,ゆき子が来たことにも気づかなかったんですね。

そして最後には越智にも捜索隊が来ていたことも全て暴露します。そこにはまた「煉瓦」がありました。最後に守子は言うのでした。

『これで,あなたの沈黙を買いましょう』

レンガ

玉野五十鈴の誉れ

五十鈴は使用人として,純香のことを純香様と呼ぶようになります。五十鈴が小栗家にやってきてから,純香は相当嬉しかったようです。

祖母が認めた本しか読んではいけないという掟があった純香も、五十鈴が密かに呼んでいる本を交換して読むようになります。同じ秘密を共有するように親しくなる純香と五十鈴。

ある日,純香は祖母を説得し大学に通うことを伝えます。祖母は渋りますが,結局小栗家を離れ,五十鈴と二人で暮らすことができるようになりました。

大学で,純香は『バベルの会』に入会します。ここでもバベルの会が出てくるんですね。。。バベルの会に純香は五十鈴を連れて行きます。あまりの五十鈴の知識の高さに,バベルの会のメンバーから称賛されます。

ただ五十鈴には苦手なものがありました。それは料理をすることです。使用人でありながら料理ができないことに悩んでいるようでした。そんな五十鈴に,純香は料理を教えます。

「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな」と教えられます。

何か聞いたことありますよね。米をおいしく炊く時のフレーズですね。ところがある日、純香の伯父である蜂谷大六が人を殺めたという新聞記事を見つけます。

祖母は,血のつながりのある純香に小栗家を継がせるわけにはいかないと考えます。そして父親は家を追い出され、純香は跡取りが生まれるまで屋敷内に軟禁されてしまうのです。

そして純香にとって思ってもないことがわかります。五十鈴が純香と仲良くしていたのは,純香の父親が仲良くするように頼んだからというだけの理由でした。

純香はかなり動揺します。そして五十鈴は小栗家に来なくなりました。五十鈴は他の使用人たちから,イジメられながら働いていたようです。

そして、新しく迎え入れた母親が太白という男子を生みました。男の子だけに,祖母は溺愛します。後継ぎですから。ここで五十鈴は動きます。

ある日、純香の元へ食事が運ばれてきました。運んできたのは何と五十鈴でした。それは毒酒で、祖母言われ,純香を殺すために持ってきたのです。

まともな食事も与えられなかった純香でしたが,追い出されたはずの父親に救われます。あの祖母が亡くなってしまったのです

理由は,大事な太白が誤って焼却炉に入ってしまい、そのまま蓋を閉じられて焼かれてしまったのです。

五十鈴は祖母に毒を盛りました。そして太白を焼却炉で焼いたのです。それは純香の教え通りにでした。

『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな』

焼却炉

儚い羊たちの晩餐

バベルの会には六綱、丹山という人物がいたことがわかります。前述の短編にも登場した六綱詠子、丹山吹子ってことでしょうね。

大寺家に、厨娘の「夏」という女性と見習いの文(あや)の二人がやってきます。厨娘というのは,たくさんの宴会料理を作ることを得意とする女性料理人のことです。

厨娘を使いこなせることを自慢したい鞠絵の父親はすぐに宴を開き、その料理を夏に作らせることにします。噂通りのすごい料理作りますが、夏の材料費の使い方は尋常ではなかったようです。

どうやら多くの材料を買い込んで,その中から厳選した材料で最上級の料理を作っていたんですね。ただ,父親は夏からの異常な請求額に不満を抱いていました。そう言いながらも私欲のある父親は,夏に対して,これまで作ったことのない珍しい料理を作らせたいと言います。

そこで鞠絵が勧めたのが『アミルスタン羊』でした。

夏は,質の良い「アミルスタン羊」を入手するのに3年はかかると言います。そこで鞠絵は蓼沼に行けばアミルスタン羊が集まることを教えます。夏は「アミルスタン羊」の意味を知りつつ,蓼沼へ向かうのでした。

そして時期は過ぎ,夏が帰ってきました。確かに蓼沼には多くのアミルスタン羊がいたようです。「特に唇がおいしい」のだと言います。ん? くちびる? ということはこれは羊じゃなくて,人間!?

と,ここで鞠絵の手記は途絶えます。そしてこの手記を読み終えた女子学生は微笑みます。

『バベルの会はこうして復活した』

蓼沼

儚い羊たちとは

一つ一つの話は異なるも,全て『バベルの会』でつながっている短編集。

何か「イヤミス」を感じさせられる話ばかりでした。

どの話もよかったですが,各短編を最後の「儚い羊たちの祝宴」で一掃する鮮やかさに感服しました。

それは『アミルスタン羊』というキーワードを検索してからです。

僕自身は海外のミステリーは読まないのですが,これは「スタンリイ・エリン」という方の『特別料理』という作品のようです。

特別料理』とは

まったく何ともいいようのないうまさだった。隠れ家レストラン「スビローズ」で供される料理はどれもが絶品ばかり。

雇い主ラフラーとともに店の常連となったコステインは、滅多に出ないという「特別料理」に焦がれるようになるが。。。

-HMV & Booksより-

この作品の最後,ある男性が厨房を覗くところ。実は「アミルスタン羊とは○肉のこと」だったのです。海外ミステリが好きな方だったら名前が出た時点で気づいたでしょうね。

正直,本当に羊が草原にたくさんいるところを想像していました(笑)。ただ「蓼沼」という地名が出てきた時に「あれ?」とは思いましたけど。

鞠絵はまさか自分が猟奇的なことを思いつける人間だとアピールしたことで大惨事になるとは思ってもいなかったでしょうね。

最後に登場した女子学生が誰かは描かれていませんでした。これまで登場した人物なのか,それとも全く別の人物か。

とにかく,彼女はおそらくバベルの会を立ち上げ、またそこに新しい『儚い羊たち』がメンバーになっていくのでしょうか。

この作品で考えさせられたこと

● イヤミス的な話の連続にゾクゾクしました

● 「儚い羊たち」の意味が最後の最後にわかりました。

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