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【傲慢と善良】辻村深月|誰もが持つ傲慢や善良とは

傲慢と善良

傲慢と善良」の文庫化に伴い、SNSで推している方、とても多かったです。

辻村深月先生の作品はこれまで何度か読んできましたが、やはり読みやすいです。

元々辻村先生が尊敬する方が「綾辻行人」先生ですから、ミステリー要素もバッチリ入っています。

タイトルの意図は何かを考えながら読みました。何が「傲慢」で何が「善良」なのか。

本作品を読むちょっと前に「自転しながら公転する」という作品を読んでましたが、本作品と同様に「結婚観」について描かれているのが一つの特徴なのかなと思います。

自分の価値観と比べながら、世の中にはいろいろな考えを持つ方々がいるのだと考えさせられます。

育ってきた環境、過去に経験したこと、多くのことが人々のその瞬間の人生観や結婚観にも影響を与えるのだと思わせられる、貴重な作品になりました。

こんな方にオススメ

● 「傲慢と善良」というタイトルの意図を知りたい

● 真実は一体誰のストーカーに遭い,どこへ行ってしまったのかを知りたい

● 傲慢さと善良さについて考えてみたい

作品概要

婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

西澤架・・・第一部の主人公。失踪した婚約者を追う

板庭真実・・第二部の主人公。ストーカーに遭う?

本作品 3つのポイント

1⃣ 婚約者が行方不明に

2⃣ 婚約者を探す架

3⃣ 真実の行方

婚約者が行方不明に

西澤架(かける)には婚約者である板庭真実という女性がいて、東京で同棲していました。架と真実しかし彼女が突然「失踪」してしまうのです。どこへ行ってしまったのか。。。

架は真実の母親である陽子へ連絡を取ります。母親も驚いて真実のアパートを架とともに訊ねますが不在です。実は架には心当たりがありました。以前,真実が

「家に誰かいる。助けて。。。」

という電話を受けていたのを聞いていたのです。

真実は以前、架に対して「ストーカーにつきまとわれていた」ことを告白していました。ストーカー架は危機を感じ、警察に捜査を依頼します。でも、相手のストーカーが誰なのか、名前も全く聞いていなかったので、捜査は難航しているようです。

真実の家からは所持品などもなくなっていましたが、婚約指輪は残されていました。

ストーカーであれば婚約指輪も持ち去るのではないかという疑問もありますが、とにかく行方が全く掴めません。

事件性が無く、警察の捜査も打ち切られる中、架は興信所に調査を依頼しようとします。

ところが真実の母親はこれを拒みます。なぜ拒むのか? 何か知っているではないかと疑ってしまいますよね。

違和感を感じながらも、架は

「実は以前真実が生活していた群馬県に何かヒントがあるのではないか」

と考え、群馬県へ向かいます。群馬県「ストーカー」の存在が、真実が群馬にいた頃に関係があった人物ではないかと考えたのです。そこで調査した結果,真実は、実は婚活をしていたことがわかります。

真実の母親は娘の婚活に一生懸命だったようです。

やっぱり親というのは、将来自分の義理婿となる人間の素性が気になるんでしょうか。
この辺りが「傲慢」という部分なのか。

真実は、母親の知り合いの小野里という女性が経営する「結婚相談所」にも登録していたらしいんですね。

これはやはり群馬で出会った男性に何かあると考えるべきなのか。結婚相談所どうやら真実が紹介された男性は二人いたようです。このうちのどちらかなのか。

ただ小野里はその二人がストーカーになるわけがないと頑なに言います。

ここで『傲慢と善良』の一つの意味が登場します。それは小野里の言葉です。

傲慢さとは、自分の価値観に重きを置きすぎること。

善良さとは、親の言いなりになって素直に動いてしまうこと。

真実と母親こそが,この「傲慢と善良」ということなのでしょうか。

必死で真実を探す架

ある日、架は真実の姉である希美と会うことになります。姉から見る妹真実の姿は、想像していたものと少しかけ離れているようです。

まず希美は、子供の将来を決めようとする母親に嫌気が出て、家を出てしまいます。母娘確かに、結婚を急かされたり、あの人はどうだこうだ言われ続けるのはイヤですよね。

どうやら希美がいなくなったために、その矛先が希美から真実一本に絞られてしまったようなんです。

やはり真実は「善良」なのかなって気がします。

ひょっとしたら、母親からすると、出ていった希美は傲慢なのでしょうか。

本作品の中には、見る角度によっていろいろな「傲慢と善良」がありそうな気がします。

そしてとうとう、架は真実がかつて会ったことがある金居という男性と会うことになります。

金居は前橋にいました。でもちゃんと結婚していて、子供までいるんですね。金居架は金居と真実について話しますが、何となく金居はストーカーではないと感じたようです。

もう一人の男性は花垣という男性。彼は高崎に住んでいました。

ということはこの男性がストーカー?

ところが、この花垣からは欲の無さそうな、あまり物事に執着しないような感じだったようです。

架は花垣も「ストーカーではないのではないか」と考えるのです。花垣う~ん、一体真実には何があったのだろう。ひょっとして、ストーカー云々というのはフェイクなんじゃないのか? 読みながら何となくそんな考えも浮かんできます。

それが現実味を帯びてきたのが、架自身がかつて交流のあった同級生の二人組と会った辺りからです。実はこの二人、失踪前日に真実と会っていたようなんです。

「真実は嘘をついている。ストーカーなどいない」と。

おそらく決定的だったのは「架の一言」だったのではないか。

彼女たちは架から「真実は70点くらい」ということを聞いていて、それを直接真実に伝えてしまっていたんですね。友人まさかそんなことを言っているとは思わなかった架は彼女たちを責めますが、時すでに遅しの感が。。。

以上が「第一部」です。第一部は架の視点でした。

そして「第二部」ここからが真実の視点になります。

真実の行方

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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やはり真実は生きていました。ストーカーにも遭っていなかったとは驚きでした。

では一体なぜ真実は失踪したのか。

真実は架から結婚話を持ち出されないことにしびれを切らした様子です。悩む真実でも婚約指輪を渡しているわけだから大丈夫なのでは、って思うような気もしますけど、真美にとっては本当に結婚するまではそうは思えなかったのかもしれませんね。

つまり真実は、架に結婚自体を決心させるためにわざと「ストーカー」の話を持ち出したのでした。

「助けて」というのは、この「整理のつかない気持ちから解放されたい」という思いだったのかもしれません。

そして彼女の足は実家へと向かってました。群馬へ戻った真実。

先に書いたように,真美自身もいろいろな男性との結婚を考えたようです。

それは金居だったり,花垣だったり。でも真実にとっては結婚する相手とはどうしても思えなかったようです。

彼女にはやはり架しかいなかったんですね。架母親の「傲慢さ」とはっきりしないの架の態度に,真実も嫌気がさしてきたんでしょうね。それで失踪したと。う~ん,でも何も言わずに姿を消すことないのにな。。。

真実はふとボランティア活動をしようと思い立ちます。そして仙台へ向かうのです。東日本大震災の復興活動ボランティアです。

ここで谷川ヨシノという女性と出会います。彼女がまず真美を連れて行ったのは「樫崎写真館」でした。写真館ここでは,アルバムに入っていたような写真をできるだけ復元するという細かい作業を行っていました。

写真の汚れを少しずつ取るという作業をひたすら続けるのです。誰の持ち物かもわからない,写真に映っている人々や景色を見ながら真実

細かい作業をしっかり実行できる真実の姿を見て,ヨシノは別の作業を依頼します。

今度は被災地の地図を作るという作業。被災地では多くの家屋も流され,さらには田んぼや畑,道路までもが以前とは違う状態になっています。

つまり,現在の新しい地図を作るという大掛かりな仕事です。新しい地図地図を作り出して約2ヶ月が経った頃,真実はある神社に辿り着きます。

この神社は三波神社といい,真実は何か既視感を覚えます。それは三波神社の紋です。
以前,樫崎写真館で真実が写真の洗浄作業をしていた時に,この紋を見たことを思い出したのです。

それは結婚式の写真でした。何十年も前に行われた結婚式の写真。何かの縁を感じているようでした。

真実はインスタグラムをやっていました。自分のインスタを見ていると,最後のページにコメントが書かれていることに気づきます。

本当はいませんね?インスタそれは架が書き込んだものでした。つまり「ストーカーなんかいませんよね」ってことです。

真実はここで覚悟したようです。やはり今のままではダメだと。逃げても何の解決にはならないと。

真実は一緒にボランティアをやっていた人々に,正直に話します。なぜ仙台までやってきたのか,自分には婚約している男性がいること,全てを語ります。

それを聞いた三波神社の石母田という老婆は,

「大恋愛だね」

と話します。真実と架の恋愛は「大恋愛」であると。

その言葉に背中を押されたかのように,真実はもう一度,架に会うことを決心します。

そしてボランティア活動も一段落したところで,架が宮城県までやってきます。

真実は何を言わずに失踪したわけですから,架だけでなく,自分の周囲の多くの人々に迷惑をかけたという自責の念がありました。架と真実しかし架はやさしく迎えるのです。

「例え他の人たちが真実を非難しようとも,自分が全て受け止める」と。

真実は,やはり自分が「70点」であったことにショックを受けたことを正直に伝えます。

もちろん架は謝罪します。架としては真実が70点というわけではなく,結婚する気持ちが「70%」くらいだと言いたかったんでしょうね。

架はプロポーズします。これで真実は安心してすんなり架の元へ行くだろうと思ってました。ところが真実は

「予約していた会場をキャンセルしてほしい」

と言い出すのです。えっ? まさか,結婚しないの?

でもそうではありませんでした。

実は真実は,ボランティアで縁があると思った「三波神社」で式を挙げたいと考えていたのです。神社で式を挙げるそして式当日。彼らの目の前には広い海と広い空。

架に手を引かれた真実は,強く握り返すのでした。

本作品では,誰が傲慢で,誰が善良でという話ではなかったように思います。

人それぞれがその両方を持っていて,時には傲慢になったり,善良になったりと。

元々,善良な感じの真実が失踪したのも,彼女のささやかな「傲慢」だったのかなという気がします。

真実の母親も「善良」のつもりで真実に男性を紹介しますが,真実の気持ちを考えずに「傲慢」のようになってしまいました。

「70点」という発言はあったものの,むしろ架の方が「善良」にも思えました。

何かホントに「自転しながら公転する」の話とちょっと似てるなぁ,って思いました。

結婚観の話だったし,ボランティアの話も出てきたし。

ま,とにかく,本作品は本当に「傲慢さと善良さ」の両方を考えさせられる作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● 真実が失踪した理由について考えさせられた

● 傲慢さと善良さは誰もが持っているものなのではないか

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