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【ホテル・ピーベリー】近藤史恵|ホテル怪しい宿泊者たち

ホテルピーベリー

SNSでもよく話題になっていた本作品。舞台はハワイにあるホテル「ピーベリー」です。

本作品を読んでまず思ったのは,2023年8月11日,100人近くもの人々が亡くなった「ハワイ・マウイ島山火事」でした。海に囲まれた小さな街の中を,どんどん火の手が回るシーンをモニタ越しに見たのは衝撃的でした。

本作品でも描かれていますけど,観光客も多かったのでしょうね。2,200棟以上の建物が損壊したわけですから。それでも世界的な観光地である「ハワイ」はやはり憧れでもあるのでしょう。

本作品はそういうほのぼのとした宿泊客たちの生活に焦点を合わせながらも,いくつかの事件が起こるミステリーになっています。

読みながら,意外な展開が次々とやってくる,面白い作品です。

こんな方にオススメ

● ハワイのことを少しだけ知りたい

● ホテル・ピーベリーで起こる事件を知りたい

主な登場人物

木崎淳平・・・主人公。訳あって,ハワイに旅行することになる

瀬尾和美・・・ホテル・ピーベリーの従業員

桑島七生・・・ホテル・ピーベリーの宿泊客

佐奇森真・・・ホテル・ピーベリーの宿泊客

蒲生祐司・・・ホテル・ピーベリーの宿泊客

青柳・・・ホテル・ピーベリーの宿泊客

本作品 3つのポイント

1⃣ ハワイを舞台にした作品

2⃣ 怪しい宿泊客たち

3⃣ 事件の真相とは

作品概要

木崎淳平は仕事を辞めて、ハワイ島のヒロを訪れた。友人から勧められた日本人が経営するホテルは「リピーターを受け入れない」ことが特徴だという。しかし、同宿者がプールで溺れ死ぬ事件が起きてしまう。直後にはバイク事故でもう一人が……。このホテルには「なにか」がある。最後のページまで気が抜けない、不穏な空気に充ちた傑作ミステリー-Booksデータベースより-


ハワイを舞台にした作品

木崎淳平は,仕事を辞めて成田からある島へ向かいます。それはハワイのオアフ島です。そして目的地であるハワイ島を目指します。木崎滞在期間は約3ヶ月間。すごい長い期間もここにいるのは理由がありました。彼はかつて教師をやっていましたが,訳があって退職したようなんですね。

そんな木崎が滞在するホテルの名前こそが「ピーベリー」です。ホテルピーベリー空港にホテルからの迎えが来ていました。40代くらいの女性で瀬尾和美といいました。和美どうやらホテルへ向かうのは彼一人ではないようです。同じ宿泊客なのでしょうか。桑島七生という女性も一緒でした。二人を乗せた車はまっすぐにホテルへ向かいます。桑島そもそもこのホテルを勧めたのは,木崎の高校時代の同級生である杉下という人物でした。杉下は海外を放浪し,このホテルを紹介したのです。

しかしこのホテルには「あるルール」がありました。

一人の客が泊まれるのは一度飲み。リピーターはなし

という条件付きなんですね。何か意味あるんでしょうか。オーナーのこだわりか,それとも他に理由があるのか。。。

このホテルには既に宿泊客が何人かいるようです。佐奇森(さきもり)真と蒲生(がもう)祐司です。二人は,やってきた客の一人である桑島という女性に興味があるようです。二人の男性確かに「なぜ一人でやってきたのか」ちょっと疑問ですよね。そして桑島は意外なことを言うのです。

「実は,来年結婚するんです」

それを聞いていた他の人物たちは唖然とします。結婚するのに一人で旅行? マリッジブルーとか?

和美が作った食事を囲んで,宿泊客たちの面々は話が弾みます。そこにオーナー,そして和美の夫でもある洋介が帰ってきます。でも挨拶もせず,無愛想にさっさと自分の部屋へ行ってしまいます。オーナーん~,ホテルって「おもてなし」のイメージあるから,洋介の態度にはちょっと驚きました。食事をしながら,木崎たちは和美からいろいろな話を聞きます。

僕自身,ハワイへ行ったことないんですけど,ハワイって小さな島で,火山があるというイメージがあります。しかし,世界にある13の気候(熱帯,温帯,乾燥帯など)のうち,11もの気候があるようなんですね。

ハワイの気候とは

年間平均気温は24度と過ごしやすいのが特徴。服装は日本の夏服で対応できますが、曇りの日や室内の冷房対策に薄手の長袖を1枚用意しましょう。

降雨量は島によって大きく異なるので、事前に確認をした方が安全です。10~4月頃が雨季。にわか雨が降る程度で日中は日本の夏服でOK。

ただし朝夕の冷え込みに備えて、長袖の上着を用意しておきましょう。5~9月頃が乾季。貿易風の影響により湿度が低く、蒸し暑さは感じません。

服装は夏服でOK。ただし、渓谷や山へ出かける場合は、防寒対策を忘れずに。

-阪急交通社サイトより-

おそらく,観光地と呼ばれるところは過ごしやすいのでしょうけど,晩になると急に冷え込むというのは意外でした。

和美は,木崎と桑島たちを連れて,ハワイの中の街のスーパーマーケットなどでショッピングを楽しみます。コーヒーショップに寄ったり,シャンプー・リンスを買ったり,フライドポテトを買って食べたり。

ハワイショッピングこの中にはいませんが,青柳という人物も宿泊しているようなんですけど,彼はバイクで島中を自由に回っているからなかなか会えないみたいです。

ホテルにもどると,佐奇森と蒲生が「キラウェア火山へ行かないか」と誘ってきて,同行することになります。

キラウェア火山とは

島の南東に位置する標高約1,250mの火山。ハワイ島の火山は、激しい爆発は起こさないが、その代わり頻繁に噴火を繰り返し、液状の溶岩を吐き出す。

火口から流れた出た溶岩は、海に流れて急激に冷やされる。それがやがて陸となり、現在も島の面積を広げている。

-世界遺産の旅サイトより-

昔,社会の授業でキラウェア火山やマウナケア火山などを勉強したのを思い出しました。何かの番組で,粘度の高い,所々赤くなっている溶岩が海に入っていく様子を見たこともあったかなぁ。

キラウェア火山いろいろな場所を廻って疲れが出てきたのか,木崎は体調を崩してしまいます。でも気持ちはわかりますよね。滞在している間にいろいろなところへ行きたい。でも知らず知らずのうちに無理し過ぎたのでしょう。

そこで木崎は休むことにしますが,寝ている間,かつての記憶が夢となって現れます。

「ごめん,ごめん,早希。。。」

どうやら木崎が教師を辞めたのは,この女性が原因のようですね。気が付くとそこには和美がいました。「うなされてたわよ」と。

ただ,木崎の様子がおかしいんですよね。何かに欲情している。まさか和美に?

佐奇森と蒲生とともに話をする木崎。桑島の話になります。やはり,結婚するのに3ヶ月も一人でハワイにやってくるなんて。実は結婚するというのは嘘で,婚約者すらいないのではないか,と。女性桑島だけでなく,このホテルに滞在する宿泊客たちは,みんな何かを隠しているような気がします。

怪しい宿泊客たち

木崎は体調も良くなり,また「ヒロ」という街にあるショッピングセンターへ行くことにします。そこで意外なものを見つけます。コーヒー豆です。そこには「peaberry」と書いてあります。

ピーベリー何とかベリーだから,ストロベリーとかブルーベリーの仲間かと思ってましたが,コーヒー豆の一種だったんですね。

ピーベリーとは

コーヒー好きなら一度はピーベリーコーヒーという言葉を耳にしたことがあるかも知れません。収穫量の約5~20%程度しか採れず、希少な豆として取り扱われることが多いです。

ピーベリーはコーヒー豆としては少し異質な形をしていますが、一部のコーヒー愛好家からは好んで飲まれています

-コーヒータウンサイトより-

木崎は「ピーベリー」をホテルにいる和美に渡します。和美は喜んでいました。ただこの後,急に木崎の脳裏に甦る記憶が。。。「ぼくは和美さんの裸を見ている」

木崎の体調が悪い時,和美に欲情した時に何かあったようです。それを考えると,木崎もそうですが,和美自身も何か隠していることがありそうな気がします。木崎は完全に和美の虜になってしまった様子。

次の日,とんでもないことが起こってしまいます。あの蒲生がプールで溺れて亡くなったというのです。第一発見者は桑島でした。しかも青柳が蒲生の連絡先に電話をかけても,全く違う人が出ました。

プールつまり,蒲生は宿泊する時に嘘の住所や電話番号を書いたことになります。事故なのか事件なのかわかりませんが,自分たち身近で大変なことが起こったことで,宿泊客の面々はこのままホテルに居続けるべきか考えます。

真っ先に,青柳は「こんなホテルではくつろげない」と出て行くことを宣言します。
ただ,木崎と桑島は出て行く気はないようです。そんな時,桑島が意外なことを言い始めます。

「蒲生さん言ってたんです。『このホテルの人間はみんな嘘をついている』と」

やっぱり,ここの宿泊客は怪しい。。。さらに桑島は蒲生から気に入られたのか,かなり口説かれていたようですね。しかも蒲生は独身をきどっていたが,桑島の感覚だと「既婚者」だと。そして自分は店を経営していると。

それを機に,桑島は自分の本当のことを木崎に話し出します。桑島は確かに婚約していたようなんですけど,彼や彼の親戚たちの言うことにうんざりしていたようなんですね。何と,自分の行き先すらも婚約者には言っていないとも。

う~ん,自分には合わない相手の性格が見えてしまって,何となくわかる気がするなぁ。育った環境が違うわけですから,マリッジブルーにもなるかもしれないですね。

今度は木崎は和美と話をします。そしてとうとう過去の出来事を告白するのです。木崎が教師の頃,実は自分の教え子である「早希」と付き合っていたようなんです。話し合う二人いつかは結婚する約束までしたようなんですが,このことが学校にバレてしまうんですね。そして木崎は責任を取って退職。そして今回の旅行を思いついたというわけです。

その時でした。また驚くべき事件が起こってしまいます。何と,出て行ったはずの青柳がバイクの事故で亡くなったというのです。

これで二人目。ホテルの宿泊客たちには一体何が起こっているのか。

事件の真相とは

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事故後,木崎はオーナーである洋介と話します。事故の話,これからの滞在の話,ホテルの話など。和美も落ち込んで寝込んでいるようです。あまりに一生懸命になりすぎて疲れたのでしょうか。

しかしこの会話の中で意外な場面があります。木崎は言った言葉に対するオーナーの反応です。。

「だからホテルは,一度きりしか宿泊できないのですか?」

オーナーは「えっ?」という感じ。あれ? リピーターを受け入れないというのをオーナーは知ってるはずだよな。。。

そんな話が終わり,和美も体調がよくなります。そして意外な人物が登場します。どうやら桑島の婚約者のようです。

「敏くん,ごめん」「いいよ,許すから一緒に日本へ帰ろう」

「許す?」という言葉に反応する桑島は「別に許されなくていい」と言って,日本へ帰るつもりはないようです。「好きな人ができたの」と言い放ちます。これって,ひょっとして木崎なのかなぁ。瀬島とにかく,桑島は断固として帰るつもりはないことを伝え,婚約者は怒って日本へ帰るのです。婚約破棄ですね。

その夜,木崎の元に桑島がやってきます。昼間の婚約者のことを謝ろうとしているようです。やはり桑島は木崎のことが好きだったのでしょうね。しかし木崎が「和美のことが好きである」ということを知って,ショックを受けます。

というか,桑島も何となく気づいていたようです。女のカンというものでしょうか。洋介と和美の夫婦もうまくいってないのではないかとも疑っているようです。

それを聞いて何か吹っ切れたのか,次の日,木崎はとうとう和美に告白します。

ぼくと一緒に日本へ帰りませんか。

ぼくはあなたを失いたくない。

しかし和美の返事は「No」でした。しかもホテルを閉めようと思っているらしいです。そして洋介からも「悪いけど,この店にはこないでくれないか」と言われます。

木崎と和美の秘密の関係がバレてしまったのでしょうか。

傷心の木崎。後日,木崎は今回のホテルを紹介してくれた杉下と会うことになります。これまで起こった出来事など,いろいろと話をする木崎。

ただ,オーナーである洋介が無愛想な人だと思っていたと話した時,杉下は意外な反応をします。そんなはずはないと。杉下の疑問その後,一緒にホテルのカフェへ向かいます。そこには洋介がいました。ところが杉下は言います。

「なあ,あのカウンターの日本人,あれは誰なんだ? バイトか?」

杉下は,かつてこの店を訪れた時のオーナーの写真を見せます。そこに映っていた人物。それはあの「蒲生」だったのです。うわぁ,ひょっとして,オーナーは偽者。

これまでのことを整理すると何となく辻褄があいます。蒲生が店を持っていると言っていたこと。つまり,蒲生は和美の本当の夫なのではないか。

木崎は和美に「旧姓」を聞きます。旧姓は「堀切」という名前らしいです。

そして木崎はとうとうハワイから日本へ帰る決断をします。ただ何となく何かを企んでいる行動にも思えます。木崎の帰国なんだろう。何か思いついたことがあって,木崎は日本へ帰国したのではないか。想像が膨らみます。

そして帰国してから4ヶ月後,木崎は再びハワイを訪れるのです。一体,何をしようとしているのか。

「おひさしぶりです,和美さん」

和美の驚愕した顔が想像できます。和美は恐らく何かに関わっていることは明白ですから。「取り壊す」と言っていたピーベリーも健在でした。これはおかしい。何かありそう。そして木崎は確信的なことを話し始めます。

実は今のオーナーである「洋介」はやはり偽物でした。本物は蒲生。「洋介」に成り代わっている人物は「堀切哲哉」といいました。堀切木崎は日本で「かつて殺人を犯したことがある」という哲哉の記事を和美に見せます。そして海外にやってきた哲哉はオーナーになりすます。蒲生を殺害して。

では青柳はなぜ亡くなったのか。実は彼は幼い時,両親とこの「ピーベリー」に宿泊していたようなんです。そしてオーナーが入れ替わったこと,事件の真相に気づいたのです。

だから青柳も殺害されていたんですね。犯人は堀切哲哉,そして和美は「殺人幇助」というわけです。

彼女は木崎が再び訪れた瞬間,全てを覚悟しているようでした。罪を償うため,和美は今度こそ日本へ戻ってくることになるのでした。

冒頭に書いたように,観光地へ向かった人々の生活が最初に描かれていたんですけど,次々と意外な事件が起こるというミステリーのギャップに一気読みでした。

ページ数も300弱程度ですし,とても読みやすいと思います。

それにしても,こんなにいろいろなことが起こるホテルって,本当にあるんでしょうか。

ハワイに行ったことはありませんが,日本人が多いのは心強いけど,事件に巻き込まれるのはイヤですね。かつて修学旅行で,フランス語も英語も話せない僕が,パリのルーブル美術館周辺を一人で散歩したというのが嘘のようです。

ということで,今回は異国のホテルを舞台としたミステリーでした。

この作品で考えさせられたこと

● 宿泊客,従業員たちの真の姿

● まるで,ハワイへ旅行へ来たかのように,ハワイのことを少し知ることができた

● ハワイでのほのぼのした生活と,ホテルで起こる事件のギャップ

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