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【ヒポクラテスの憂鬱】中山七里|司法解剖で真実を見抜く

ヒポクラテスの憂鬱

ヒポクラテスシリーズの第二弾です。

前作「ヒポクラテスの誓い」では,法医学者という仕事が,

遺体の解剖や,薬毒物検査などを行うなど,犯罪捜査や裁判に貢献する

というものだと学ぶことができました。病気でなくなる方もおられますが,実際にはそこには重大な原因があって,見逃がされることもあるということも知りました。

実際に何が原因だったのかを,解剖を主な任務して明らかにする法医学者の存在が必要不可欠なのだと思います。

本作品も,法医学者である「光崎」が,法医学教室のキャシーや栂野真琴とともに事件の真相を解明するという面白い作品になっています。

こんな方にオススメ

● 法医学の光崎のすごさをもう一度見てみたい

● 法医学とは何かをさらに深く知りたい

● 光崎が司法解剖により事件の真相を見抜くシーンを知りたい

作品概要

埼玉県警のホームページの掲示板に“修正者”を名乗る書き込みがあった。今後、県下で起きる自然死・事故死に企みがないかどうか見極めろという。同日のアイドルの転落死にも言及したため、県警の古手川と浦和医大法医学教室の助教・真琴は再捜査と遺体の解剖に臨んだ。結果、炙り出されたアイドルの秘密と司法解剖制度の脆弱さとは?
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

光崎藤次郎・・法医学教室の教授。変わり者だが腕は確か

栂野真琴・・・浦和医大の研修医。法医学教室で研修する

キャシー・・・法医学教室の准教授。アメリカ出身

古手川和也・・埼玉県警捜査一課の刑事

本作品 3つのポイント

1⃣ 「コレクター」の犯罪予告?

2⃣ 法医学者光崎 vs コレクター

3⃣ 法医学者は最後の砦

「コレクターの犯罪予告?

今回は,「修正者」(コレクター)という謎の人物が県警のホームページに書き込みをしていることが古手川によって法医学教室に伝えられます。

すべての死に解剖が行われないのは,わたしにとって好都合である。埼玉県警は今後,県下で発生する自然死・事故死において,そこに企みが潜んでいないか見極めるがいい。わたしの名前はコレクター,修正者であるこのコレクターは本当に存在するのか,そしてそれは誰なのかが話のポイントになります。

① 堕ちる
アイドルの佐倉亜由美がコンサートの途中に足を踏み外し,舞台から転落して死亡するという事故が発生します。当初事故と思われましたが,実は事故ではなかったのです。

② 熱中せる(のぼせる)
瓜生という男から「ベランダで遊んでいたはずの子供がぐったりしている」との通報があった。その子供は美礼といい,シングルマザーの比嘉久瑠美の娘で,瓜生とは籍は入ってないが同居していた。実は予想外の真相がありました。

③ 焼ける
新興宗教の教祖である黒野が焼死体で発見されます。現場には灯油が撒かれた跡が見つかります。教祖の復活を信じる信者の群衆を押しのけ,解剖を行う。そこには驚くべき真相がありました。

④ 停まる
翔太は電線の下を歩いていたため,鳩から糞を落とされました。そこで最近ある老人が夕方の散歩をするようになったのに気が付きます。しかし,ある日突然老人が倒れてしまいます。翔太は倒れた老人を見て,自分が原因だと勘違いをしてしまいます。一体何があったのでしょうか。

⑤ 吊るす
涼音と茜という姉妹。涼音は7つ離れた妹の茜の相談に乗っていました。涼音は,茜が虐めの傍観者となっていることに対して叱責します。それはイジメの加担者と変わりなないと。ところがある日,涼音が首を吊って亡くなってしまいます。

⑥ 暴く
実は,前の「吊るす」に登場する少年が「コレクター」であることを認めるんですが,書き込み約150件中,彼が書き込んだのはたった2件。コレクターは別にいるのか。そうこうしているうちに,姫川という女性巡査部長が自殺するのです。

法医学者光崎 vs コレクター

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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① 堕ちる
佐倉亜由美は故意に舞台から突き落とされました。彼女は妊娠していたんです。ファンにとって,彼女が妊娠している事実を知った場合,嫉妬心が湧くのでしょうか。流産してほしいという信じられない理由で彼女は命を失ったのです。実に悲しい事件でした。

② 熱中せる(のぼせる)
美礼の死亡原因。それは虐待でした。それは司法解剖の結果,胃の中から襖のかけらが出てきたことでした。美礼はろくに食べ物も与えられず,ぐったりしていました。そしてパチンコ屋へ行き車中に閉じ込め,本当の死因を偽装したのです。本当に許せない事件です。

③ 焼ける
一時は,事務局員の菜穂子という信者が,教祖の愛を独占したいと首を絞め,灯油を撒いて殺したと言っていました。確かに灯油を撒いてはいたが,実際には黒野は自殺してました。癌が転移して手遅れだとわかっていたのです。教祖たる者が自殺をしたとあっては都合が悪いと思った菜穂子が偽装工作をしたのでした。信者の心理を考えさせられました。

④ 停まる
枚方重巳という老人は,ペースメーカーを装着していました。ペースメーカーは精密機械で,磁場のあるところに弱い。よって,高圧線の下を歩くのは危険なはずです。しかし,老人はそれを承知で歩いていたのです。実は妻が認知症になり,多額の保険金を残すため,自殺と思われない方法で。悲しい結末でした。

⑤ 吊るす
涼音の死因は首吊り自殺と思われました。やはり自殺と断定されると解剖されないらしく,巧妙に仕組まれた工作だったんですね。実際には車に閉じ込め,排気ガスによる一酸化中毒が死因。容疑者が確保されました。そして同じ男に殺害された継男の姉も同じ手口で殺害。ここでコレクターの存在が判明します。姉を殺害された弟の復讐だったんですね。

⑥ 暴く
たった2件しか書き込んでなかった少年以外に,真のコレクターがいるのか。その事件の真相は,自殺した姫川という女性警官。彼女は警察の人間と不倫していました。そしてうっかり彼女のレザージャケットに指紋を残していたのです。動機は,彼女が子供を身ごもったこと。会うたびに砒素を盛られた姫川は,最後は身を投げました。
コレクターが一番恐れていたのは,光崎に遺体が解剖されることでした。彼には見破られてします。解剖をマヒさせようと冒頭の書き込みがあったんですね。ここにも悲しい結末がありました。

上記が各章の結末です。やはりコレクターはこの中にいたんですね。

自分の過ちを隠すために実行してしまった犯罪。結局は人間の私利私欲のためのものでした。

法医学者は最後の砦

光崎率いる法医学教室は,言ってみれば事件が事故なのか犯罪なのかを見極める最後の砦という印象があります。

現実には大事件が事故で片付けられてしまっていたり,逆に事故なのに事件となってしまう,つまり「冤罪」が起こってしまっている可能性もあるのでしょうか。

警察も人間ですから,やはりミスはあるのだと思います。

光崎のように検死報告書などを見て,一発で違和感を抱くことができる人がいればいいですが,逆に真実から遠ざかってしまうこともあるのでしょう。

つまり,検視官などに悪意があれば,事件をうやむやにしてしまう可能性があるということです。事件の真相が私利私欲によるものだとしたら,それは本当に残念なことです。

今回の短編は全て人間のエゴというか,身勝手な考えによるものばかりでした。

そして事件というのは隠蔽すればするほど,周りに多大な影響を与えています。

素直に過ちを認め,罪を償うことって難しいのでしょうか。

この作品で考えさせられたこと

● 光崎のように事件の違和感を一発で見破るすごさ

● 検死を行う人間の中に悪意ある者がいれば,事件の真相は闇の中となる

● 素直に過ちを認め,罪を償うことって難しさ

真琴は,この法医学教室でさらに成長しているような気がしました。

真琴,自信を持つ自分から積極的に行動し,光崎に叱責されながらも,それに怯えず前に進む勇気まで身につけたようですね。

次は「ヒポクラテスの試練」です!

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